あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 いまいち釈然としないが、迷宮の攻略は終わった。

 期待通りじゃないお宝が出るなんてよくあることではあるが。

 いや、最高位の蘇生魔法の効果を発揮するポーションの素材ではあるのだ。

 それを思うと、なかなかいいものが手に入ったなとは思うのだが。

 まぁ、結局は魔法で代用できるので、そんなに……とは思う。

 なんだかなぁ、と思いつつも、あなたたちは迷宮を脱出する。

 

 エルグランドでは迷宮はいずれまた地に没するものだが。

 この大陸では、やはり永遠にその場に残り続けるのだろうか?

 ソーラスのことを思うとそうなのだろうが。

 しかし、そうだとすると、この新規に出現した迷宮を思うに。

 いずれはこの大陸が迷宮で埋め尽くされてしまいそうだが……。

 

「消えたりはするんじゃないかな……正直、よくは分からないけれど」

 

「迷宮の浮き沈みを見つめるには、人生は短すぎるもの」

 

 まぁ、それもそうか……。

 あなたとて、そう長い人生を歩んで来たわけではない。

 見た目よりははるかに長く生きているが。

 それでも500年も1000年も生きているわけではないのだ。

 迷宮1つの動静を見守るほど、人生はヒマではない。

 

 

 

 さて、あなたたちはまずタイトの下へと向かった。

 そして、新発見した迷宮の攻略完了の報告。

 それから得た宝物の提出と査定を行う。

 

「賢者の石が20個に、大量の古書か。古書は……俺たちでは価値は査定できんな。あんたが持て。持ち帰ったのはあんただ」

 

 とのことなので、ありがたく本はすべて頂いた。

 賢者の石の方はよろしく分配して欲しい。

 

「そのあたりは進行にあたっての報告書を確認してからとなる。まぁ、しばらく休んでくれ」

 

 働きを評価、つまり貢献度に基づいて分配するらしい。

 そのための報告書、ということだろう。

 

「正直、私たちの方から見ると、お姉さんが9割とっても文句言えないわね」

 

「そうだね。20層くらいまでならなんとかなったろうけども……」

 

「それ以降がお姉さんの生命力ありきだったのです」

 

「最深部の宝は総取りでもいいかもしれないわね!」

 

 まぁ、それはたしかに言えてる意見ではある。

 25層くらいまでならともかく、30層はあなたがいないと無理だったろう。

 なんせ30層の扉を開けるのはあなたでもキツかったのだ。

 

 おそらくだが、1リットル近くも血を搾る羽目になった。

 1リットルもの血液となるとおぞましいほどの生命力だ。

 これをクラリッサらが開けるのはほぼ不可能だったろう。

 

「その辺りを判断するのはこちらだ……だが、あんたの功績が大なることは伺えた。その辺りを踏まえて査定するとしよう」

 

 まぁ、あんまり心惹かれる報酬ではないのだが。

 報酬は報酬だ。権利があるなら当然もらい受けるつもりだった。

 

 

 さて、解散する前にだが。

 迷宮の攻略にと言うか、新しい迷宮の探索については世話になった。

 ついては、知己となった者たちを招いて、打ち上げパーティーをしようと思うのだ。

 

「言うほど世話をしたか? 地道に探索させただけだ」

 

 マッピングの仕方とか、探索用魔法とか。

 そのあたりについてはそれなりに参考になった。

 たしかに、試行錯誤すればすぐに辿り着くかもしれない。

 だが、そのあたりの試行錯誤をスキップ出来るのも確かだ。

 あとなにより、この基地で知り合った女の子たちはみんなエッチで可愛くて楽しかったし。

 

「……そうか。よかったな。ああ、この基地を離れる前に皐月に適当に言い含めてくれ。泣かれたら目障りでかなわん」

 

 たしかに、あなたが突然いなくなったら皐月は泣くだろう。

 最近はプレイ中は喃語(なんご)*1を喋るようになったりもして来たし。

 あなたのことが大好きなバブちゃんを寂しがらせては可哀想だ。

 

「あまり聞きたくないので、そう言う話はよそでな……」

 

 あなたは頷いた。

 それで、パーティーの方はいいだろうか?

 ぜひともタイトにも参加して欲しいのだが。

 

「俺もか。見ての通り、俺は男だが」

 

 情婦しかパーティーに呼ばないほど薄情に思えるのだろうか?

 あなたは異性に対して友情を感じるくらいの余裕はあるのだ。

 まぁ、逆に言うと友情までしか感じられない程度に余裕はないが。

 残念ながら、あなたの愛は世の女性に注ぐので精一杯なのだ。

 

「そうか……呼ばれたならば行くことにする。招待状があるならすべて寄越せ。宛先に届けてやる」

 

 それは助かる。では、後ほど持ってくるとしよう。

 

 

 

 あなたは宿舎に戻り、宿舎前に作ったスペースに腰を落ち着ける。

 屋内が狭いなら屋外でくつろげばいいじゃない。

 そんな理念の下に作られた簡易なガゼボだ。

 木で組んだ骨組みに、たくさんのバナナの葉を組み合わせただけのものだが。

 雨は十分に凌げるし、日差しもよけてくれるので割と快適だ。

 

 椅子はクロモリが作ってくれた植物のツル製のイス。

 ぎしりと背を預け、のんびりと腰を落ち着ける。

 そして、深く深く、大きい息を吐いて、あなたは背伸びをした。

 

 ああ、冒険が終わってしまった……。

 

 今まで何度となく繰り返して来た冒険。

 迷宮を踏破し、その最奥の秘宝を手にする。

 それは幾度繰り返したとしても、言いようのない達成感をもたらす。

 だが、同時にその迷宮とはお別れでもあり、喪失感もまたある。

 

 いわゆるところの燃え尽き症候群というやつ。

 それに近いような感慨があなたを満たしていた。

 ソーラスの迷宮を攻略した後も、旅行をしたり内政をしたりした。

 それと同じように、ちょっくら冒険を休むかと言う気分にもなるのだ。

 

 まぁ、ソーラス攻略後の休暇は割と長かった。

 攻略期間も非常に長かったので、その反動か。

 なんだか今は何をしても虚しいような……そんな気分だ。

 

「どうされました、アンニュイな溜息を吐いて」

 

 あなたの前に湯気を立てるカップが置かれた。

 中身はどうやらあなたのお気に入りの紅茶。

 エルグランドの紅茶であり、これを出せるのはあなたともう1人だけ。

 つまりはあなたの義娘であるカル=ロスだ。

 

 あなたはお茶の礼を言いつつ、やり遂げた達成感に満たされていると答えた。

 それと同時に、今までの冒険が終わってしまったという虚無感……。

 今はなにをしても虚しい……この紅茶のうまさもどこか上滑りしていく……。

 なんだかこういう時は妙にネガティブになってしまうものだ。

 

 どうして自分はこんなことをしているのか……。

 こんなことをしていて本当にいいのか……。

 いや、もういっそのこと、こんなことをする意味があるのか……。

 

 自分の存在、その全てを否定するような思考すら浮かんでくる。

 まぁ、疲れているのだろうなと、あなたの冷静な部分が囁く。

 こういう時は大酒を飲んでぐっすりと眠ればいいのだが……。

 

「ヴァニタス・ヴァニタートゥム・エト・オムニア・ヴァニタスですか」

 

 ヴァニ……なに? バニーなら大好物だが。

 特に普通の服の下に纏っておいて、一肌脱ぐとやらしいウサギさんに大変身的な……。

 考えていたらバニーでしっぽりと楽しみたくなってきた。

 大酒を飲んで、カル=ロスのバニーを堪能し、ぐっすりと眠る……コレだ。

 

「虚しい、なんと言う虚しさ。すべては虚しい。そんな意味です」

 

 なるほど? なにかの格言、あるいは警句だろうか。

 そう思っていると、カル=ロスがこほんと咳ばらいをし、叫んだ。

 

「オイオイオイ! なんてこった! すべては虚し過ぎるぜ!」

 

 突然どうした。

 あなたが目を白黒させていると、わらわらと『アルバトロス』チームが湧いて出て来るではないか!

 そして、あなたの周囲に群がると、口々に叫び出す!

 

「クソッ! 今日もすべては虚しいぜ!」

 

「すべて! なぜこんなにも虚しいんだ!」

 

「この世の全てッ! 虚しさの限界を超えているぜ!」

 

「どれだけ虚しいと言わせれば気が済むんだ! すべて!」

 

 変なクスリでもやってるのか……?

 あなたは『アルバトロス』チームに慄く。

 勢いが凄すぎる。いったいどうしたのだ。

 

「まぁ、そんな感じで、ひたすらに虚しいという諦観めいた話なのです」

 

 そんな感じ。諦観めいた、ということか?

 先ほどの感じだと、キレ気味で諦観とは無縁に思えたが……。

 まぁ、言葉の意味を考えるとそう言うこと……なのか?

 

「しかし、たとえすべてが虚しいとして、諦める理由にはなるでしょうか」

 

「答えはバツ。昼間でも安全に注意して運転しなければならないから」

 

「運転免許試験なんですがそれは」

 

「答えはバツ。すべてが虚しいとして、それが気に食わないので殴ります」

 

 すべてが虚しいとして。

 それを諦観と共に受け入れるのか。

 あなたはそれはないなと首を振った。

 

 人の栄華と言うは永遠ではない。

 人が好むきらびやかなもの。

 それにはことごとく非永遠性が付きまとう。

 

 それは命だとて例外ではなく。

 生命とは死へと向かう道程に過ぎない。

 しかし、永遠でないものは本当に無価値か。

 ただ死と終わり、滅びと虚しさだけか。

 

 そうではない。

 

 この迷宮を攻略していた時間は楽しかった。

 それはいずれ色褪せる思い出だが。

 あなたの中でたしかに温かな思い出となっている。

 その思い出は有形無形の強さとなってあなたを支える。

 

 たくさんの女の子たちの痴態が倒れそうになったあなたを支えてくれた。

 だから、これからもたくさん女の子たちをコマしていく。

 その思い出があなたの力となり、強さとなるから……。

 

「おや、表情がイキイキとしてきましたね。何か答えでも見えましたか」

 

 見えた。

 今夜はカル=ロスにバニー服を着てもらおう!

 

「もしやこの人、今晩のプレイで悩んでただけですか」

 

「たかがコスプレの内容ごときにあそこまで疲れたような雰囲気出せるんですか……」

 

「まー、お母様ですからね……」

 

「嫌だなぁ、その言葉の説得力」

 

 なんか誤解されてるが、まぁいいか。

 変にシリアスに疲れていたところを見られても嬉しくないし。

 カル=ロスのバニー服をねっとりと愉しみたいところだ。

 それで、着てもらえるだろうか?

 

「しょうがないお母様ですね。まったく、義理とは言え娘に懇願してバニースーツ着てもらおうなんて、スケベすぎますよ」

 

 などと言いながらも、ややニヤついているカル=ロス。

 ここ最近はサツキがあなたに張り付いていた。

 夜の予定がないと見たら、すぐに予約を入れて来ていたのだ。

 

 なのでカル=ロスたちとはすっかりご無沙汰。

 カル=ロスもなんやかや好色なところがあるので、ちょっと欲求不満だったのだろう。

 まったく、今夜は眠れそうにない。

 

 

 

 

 冒険を終え、平常運転の夜の生活を送りながら、あなたは前哨基地を撤収する準備をする。

 と言っても、生活のために用意したものは現地調達したか、自作した者が大半だ。

 その多くはそのまま置いて行き、『トラッパーズ』に使ってもらうことになるか。

 

「さすがにタダでもらったら悪いですよ。代金くらい払わせてください」

 

 と、カリーナが言うので、申し訳程度に代金はもらった。

 そしたら、後は世話になった者を招いてパーティーをするために招待状を書きまくる。

 

 まずはここを紹介してくれたティーは必要だろう。

 ソーラスに駐在しているので来てくれるかは不明だが……。

 そう言えば、ティーはティーとしか名前を聞いていない。

 だが、『トラッパーズ』のメンバーは全員ちゃんとファミリーネームがある。

 ティーにもファミリーネームはあるのだろうか?

 あなたはテトラヒメナに尋ねに行った。

 

「ティーの苗字? えーと、なんだったかな? たしか……ああ、そうだ。ティー・チャ・グリーンだよ、あいつの名前」

 

 変わった名前だと思っていたが、ファミリーネームも変わっている。

 あんまり聞かないというか、初耳のファミリーネームだ。

 元々は地球出身だと言うから、地球では何か意味のある言葉なのだろうか。

 ともあれ、あなたはティー・チャ・グリーン宛の招待状を(したた)めた。

 

 

 親しくなった者、面識ある者、寝た者。

 それらのすべてへと招待状を用意した。

 この前哨基地での冒険はそれほど長期間に及ばなかった。

 なので、寝た数は両手の指で足りる程度だ。

 サツキの鬼リピも理由としては大きいか。

 

 招待状をタイトに預けたら、次はパーティーの準備だ。

 当日の朝からやっていたのでは間に合わない。

 パーティー開催予定の1週間前から準備してもいいくらいだった。

 あなたが食材の調達、食器、テーブルの用意に奔走する中、タイトへと呼び出された。

 

「査定が完了した。あんたの功績が大なることも確かめた。受け取れ」

 

 あなたへと分配されたのは賢者の石が15個だった。

 ものすごい数だが、こんなに受け取っていいのだろうか。

 

「あんたは金には困っとらんのだろう。30層分の攻略、その代金もすべてコミコミで15個だ。まぁ、多少色は付けてやったがな」

 

 そう言えば、道中の戦利品の売却益などはまだ受け取っていない。

 それらも含めて賢者の石15個……金貨で言えば3万枚にも及ぶ報酬。

 やはり、もらい過ぎのような気がしてならないが……ここまで特別扱いされる理由があるだろうか?

 

「25層以降のギミックはあんたでなければ解除できなかった。違うか?」

 

 不可能とは言わないが困難だったろう。

 

「それを成し遂げたあんたは、特別なことをした。特別なやつを特別扱いする。当たり前のことだ。理解したか?」

 

 まぁ、そこまで言うなら受け取らせてもらおう。

 こう、サシャがクロモリとのプレイでうっかりした時用とかに……。

 あなたはこの1週間の冒険の報酬を収める。

 

「パーティーが終わったら、出ていくのだったな」

 

 『ポケット』に報酬を収めつつ、あなたは頷く。

 またいつか会う時もあるだろうし。

 『アルメガ』との戦いでは肩を並べることもあるだろう。

 

「あんたとの接点は少なかったが、あんたが来てからは賑やかで悪くない騒がしさがあった。寂しくなるな」

 

 タイトがぶっきらぼうに言う。

 あなたも頷いて、まだ仲良くなれてない子も居るので残念だと答える。

 いずれ、冒険とかではなく、ただ遊びに来てもいいかもしれない。

 その時には歓迎してくれるだろうか。

 

「ああ、もちろんだ。いつでも遊びに来るといい。あんたはさっぱりしてて付き合い易い。そう言うやつは好きだ」

 

 告白だろうか?

 あなたは笑いながら、ベッドに入りたいなら女の子になってから来いと答える。

 

「機会があるとは思えんが、その時は遊ばれてやる。優しくしろよ?」

 

 もちろんだ。

 あなたは笑って、タイトと拳をコツンと合わせる。

 あなたは異性と友人関係になるのが得意な方だった。

*1
赤ちゃんが喋る「あぶぶ」「だーだー」などの意味のない言葉

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