あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたたちは連結地帯を丁寧に探索した。

 そうしてみると、本当に以前までの次元界と変わりがない。

 

 町の印象や作り、文化などがまったく違うようではある。

 リリコーシャ大陸はマフルージャ王国やトイネ王国とはまるきり違う。

 ただ、エルグランド大陸のナイムカナイにはやや似ている。

 

 気候的なものは比較的北方。そして土地柄は痩せている。

 あまり実りよき環境ではないような雰囲気だった。

 だが、あなたたちのいた次元界にあっても不思議ではないような。

 連結地帯に存在した町は、そんな雰囲気だったのだ。

 

 

 次の領域に繋がるゲートを見つけ、次の領域へと移動した。

 次の領域は、先ほどの領域とそれほど劇的に違いはなかった。

 だが、野外に危険そうな野獣がいたり、天気が曇っていたり。

 ややネガティブな印象を受けるような環境になっていたくらいだ。

 

「下方領域に来たようですね。キャロラインさん、どうでしょう」

 

「下方領域だろうな。基本的に、一見してネガティブな雰囲気であれば下方領域に移動したと考えて相違ない」

 

「だ、そうです」

 

 なるほど、シンプルな判別基準だ。

 では、さっさと次の領域を探すとしよう。

 あなたは先ほどと同じく『ナイン』を取り出した。

 

「……ねえ、それ、重くないの?」

 

 コリントに問いかけられ、あなたは少し返答に窮した。

 あなた基準で言うとまったく重くはない。

 片手で持てるし、石ころと同じように投球もできる。

 あんまり思い切り投げると、加速度で壊れてしまうが。

 

 しかし、ごく一般的な基準で言えば重いはずだ。

 正確な数値は覚えていないが、ザックリと1トンくらいはあったはず。

 常識的に考えて、普通は持ち運ぶなど到底不可能。

 駄載(ださい)は到底不可能だし、馬匹牽引も厳しい。

 だが、コリントくらいの超級冒険者なら持ててもおかしくはない。

 

 あなたは少し考えて、持ってごらんよ、と差し出した。

 『ナイン』はおおよそ一抱えほどの大きさの爆弾だ。

 独特の長細い形状で、太さが50センチくらい、長さが4メートルくらいである。

 

「……っと。ちょっと重いかしら。まぁ、投げるのに苦労するほどではないわね」

 

 コリントが『ナイン』を受け取って重さを確認する。

 やはり、あなたが予想した通り、持ち上げるのに苦労はないらしい。

 

「俺にも持たせてくれ」

 

「あら、ハウロも? いいかしら?」

 

 あなたは頷いて、ハウロに渡すよう言った。

 ハウロが『ナイン』を受け取り、少しよろける。

 片手で持ち上げるのは少し厳しいようで、両手で持っている。

 

「おっ、結構重いなこりゃ……けど、がんばれば投げられんことも、ないか?」

 

 まぁ、見る限りでは両手を使って前へと放るくらいはできるだろう。

 さすがに石ころを投げるような手軽さではないだろうが。

 

 ハウロが次にセリアンへと渡した。

 全員『ナイン』の重さが結構気になっていたらしい。

 まぁ、『ナイン』はたしかに割と大きいものではある。

 だが、その威力は普通の火薬などとは次元が違うのだ。

 

 普通のものより手軽に使えて、威力は絶大。

 冒険者ならばいざという時に使ってみたいとも思うだろう。

 そうなると重さや投げ易さは気になるものだ。

 

「へぇ、たしかに重いねこりゃ。あたし20人分くらいかね? 姉者は?」

 

「試させてもらおうか」

 

 そして次にエルマに。

 あなたは大丈夫かとちょっとハラハラしたが、エルマは問題なく片手で持ち上げた。

 エルマが常時自分にかけている強化魔法には筋力増強系も含まれているようだ。

 

「なるほど、呪文の増強無しでは地面に置いたものを押せるかどうかじゃな……たぶん押せるかとは思うが……」

 

 言いながら、次にジルへ。

 ジルはひょいと片手で持ち上げ、重さを確認する。

 

「2400ポンド。重いですね」

 

 ジルは持つだけで重さが正確に分かるらしい。スゴイ特技だ。

 最後にジルがあなたへと『ナイン』を返還して来た。

 キャロラインは『ナイン』に興味がないらしい。

 

「みんな力強ぇな……狩人として身体能力にゃ自信があったんだが……」

 

 と、ハウロがしょんぼりした様子を見せる。

 あなたは気落ちすることはないと慰めた。

 持てる時点で十分な剛力無双の持ち主だ。

 普通の人間なら持とうとしても潰れて死ぬ。

 

「私たちは呪文とか装備でかなり増強してるので、素の身体能力で普通に持てるハウロさんが一番すごいですよ」

 

「そうね。私の筋力は増強コミコミで90くらいあるから……増強無しだと33しかないわ」

 

「筋力って戦闘力にかなり直結してるので、増強する呪文とか装備に困らないんですよね」

 

 あなたはジルに全員の筋力ってどれくらいなのと尋ねた。

 

「ハウロさんが40、私が28、コリントさんが33、エルマさんが22、セリアンさんが58あります。ハウロさん以外は魔法とか装備で増強されてるのでもっとありますが」

 

「増強ありだとナンボなんだよ?」

 

「私が51、コリントさんが90、エルマさんが43、セリアンさんが72です」

 

「そこの女たらしは?」

 

「さぁ? 私では見抜けません。とにかくすさまじい領域にあります。4桁超えの可能性アリです」

 

「4桁超え、ねぇ。そもそも40だの50だの言われてもどんくらいかピンと来ねえが……」

 

「たぶん説明してもピンとこないと思いますよ」

 

「言うだけ言ってみてくれ」

 

「筋力が50あると、約23トンの重量物を頭上に持ち上げられます」

 

「……マジでピンとこねぇわ」

 

「でしょうね」

 

 あなたもいまいちピンとこなかった。

 ともあれ、『ナイン』を返してもらい、あなたは上空へと舞い上がる。

 そして、見つけた町へと『ナイン』をぶち込んだ。

 遠方でキノコ雲が上がるのを見ながら仲間たちの下へ。

 

「離陸距離0メートルで出力が1メガトンはありそうな核兵器をぶち込んで来るとか恐ろし過ぎるわね……」

 

「一番無法なところは、手ぶらに見えて核兵器を複数発持ってるところだと思うんですけど」

 

「それより無法なのはそれを平然とやらかすところじゃねえか」

 

「一理あります」

 

「たしかに一理あるわね……」

 

 なんだか批判的な意見を浴びてしまった。

 あなただって人的被害がないから選んだ選択肢だ。

 もし出るなら連結地帯と同じように『ナイン』は使わずに済ませる。

 それに、これ以外に手軽な方法でもあると言うのだろうか。

 

「……『隕石招来/メテオ・ストライク』で町を吹き飛ばすとか」

 

 被害の度合では同レベルでは?

 

「悔しいですが反論が思い浮かびません」

 

「えっとね、穏当に普通に探せばいいと思うのだけど……」

 

 時間かかるからめんどい。

 人的被害が出るなら穏当にやるが。

 出ないならべつにいいではないか。

 

「私の常識人の部分がそれでもだめだろと言っているけれど、同時に私の効率厨の部分が、だって速いし、と同意を示しているわ……」

 

 コリントもあなたの意見には頷けるところがあるらしい。

 ならば、後はそれを素直に受け止めるだけだ。

 こっちの方が速いからそれでいいではないか。

 

「ギミック無視、わかってる人向けボス直サックリ周回となにが違うと言うのって、私のゴーストがささやくのよ……」

 

「コリントさん?」

 

「だって……速いのよ? それに、利益のために最短距離を突っ走るのはあなたもではなくて?」

 

「……たしかに言われてみると、そうではあるのですが……」

 

 あなたはそう言えばそうだねと同意した。

 ジルは強くなるために蛮族を襲撃しまくっていたらしいではないか。

 自分が強くなるためと言う、純粋な自己利益のために他者を犠牲にする。

 そんなことをしておいてこちらを非難する正当性があると?

 

「……そうですね。私は何を今さらいい子ぶってるのでしょうか。早いならそれでいいではありませんか」

 

 ジルも味方に引き入れることに成功した。

 では、次にエルマとセリアン……と思ったが、そう言えば2人は特に意見を出していなかった。

 

「儂らが反対すると思っておったのか?」

 

 見透かされたのか、面白いものを見るような目でエルマがそう言う。

 エルマとセリアンの人柄は疑いようもなく善良なそれだ。

 町を消し飛ばすような行為は咎められると思っていたが……。

 

「儂らの考え方は、おぬしとよう似ておるよ。人死にが出るならやらぬ。だが、人死にが出ぬならやる。早い方がよかろう?」

 

「そうだねぇ。まぁ、いいことではないけど、別次元だし、そもそも人が住んでるわけじゃないからねぇ……」

 

 実際その通りだ。消し飛ばした町に人の死体はない。

 精神生命体はいると言うが、おそらく非実体の存在なのだろう。

 『ナイン』は強力な爆弾だが、非実体に効果がある種類のものではない。

 同様の非実体の存在による攻撃や、魔法とか、魔法による武具が必要だ。

 

 そこまで考えたところで、あなたは疑問に思い至る。

 なんで非実体の精神生命体しか住んでいないのに町があるんだ? と。

 

「精神生命体とは言え、物質的な縛りから解き放たれているわけではありませんからね」

 

「非実体とは言え、お腹も空くし眠くもなるわ。生活の場所は必要よ?」

 

 そう言うものなんだ……?

 考えてみると、あなたは非実体系のモンスターのことはよく知らない。

 魔法で倒せるとか、そのくらいの認識しかなかった。

 

 なるほど、そう言うことであれば町も必要か……。

 ……だとすると消し飛ばしたら非実体のモンスターたちは結果的に死ぬのでは?

 そう思ったが、まぁいいかとあなたは流した。

 連結地帯の方に逃げ込んで生活でもすればいいのだ。

 

 さて、最後にハウロだが……。

 

「あ、俺? 俺はべつに文句はねぇよ。ただ、まぁ……あー……核兵器ってのは、な……あー、まぁ、気にすんな。俺の私情だ。人的被害がないなら……いい、んだろう。たぶん……」

 

 そう? まぁ、そう言うことなら使わせてもらうが……。

 あなたは疑問に思いつつも、そろそろ爆発も落ち着いたから行こうと提案した。

 

 

 

 それから町へと向かい。

 次の連結地帯への入り口を見つけて入り。

 その連結地帯を抜け、次の領域へ……。

 

 ゲートを抜けたあなたたちを迎えたのは、晴れ渡るような空。

 あなたの鼻腔をくすぐる爽やかな海の香りと、焦げる寸前のキャラメルのように甘い香り。

 それはひどく爽やかで、とても心地よく、そして陽気だった。

 あなたたちを出迎えたのは、すばらしく爽やかな海辺だった。

 

「……なんか、ずいぶん雰囲気違うな。孤島群みてぇだ」

 

 ハウロの言う通り、先ほどの領域とは全然雰囲気が違う。

 先ほどのやや陰鬱な空、飢えた痩せ犬、そして肌寒く乾いた風。

 ここにあるのは晴れやかな空、暖かな空気、心地よい風。

 

「キャロラインさん、これは」

 

「上方領域に来たのだろう。上方領域は心地よい夢を見せることで精神エネルギーを搾り取る領域だ」

 

「しかし、心地よい夢よりも悪夢の方が効率的に搾れるので廃れたという……」

 

「そうだ。しかし、それらの接続は未だ残っている。この感じでは、最上方クラスの領域なのだろうな」

 

 なんてことだ。

 しかし、考えてみればこれは当然のこと。

 扉が複数ある部屋で、手当たり次第に扉を開けて目当ての部屋にいけるか?

 もちろんそんなわけもなく、経路を知らなければやたら時間がかかる。

 

 それと同じように、領域の接続はあなたたちにとって都合よく出来てはいない。

 お目当ての領域に繋がる道筋を引き当てられるとは限らないのだ。

 

「引き返して、べつのゲートを探すしかないわね」

 

「むぅ……これは思ったよりも手間取りそうじゃな……」

 

「だねぇ……一朝一夕じゃ済まなさそうだ」

 

 『ナイン』による時短でうまくいくかと思ったのだが。

 世の中そんなにうまい話はないということだ。

 あなたは溜息を吐いて引き返すことにした。

 

 

 連結地帯は1つの領域に複数接続されている。

 下方領域に行けるかどうかは場合による。

 そうなると、必然的に連結地帯を複数探す必要が出て来る。

 つまり、『ナイン』の連打だ。

 

「ああ、ああ……戦術核とは言え、こんなに……」

 

「豆まきのように核兵器をばら撒きやがる……」

 

「なんですかこれ、地獄?」

 

 ひとつの領域には複数の町がある。

 そして、町にはほぼ確実にゲートがある。

 あなたは次々に町を吹き飛ばしてゲートを探し出す。

 

 その先の連結地帯のゲートを探すのも一苦労。

 しかし、連結地帯の町を吹き飛ばすのはさすがにまずい。

 あなたたちは苦心して次のゲートを探し続けた……。

 

 

 町を片っ端から吹き飛ばし、いくつもの領域を超えていく。

 あなたは焦り始めた。『ポケット』の中の『ナイン』が残り少ない……。

 町を吹き飛ばす手段は他にもあるにはあるのだが……。

 魔法の類で吹き飛ばすと、精神生命体も吹き飛ばしてしまう。

 べつにいいかなと思わなくもないが、苦言を呈されそうだし……。

 いったいどうすればいいのだろう。あなたは困った。

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