「おかえりなさいませ、ご主人様」
「おかえりなさいませ」
「お荷物をお預かりいたします」
出迎えの華やかなメイドたちに迎えられ、あなたは手荷物を預ける。
まぁ、あなたの場合は特に背嚢とか手提げカバンは持っていない。
そのため、預けるのは羽織っているケープくらいだ。
あなたはこの屋敷の使用人をやたらめったら増やした。
増やした中にはもちろん接客専門のパーラーメイドもいる。
家人の出迎えも、来客の出迎えも、いずれもパーラーメイドの役目だ。
「迫力ある美女が並んでると、ちょっと威圧感ありますよね」
アキラがしみじみとそんなことを言うが、気圧された様子はない。
しかし、実際色とりどりの美人を雇ったので迫力はたっぷり。
メイドらも来客相手にバチコン決めて、この屋敷のレベルを思い知らせてくれるだろう。
「ご主人様、よい出会いでもあったのですか? とても若返って見えますよ」
「以前にも増して肌はぷるぷるで、まるで幼い少女のよう!」
「背丈も縮んで、胸も小さく……って、明らかに若返ってるゥー!!」
すばらしいノリツッコミだ。コンビネーションもいい。
接客上手なだけあり、コメディアンまがいのこともできるらしい。
「いや、これ絶対おかしいでしょう!?」
「お針子のブレウさんも、あんなでかい娘いる割にメチャ若だと思ってましたが……」
「まさか、ブレウさんにも若返りの秘術を施してたり……!?」
そう言えば、パーラーメイドたちは新しく雇った者ばかりだ。
ブレウやポーリンが若返って以降の雇用なので、知らなかったのだろう。
あなたは特別な若返りの手法を持っているのだと密やかな声で告げた。
「……ごくり。それ、私たちにも使わせていただけたりなんかしちゃったり……」
「屋敷の顔たるパーラーメイドは若く美しい方がいいですよね! そう思いませんか!」
「ご主人様、今晩部屋にお伺いしても……? きっと、優しいご主人様は若返らせてくれますよね……!」
希望を口にし、慈悲に縋ろうとする者。
理詰めで説得して来ようとする者。
直球で身体を見返りに差し出して来る者。
どれも好物だ。あなたは今夜は待ってるよと囁き返した。
「はい! お伺いします!」
「ずるい! 私も私も!」
「私も! 私もいっしょに!」
なんと3人同時に!? あなたはもちろん大歓迎だ。
3人全員メチャクチャに可愛がってあげよう!
「私たち3人相手してても勝つ気満々らしいわね……」
「私たちだって、この美貌で男に困らず経験も豊富な身……」
「ご主人様のテクニックにだって簡単に負けたりしない!」
愉快な娘たちだ。では、思い知らせてあげよう。
今まで1000人を超える女を抱いて磨き抜いた手技。
ほんの小1時間で300回絶頂させるあなたのテクニックを。
まったく、今夜が楽しみだ。
屋敷に戻り、あなたは真っ先にブレウの下へと向かった。
屋敷内に設えた、産婦向けの部屋。そこでブレウは起居している。
幼児の保育、預けが出来るように準備も万端整っている。
子供を預けておけるスペースがあれば。
出産後の職場復帰への意欲も高まるだろうし。
忘れ形見を抱えた寡婦とかが就職しに来るかもだし。
まぁ、現時点ではそのスペースの利用者は極わずか。
ブレウと乳母しかいないので、閑散としたものだ。
考えてみると、乳母の子はイロイとは乳兄弟になる。
まぁ、イロイに乳兄弟がいてもだからなんだと言う話ではあるが……。
さておいて、あなたはブレウのいる部屋に辿り着く。
そして、ごくごく優しくノックをすると、向こう側から扉が開いた。
「ん……? んん……!? ご、ご主人様……ですか……?」
扉を開けてくれたのはサシャだった。
あなたはちょっと小さくなったが、テクはそのままだと頷いた。
「テクについては聞いていませんが……いえ、まぁ、どうぞ」
促されて部屋に入ると、イロイを抱っこしたブレウがベッドに座っていた。
傍らの椅子にはギールの姿があり、メディシンフォージドがベッド脇に控えている。
「あ、旦那様。おかえりなさいませ」
なんか小さいな……? という顔はされたが、それ以上の疑問は呈されなかった。
まぁ、ブレウもギールも若返りの薬の濫用者だ。
そう言うこともあるだろう、くらいの理解はあるのだろう。
あなたはブレウにただいまと答え、イロイは元気? と尋ねた。
「ええ、とっても元気ですよ。ミルクもたくさん飲むし、泣く時はもう声も凄くて」
なんて、ブレウが笑う。特に疲れている様子などは見えない。
乳母もいるので夜泣きの対応は2人がかり……。
いや、サシャが疲れている様子なので、3人がかりか。
ギールもいるとすれば4人がかりだろうか。
もういっそのこと屋敷中の手の空いた者、通りがかった者が対応してて、屋敷ぐるみかも……。
どうにせよ、人手は有り余っているような屋敷だ。
イロイの育児に関してブレウの負担は苦悶するほどではないのだろう。
「でも、普段は全然泣かなくて大人しい子なんです。ねぇ、イロイ?」
大人しいので寝ているとばかり思っていたが、起きているらしい。
ひょいと覗き込んでみると、イロイの眼はしっかり開いていた。
口があむあむ動いているのが愛らしい。機嫌はよさそうだった。
「お母さんが抱っこしてると泣かないんですけど、私が抱っこすると結構泣くんですよね……」
「私もなんです……なにが違うのかなぁ……」
サシャとギールがやや落ち込んだ様子で言う。
赤ちゃんが泣く理由は様々だが、やはりママが一番なのだろう。
抱き方や匂いの違いなどを感じ取っているのだ。
「旦那様はどうでしょう?」
とのことなので、あなたは促されるままイロイを抱く。
ふにゃふにゃとして暖かなイロイを腕にしっかりと収め、胸に寄せるように。
匂いの違い、ブレウとの違いはさすがにどうにもならないが。
あなたは数多の赤子を抱いてきた百戦錬磨の抱っこが可能である。
イロイはやや落ち着かない様子を見せつつも。
やがて落ち着いたのか、大人しくなった。
「な、なぜ……オーナーの腕だと落ち着く……! やっぱり、実の父親だから……!?」
「ご主人様と私のなにが違うって言うの……! 私の方が胸は大きいのに……!」
サシャとギールが敗北感に打ちひしがれている。
今までたくさん赤子を抱いてきた経験が生きた。
「……それは、どういう意味で?」
サシャがおぞましいものを見るような目で見て来た。
さすがに失礼では? さすがに育児的な意味でだ。
いや、したことがないわけではないが。
それはさておいても、あなたは赤子を抱いた経験は多いのだ。
あなたには3人の妹がいるわけだが。
もちろんその3人の妹も形は違えど抱っこした。
末の妹なんか、母親と変わらないくらい世話もした。
幼かった頃のあなたの身体能力は極普通の範囲だった。
ずっと抱いてると腕がもげそうなほどしんどかったが。
それでも可愛い妹たちを一生懸命に抱いたものだった。
「なるほど……経験……」
「イロイをたくさん抱っこしたいけど、泣かれて可哀想なんですが、どうしたら」
泣き止むまで抱いていればいい。
あなたの母は豪快だったのでそんな感じだった。
って言うか、ミルクの時間はともかくとしても。
おむつが濡れてるとか、おもちゃが近くにないとかなら。
べつに死にやしないし、たくさん泣くほうが強い子に育つからと放置するのもザラだった。
あなたもたぶんそう言う風に育てられた。
って言うかたぶんミルクの時間すらブッチされていたと思う。
あなたは母以外からもミルクをもらって育ったらしいので。
「ストロング過ぎませんかね……」
「いえまぁ母親が手を離せない家庭とかならアリなのかもしれませんが……」
まぁ、さすがにそれはイロイが可哀想だが。
機嫌がいい時にでも抱いて、慣れてもらうほかないだろう。
今のうちに慣れてもらわないと将来はもっと泣かれる。
赤子は半年くらいすると、人の区別がつくようになる。
すると、途端に人見知りするようになり、母親以外を拒んだりする。
それまでにたくさん顔を見てもらって慣れさせないと大変だ。
「なるほど……」
「うう、泣かれないように頑張りながら抱っこしないと……」
まぁ、頑張るといい。
あなたもそれまでにちゃんと覚えてもらう必要がある。
我が子に泣かれるのは結構しんどいものがあるのだ……。
イロイと触れ合い、ブレウを気遣い。
暖かな団らんを過ごしているとイロイが寝入った。
あまり過剰に静かにしても逆によくないが。
かと言って寝てる横で騒ぐのもよくないのは当たり前だ。
そのため、ブレウとギールに任せ、あなたとサシャは退散した。
ギールは大工仕事がない限りはヒマなので、半分乳母みたいなものらしい。
まぁ、乳母とは言え、産婦でもないので母乳は出ないわけだが。
以前、カイラが言っていた内容からすると。
イロイに吸わせていれば、いずれギールも母乳が出るとは思うが……。
さすがにそこまですることもなかろう。
ブレウも乳母も、豊富に母乳が出るので乳のやり手に困っていない。
「イロイはいつ頃、私の顔を覚えてくれるでしょうか……」
眠そうにあくびをしつつ、サシャがそんな調子でぼやく。
まだロクに目も見えていないので、もうしばらくかかるだろう。
しかし、サシャはイロイの夜泣きの世話でもしているのだろうか? 随分と眠そうだが。
「いえ、眠いのは夜に自伝の執筆と
なるほど。そう言う。
進捗率はどんなものなのだろうか?
「全体の下書きはできあがりました。あとは全体の構成を整えて、清書ですね」
印刷にあたっての諸々はぜひあなたに任せて欲しい。
英雄のネームバリューが使えるトイネでやろうではないか。
そこで大々的に出版し、サシャの本を大陸全土に広めよう。
「そこまでたくさん売れますかね?」
少なくとも、トイネでは売れるだろう。
英雄のネームバリューはやはり絶大であるし。
なんせ女王に最も近しき個人であるから。
あなたの情報を小なりとも得たい者は多い。
実のところ、あなたはかなり謎多き人物でもある。
サシャを含めたEBTGメンバーはあんまり実感がないだろうが。
あなたはほんの4年ほど前にこの大陸に突如現れた。
そして、ロクな下積み無しに貴族の推薦と言う裏技で迷宮攻略を開始。
そこから冒険者学園に通い、3年の就学の後に再度同じ迷宮を攻略……。
冒険者学園でのことはともかくとして。
一般大衆に対して、あなたの冒険はほぼ知られていない。
迷宮以外ではまったくと言っていいほど活動実績がないのだ。
「そう言われてみると……ご主人様って、二つ名とか異名とか……いえ、いっぱいありますが、冒険者としての実績に関連したものはないですよね」
あなたは頷く。
サーン・ランドでは『
金髪の女たらし、剣が刺さらない女、死刑にされても死なない人。
歩く金庫、海賊焼きの女たらし、船底通し、寡婦の旦那。
娼館の監査人、歩くセックスハザード、破れ鍋漏れ鍋。
そんな大量の異名があったわけだが。
見て分かる通り、女たらしとしての異名だ。
まぁ、3年もの間、定住していたのだ。
金も愛想も振りまいたし、公共事業もした。
女を紹介してくれた者には謝礼金とかユニコーンの角とかを礼儀として渡したし。
冒険者ではなく女たらしとして名が売れるのも当然と言うか。
「フィリアさんは、たしか『緑の癒し手』……とか言う異名がありましたっけ?」
フィリアは『銀牙』に所属していた頃、ごく普通の冒険をしていた。
というよりも『銀牙』においては迷宮探索はごくごくわずかだったという。
駆け出し冒険者から、1人前になった頃に迷宮探索で腕試しをして。
それから再度冒険に旅立ち、いくつもの冒険を駆け抜けた……。
その働きによってフィリアの名は売れたわけだ。
「ご主人様にはそれがないから、ソーラス迷宮の踏破者にして、トイネ救国の英雄以外の実績がほぼ知られていない……」
そして、知られた実績の内実について知る者はさらに少ない。
トイネについては1から10まで知る者としてはイミテルがいる。
ややあってから合流した戦士団の者たちは声高にあなたの力を吹聴している。
なので、多少なりと内実については少しずつ広まっている。
しかし、ソーラス迷宮の踏破にあたってあなたは固定メンバーで成し遂げた。
訓練期間のモモロウやジルらを除けば、臨時で迎え入れた仲間がいない。
となると、この世であなたの冒険活劇を知る者は片手の指で足りるのだ。
「……そして、ご主人様のこの大陸における冒険の1から10までを知るのは、私だけ」
その通りだ。
あなたはサシャを冒険者として活動を始める前に購入した。
そして、ソーラス迷宮の踏破まで、共に冒険を駆け抜けてきた。
サシャの出版する自伝の注目度は極めて高いだろう。
サシャ個人で出版すればともかく、あなたの管理下で出版すれば飛ぶように売れる可能性が高い。
初の書籍にして大ヒットを成せれば、その後の活躍も見込めると言うものだ。
「ぷ、プレッシャーが……! うっ、胃がキリキリする……!」
サシャが苦しみ出してしまった。
いつもは強敵を前にしても竦まない勇敢な戦士なのだが。
まぁ、多大な期待に応えようとするプレッシャーは話が別か……。
いずれにせよ、ペットの本が売れてくれればあなたも嬉しい。
実績と言うのは自分の口ではなく見ていた他者から語らせるもの。
サシャの自伝の形であなたの活躍が知れればナンパの難易度が下がる。
有名人と寝たというネームバリューが欲しい者は一定数いる。
そうした者が食べ放題になるのは実に嬉しい。
あなたはサシャの自伝をナンパの種にする気満々だった……。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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3000文字前後
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4000文字前後
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5000文字前後
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6000文字前後
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7000文字前後
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8000文字前後
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9000文字前後
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1万字前後