あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 いくつかの領域を超えて、遂に『ナイン』の手持ちが切れた。

 あなたはこれからどうしたらいいんだと途方に暮れた。

 

「何発使ったか覚えてるやついる?」

 

「50発使いました」

 

「戦術核50発を携行する個人……」

 

「すごいのう。あれを50個持っておったのか」

 

「力持ちだねぇ」

 

 しかし、その50個の『ナイン』はもうないわけで。

 これからどうしたらいいのだろうか。

 町を吹き飛ばすための道具は他にそうはない。

 魔法で吹き飛ばすと、精神生命体も殺してしまいかねない。

 

「まぁ、地道に探すしかないだろ」

 

「その『ナイン』と言うたか? 50個もあったんじゃし、新しく手に入らんのかえ?」

 

 手に入る。エルグランドに帰れば、お手頃価格で購入可能だ。

 なんと1発たったの金貨12000枚だ。激安である。

 

「絶妙に高いけど、あの威力と範囲を考慮するとお値打ち価格ですね」

 

「たしかに核兵器って設備さえあれば製造コストは意外と安いものだけど……」

 

「嫌だなぁ、量産効果効いてそうな価格でよ……」

 

 しかし、エルグランドに戻る方法があなたにはないのだ。

 ジルに一度あちらの次元界に戻してもらわないと。

 

「では、買いに行きましょうか」

 

「ええ……」

 

 そんなに手軽に戻れるのだろうか?

 それに、戻ってしまったらまた最初のところからやり直しでは?

 

「ここにいる人たちを目印にすれば、ここに戻って来れますよ」

 

 なるほど、ではさっそく行くとしよう!

 そう言うわけで、あなたはジルと共に元の次元に一度戻る。

 そして、次にあなたはジルと共にエルグランドに転移で向かう。

 

 

 セリマン国王都ナイムカナイ。

 そこに出現したあなたたちは豪雪に埋もれていた。

 そう言えば冬だった。トイネが暖かすぎて忘れていた。

 

「そう言えばそうでしたね」

 

 あなたはわっせわっせと雪から抜け出る。

 そして、まずはとすぐ傍にある王都ナイムカナイに向かった。

 ずいぶんと久し振りの、懐かしき祖国セリマン国。

 

 王都には活気が満ち、雪に負けない熱気を持った人々が活動している。

 

「1曲聞いてください」

 

 道端では吟遊詩人が演奏をしている。

 あなたはへたくそな演奏にキレた。

 なんのつもりだ! と怒鳴りながら石を投げた。

 吟遊詩人の頭部が爆散して即死した。

 

「え」

 

 ジルが信じられない物を見た……という顔をしている。

 あなたはどうしたのかと首を傾げる。

 道行く人々も、往来で立ち止まったジルに視線を投げる。

 

「あ、いえ……いえ……」

 

 なんだかよく分からないが、気になったものがあるなら見ても構わないが。

 

「いえ……」

 

 なんだかいまいち要領を得ない。

 あなたは不思議に思いつつ道を往く。

 ジルとあなたの分の防寒着を買いたいのだ。

 

「おお、どうか恵まれぬ者に救いの手を……」

 

 あなたの前に物乞いが飛び出して来た。

 あなたはそれにサクッと剣を刺しこむ。

 心臓を貫かれた乞食はそのまま崩れ落ちた。

 

「えっ」

 

 ただの乞食だ。問題ない。

 

「なにが、どう、問題ないのでしょう」

 

 なにがどうと言われても。

 罪に問われないので、問題ないということだ。

 

「…………」

 

 ジルが目頭を揉む。

 

「エルグランドが凄いところとは知っていましたが……死人が3日で蘇る、常識と倫理の墓場であることも……ですが……感覚が追い付いてはくれないものですね……」

 

 ああ、なるほど。そこら辺に疑問があったらしい。

 あなたは1年も住めば慣れるよと雑に流した。

 

「慣れたくないなぁ……」

 

 なんて話しているうちに雑貨屋に到着。

 雑貨屋では、貴族らしき身なりのいい男が店主と話し込んでいる。

 あなたは後ろからその貴族の男をサクッと刺して、外に投げ捨てた。

 

「……コレは罪に問われないんですか?」

 

 やり過ぎると問われるけど、1人くらいならセーフ。

 あなたはそのように答え、店主にいい防寒着2枚くれと頼んだ。

 店主も先ほどの貴族に売ろうとしていた防寒着をそのまま売りつけて来た。

 

「だれもなにも疑問に思ってない……」

 

 そう言うところだ。すぐ慣れる。

 

 

 

 防寒着を購入した後、あなたはトゥーインの町へと転移した。

 あらゆる悪徳、無法が蔓延る町であり、この町にはまともな司法は機能していない。

 盗賊ギルドも存在するし、盗品も堂々と捌かれている。

 

「あ~ら、あなたいい女ね。一晩の夢を見させてあげてもいいのよ」

 

 このように娼婦もごろごろといる。

 セリマン国では私娼行為は違法だ。

 だからこそ娼婦ギルドなんてものがあるわけだし。

 だが、ここでは取り締まる者がいない。

 そのせいで私娼がごろごろといるわけだ。

 

 あなたは寄って来た男娼を地平線の彼方まで投げ捨てる。

 サクッと始末してもまたこの辺りに湧いて出て来る。

 なので地平線の彼方まで投げ飛ばすのだ。

 そうすれば地平線の彼方にあるどこかで湧くので。

 

「人の命が無意味に浪費されていく……」

 

 しかし、有意義に浪費されたらうれしいだろうか。

 あなたは別にうれしいとは思わないだろう。

 ならば無意味でも有意義でも大差あるまい。

 

「そう言う問題ですかね」

 

 選んで殺そうが、無差別に殺そうが。

 殺しは殺しだ。そこに上下もあるまい。

 どれも等しく日常の運行に違いはない。

 

「うーん。この死生観よ……」

 

 ジルが疲れたように言う。

 接してみると、意外と人間味もあるものだ。

 そんなことをしている間にあなたはお目当ての店に到着する。

 

「あら、あなた生きてたのね。ヒトゴロシくん」

 

 顔なじみの爆弾魔がそんなあだ名であなたを呼ぶ。

 エルグランドで人殺しなんて言われても「あ、はい……」くらいなものだが。

 それをわざわざあだ名にするのがカワイイ……らしい。

 

「ねえ、『ナイン』買う? 1個金貨12000枚よ。1個? 10個? 100個?」

 

 では100個買う。

 

「さあ、真っ赤な花を咲かせなさい」

 

 『四次元ポケット』を発動させ、そこから放り出される『ナイン』。

 あなたはそれをキャッチして『四次元ポケット』へと放り込む。

 

「まだ、なにか用事があるの?」

 

 念には念を入れて、もう100個買っておく。

 

「実にいいわね。たくさん咲かせなさい」

 

 もう100個購入し、これで用はない。

 あなたはその前に、行きつけの店に寄っていくかと『引き上げ』の魔法を発動させる。

 悪いがジルにはもう少しだけ付き合ってもらおう。

 

「はぁ。構いませんが。なにをお買いに?」

 

 エロ本だ。

 あなたの行きつけの店があるのだ。

 

「そうですか」

 

 ジルの目線がやや冷たい気がした。

 まぁ、これはこれで気持ちいい。

 

 

 あなたとジルはさる港町に出現した。

 外から隠された秘密の港である。

 ここもトゥーインの町と同じく、司法の力が届かない場所だ。

 

 そして、ここには極上の悦楽と退廃が蔓延っている。

 この大陸における最高最大の娼館もここに存在する。

 あなたの目当ての店もその娼館の中に存在する。

 

「おや、お客様。ずいぶんとお見限りだったではありませんか。いかがです、ご不在の間にたくさん新刊が出てございますよ」

 

 上得意であるあなたの顔は覚えられている。

 あなたは持っていない新刊を全部2冊ずつくれと内容も聞かずに頼んだ。

 あなた用の取り置きを用意してくれているくらい上得意なのだ。

 

「ええ、喜んで。特に『少女×少女』の本がおすすめですよ。お客様好みの汁表現たっぷりの力作です」

 

 最高。それはもう1冊買っておこう。

 あなたはウキウキでエロ本を買い漁った。

 最高の傑作たちをお迎えし、あなたは毎朝の日課が捗るとほくほくだ。

 

「たかがエロ本に複数の魔法がかかっている……それも保護用のものばかり……エロにかける情熱……」

 

 ジルがあなたの顔を見やる。

 あなたはどうしたのと尋ねかけた。

 

「あぁ、エロにかける情熱が凄まじい人の筆頭でしたね」

 

 その通りだが、突然どうした。

 

「いえ、人の原動力ですからね。だからこんなパワフルなのでしょうか。見習うべきなのですかね?」

 

 なんだかよく分からないが……。

 エロ本が読みたいなら遠慮なく言ってくれればいいのに。

 あなたは一番のお気に入りを貸してあげようと『ポケット』から愛読書を取り出した。

 

「いえ、べつにそう言う催促だったわけでは……うお、さすがにこれはエロ過ぎ……」

 

 ジルに驚かれてしまった。

 

「ふむ。性癖が透けて見えると言いますか。まぁ、特殊性癖の中でも比較的メジャーかなと。口唇欲求強そうですね。消化酵素の都合で牛乳と同じとはいかなかったはずですが。ふむ」

 

 ……冷静に分析されると結構恥ずかしいなこれ。

 あなたは身悶えした……。

 

 

 

 気を取り直して。

 買い物を終えたあなたはジルと共に次元界イリーズへと再度戻る。

 すると、大量の半透明の粘液が散らばる荒野に出現した。

 

 先ほど、あなたたちが出立した地点に見えるが……。

 この大量の粘液はいったい?

 

「お、戻って来たか。大変だったんだぞ」

 

「うええ、ばっちいのう……」

 

「やれやれね」

 

 どうやらハウロたちは無事のようだ。

 あなたはいったい何があったのだと尋ねた。

 

「なんかよく分かんねぇんだけどさ。銀色っぽい人型がいっぱい出て来てよ。なんか攻撃して来たからぶっ殺した」

 

 銀色……まぁ、足元のも銀色と言えばそうか?

 

「たぶん、この次元界の生命体ね……名前なんていうのかしら」

 

「これはイリーズの原住生命である、ヴォーラですね。別次元の生命体の精神エネルギーを啜る生命体です。べつにそれが悪いとかではなく、そう言う生態なだけなのですが……まぁ、悪夢を見せて搾るんですから、悪党ではあります」

 

 では殺しても構うまいと。

 

「そこまでは言いませんが。まぁ、自衛のために殺すのはやむなしかなと」

 

「でもよぉ、こいつらの住んでた町を吹き飛ばしたのは俺たちじゃねえ?」

 

「そうですね。連結地帯の手前に町なんか作るのが悪いんです。私たちの移動の邪魔です」

 

「おいおい、ジルちゃんもド外道になっちまったよ……」

 

 まぁ、正道でも外道でも歩道でもなんでもいい。

 『ナイン』をいっぱい調達して来たから次に進もうではないか。

 

「この次元滅ぶんじゃねえのか」

 

「滅びはしませんよ。上方領域の方は吹き飛ばしてませんし。私たちが吹き飛ばしているのは基本的に下方領域です」

 

「人に悪夢を見せるための領域だものね。人々の夢の平穏を守っているのよ。悪党の誹りを受けるいわれはないわよ?」

 

「コイツら自己弁護の方法見つけやがったな。いいのかよ、キャロラインちゃんよ、おまえの故郷だろ?」

 

「まぁ、構うまい。ヴォーラなぞいくら殺したとて湧いて出て来る」

 

「この次元の人間でもそんな認識なのか……」

 

「私たち現実の領域の者にしてみれば、ヴォーラは触れることなき隣人に過ぎん。交友も無い。いくら死んだところで惜しいとも思わん」

 

「薄情なんだかどうなんだか……いや、俺が口挟むことでもねぇか……」

 

 では、そろそろ進むとしよう。

 あなたたちの進む領域も悪夢寄りになって来た。

 緑はないし、気色の悪い生命体、狂暴な獣ばかり出て来る。

 空気はどろどろとして気味が悪いし、空は気色悪いばかり……。

 

 死の領域もそう遠くはないだろう。

 あなたは張り切って進むことにした。

 

 

 

 新しく買い求めた『ナイン』を連打し、次々と進む。

 夢の領域は陰鬱で、血生臭く、汚泥に塗れた空間へと。

 こんな光景が夢に出て来たならば、悪夢以外にはありえない。

 そう思わされるような空間が幾度も続く。

 こんな調子では気が滅入ってしまいそうだ。

 

 ただ、連結地帯の方は比較的マシだ。

 連結地帯は物質界と同じ法則が働く。

 そのため、夜は明けるし、血も水で流れる。

 

 やっぱり陰鬱で汚らしい空間なのは変わらないが。

 少なくとも、夜が明けるだけで随分と違う。

 野営しなくてはいけなくなったら連結地帯でやるとしよう。

 夢の領域の方は獣を始末してもすぐ湧いて出て来るし……。

 

 あなたがそんな気鬱な未来を予想しながら次の連結地帯に足を踏み入れたところ。

 

「ほう……ここは……」

 

 あなたたちの前に広がる街並みを前に、キャロラインがそう零す。

 どこか確信を持ったような声音に、あなたは知っているところかと尋ねた。

 

「左様。我が生誕の地、悪夢の町パサファロン……懐かしき我が故郷だ……何も変わっていないのだな」

 

 キャロラインが感慨深げにそう零す。

 あなたはここが懐かしい故郷なのかと周囲を見渡す。

 

 なんと言うか、 いよいよ混迷極まって来たな……そうとしか言えない。

 あなたたちの前に広がる広場では炎が紅く燃えている。

 パチパチと薪の弾ける音と、ジュウと音を立てて脂が弾ける音。

 唇がべたついて来る感触は脂気の強い肉が焼けているソレだ。

 

「……人が焼き殺されてるように見えるんですがそれは」

 

 震えた声でそうぼやくのはハウロ。

 なぜか敬語なあたり、気が動転していることが分かる。

 

 だが、ハウロが言うことは間違いではない。

 広場の中央で赤々と燃える炎の中には幾本もの十字架。

 そこにはかつて人間だった者の残骸が括られている。

 ご丁寧なことに十字架は金属製だし、手足を括っているのは丈夫そうな針金だ。

 あれならば燃え尽きるまでしっかりと固定されることだろう。

 

「よくあることだ」

 

「よくあることなの!? よくあっていいの!?」

 

「よくあることだ」

 

「よくあっちゃだめだろ!?」

 

「よくあることだ」

 

「ゴリ押すな!!」

 

「だが、よくあることだ」

 

「うおおおおおおい! 頭おかしいんじゃねえかこの町!」

 

 たしかにこれは頭おかしいなとあなたは頷いた。

 火刑が日常的に行われているなんて恐ろし過ぎる。

 こんなにも簡単に人を焼き殺すなんてむご過ぎるではないか。

 

「え? なに? なんて言いました? 簡単に人を殺すなんてむごすぎる? え? そう言いましたか?」

 

 ジルが意味不明なことを聞いたと言わんばかりの態度だ。

 あなたはその通りだと頷いた。人を“焼き”殺すのはむごいことだ。

 火刑にするなら、火をつける前に死なせてやる方が慈悲だろうに……。

 

「ああ、そう言うむごいですか。まぁ、たしかにそう言う慈悲の施しもありますが。いやはや、なんと言うか、エルグランドは遠いですね」

 

 ジルに遠い目をされてしまった。

 なにが変なことでも言ったろうか……?

 あなたは首を傾げた。

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