あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたは悲鳴を上げたり、泣いたりしつつトレパネーションを受けた。

 なにが悲しくて意味もなく頭蓋に穴を開けなくてはいけないのか。

 これで何も意味がなかったらキャロラインに盛大に詫びてもらおう。

 

「貴公……施術の本領はこれからだ……さぁ、光を与えよう……貴公の、第三の眼を、蒙を啓くのだ……」

 

 キャロラインが最後にあなたの額へと何かを押し当てた。

 それがキャロラインの手とあなたの間でぐちゅりと潰れた。

 あなたはなにをしたと震える声で尋ねる。

 

「左様……第三の眼を……貴公に与えようぞ……さぁ、見えるか……」

 

 促され、あなたはなにを? と尋ね返す。

 それにキャロラインは答えず、顎をしゃくって示す。

 そちらを見やると、そこには壮麗で美しい門があった……。

 

 巨大なアラバスターを削り出して作ったかのような、白く滑らかな美しい外形。

 彫り込まれた緻密で細緻な幾何学模様。

 今まで見たことのない様式で、それは独特の美だ。

 そして、その幾何学模様に、黄金が象嵌(ぞうがん)されている。

 

 圧倒されるほどの美が、そこにあった。

 あなたは額からドクドク流れる血も気にならず見入る。

 門の先は見えず、まるで凪いだ湖面のごとくあなたを映している。

 誘われるようにあなたはそこへと手を差し込む。

 手が吸い込まれて、あなたは奥へ奥へ。

 

「おい!」

 

 そこで肩を掴まれて引き寄せられる。

 振り返ると、必死な顔をするハウロの顔。

 同時に、あなたは強烈な眩暈を感じて思わずしゃがみ込む。

 なんだ、いまの。何か異様なものが見えた。

 

「お、おい? 大丈夫か?」

 

 膝をついてあなたと目線を合わせるハウロ。

 その顔貌は常と変わらず、銀の髪が揺れている。

 同時に、その顔の周囲に、いくつもの、顔。

 

 なんだ……これは……?

 いくつもの顔がブツブツと言葉を囁いている。

 まるで蟲の羽音のように不愉快な音に聞こえる。

 何を言っているかはまるで聞き取れない。

 

 顔からいくつもの顔が現れて、消えていく。

 その間にもまた顔が現れ、聞き取れない言葉を零している。

 

「大丈夫? 貧血かしら?」

 

 駆け寄って来たコリントに、あなたは言葉を返せなかった。

 これは……どっちが、正しい頭なのだろうか?

 あなたの眼には、コリントの頭が2つ生えているように見えた。

 

 肩幅はいつもと変わらないように見える。

 だが、頭が2つ生えているように見える。

 1つは普通に言葉を零している。

 もう1つの頭部は……何か言っているが、聞き取れない。

 

 これはなんなのだろうか。

 あなたには理解できない。

 

「ああ……貴公……よき、素養があるな……そう、これこそが、世界の真実……我ら闘士の見るもの……だが、まだ貴公の瞳は開かれておらぬ……更なる光を得よ……」

 

 そう言葉を零すキャロラインの顔の造形は異様だった。

 その瞳からどぼどぼと血が噴き出しているように見えた。

 大きく大きく開かれた口の中に、キャロラインの頭部が詰め込まれている。

 口内の頭部がひそひそと眼があるべき位置にある口で囁いている……。

 

 これはまずいぞ?

 

 あなたはようやく自分が狂気に冒されていることに気付いた。

 狂気の浸食は酷く気付きにくい。危ないところだった。

 あなたはユニコーンの角を取りだして、それを砕いた。

 

 ……何も変わらないのだが?

 あなたはいままでにない事態に戸惑った。

 

「落ち着け……貴公、まずは、目を閉じることだ……落ち着け……はじめに肉体の眼を閉じるのだ……次に、呼吸を意識せよ……」

 

 キャロラインがあなたの両目を手のひらで塞いでくる。

 そして、確信のある調子であなたへと指示出し。

 あなたは言われるがまま目を閉じ、静かに深呼吸をする。

 

 ……その時、あなたは自身の呼吸の乱れを感知した。

 かつて、セリナに教えを施された『内功』の技術。

 それによって感じ取れる肉体の調子がいつもと違う……。

 

 脈々と巡っているエネルギーが頭部に集中している。

 後頭部近辺、そこに明るく放たれる光が見える。これはいったい……?

 あなたは呼吸を整え、そのエネルギーの乱れを整える。

 頭部への集中を抑え、全身へと巡らせ、回す……。

 

「ほう……貴公、瞳を容易く閉じるとは……」

 

 目を開けると、そこにはいつも通りの景色があった。

 先ほどまであった、アラバスターと黄金で造られた門も無い。

 先ほどのはいったいなんだったのだろう……?

 

「見たか、覚えたか、理解したか。貴公の見聞きしたものこそが世界の真実……」

 

 あれが? いや、まさかそんなわけが……。

 そうしどろもどろになって答えると、キャロラインがにやりと笑った。

 

「君、真実とはひとつだと思うかね?」

 

 むしろ真実が2つも3つもあったら困るだろうに。

 

「そうではない。そうではないのだよ。真実とは人の数だけある。ひとつあるのは事実……事実をいかに解釈するかで真実は生まれるのだ」

 

 なるほど。うん……なるほど?

 わかるような、わからないような。

 なんだかわからない話にあなたは首を傾げる。

 言わんとするところは分かるが。

 それがどういう意味なのか分かりかねる。

 

「貴公の第三の眼は、我らを汝が見たように解釈した。それは事実より見出したる一片の真実……だが心せよ、真実なぞ所詮はうつろい往くものに過ぎぬ……そして何より、その真実がまことのものであると、誰が保障するのだね?」

 

 つまり、なんだろう。

 あなたが見た光景、そのビジョンはたしかな真実ではある。

 だが、たとえば……そう、たとえばだ。

 視力の悪い人間が眼鏡をかけた時に見える光景と。

 眼鏡をかけず、裸眼のままに見た光景。

 その2つは同じものだが、見え方はまるで違うだろう。

 

 あなたが見たもの、真実とはそのようなものだろうか?

 トレパネーションで新たな物の視方ができるようになった。

 あの施術にはそう言う意味があったのだろうか。

 

「左様……異次元より来る客人がもたらした東洋の医術、チャクラの開放。新たなる視座の獲得……さぁ、貴公らもトレパネーションを受けるのだ……」

 

 驚きの施術だ……などと感嘆していると、キャロラインがそのように水を向けている。

 手には血濡れたドリル。あなたの額をドリドリした痕跡だ。

 あなたは額を魔法で治しつつ他の面々の反応を見守った。

 

「新たな視点の獲得ですか。どう言ったものか不明ですが、経験点の消費はなさそうですし、お願いします」

 

「そうね。私の脳にも効果があるかは分からないけどやってもらおうかしら」

 

 ジルとコリントは積極的なようだ。

 2人とも強くなることに対するモチベーションが強いタイプだ。

 特に損なく新たな何かが手に入るなら手に入れておく。そう言う考えだ。

 

「儂は遠慮する……こわいし……」

 

「うん……こわいし……効果あるかわかんないし……」

 

 及び腰なのはエルマとセリアン。

 高齢なこともあってか保守的なのだろうか。

 

「こんなところで穿頭手術なんか受けられるかボケェーッ! 路地だぞ! この汚ぇ路地で! 感染症になったら死ぬだろうがよ! 死んでもお断りだわ!」

 

 断固拒否のハウロ。

 まぁ、言わんとするところは分かる。

 正直そこまで心配することなのかは知らないが……。

 

「まぁ、同じ次元内であれば転移する手段はいくつかあるわけですから。私かコリントさんが次の次元に行けさえすれば……」

 

「そうね。ハウロやエルマが受けなくとも、なんとかなるわね」

 

 なるほど、たしかにその通りだ。

 ジルがエルグランドから他のメンバーの居場所を目印に直接飛んだりもした。

 それと同じように、ジルかコリントならば手はあるのだろう。

 

 ……すると、あなたが受けた意味がないような気がするが。

 ま、まぁ、将来的にはなにかの役に立つかもしれないし……。

 あなたはそのように自分を慰めた。ものすごい痛かったのに無意味だったとは思いたくなかった……。

 

 

 

 ジルとコリントの額に穴が開いた。

 そして、その際にキャロラインがこすりつけていたもの。

 それは小指の先ほどの、白灰色の肉片だ。

 松の実にも似ていたが、いったいなんだろうか……?

 

 そう思っている間にも施術が終わる。

 終わり次第、2人ともさっさと魔法で治療していた。

 すると、貫通していた穴も骨も綺麗に元通りとなる。

 

「なるほど……こう見えるのですか……これ、どういう理屈なのでしょう」

 

「不思議な光景ね……LSDとかの幻覚剤をキメた時ともまた違うわ。人間だけが変わって見える……相貌失認に近い現象かしら……」

 

 ジルとコリントが目を蠢かせて周囲を眺めている。

 そうしていると、キャロラインの普段の仕草にそっくりだ。

 なるほど、いまいち目線が合わないというか、目つきが胡乱だったのはそう言う……。

 たしかにあんな光景が見えていたら視線が合わないのも当然か……。

 

「そして、これがその門と」

 

「本当にあるわね……そして触れる。幻覚、ではないのよね……見えていない限りは触れることもできない……なにかしらの魔法的構造体?」

 

「しかし、そうだとすれば『真実の眼/トゥルー・シーイング』で見れるでしょう。これはまた別の存在でしょう」

 

「そうね。考え得る線としては、やはり神格の関与……というより、神格が関与していないと考えないとありえないもの」

 

「私たちにできることは相手にもできる。翻って、私たちにできないことは相手にもできない。この基本原則ですね」

 

「そうよ。そして、その前提条件が覆るのは、前提条件の違う存在。私たちが用いれないルールを使える神格……」

 

「領域内においては物理法則の変更ですら効きますからね……しかし、これはいったいどういった権能で作ったのか……」

 

「擬似的な呪文作用みたいなものもあるから、その類とは思えるけれど……そうだとして、これで見えるのはなぜ?」

 

「トレパネーションによるチャクラの開放とのことですから、種類としては『キ/KI』なのでしょうが……」

 

「それならそれで、モンクである私には元から見えてるはずよね……」

 

 2人とも門を触りながら、なぜ見えるのか談義をしているが……。

 ……しているとは、分かる。分かってはいるのだが……。

 

 何もない空間に触れているような仕草をする、目線が蠢く虚ろな顔付きの2人。

 もう洒落にならないほど怪しいし、どう考えても頭の病気だった。

 特にコリントは目隠しもしているので怪しさが倍増している。

 

「……のう、本当に見えおるのか?」

 

「うん……その、見えてるんだよね……?」

 

 エルマとコリントがそのように言う。

 あなたは見えているはずだとしか答えられない。

 あなたも再度第三の眼とやらを開けば見えるだろうが……。

 そうしたとして、それが幻覚でないと断じる根拠はないわけで……。

 あなたたちはしばらくジルとコリントの談義を見守った……。

 

 

 

 しばらくジルとコリントが談義をして、一定の結論が出た。

 

「おそらく、門の存在はたしかに存在していますが……神格の権能で隠されています」

 

「権能の使い方としては割と安易と言うか、低め……魔法の再現に近いものね」

 

「そしてですが、おそらくこの次元の神格は、この次元にある要素しか勘案せずに隠蔽したのです」

 

「異次元から来た人間のもたらした技術、東洋医学とのことだから……おそらく、気功の概念がなかったのね。だから気功由来の探知能力で探知できてしまうのだわ」

 

「正式な修行を受けずに気功を、それも視覚に重点的に適用するわけですから。この妙な光景はその副作用みたいなものかと思われます」

 

 なるほど?

 たしかにそう言われると、納得できるものもある。

 あなたは比較的初歩の部分だが、セリナに気功の手ほどきを受けている。

 そのおかげで、キャロラインが言うところの眼を閉じることが容易にできた。

 このトレパネーションの結果が気功由来なのはたしかだろう。

 

「なるほどな。理屈はわかった。で、それがなんかの役に立つのか?」

 

 ハウロのド直球の指摘。

 

「これを神格側がやってくるってことは、おそらく神格自体もできます。目に見えず触れない相手と戦うのは無理ですよ」

 

生きている(データがある)ならそいつは倒せるわ。この感覚は相手を捉えると言うこと……戦いの領域に立てるわ」

 

 2人ともこの次元の神格と戦う気満々らしい。

 血気が盛んですばらしいことだ。

 

「だから」

 

「だから?」

 

「あなたもトレパネーションの施術を受け入れたまえよ……」

 

「は?」

 

「大丈夫よ、大丈夫。先っちょだけ、先っちょだけだから」

 

「うわっ、なんで取り押さえ……やめ、やめろォ! 俺の体に触っていい男はこの世で1人だけだ!」

 

「その男とやらは傍にいないじゃない」

 

「それはそうだが、そう言うことじゃねえんだ!」

 

「うんうん。それは彼氏が悪いですね。じゃあ、頭蓋穿孔()れますね……」

 

「ぎゃーっ! やめろー! その構文で頭に挿入()れるなぁぁぁぁ!」

 

 その後、ハウロもドリドリされた。

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