あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 クロモリを呼び戻し、EBTGメンバーが勢ぞろいした。

 そして、たっぷり休んだから、そろそろ訓練に身を入れようと提案した。

 

「いいですね。ここ最近、執筆で(なま)っちゃいましたから。さらにレベルアップもしたいと思ってましたし」

 

「そうね……魔法の深淵は遠いわ……探求するほどに遠い。まだまだ成長が必要よ」

 

「神の(まった)き愛が、無制限にして無際限(むさいげん)のそれであるように、信仰もまた同じことなのかもしれません……」

 

「この辺りで狩りしてもつまらん。でかい獲物はいないし、やたら暑いし。訓練してる方がマシだな」

 

「足を引っ張りたくはありません。全力でやらせていただきます」

 

 どうやら全員、訓練に対する意気込みは十分なようだ。

 残念ながら、イミテルは妊娠中ということもあって不参加だ。

 まぁ、座学方面の訓練では体調に気遣いながら参加してもらおうと思うが。

 

 さて、訓練をするにあたってだが。

 今回も前回よろしく講師を呼ぼうと思う。

 これは、という者はいるだろうか?

 

「うーん。前回と同じでも……あ、いえ、こういうと悪いんですが……ノーラさんはいらないかな……?」

 

「ああ、そうね……居て悪くはないんだけど、彼女、順当にただ強い冒険者って言うだけだから……」

 

「学園の長をやっていらしただけに学識も見識も豊かではあるんですが……なんと言うか、正統派過ぎると言いますか……」

 

 なるほど。サシャたちの言わんとするところは分かる。

 なんと言うか、普通の冒険者過ぎるのだ、ノーラは。

 疑いようもない英雄級冒険ではあるのだが。

 他の講師役の者に比べると見劣りするというか……。

 

 訓練相手のバリエーションを増やすという意味では有用だが。

 それならべつに仕事で忙しかろうノーラを無理して呼ぶ必要はないかなとも思うわけで。

 

 呼んで悪いということはないのだが。

 他にいるなら積極的に選ぶ理由もないかなと。

 

「私が思うにだが、ケイも要らないと思う」

 

「ケイって、あの料理番をしてくれてた、彼よね?」

 

「この屋敷で料理人に困ることがあるか?」

 

「あー……ないですね……」

 

 たしかに無い。この屋敷には当然ながら料理人がいる。

 なんたって、ここはアノール子爵領の領主の館なのだ。

 訪れる客人は多く、時には貴族を饗応することだってある。

 王都で料理を学んで来た腕利きの料理人の1人や2人はいるし。

 下働きの料理人はさらにたくさん抱えているのだ。

 

 ケイに料理の支度をしてもらう必要はあまりない。

 彼がいて悪いことはないが、いなくてもいいかなと言ったところか。

 彼の料理はおいしかったので、呼ぼうかな~……という気持ちもあるにはあるが……。

 

「逆に、ジルとコリントは呼びたい。あの2人はちょっと変なところはあるが、超絶に腕利きな上に、見識も実践知識も豊かだ。まだまだ学べることは多い」

 

 レウナの言には頷けるところしかない。

 ジルとコリントの授けてくれる知識には値千金の価値がある。

 それでいながら2人の要求する報酬は大変慎ましいものだ。

 エルグランドの魔法による防具のエンチャント。

 それもありきたりな属性耐性のエンチャントだなんて……。

 

 たしかに単品で無効化レベルにまで強力な耐性のエンチャントは珍しいが。

 だからと言って、あれほどの働きに見合う品ではないのだが……。

 

「2人とも若いのに、どこからあんな見識得て来たのかしらね……」

 

 ジルがどうなのかは知らないが。

 コリントはべつに若くはない。

 少なくとも半世紀以上は生きているらしい。

 まぁ、それを口にするつもりはないが。

 

 アンデッドと言うのは生命に対する敵対者だ。

 コリントが穏健なアンデッドとは言え、それをやたらと吹聴するのは重大なマナー違反と言える。

 そう言うのは、当人の口以外から語ってはいけないものだ。

 

「若い、若い、ですか……お年寄りであればあるほどに見識は豊かですよね?」

 

「ん? まぁ、それはそうでしょうね。フィリア、何か心当たりでもあるの?」

 

「学園の講師だった、エルマさんとセリアンさんはどうでしょう?」

 

「ああ!」

 

 エルマとセリアン。

 エルフと獣人の義姉妹である。

 

 以前、あなたが冒険者学園の2年生だった時に。

 学園対抗演習でモモロウたちが呼びつけたドリームチームの一員だ。

 学園の催しに神話級の超英雄冒険者を呼ぶ暴挙はアレだが。

 あの時の戦いはなかなかよかった。今でも時々思い返す。

 試合とは言え、あなたが負けるのは早々ないことなのだ。

 

 知恵と戦術による、あなたを敗北へと陥れた手腕。

 2度通じるような戦法ではなかったが、本当にいい経験だった。

 

「彼女たち、見た目は若いけど、ものすごい高齢なんですよね? すごい知識を授けてくれそうじゃないですか」

 

「いいわね。ああ、でも、彼女たち呼べるかしら……?」

 

「と言うか、今どこにいるんでしょうね……講師はもうやめたはずでは?」

 

 たしかにその通りだ。

 エルマとセリアンはしばらく学園に講師として雇われていたが。

 1年半ほど、つまり、あなたたちが2年生だった半ば頃から、3年生の終わりまで。

 その期間でたくさんの教えを学園生に授け、どこかへと旅立っていった。

 

 あなたがソレを知った時は悔し涙を流したものだ。

 2人とも典型的な長命種で、年齢由来の気長さがあった。

 なので、それこそ10年くらいは講師をやるものかと思っていたのだ。

 

 2人ともすばらしく余裕に満ち溢れた年上のお姉様だった。

 どうしてもというなら相手をしてやってもいいと言う余裕に満ちたセクシーな返答……。

 そして、気楽な調子でナンパをしても、うまく適当にあしらわれる……。

 

 こちらの性欲に満ちた突撃を易々といなして来る、あの徒労感……。

 あれは自在に女を堕とせるようになってから味わうと悪くない味がする。

 そんな風にあしらわれるのが楽し過ぎて、未だ寝ていなかったのだ。

 どうせまだいるからと余裕ぶっこいてたらいなくなってたのだ。

 

「でも、まぁ、モモロウさんが呼んだなら、モモロウさんに頼めば……」

 

「まぁ、それが無難よね。なんならジルとかコリントも知ってそうだし」

 

 たしかにその通りだ。

 エルマとセリアンを呼ぶにしても、そちら経由がいいだろう。

 とりあえずは依頼して来てくれることを祈るとしよう。

 

「他に腕利きの魔法使いとかいないかしら」

 

「ちょっと思いつかないです。ジルさんやコリントさんに紹介してもらえないでしょうか……」

 

「あ、私、腕利きの戦士の講師役欲しいです。誰かいませんかね?」

 

 たしかに、サシャには腕利きの戦士の講師が必要だろう。

 前回よろしくモモロウとメアリを呼んで……あとは、ハウロはどうだろうか。

 ハウロはモモロウよりもさらに腕利きの超英雄級戦士だ。

 彼女の助力を得られれば、超えられない強敵に困ることはない。

 

「ああ、ハウロさん……お元気にしてるでしょうか?」

 

「彼女が腕利きなのは知っていましたが、そんなにお強いんですか?」

 

 フィリアの質問にあなたは頷く。

 ハウロは超絶的なまでに強い。

 

 彼女が1対1で全力で戦えればだが。

 そんじょそこらの下級神格くらいなら殴り殺せる。

 それこそ小神(ゴッドリング)なんかは楽勝だろう。

 

「そんなに」

 

「つまり、なんでしょう……獣頭の男神(おがみ)、シェバオ神とかを倒せると……?」

 

 断言はできないが、たぶん。

 

 話によるとシェバオ神は元々は人間だった存在だ。

 闘神イスタウーフに信仰を捧げていた彼は偉大な英雄となった。

 そして、その死後にイスタウーフ神に召し上げられて昇神したと伝わる。

 

 従属神として昇神し、分類はおそらく小神だろう。

 小神は位の低い神、下級神格以下をひとまとめに言う言葉だ。

 間違ってもか弱い存在ではないが、神にしては弱いのはたしか。

 

 それこそ神話の英雄クラスの存在になら十分に戦える。

 たぶんだが、モモロウも小神クラスなら倒せなくはない。

 小神クラスにも振れ幅があるので、強い小神には負けるとは思うが……。

 

「そ、そんなに……」

 

「彼らが英雄の称号を冠するにふさわしい戦士だと、頭では分かってるんだけどね……」

 

「あの振る舞いで、神に伍する戦士だと思いたくないぞ」

 

 レウナの辛辣な言いようは分からなくもない。

 しかし、実際に神と言うのも強さはピンキリだ。

 正直な話、弱い小神ならEBTGでも普通に倒せると思う。

 

「えっ。神様ってそんな弱いのもいるんですか」

 

 サシャが驚くが、神と言っても色々だ。

 中級神格あたりから、強い弱いではなく理不尽か否かになってくるが。

 下級神格や小神だと、まだ順当に殴り合いで勝負になる。

 そして、小神もピンキリなので、下を見るとかなり弱かったりするし。

 

「そんなに……なら、半神(デミゴッド)ならほぼ確実に勝てたり……?」

 

 サシャのそんな疑問にあなたは首を振る。

 半神。デミゴッド。言葉の印象からすると小神より弱そうに思える。

 しかし、半神とは神ではないが神のような力を持つ存在を総称して言う言葉だ。

 亜神格、擬似神格、英雄神格、神使など種々の呼び方はあるが。

 

 半神は、神と人の間に生まれた存在を言う場合と。

 神のような力を持つ神以外、準神格を言う場合がある。

 前者も神のような力を持ちつつも神ではないので、いずれにせよ神以外だ。

 

 前者の場合は権能を受け継いでいたりすることがある。

 それで神のような力の要件を満たすことが多い。

 

 しかし、後者の場合、権能を受け継ぐことはない。

 持ち得る力それだけで神の如き偉力を持つということ。

 そして、半神がどれほどに強くなろうとも、神ではない。

 神ではないから小神や下級神格に昇格することもない。

 

 つまり、半神とは強さに最低限の足切りラインはあっても。

 その強さに上限はなかったりするのだ。

 上級神格を殴り殺せるほどの超絶的な強さでも。

 神格ではないのならば、それは半神なのだ。

 

「な、なるほど……」

 

 ちなみにこの定義で言うとあなたは半神に分類できる。

 生憎権能のようなものは持ち合わせていないが。

 それっぽく見えるような絶大な力はいくらかあるので。

 無法過ぎる威力の魔法とか、魔法が如き暴力とか。

 

「なるほど……半神の定義が広すぎるのが問題ですね……」

 

「そうね。でもまぁ、その定義問題に困ることってまずないから……」

 

「たとえ小神と言えど、早々お目通りすることなんてないですからね」

 

 あなたは頷く。たしかにその通りだ。

 アルトスレアなら超凄腕の神官が命を賭したりすれば降臨させられるし。

 エルグランドでは『ミラクル・ウィッシュ』を使えば降臨させられるが。

 早々簡単にお目にかかれる存在ではない。

 

 半神がどうだ、小神がどうだで悩む必要はない。

 人の間に伝わる神のランクだって正しいか不明だし。

 実際に出会ってから考えればいいのでは。

 

「そんなものですかね……」

 

 そんなものだ。

 そも、シェバオ神は小神と言う扱いで話したが。

 信者数的には下級神格に至っていてもおかしくない。

 獣人から広く信仰を得ているなら十分あり得る。

 実際に戦ってみないことには格付けは不明だ。

 

「戦う機会がないことを祈ります……」

 

 ウカノを信仰する以前はシェバオ神を信仰していたサシャだ。

 ウカノを第1の神としても、シェバオへの信仰を捨てたわけではない。

 やはり、自らの信仰を捧げていた神に喧嘩は売りたくないらしかった。

 

 

 

 神様との喧嘩についての話でちょっと脱線したが。

 その後も、あなたたちは招く講師役について話し合った。

 結局、以前に招聘した者たちのうち、ノーラとケイ以外。

 そこにエルマとセリアンを足して、呼ぶ講師の者らの伝手で腕利きを呼べたら呼ぶ……。

 そう言うことになった。

 

「まったく、恵まれた話だな」

 

 話が一通り終わったところで、レウナがそう零した。

 

「私たちに教えを授けてくれる腕利きを呼べる……それも複数人。こんな恵まれた環境があるか?」

 

「まず、ないわよね……」

 

「ご主人様の財布の厚さに助けられてます……」

 

「なによりコネクションだな……そこな女たらしが異常に強くなければ、モモロウも超人どもでドリームチームを作らなかったろうからな」

 

 たしかにそれは言えてる。

 モモロウはあくまであなたをキャン言わせたかったらしい。

 逆を言えば、モモロウ単独でキャン言わせられる程度の強さだったら。

 ジルやコリント、エルマとセリアンが呼ばれることはなかった。

 

「研鑽の本当の段階とは、そうした講師役が呼べなくなってからだろうな……暗闇のような道でも、手探りで進むほかないのだろうな」

 

 しみじみと、レウナが言う。

 あなたがかつて通って来た道だ。

 先の見えない道をさまよい、時として壁にぶつかる。

 

 壁を乗り越える方法なんてわからない。

 だから全力で頭突きして、壁をぶっ壊して進むしかなかった。

 その歩みは遅く、きっと間違いも足踏みもあった。

 EBTGのメンバーたちも、いずれそうなる。

 

 そこで腐らず頑張れるか。全力で壁にぶつかり続けられるか。

 それこそが超人級冒険者になれるか否かの分水嶺なのだ。

 

 来て欲しいものだ。

 あなたたち超人級冒険者の領域に。

 この頂から見下ろすのも楽しいが。

 やはり、肩を並べる仲間が増えるのは嬉しいのだ……。

 

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