13-001
あなたの冒険はこれからなわけだが。
さすがに連続で出発するのもどうか。
あなたはいいが、『アルバトロス』チームの疲労がある。
どうせ迷宮にはついてこないので無視してもいいが……。
さすがにそれは可哀想なので、一時休息としてもいいだろう。
それに、あなたとしても休みたい理由はそれなりにある。
迷宮は逃げないが、イロイの成長は日進月歩。
特に赤ちゃんと言うのはすごい速さで成長するものだ。
やはり、傍で見守りたいと思うのも本音ではある。
そう言うわけで、あなたはまず王都ベランサへと飛んだ。
「あ、ご主人様。おかえりなさい。冒険の調子はどうですか?」
屋敷に到着し、庭から屋敷内部に入ろうとしたところでサシャと出くわした。
図書館からの移動中なのか、紙束片手のラフなスタイルだった。
あなたはサシャに、冒険はひと段落したので帰って来たと答えた。
『トラッパーズ』から教えは授けられたので、しばらく休養して冒険に再出発だ。
「そうでしたか。私の方は本はひとまず完成ですね。あとは、ご主人様にお願いすることになるかと」
なるほど、任せておいて欲しい。
英雄としてのネームバリューをバリバリ使って、大々的に本を出そうではないか。
まぁ、一朝一夕で出来ることではないので。気長に待って欲しいが。
「ええ、それはもちろん。あ、お母さんもお父さんも元気ですよ。お屋敷の方は特に問題はないかなと思います」
あなたはそれはよかったと頷いて、サシャと共に屋敷に入った。
サシャは小腹が空いたので、厨房に軽食をもらいに行くところだったらしい。
「あんまり動いてないんですけど、なんかお腹すいちゃって」
などと笑うサシャ。
お腹いっぱい食べるといい。
「それで油断して食うと瞬く間に太るので気を付けてくださいね」
「元運動部とか、退官した人とかに多いですよね」
「運動量激減したのに食事量そのままだと惨事が起きますね」
「食事量は満足するまで食べるのではなく、消費カロリーを計算して決めましょう」
『アルバトロス』チームによる鋭い指摘。
あなたはカラカラと笑って、たしかにそうなるなと頷いた。
あなたは基本的には訓練を欠かさないが、やはり休養期間中の運動密度は低い。
そのため、訓練期間中や冒険期間中に比べると、やはり少し太る。
もちろん、運動量が減っていることを踏まえて食事量も控えるのだが。
それでもやはり、体重が増えるのはなかなか避けられないことだ。
維持できれば一番ではあるが、減るよりかは増える方がいいので妥協しているというのもある。
「太……うーん……」
あんまり太りたくはないが、ご飯を我慢するのは嫌だな……。
サシャはそんな顔をしている。その気持ちはよくわかる。
あなただって病気は嫌だけど、女を我慢するのは嫌だった。
ならばやはり、どちらも両取りする方法を考えるしかない。
つまり、お腹いっぱいごはんを食べつつ、太らないようにする。
やはり運動、運動あるのみだ。付き合ってあげるので朝夕にみっちり訓練しよう。
「やっぱりそれが一番ですよね……机仕事ばっかりしてると肩も凝るので、付き合ってくださいね」
もちろん、そのあとはベッドで愉しむとしよう。
朝夕にしっかり訓練してごはんを食べ、夜はベッドの中でスポーツ。
この激しい運動によって、引き締まったえっちなボディが作れる。
まぁ、ちょっとだらしないむちむちボディもあなたは大好物だが……。
屋敷に帰り着き、あなたは身を清めた後にイロイに会いに行った。
イロイの父として顔を覚えてもらうための努力は欠かせない。
ただでさえ冒険者稼業で家を空けることが多いのだから。
「まだ、目は見えてないと思いますけど」
たしかにまだ目は見えていない頃合いだろう。
だが、その前に匂いを覚えてもらい、抱かれ心地を覚えてもらう。
そうすることによって、目が見えるようになった時にすぐに慣れてもらうのだ。
「複数人の子供育てた経験があるだけあって、周到ですね」
「お母様に抱かれていた頃を思い出しますね……」
「考えてみると、イロイさんってカル=ロスからすると義姉ですよね」
「年下の義姉とかエロゲーみたいですね」
なんて話を聞きながら、イロイの部屋に入室。
メディシンフォージドのカイル氏が控える部屋のベビーベッド。
そこにイロイが寝かされており、あなたはそこを覗き込む。
イロイはすよすよと静かに寝息を立てていた。
もちん、たぷんとした赤ん坊特有の頬が可愛らしい。
ふあふあとした金の頭髪が淡く光を反射している。
そして、時折音に反応してぴこぴこと動く耳……。
天使のように可愛らしい赤子がそこに居た。
「おお……か、かわいい……」
「顔立ちが赤ちゃんっぽくなってきましたね」
「動物っぽさが抜けたというか、素直に可愛いです」
「うっ……お母様、もしかしたら私、今なら母乳が出るかもしれません……!」
カル=ロスもイロイの可愛らしさに母性が刺激されたらしい。
そうはならんやろ、と言いたくなるようなことを言い出している。
しかし、そんなツッコミが無粋なくらいに、イロイは可愛い。
みんなイロイの愛らしさにふにゃふにゃにされてしまった。
やはり、赤ちゃんとは可愛い。
あなたたちはしばらくイロイの可愛さを直に浴びる。
そして、耐え切れなくなったら部屋から出て、悶えた。
「イロイさん、いいですよね」
「いい……」
「赤ちゃん、いいですよね」
「いい……」
『アルバトロス』チームはメロメロだ。
あなたもメロメロだ。特に耳がいい。耳が。
「いいですよね……耳……」
「ふあふあで、ぴこぴこで、ふにふにで、かわかわぁ……」
「赤ちゃんフィヒ……フィーヒヒヒ! 赤ちゃんかわいいやったー!」
「ケモ耳はいい……私にはそれが必要なんだ」
みんなもケモ耳はいいものだと思っているらしい。
みんななかなか分かっている。ケモ耳は実にいい。
「赤ちゃんの可愛さをナマでイッとるからな。パチパチ弾けて、脳みそ幸せです」
「最かわ……その称号はイロイさんにこそふさわしい……」
「燃える……燃えてしまう……イロイさん……私が……消えていく……これは……面倒なことに……なった……」
「こちらアルバトロス! あとは任せろ!」
なんかだんだん狂って来たぞ。どうした?
『アルバトロス』チームはイロイの過剰摂取でオーバドーズ中らしい。
あなたはひとまず全員を寝室へと押し込んだ。今日は休め。
さて、王都屋敷に帰還したあなたは適当に屋敷の仕事を済ませた後。
王都ベランサとアノール子爵領を往復する生活をはじめた。
アノール子爵領では子爵としての仕事をしつつ。
その傍ら、トイネ王都アラナマンオストにおいて出版関係の仕事を。
サシャの自伝、『貧困と不運によりやむなく奴隷に身をやつしその生涯に悲観するも、美しく聡明な冒険者である後のハーン・アノール子爵により購入され、その功績、行い、言行を傍らで見聞きし記録することを許されたマフルージャ王国は東部地方スルラの町出身のサシャ・ラジット・ダインクス・エリザベス・キリムが見た、マフルージャ王国はサーン・ランドの冒険者学園を卒業し、ソーラスの町に存在するソーラス古代迷宮を極めて強大なドラゴンを打倒することによって遂には踏破するという、人類史上において初の偉業を達成した神に抱擁されし大地エルグランドより来りし黄金の髪と深紅の瞳を持ったトイネ救国の英雄にして偉大な貴種たる冒険者の雄大にして華麗で、不思議かつ驚きに満ちた壮大な冒険についての記述』を出版するのだ。
出版はあくまで出版社に任せることなので出来ることはないが。
あなたはこの本をよりよいものとして改善する提案をする。
なんと言うか、こう、誰でもすぐに目の当たりにする問題と言うか。
あなたは手にしている、サシャが手作りした本を眺める。
開いていた本を閉じると、中身よりは幾分作りの荒い表紙。
中身はカリグラフィーの技術で装飾できるが、表表紙はそうもいかないものだ。
そして何よりも、表表紙を埋め尽くす、細かく小さい文字たち……。
『貧困と不運によりやむなく奴隷に身をやつしその生涯に悲観するも、美しく聡明な冒険者である後のハーン・アノール子爵により購入され、その功績、行い、言行を傍らで見聞きし記録することを許されたマフルージャ王国は東部地方スルラの町出身のサシャ・ラジット・ダインクス・エリザベス・キリムが見た、マフルージャ王国はサーン・ランドの冒険者学園を卒業し、ソーラスの町に存在するソーラス古代迷宮を極めて強大なドラゴンを打倒することによって遂には踏破するという、人類史上において初の偉業を達成した神に抱擁されし大地エルグランドより来りし黄金の髪と深紅の瞳を持ったトイネ救国の英雄にして偉大な貴種たる冒険者の雄大にして華麗で、不思議かつ驚きに満ちた壮大な冒険についての記述』
あなたは目頭を揉む。1度読み下すだけでかなり疲れた。
あなたはこのタイトルはなんとかならんかと提案した。
「ダメですかね」
ダメじゃないが。
猛烈に目が滑る。
「格式が高めの本はだいたいこんな感じなんですよね。ご主人様は貴族ですから本の形式は格式が高めのものにするべきなので……」
そもそも、これではタイトルであらゆるすべてがネタバレされている。
「でも『名もなき奴隷が産み落とし、浮浪児として生まれ育つも、大陸全土を股にかける15年の冒険を経て、偉大な冒険者となり後にその功績により昇神を許され、獅子の獣頭を持つにいたる強壮なる戦神にして最強の英雄たるシェバオの生涯と壮絶な驚きと栄光に彩られた冒険の日々についての記録』とか、こういう形式に則ったタイトルなんですよ」
こっちも全部ネタバレされてる……。
なんだろう、ネタバレOKな風潮でもあるのだろうか?
いやまぁ、この大陸の風習だと言うなら口出しすべきではないが……。
にしても、長い……長すぎる……。
あなたなら『エルグランドから来た冒険者』とか。
もしくは『華麗なる女冒険者の奔放な女性遍歴と放埓の日々』とでも題するだろう。
前者はひたすら簡潔にし、読者の興味を誘うように。
後者は、なんかエロそうな内容だな……! と興奮するやつを狙い撃ちにする。
人間、エロいことはみんな大好きなので割と引っかかる。
「どうしましょう。改題しましょうか?」
この書式の方が妥当だと言うなら……いい……のだろうか?
あまりに長すぎてこれはどうなんだと思っただけなので。
「一応、ひたすらシンプルにするという方向性のものもあるんですが」
そっちの方がいいのでは?
「それはそれで少し格式が高過ぎるんです。短いということは、それでいながら誰もが一目でその価値を理解するものという観念があって、王国史とか神話とかに使われるようなものなんです」
たしかに、それはまずいか。
「でも、ご主人様は救国の英雄ですから。たとえば『エルグランドの冒険者』と言うタイトルで出しても、トイネでならば「英雄に相応しい本だ」と思ってもらえる可能性は高いです。ただ、マフルージャ王国ではどう受け取られるかは……」
なるほど。サシャなりによく考えた末のタイトルと言うことは分かった。
であれば、あなたが口出しすべきではないのだろう。
すまなかった、素人考えでくだらないことを言ってしまったようだ。
「あ、いえ、ご主人様の仰ることはもっともだと思います。たしかに長いので。本当は修飾表現をもっと簡素にしたかったんですが、私はご主人様の奴隷ですから……主は褒め称えないといけないので最大限修飾しないといけないんです」
め、めんどくせぇ~……!
あなたはあまりにも面倒くさい文章作法に唸った。
だったらもう、サシャを解放奴隷にしてしまおうか。
いや、それはそれで割と面倒くさいことになるか……。
サシャを買った奴隷商とのコネクションは維持し続けたい。
あそこに無暗に投資するにあたって、サシャの購入代金を積み増しと言う形でやれるのはありがたい。
ただ投資だけしようとすると、最近は死にそうな顔で断られるのだ。
あなたが満足する奴隷を用立てられないからとか申し訳なさそうに言うが。
べつに気にしていないから投資を受け取ってくれればいいのに……。
「タイトルは、このままでいいでしょうか?」
いいんじゃないだろうか。
どうやらこれが一番無難らしいので。
「そうですね。無難なタイトルだと思います」
このクソほどに長いタイトルが無難……。
風習と言うのは面倒くさいものだと思う。
まぁ、それであれば、このまま出版作業は進めよう。
貴族向けの立派な装丁と、庶民向けの簡易装丁のものの2バージョンで進めよう。
前者は精々1000部ほど、後者は10万部ほどを想定して出版する。
それこそ全人類に行き渡るほどに出版させたい。
サシャの功績が知れ渡ってくれるのは主として嬉しい限りだし。
あなたの功績も知れ渡るので、ナンパが容易になるし……。
悪いことが何ひとつとしてない。まったくすばらしい。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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3000文字前後
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4000文字前後
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5000文字前後
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6000文字前後
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7000文字前後
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8000文字前後
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9000文字前後
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1万字前後