ブレウの健康に問題はなく、産後の
イロイは元気にすくすく育って、ふくふくと愛らしい赤ちゃんに。
サシャは寝不足気味のようだが、若く体力もある。問題はないだろう。
執筆も、脚色はあれどノンフィクションの自伝だ。
ネタ出しに困ったり、展開に困ったりと言うこともない。
精々インク壺を倒したとか、風で原稿が飛んだくらいのトラブルしかあるまい。
こちらはまったく順調のようで安心した。
屋敷の運営に関してもマーサが差配してくれている。
問題も上がっていないようだし、報告も来ていない。
まぁ、細々とした書類仕事くらいはあるわけだが……。
その些事の書類仕事でも片付けるかと執務室に入る。
机の上に書類箱が置かれており、中に書類が入っているようだ。
机に向かおうとしたあなたの頬を風が撫でる。
どうやら換気のために窓を開けておいてくれたらしい。
帰ってきたら些末と言えど仕事は片付ける。
そのような行動を取って来たからか、誰かが気を回してくれたようだ。
おかげで新鮮な空気に満たされた部屋で仕事ができる。
この大陸の人間だとちょっと肌寒いのかもだが。
あなたは寒さにも暑さにも強いので心地よいくらいだ。
そのままデスクに着いて仕事を始めた。
数十分ほど仕事をこなし、書類が片付いた。
あなたはそれを処理済みの箱に放り込んで、椅子に背を預ける。
部屋の高級感に似合わず、植物の蔓を編んで作った椅子だ。
革張りや布張りの椅子では暑いので、この方が快適なのだろう。
実際、この椅子は快適だ。
背面も座面も蒸さず、よく空気が通る。
しかし、あなたにはちと大きい。
そのうちクロモリにあなた用のを作ってもらおうか……。
そんなことを考えつつ、お茶でも飲むかとベルに手を伸ばす。
あなたは基本的に使用人を連れ歩かないし、傍に置いたりもしない。
そのため、いざ使用人に用事を言いつけたいとき、傍に居ない方が多い。
そんな時に使えと、あなた用の部屋に常備されている品だ。
そこで、窓から小鳥が入って来た。
緑色の羽毛を持つ愛らしい鳥だ。
思わず息を殺してその姿に見入る。
その鳥はトットッと机の上で跳ねるように歩く。
そして、ピタリと止まった。
……あなたに気付いていないわけではないようだが。
野鳥だろうに、人の領域に来るとは珍しい……。
そう思いながら鳥の姿を眺めていると、その足に紙切れが括りつけてあることに気付いた。
もしや伝書鳥?
恐る恐る手を伸ばしてみるが、鳥が逃げる様子はない。
その足から手紙を取ったところで、飛び立って窓から出て行った。
綺麗な鳥だったのに残念……そう思いながら紙面に目をやる。
『あああああ重ああああうぎゃあああああああ助けて重い死にたくない』
なんだこの手紙……。
と思ったが、魔力を感じる。
どうやらこの紙はマジックアイテムのようだ。
察するに、声に発した内容を文字起こしする紙?
最初のうめき声とか、途中の悲鳴みたいなのとか。
どう考えても書く内容としてはおかしいだろう。
しかし、声に出した内容とするなら不思議でもない。
字が書けない者が使う道具にその手のものがあったような……。
あなたは読み書きが出来るので関心はなかったが。
手が使えない時とかには使える……のか? そんな限定的状況ある?
大怪我してしまって腕が使えない時とか……。
ああ、手が無事でも目が一時的に見えないとか。
考えてみると読み書きが出来ても、口述筆記が必要な場面はあるか……。
しばらく考えたところで、あなたは紙面の内容を思い出す。
どう考えても重さに押し潰されて死にそうになっている。
これは早いところ助けに行ってあげなくてはいけないのでは?
おそらく状況的に救援要請の相手はクロモリだが……。
クロモリはサシャと同じく魔道具で生命力を繋いでいる。
それで確認してみると……なるほど、クロモリの生命力が半分くらいしかない。
あなたは助けに行ってやるかと屋敷を出た……。
「あぐ、ぐがあぁぁ……!」
魔道具の効能による位置確認。
それを頼りにクロモリを探していたところ、路地で潰れて死にかけていた。
どうやら買い物をし過ぎたらしい。
エルグランドでは度々見かけた光景だ。
町の入り口とか道端で本当によく見かけた。
荷物に押し潰される冒険者は結構いるのだ。
戦利品を欲張って持ち帰ろうとするとよくなる。
転移で町に戻れても、そこからロクに動けず死ぬ。
だいたいどんな冒険者も通る道なので、みんな生ぬるく見守る。
「あっ、あっ……たすけ、たすけて……しんじゃ……」
感慨深く昔を思い出していると助けを求められた。
たぶんだが、最初は歩けるギリギリ。
それくらいの重さだったのだろうが。
立っている時はともかく、座ったり転ぶと2度と立てない。
疲れたので休憩して座ったとか。
通行人とぶつかって転んだとか。
なんかその辺りの理由で立っていられなくなった。
そして、体勢が変わったら戻せなくなった。
そのまま動けなくなったのだろう。
座った状態ならまだよかったのだが。
倒れ込んでしまうともはやどうにもならない。
特に仰向けならともかく、うつ伏せの状態で潰れると大変だ。
自分の体の重さで肺が潰れてどんどんと窒息してしまう。
そして酸素不足で力は萎え、起き上がることもできない。
仲間がいなければ窒息でそのまま死ぬ。
いくら強くなっても酸欠には勝てないのだ。
あなたも酸欠で死ぬことは未だにある。
溺れた時とか、モチを喉に詰まらせた時とか。
アレは本当に苦しい。
ともあれ、あなたはクロモリをごろんと転がして仰向けにした。
「げほっ! げほっ、げほっ……! はぁ、はぁ……ら、らくになりました、あなた様……」
まぁ、まだ苦しかろうが、うつ伏せよりは楽だろう。
あなたはいったいどうしたのかとクロモリに尋ねた。
そして、動けないのをいいことに、そっとスカートを捲った……なるほど、赤。これはたまらん。
「か、買い物を目いっぱいして、動けなくなる前に帰ろうと、思ったのですが……あの、なんか足がスースーするのですが……?」
気のせいだろう。あなたはそう答えた。
そして、そのまま続けろと顎をしゃくって促す。
あなたはクロモリの秘所を覆う下着を堪能するのに忙しいのだ。
「は、はぁ。スリに遭いまして……財布は『ポケット』ですので盗られはしなかったのですが。ぶつかられた衝撃で転んでしまいまして……その、そのまま……」
なるほど、あなたの予想通りのパターンだ。
まったく仕方のないやつだとあなたは笑う。
どうしても荷物が重いなら、『ポケット』から出せばいいのに。
「あ゙っ!」
盲点だった。クロモリがそんな顔をしている。
身に着けていないといったん出すという選択肢が出て来ないのだろう。
エルグランドの冒険者は慣れっこなのでそうはならないが。
「そうですね……いったん出して、立って、それから入れ直せばいいのですね」
そう言うことだ。まぁ、今回はあなたがいる。
なので、このまま屋敷に連れ帰ってあげよう。
あなたは優しくクロモリを抱き上げ、姫君を扱うように抱いた。
「えっ、あ、あの、あなた様っ!」
この抱き方は嫌なのだろうか?
「さ、さすがに、そのっ、は、恥ずかしいです……!」
しかし、今のあなたは10歳そこそこの体格だ。
クロモリは10代後半くらいでそれなりに体格がいい。
前に抱いたりしては足を引きずってしまうだろう。
「そう言うことではなく~~!」
クロモリが心底恥ずかしそうに叫ぶ。かわいい。
あなたはかわいい子を家まで連れ帰ってあげようねと囁く。
クロモリは羞恥心で大変なことになってしまうだろう。
「お許しくださいあなた様!」
あなたは笑うと、そのまま歩き出した。
クロモリは逃げることもできず、羞恥に耐えるしかできなかった。
あなたは屋敷に戻り、ホールに入る。
すると、やはりパーラーメイドが出迎える。
来訪者を出迎えるのが仕事なので当然ではあるが。
「おかえりなさいませ、ご主人様。えーと、あと、ヒロイン様?」
「くっ、顔はともかく、とにかく乳がでかいわね……やるじゃない」
「胸は大きさだけじゃないわ! この張りのある美乳を見なさいよ!」
そう言って胸を張るパーラーメイド。
もっとよく見せて欲しい。
しかし、クロモリはベランサの屋敷に連れて来たことはなかったか。
パーラーメイドたちがなぜかクロモリに張り合っている。
やはりこう、でかいことはいいことであるし。
でかいとなると、張り合いたくなるのだろう。
「あ、あああ、もおおお……! あなた様、お、降ろしてください……!」
そう言うが、特段暴れたりはしない。
まぁ、暴れて落っこちたら致命傷になりかねないので。
暴れたくとも暴れられないのが実際だろう。
まぁ、屋敷まで連れ帰って来たのだ。降ろしてやるか。
あなたがクロモリを床に降ろす。
そして、クロモリが『ポケット』から荷物を出した。
あなたが渡した軍資金を入れていた木箱。
脚付きの
ちょうど手持ちサイズの立派な木製の箱が3つ。
小型の引き出しが無数についたタンスが3つ。
そりゃこんだけ入れたら潰れもしよう。買い過ぎである。
「しかし、大量の水薬を作る場合には重宝するのですよ! それに、このサイズの大釜は基本的には特注品で、店舗に置いてあるのは珍しいんです!」
たしかにこんだけでかけりゃ大量に薬も作れよう。
で、その大量に必要になるとか言う薬はあるのだろうか?
「えー、っと……そうですね……アノール子爵領の、救児院で流行り風邪が出たりしたら、最悪は100人単位の薬を作ることもありますし……あ、そう! 羊脂軟膏を作る時には重宝するサイズですよ!」
必要な理由、いま考えてないか?
まぁ、クロモリの意見には頷けるか。
あなたは大釜については理解した。
で、この箱とタンスは。3つずつあるが。
「これは薬箱ですね。携帯用のものでして。往診用に使います」
3つある理由は?
「えーっと……引き出しがたくさんありますね。ええ、とっても便利です」
見れば分かる。で、3つ必要な理由は?
「そう、とっても便利です。便利ですが……全ての薬を持てるわけではありません。病と傷で大別して、2つの薬箱は欲しいわけですね」
3つあるけど?
「それに関しては理由が3つあります」
理由があることは分かったので、もったいぶらずに言うように。
「ひとつは、もうごく単純に予備です。なんせ往診ですから、外に持っていくわけで。なにかしらの事故で壊れる危険は否めません」
まあ、それはそうだ。
たしかに壊れて薬箱を持ち出せないでは困る。
事前に準備しておくのは、医者としてよい心がけと言える。
「ふたつ。病と傷で大別しますが、往診を要求して来た者の要求が曖昧な場合、広範に渡る薬を持っていくことがあります。その時、助手に持たせます」
まぁ、特に珍しい利用方法ではない。
だが、たしかにもう1つ欲しい理由も分かる。
では最後の理由は?
「みっつ。これが一番重要な理由です」
それはいったい……?
「3つ買ったら割引してくれると言うので、つい……!」
セールストークに弱過ぎる……。
あなたは呆れたが、まぁ、気持ちは分かると頷いた。
さて、薬箱が3つある理由は分かったが、このタンスは?
「これは薬と原料の保管用のタンスですね。ふつうに1個では足りません。本当ならもう2個は欲しかったくらいです」
壁に設置して使うならそうもなるか。大体わかった。
「おわかりいただけましたか」
あなたは頷く。
「納得いただけたなら幸いです」
そう笑うクロモリだが「うまくごまかせた……」とほっとしているのが伺える。
たぶん衝動買いしただけで、後付けで理由を考えている。
さっきの話ぶりもなんかそんな感じだったし……。
まぁ、仕事道具で利用方法もあるならいいか……。
なんとなくだが、クロモリにはそう言うところがあるのは察していた。
割と衝動買いするというか、趣味に嵌ると一気に道具を買いそろえるタイプと言うか。
まぁ、薬師としての仕事道具なら無駄にはならないのでいいのか。
……でも、出してない道具もある気がする。
『ポケット』の中身は探れないので申告を待つしかないが。
まぁ、金の使い道に文句を言うつもりはないので。
べつに何を買っててもいいのだが、申告はして欲しい。
無駄なものを買ったお仕置きと称してベッドの上で虐めるのに使うので。
まぁ、ともあれ。
これらの荷物は後ほどなんとかしよう。
どこに持っていくかクロモリに聞く必要があるし。
今はとりあえず、クロモリを風呂に入れてやらなくては。
なんせ潰れていたし、地べたに転がっていたのだ。
あちこち汚れているし、汗でべたべただ。
この屋敷では湯は常に沸いているので入浴に困らない。
「そうなのですか。それはすばらしいですね……あの、その、やはり?」
もちろんあなたも一緒に入る。
外出で身に浴びてしまった塵とかを洗い流さなくては。
そして、そのままクロモリを可愛がらなくては。
本当はなにを買ったのか、全部聞き出す尋問が必要だ。
まったく、色んな意味で滾ってくるな!
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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