あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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12-030

 宿舎に帰り着いた。

 そして宿舎に入ると、来客がいた。

 

「お邪魔して……なんか小さない?」

 

 クリーブランデラ・アークス。

 迷宮そのものを探す探索行の際に、護衛兼マッピング役として同行してくれていた少女だ。

 そして彼女にそう言われたことで、あなたは若返ったままだったことを思い出す。

 

「おかえりなさい、お母様。クリーブさんがいらしてます。相談があるとのことで」

 

 そしてカル=ロスはあっさりと適応していた。

 まぁ、たぶん慣れているのだろう。

 

 あなたは15歳前後ほどで肉体年齢を維持しているが。

 たまにそう言う嗜好のある客のために、年齢を操作することもある。

 若返りの薬とかがカジュアルに手に入るエルグランドならではだろうか。

 

「そんなあっさり受け入れるものなの……? 若返ってるんだよ?」

 

「まぁ、たまにありますからね」

 

「たまにあるの!?」

 

「ええ。もっと大人っぽい時もありますし」

 

「逆に成長してることもあるの!?」

 

「20歳前後のお母様はすごいですよ。もう、なんと言うか、こう……うおっ、すげぇ! ってなります」

 

「すげぇっていうと……こう、母性が?」

 

「はい。なに詰まってるんだコレェ……あ、ミルクかぁ……こりゃ子供も屈強なソルジャーに育ちますわ……みたいな?」

 

「……あーしよりデカい?」

 

「そうですね。はい。クリーブさんより大きいです。おそらくはですが」

 

「マジ……? あーし、バスト3ケタあるよ……?」

 

「測ったことがあるわけではないですが、たぶんお母様も肉体的全盛期に達したらそのくらいあるんじゃないでしょうか」

 

「そうなの?」

 

 クリーブに問われたが、測ったことがないので不明だ。

 普段の……つまり、15歳前後の場合は80センチくらいだが。

 

「そこまで派手にデカくはないけど、15歳でそれなら将来有望か……」

 

「でも、お母様ってウエストやばいくらい細いんですよ。たぶんアンダーもやばいくらい細いですよ」

 

「いくつかわかる?」

 

 50センチすこし。まぁ、55センチくらいと言うことにしている。

 その日の体調とか、前日の食事内容とかでも割と変動するし。

 ただ、15歳なので日々成長もしているから割とザックリな数値だ。

 

「つまりなにか。15歳にしてEとかFカップあたりなの、この人。内臓とかお持ちでいらっしゃらない?」

 

「エロゲーのヒロインみたいなスタイルしてますよね」

 

「この場合のヒロインは、女主人公だな……」

 

「まぁ、そうですね……エロゲーヒロインが他のヒロイン食い荒らすとか聞いたこともないですし」

 

 なんだかよく分からないが、褒められて悪い気分はしない。

 

「スタイル抜群だからなのか……いや、あーしだって負けちゃいないよね。だって、あーしは世界で1番美しいからさ」

 

 以前と変わらない自己愛表現。

 だが、以前と変わっていることは、言い聞かせているような調子であること。

 なんだか、以前にあった絶対的な自信が揺らいでいる。

 それを疑問に思いつつも、あなたは今日はどんな用事で来たの? と本題に入った。

 

「あ、ああ、そうだった……あーしは世界で一番美しいよね?」

 

 あなたは頷いた。

 クリーブが非常に美しい少女なのは確かだ。

 世界で一番かどうかはともかくとして。

 

 そもそも美しさの優劣ってどうつけるのだろう。

 美しさを数値化するとしても、基準値をどうするのか。

 ジルなら案外さらりと数値化してくる気はするが……。

 

 ただ、美醜を物体的な整然さとして考慮した場合。

 人間は左右の均衡が取れた顔が美しいと思うらしい。

 その均衡の取れ具合で言うと、クリーブより美しい者は普通にいる。

 コリントやエルマ、あとはジルの方がクリーブより美しいのかなぁ、とは思う。

 あと神格は大体だが人間の限界を超越して美しい気がするし。

 

 まぁ、所作なども踏まえた総合値として考えるとまた話が違うし。

 体形も含めた観点で言えば、人によって意見は大きく分かれるだろう。

 なんせクリーブはすばらしく豊満だ。

 やはりでっかいことはいいことなので……。

 

「そう……そうだよね。あーしは美しい……美しいに決まってる……」

 

 考えているうちにクリーブがそのように頷いている。

 ……考えてみると、クリーブも『トラッパーズ』の一員。

 すると、やはりタイトから創造された人間と言うこと。

 この自己愛の権化のような存在が、タイトから……?

 

 本来のタイトはいったいどんな人間だったのだろう。

 クリーブだけならともかくテトも存在するし。

 話によれば、トウミギにドロソフィリアなる自己愛の権化もいるらしい。

 

 なんで自己愛の権化が1個人から4人も生まれるのか。

 タイトはいったいどんだけ自分が好きなのか。

 つまりなにか、自己愛の権化4人を創造する前は。

 その4人を総合したほどの自己愛の権化だったのか。

 

 想像を絶するというか、想像したくもない。

 言ってはなんだが、接したいと思えない。

 絶対にヤバい人間なのは分かる。

 だってクリーブだけでも十分ヤバい人間だし……。

 

「美しい……美しい、はずなのに……私は……」

 

 なんかクリーブが苦悩している。

 自己愛の権化だけあり、その自信は無限大だった。

 だが、今は自分に言い聞かせていることが分かる。

 いったい、どうしたのだろう?

 

 あなたはクリーブにどうしたのかと尋ねた。

 そして、その解決の力になれるのなら力になりたいとも。

 

「ありがと……やさしいね」

 

 そのように褒められ、あなたは照れる。

 なんせ下心満載なので。

 

 1発ヤらせてもらえればそれが最上だが。

 それが出来ずとも、1吸いくらいは……。

 それがダメでも最低限1揉みくらいは……。

 それくらいの報酬がないと不公平だろう。

 あなたは性欲ありきで女に優しかった。

 

「前にさ……地震あったの覚えてる?」

 

 たしか、鉱山事故の収拾がついて、こちらに戻って来た時のことだ。

 さぁ迷宮探索に復帰と、クロモリとクリーブの3人で出発。

 そして、探索地点に到着する前に地震が発生した。

 クロモリが半狂乱になった上に失禁していたはずだ。

 

「そう、そのクロちゃんさ……」

 

 クロモリになにかあったろうか?

 もしや、あの後にクリーブとクロモリを風呂にいかせたが。

 その時にクロモリがなにか無作法でも?

 

 ペットの不始末は主人の責任だ。

 クロモリが失礼をしたと言うならあなたには謝罪の義務がある。

 

「半狂乱になったクロちゃん落ち着かせる時にさ……言ったっしょ……?」

 

 …………なにを?

 冒険者にとって記憶力は重要な商売道具だ。

 あなたはもちろん記憶力を鍛えている。

 備忘録を常につけて忘れないようにもしている。

 しかし、あまり細かいことは覚えていない。

 備忘録になにもかも書いていたら余白がなくなるし。

 

 まぁ、その時点で重要でなくとも。

 後々に重要になることもあるので。

 叶う限り要約して備忘録に纏めてあるが……。

 

「ほら……半狂乱のクロちゃんに、あーしのこの美しい顔を……」

 

 顔を?

 

「見せて、落ち着かせようとしたっしょ……?」

 

 ……なんかそんなことしてたような気はするが。

 狂人特有の破綻した理論だなと軽く流した気がする。

 さすがに狂人呼ばわりを口に出しはしないが。

 あなたは軽く流したので覚えていないと答えた。

 

「あーしはこんなに美しいのに……?」

 

 それは分かった。うん、分かった。

 それで、その美しい顔による精神安定がどうかしたのだろうか。

 

「クロちゃんは、さ……結構ですって、断ったよね?」

 

 まぁ、断ったのだろう。流れ的に。

 あなただって断るし。誰だって断るだろう。

 いや、クリーブの美貌に見惚れること自体は楽しいのだ。

 

 淡い金色の髪、透き通った蒼い瞳、細い眉。

 長く美しい淡い金髪は手入れが行き届いてさらさら。

 蒼く透き通った瞳は大きく、それでいて切れ長で美しく。

 その瞳を彩るまつ毛は長くて色っぽい。

 ほどよく高く、真っ直ぐな鼻。微かに色づく頬。

 ぷるんと桃色の唇、そこから覗く整然とした白い歯。

 

 まぁ、普通にハッとするような美貌の持ち主だ。

 見てるだけで楽しいし、見てても飽きない。

 

 しかし、なんせ地震が起きて緊急事態だ。

 森の中なので木が倒れて来る可能性だってあったし。

 前哨基地では建物が崩れて怪我人が出てた可能性もあった。

 そこでクリーブに見惚れての時間浪費はまずかろう。

 

「あーしは、美しいのに……」

 

 …………つまり、なんだろう。

 クリーブの相談ごとと言うのは……。

 あの時、クロモリに断られたことについて?

 だとして、なにをどう解決しろと?

 

「クロちゃんが断ったってことは、あーしの美貌に、揺らぎが……そんなことが、起きるの……?」

 

 そこは普通にクロモリに常識があっただけだろう。

 いや、あの時の狂乱振りを思うに、常識とか以前に冷静ではなかった。

 狂人相手にやんわりと接する余裕がなかっただけだ。

 

「あーしは世界で一番美しい……それは絶対の真実なんだ……美貌に揺らぎがあるはずがない……!」

 

 人間ならその時の体調で美貌に揺らぎくらいあるだろう。

 そんな常識的な理屈がクリーブに通じるとも思わないが。

 まぁ、狂人相手に説得とかするだけ無駄なので何も言わない。

 

「孤立系のエネルギーの総量は変化しないように、あーしの美貌、その総量は変化しないはず……」

 

 美貌の……量?

 なんか数値化より無茶苦茶なこと言い出した。

 いや、量となると数えられるということだ。

 すると、美貌の数値化……ということか?

 

「物理法則が乱れてる……物理法則は絶対のはずなのに……これは、いったい……!?」

 

 物理法則ってそんなにアテになるものだっけ。

 少なくとも、エルグランドではかなりフワッとしたものだ。

 この大陸はもうちょっとカッチリしているとは思うが……。

 しかし、あなたはべつにそのあたりの学問には詳しくない。

 

 そこであなたは思い出す。あなたには頼れる娘がいる!

 大学と言う最高学府、学び舎の園を卒業したカル=ロスが!

 あなたは傍のカル=ロスに物理法則って絶対なの? と尋ねた。

 

「基本的には絶対ですけど。定義の問題な気もしますね。物理法則は自然法則の不正確な近似と言う考え方もあるので……」

 

 つまり?

 

「物理法則に反する現象が起きた場合、それは物理法則が間違っている……現実がおかしいのではなく、それを定義する科学が間違っていた。人間の知能の限界と言うだけです」

 

 なるほど、さすがは高学歴なだけはある。

 物理法則、世界に間違いはない。

 だが、それを定義する科学に間違いはある……。

 

 つまり、物理法則はアテにならない。

 となると、考慮する必要は薄いだろう。

 

「…………物理法則を絶対と妄信するのはよくないですけど、アテにならない些事と切って捨てるのはまずいと思いますよ」

 

 エルグランドでは重力も正常に働かないことは珍しくないのに?

 

「たしかにエルグランドだと物理法則はアテになりませんけども……基本はアテになりますよ」

 

 なるほど?

 すると、クリーブの言うことは正しいのか。

 クリーブの美貌が衰えたのは物理法則の乱れ?

 

「……それは、まぁ、なんと言うか、まぁ、はい」

 

 やっぱりクリーブがおかしいだけらしい。だろうとは思った。

 しかし、クリーブはあなたとカル=ロスの話を聞いて確信を深めたような表情をしていた。

 

「なるほどね……物理法則を定義する科学が間違っている……なるほど……つまりだ、あーしの美貌は物理法則や科学すらも超越している……!」

 

 クリーブはだいたい無敵だ。

 まぁ、結論が出たらしいのでいいだろう。

 では、クリーブの美貌は限界を超えているということで。解散。

 

「解散するなーッ! あーしの美貌に揺らぎがないなら、なぜクロちゃんは断った! 喜んで見るはずでしょ!?」

 

 忙しかったからじゃない?

 そう思ったが、言ってもしょうがない。

 どうせ納得してもらえず、余計に噴き上がるだけだ。

 ならばと、あなたは全肯定する方向に舵を切った。

 

 つまり、クリーブは超絶的に美しいのにねと肯定。

 その上で、自分だったらクリーブの美貌に見惚れるのに。と褒め称えた。

 

「! だよね! でも、クロちゃんは断った! おかしいじゃん!」

 

 あなたは1歩迫り、もっと近くで見たいな、と囁く。

 

「しょうがないなぁ。存分に見ていいよ。ほら、あたしは美しいでしょ?」

 

 無限大の自信を発散させるクリーブ。

 無尽蔵に溢れ出す自信と確信を見てると不思議と元気が湧いて来る。

 なんだかんだ面白い人間ではある。

 

「どう? 気分がよくなってきたんじゃない? 寿命も延びるし。健康になるっしょ?」

 

 まぁ、元々寿命などあってなきようなものだが。

 あなたは健康になって来た、なって来たと答える。

 そして、自分の腕を叩いて、この辺りに寿命が溜まって来たと頷く。

 

「さすがはあーしだね……美しさに限界がない。まぁ、天壌無窮(てんじょうむきゅう)神勅(しんちょく)*1であーしの美しさは保証されてたわけだから当然だよね」

 

 そこでふと、あなたは思い出す。

 そう言えば、クリーブは全肯定して押せばヤれるのでは……?

 

「ほらほら、もっといっぱいあーしのこと見ていいんだよ? 寿命は長くて悪いことないもんね」

 

 あなたは頷いて、同時に胸を抑えて苦しむ。

 あまりにも健康的になり過ぎて性欲が湧き上がって来た。

 なんてことだ。このままではあなたは死んでしまう!

 

「マジで!? あーしが美し過ぎるあまりに! ど、どうしたらいい?」

 

 1発ヤらせてくれないと、このままでは死んでしまう!

 美し過ぎるクリーブとは前からイイコトをしたいと思っていたのでちょうどいい!

 ぜひともこのまま1発ヤらせて欲しい! 頼む! お願いだ!

 

「ええ!?」

 

 あなたはクリーブに泣きながら懇願した。

 クリーブの豊満過ぎるお胸で溺れたいようと。

 そして何よりも美しい顔に見つめられて恍惚としたいようと。

 

「もー! しょうがないなぁ~! あーしの美しさをよくわかってるファンの頼みなら断るわけにはいかないっか~!」

 

「猛烈にチョロいなこの人……」

 

 カル=ロスがあまりのチョロさに驚愕している。

 あなたもこんな雑な押しでいいのかと驚いている。

 いやまぁ、いいというならそれでいいのだろう。

 あなたは部屋に行こうとクリーブを促した。

 

「よしよし、あーしの美しいお顔、好きなだけ見せてあげるよ!」

 

 昼寝をするつもりだったが、これでは寝てはいられない。

 あなたはクリーブと共に部屋へと引っ込んだ……。

*1
アマテラスがニニギノミコトに下した統治の正当性を保証する神勅のこと

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