さて、訓練期間をはじめたあなたたちだが。
午前中に座学をたっぷり受け、午後には格闘訓練。
毎日毎日その繰り返しで、夜になったら明日のために休む。
特に、座学は新しいことが学べてたまらない。
魔法を構成する要素、シードを組み合わせることで新魔法を創造する。
そして、そのシードを強化することで既存の魔法を強化する。
さらに、そのシードを強化し、組み合わせ、『神話級呪文』を創造する。
なるほど、たしかに非常によく似通っている。
まだ『神話級呪文』を使えない者でも、新魔法の創造が出来るように訓練するのは役立つだろう。
高みを見据えての訓練なので、学んだことを活かせず終わる者もいるだろうが……。
EBTGメンバーに限っては問題ないだろう。
もう『神話級呪文』の創造に手をかけようとしているのだから……。
肉弾戦の訓練は……あなたにはあんまり有益ではない。
だが、サシャやフィリア、レウナにクロモリには有益な時間だ。
ひたすらボコられ、ひたすら鍛えられまくる日々。
だんだん死んだ魚のように濁った眼になって来たが……。
まぁ、話しかければ返事があるし、触れば体温があり生きている。問題ない。
学びと訓練の日々は大変充実している。
ひたすら強くなるための時間は心地よいものだ。
毎日へとへとになるまで訓練し、風呂に入って、酒を飲んで寝る。
ぐっすり眠って、翌朝にはしっかりごはんを食べてまた学ぶ……。
時折は休日を取って休んでいるのでリフレッシュもできている。
問題はない……そう思っていたのだが。
「クロモリのコンディションが悪ぃな、どうもな」
1か月ほどの訓練を経て、ハウロがそのように報告して来た。
場面は講師側の打ち合わせ。あなたは一応訓練を受ける側だが……。
仲間たちの不足部分を埋め合わせるように教えてもいる。
そのため、講師側の会議に参席しているのだ。
ハウロのその報告に関してはあなたも頷けるものがあった。
どうにもクロモリの調子が上がらないというか。
体調が悪いと言うほどではないが、コンディションが悪い。
「なんか病気ってわけじゃなさそうだし、心因的なもんか?」
あなたはもしかしたらだが……と前置きして話した。
クロモリはしばらく前から悪夢に悩まされているらしい。
具体的な内容は不明なのだが、内容は同じだと言う。
「内容が同じ?」
ジルの疑問の声にあなたは頷く。
いつもまったく同じ内容の悪夢を見て、同じ場面で目覚めるんだとか。
内容はよほどクロモリにとって耐え難いものらしい。
どうも、漏れ聞く話からすると、自分が死ぬ夢らしいのだが……。
「自分が死ぬ夢……まったく同じ悪夢……それが、1か月以上?」
「ちょっと怪しいというか……いえ、ちょっとと言うか、爆裂に怪しいわよね?」
「そうじゃな……環境が変わったり、状況が変わっても同じ悪夢となると……」
「外部からのなんらかの介入を感じさせるよな」
皆が口々にそう言う。言われてみると……そう……か?
あなたはしょっちゅう同じような内容の夢を見るので、あまり疑問に思っていなかったのだが……。
「ちなみに、その内容とやらはなんだ」
モモロウの質問に、あなたは女を抱く夢だと答えた。
「だろうな。しばらく黙ってろ」
ひどくないか?
あなたはそう思ったが、誰も擁護してくれなかった。
なぜだ……たしかに起きている時も女を抱くことばかり考えているが……。
夢でもそうだからと言って、そう冷たく扱われる理由になるか?
「やっぱ、あれか? 悪夢を見せるモンスターとか、そう言うのがいたりすんのか?」
「淫夢を見せるモンスター、サキュバスとかいますもんね。そう言うアレですか?」
なるほど、悪夢を見せるモンスター。たしかにいる。
悪夢をナイトメアと言うが、それはナイトメアと言うモンスターの仕業とされる。
実際にすべてがナイトメアの仕業かは不明だが、悪夢を見せる能力があるのは確かだ。
「いえ、そもそも、夢と言うのは夢の次元界イリーズに精神が投射されることで見るものなんです。悪夢を見せるモンスターは、その次元の住人がこちらに来たものなんですよ」
「でも、私たちの探知網を乗り越えてまでクロモリさんに悪夢を見せているとは考えにくい……」
「となると、答えは1つじゃな……次元界イリーズ、そこでなにがしかの悪意あるものが、クロモリの精神に意図的に悪夢を見せておるのだろう」
……夢を見るってそんなメカニズムだったの?
「そうですよ。だから、高位冒険者になったら寝る時に精神だけ囚われないよう気を付ける必要があります。夢を見ないように寝るとか」
なんだそれめんどくさい。
だいたいどうやるのだそれ。
「まあ、精神を防御する類の呪文をかけるとか、手段はいろいろですが……クロモリさんにそれは、あまり意味がないでしょう」
「じゃろうな……初期の頃ならよかったかもしれんが、なにせ1か月以上じゃろ?」
「完全に目を付けられてるわね。今さら防御してあげても、こちらに尖兵を送り込んで来ると思うわ」
その程度の尖兵に負けるようなことはないとは思う。
だが、そんな尖兵を何回も送り込まれたらめんどくさい。
「となると、根本的対処しかない……クロモリに悪夢を見せてるボケをブチ殺す。これだな?」
ハウロの言に全員が頷く。
たしかにその方が手っ取り早い。
何事も暴力で解決するのが一番だ。
ただ、問題があるとしたら。
その別次元にはどうやっていけばいいのか、だ。
しかし、なにしろここにいる面々は超凄腕の冒険者揃い。
あなたには別次元に行く手立てはほぼ無いが。
知っての通りジルは地球に行くこともできた。
きっと、ジルやコリントならば楽勝なのだろう。
「別次元への侵攻となると、なかなかの大仕事ではあるのですが……なかなか面白そうなキャンペーンではありますね」
「ふふ、いいわね。なかなか面白そうじゃない」
「かわいい教え子のためじゃ。骨を折ってやるとするか」
「姉者がやるなら、あたしが行かないわけにはいかないねぇ。前衛は任せときなよ」
「別次元の化け物なんだろ? 人間じゃねえなら俺だって
全員、別次元への襲撃に対して意気軒高だ。
ハウロはともかくとして、全員が腕利きの冒険者だ。
やはり、未知なる冒険と言うものには心躍るのだろう。
あなたも実は割とウキウキしていたりする。
地球と言う別次元も実に興味深かったが、なにせ夢の次元だ。
人々が眠る時に見る夢、それを見ることのできる次元……。
あなたが夢の中で抱いてきた美女たちもそこで見えるのだろうか?
そう思うと楽しみになって来た。
「あ、俺とメアリは、留守番してるわ。うん……」
「これほどの強さになってもなお、足手まといだから大人しくして居ようと思わされるなんて……」
モモロウとメアリは留守番するつもりらしい。
まぁ、たしかにこの講師陣の中では最弱クラスだ。
モモロウもメアリも、単騎にして軍に勝る一騎当千の英雄なのだが……。
この集団の平均的戦闘力が高過ぎるが故の悲哀か。
「まずは、次元界イリーズへの転移ですか。しかし、イリーズはやや特殊な次元界……夢の再生される次元ですからね」
「この周辺の次元界には詳しくないのだけど、行く手立てはあるの?」
「なくはないかなぁと……しかし、すぐに行けるかと言うとなんとも」
あなたは別次元への転移については詳しくない。
そのため、一体どういう問題があるのかとジルに尋ねた。
以前、地球に行った時はさらりと行っていたではないか。
「行ったことのある次元ならば、多少なりルールを無視して転移することは可能なんです。しかし、イリーズには行く用事などなかったので、行ったことがないのです」
なるほど。そう言うルールがあったとは知らなかった。
すると、以前に地球に行ったところからすると、あそこは行ったことがあった?
「あれは、まぁ、いろいろと理由がありますが。まぁ、行ったことがあると言うことになるかと。単純に次元の距離が近いのもありますが」
「遠い次元界であるにせよ、接近することはあるわ。その、接近した時には物理的に歩いて行ける連結地帯が発生するけれど……」
「イリーズの接近周期は知りませんが、すぐと言うことはないでしょう。少なくとも、近くはないです」
「そうね……たしかに、近くはないわ」
ジルとコリントが通じ合っているが……なにが分かるのだろう?
次元を超えた転移が可能なあたり、あなたには分からない感覚があるのだろうか。
「手段としては、イリーズ出身の何者かを媒介にするとか、それこそ神格による介入を願うか……」
「その場合、イリーズの神格の介入が必要になるから、結局はイリーズ出身の人間の助力がいるわね……」
「生憎じゃが、儂らはそのイリーズと言う次元は行ったことがないぞ」
「私もなのよね。どうしたものかしら……」
「この次元ともイリーズとも違う次元に向かい、そこにイリーズとの連結地帯が生じていないか探す……」
「ちょっと無謀ね。不可能とは言わないけれど……」
全員があーでもないこーでもないと手立てを話し合う。
その最中、あなたはイリーズと言う名に引っかかるものを感じていた。
イリーズ……イリーズ……誰かがイリーズ出身だと言っていたような……。
その場合、別次元出身で、こちらに来たということになる。
となると、それなり以上の腕前の持ち主であり……誰だったろうか。
エルグランドで冒険していた頃の記憶ではないはずだ。
たぶん、この大陸に来てからのことなので、ここ数年の話……。
ここ数年で知り合った、それなり以上の腕前の持ち主たち……。
「どうされました。悩んだような顔をして」
ジルの問いに、あなたは知り合いにイリーズ出身者がいると答えた。
しかし、その知り合いというのが誰だったか思い出せないとも。
あなたは記憶力はいい方だが、さすがになにもかも覚えているわけではない
「もしや、それはキャロライン・ハントと言う人物ではありませんか」
あ、それだ。あなたはようやく思い出す。
キャロラインがイリーズの出身であると言っていたはずだ。
ジルはよく分かったものだ。どうして?
「私の知るイリーズの出身者がそのキャロラインさんだからというだけです」
単に可能性として口に出しただけらしい。
「しかし、彼女がいるのであればちょうどいい。彼女を触媒にしてイリーズに行きましょう」
「彼女の魂がイリーズの所在を理解しているわ。彼女がいれば魔法1発でピョーンといけるわね」
「それで、そのキャロライン何某はどこにおるんじゃ」
あなたが救児院で雇い入れ、子供たちの教育係をしている。
徒手格闘、また純粋に近接格闘。そう言った者の教育だ。
また、地味に医療技術も持ち合わせがあるらしい。その教育もしてもらっている。
「あれに子供の教育をやらせているのですか?」
「なんと言うか、そう……人員配置のセンスがないわ」
「子供たち生きてる? 生きてるとして、人格は無事か?」
そんなに心配するほどひどいのだろうか。
少なくとも子供たちに悪影響があるとか。死人が出たとか。
そう言う悪い種類の報告は届いていないが……。
以前に視察した際も、そうひどいことはなかった。
たしかに教育は非常に厳しく、荒っぽかったが。
やはり訓練と言うのは痛くないと覚えないので……。
そう言う意味では決して変なことはしていなかった。
なので、あなたも安心してキャロラインを継続的に雇用していた。
一般的な家庭教師なんかより遥かに高給の報酬を払ってもいる。
しかし、みんなに不安がられると途端に心配になって来た。
あなたは抜き打ちの視察ついでにキャロラインに会いに行こうと提案した。
「そうしましょうね……」
「子供たちが無事だといいが……」
「子供たちの総数が減りつつも、個人は減っていないとかおぞましいことになってても驚きませんよ」
「嫌だなぁ、その光景」
いったいどれだけひどいのだろうか……。
あなたは不安を押し殺しながらキャロラインの下へと向かった……。
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