あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 ハウロの頭に穴が開いた。

 先ほどと同様にキャロラインの手で変な白灰色の物体を押し付けられる。

 その後、あなたの魔法で治療されて穴が塞がる。

 

「お、おお……あ、あああああ……おお……おおおぉぉぉ~……エピ……フェ……うひ、ひっ、ひひひひっ……!」

 

「接触不良ですかね」

 

「接点復活療法が必要ね」

 

 やや様子がおかしかったが、ジルとコリントがほどほどに殴って回復させた。

 ただ殴るだけで回復するのもすごい話だが、したんだからしょうがない。

 

「うーん。やはり、ハウロさんもトレパネーションしてもキャラシに変化は無しですね」

 

「ふぅん……テンプレートの付加でも、特技の獲得でも無し……謎ね」

 

「私たちの既知のシステムではないのでしょうね」

 

「ちなみに、彼女のレベルって幾つなの?」

 

「モンスターハンター34です」

 

「現世でよくそこまで鍛え上がったわね……」

 

 そんな話をする間、あなたはハウロを介抱してやった。

 って言うか施術中の時点で介抱してやっていた。

 

「うへへへ……美少女のおっぱいってのはよ、最高だな……ぐへへ……この柔らかさは、今はまだガンには効かねぇが、そのうち効くようになるぜぇ……」

 

 ハウロはあなたの胸を揉んでいた。

 麻酔無しで頭をドリドリされていたのだ。そりゃ痛い。

 あなたはそこであなたの胸を揉ませてやった。

 女の子のおっぱいは鎮痛作用があるのだ。

 

「無茶苦茶言ってますね」

 

「他人の体温を感じるのにはストレス軽減効果があるから、言うほど荒唐無稽でもないわよ」

 

「そうなんですか……」

 

 まぁ、さすがにハウロと言えど痛みに我慢するのはつらかったようで。

 ひどく精彩を欠いた手付きではいつものような手技は望むべくもなく。

 揉ませているあなたも相当キツかった。強く揉まれたらそりゃ痛い。

 ハウロはもっと痛いのだから我慢のしどころだろうと我慢したが。

 

「さあ、次は貴公らだ……なに、すぐによくなる……なにかあっても、すべて悪い夢のようなものだ……」

 

「あ、あたしは本当に効果ないから! うん! 知らないのかい! あたしは脳みそ空っぽなんだよ!! 穴開けても空洞しかないよ!」

 

「わわわ、儂も効果ないからのう! だからそのドリルを引っ込めてもらえんか!」

 

「さぁ、痛かったら手を挙げたまえ……」

 

「さっきハウロ一生懸命に両手挙げてたじゃんよぉー! なんの意味あるのさそれぇ!」

 

「い、嫌じゃ! ドリルで頭に穴を開けられとうない!」

 

 エルマとセリアンにも襲い掛かるキャロライン。

 単なる手術だが、まぁ、襲っていると言って差し支えあるまい。

 あなたはがんばれー! と応援した。

 

「どっち応援しとるんじゃ!」

 

「うおおおお! 負けるかぁぁぁ!」

 

「その雑多な抵抗、ことごとく捻じ伏せてくれよう……」

 

 キャロラインが遂に暴力で制圧を始めた。

 しかし、エルマもセリアンも伊達に超英雄級冒険者ではない。

 残念ながら、キャロラインはこの即席チームで最弱だ。

 どう足掻こうとも2人を制圧することは不可能だろう。

 

「大丈夫よ。挿入()れるのは先っちょだけ、先っちょだけだもの」

 

「分かってます分かってます。それはキャロラインさんが悪いですね。じゃ、挿入れますね」

 

「ドリルが怖いって? 俺ならエルマとセリアンにそんな思いさせないのになー!」

 

 既に施術を受けた3人の援軍がなければ、だが。

 

 エルマとセリアンは基礎能力だけで言えばチーム最強だ。

 だが、2人は戦闘能力に振り切るような研鑽を積んでいない。

 先鋭化していない強さと言うか、丸い強さと言うか。

 応用力、汎用性は高いが、爆発力はまるきりない。そんな感じだ。

 

 そのため、尖った強さを持つ者たちには負ける可能性が高い。

 ジルも、コリントも、ハウロも、円熟した応用性の持ち主だが。

 強みを徹底的に押し付けるような、ある種の尖った強さだ。

 

 十分エルマとセリアンに通じる。

 なるほど、これは面白い結果になりそうだ。

 あなたは全員がんばれ全員勝てと応援した。

 

「助けてー! 助けてー!」

 

「よ、よさぬか! よさぬかー!」

 

「大丈夫大丈夫、どこもおかしくない。綺麗だよ。このドリル」

 

「痛いのは最初だけだから。すぐよくなるわ」

 

「ちゃんとゴムつけますから。ほら、ゴム手袋」

 

「さあ、パサファロンの光を受け入れたまえよ……」

 

 その後、エルマとセリアンも頭をドリドリされた。

 

 

 

 全員が無事に頭をドリドリされた。

 いや、頭は無事ではないが、ドリドリは出来た。

 まさかセリアンの言っていたことが事実だとは思わなかったが……。

 まぁ、効果はちゃんとあったので問題ないだろう。

 

「これさぁ……頭の穴塞いでんのに効果出るのなんなの……?」

 

「わからん……そもそも原理事態わからんし……儂らって人間とは体の構造かなり違うはずなのに効果出るのも変じゃし……」

 

 2人とも不思議がっているが、全員ドリドリされたので次に進める。

 さぁ、次に進もうではないか。頭をドリドリするのに時間を食い過ぎた。

 

「よっしゃ、行くか」

 

「この先になにが待ってるのか、楽しみね」

 

「行きましょう」

 

 遠くのものを見る時にピントを合わせるように。

 あなたたちは門が見えるようにピントを合わせた。

 そして、まるで湖面のごとく輝く入口へと足を踏み入れる……。

 

 

 

 あなたたちを待ち受けていたのは、広々とした空間だった。

 レンガ造りの壁に、錬鉄製のヴォールト天井。

 地面に大きく長い溝が開いているが、これは何だろうか?

 

「これは……駅かしら?」

 

 コリントが周囲を見渡して、そのように溢す。

 駅と言うには馬車止めらしきスペースがないが……。

 

「ああ、ごめんなさい。この場合は汽車の駅よ」

 

 なるほど、そっち。あなたは頷く。

 たしかに汽車の停留所と言うところであれば納得できる構造だ。

 よく見れば地面の溝の中には犬釘で固定されたレールがある。

 これは汽車を走らせるための線路だろう。

 

「この規模の駅とはなかなかのものですね。しかし、汽車が来ていませんね」

 

「そもそも、門番がいるんじゃなかったのか?」

 

「汽車はおもしろいからあたしは好きだよ! ガタンゴトンって言ってさ! あんま速くないけど、ぼーぼー! って!」

 

「儂もあれ面白いから好きじゃ。学園でもらった給料のほとんどが汽車代に消えたくらいじゃ」

 

「あと、駅で食べれるご飯も楽しいよね! 長距離移動するからアレコレ食べれてさ!」

 

 エルマとセリアンは汽車に乗ったことがあるらしい。

 マフルージャ王国やトイネにはまだ存在しなかったが。

 ランネイとトイネとマフルージャ王国、その3国を機関車で繋ぐ計画はあった。

 そこからすると、少なくともランネイには既に存在するのだろう。

 

 ちなみにあなたはエルグランドで汽車に乗ったことがある。

 線路を破壊するバカが結構いるのであんまり長距離路線はなかったが……。

 

「さぁ、貴公ら……新たなる領域への旅立ちだ……心せよ……」

 

 キャロラインがそのように言いながら、懐から封筒を取り出す。

 美しい黒字に金字の装飾が為されたものだ。

 そこから取り出された、チケットと思しきもの。

 それを高く掲げると、遠くから汽笛の音が聞こえて来た。

 

 ボー、ボーと、重く、間延びした汽笛の音だ。

 それははじめ、遠く。やがて、近くなっていく。

 近付くにつれ、蒸気機関車の煤煙が噴き上がる姿が見えて来る。

 

 黒光りする車体、牽引する炭水車、それに連なる客車。

 客車の数はほんの一両のみだった。

 

 その汽車はあなたたちの前、4と数字の銘打たれた看板の前で停車する。

 車掌の姿は見えず、乗務員もないが、それはたしかに動いていた。

 客車の扉が独りでに開かれ、あなたたちを迎え入れるかのようだ。

 

「さぁ、乗りたまえ……」

 

 キャロラインに促されるまま乗り込むが……。

 なんだってまたこんな凝ったことになっているのだろう。

 

 今までのゲートはごく普通に町中に存在していた。

 それは裏路地にあったり、町の真ん中にあったりといろいろだったが。

 いずれにせよ、人々が「そこにある」と認知してはいた。

 

 このパサファロンだけ、明確に隠されている。

 その上で、この汽車を用いると言う不思議な仕組み。

 いったいどれほどの他の領域に離脱して欲しくないのか……。

 

 いや、このパサファロンに入ってくる連結地帯へのゲートは隠されていなかった。

 それを思うと、上方領域に離脱することにかけてはこだわりがない……?

 

「お、出発したねぇ! しゅっぱーつ! しんこーう!」

 

「わくわくするのー。むほほ、動輪がちょいとずつ動くのがたまらんのー」

 

 エルマとセリアンが騒ぐように、汽車が動き出した。

 まぁ、なんだかよく分からないが、今は汽車の運行に身を任せるとしよう。

 

 

 

 汽車が動き出し、灰色の煤煙を噴き出して走っていく。

 客車はさほど大きくはないが、内装は極めて上質。

 コンパートメントも広々としているし、座席も上質なクッションで座り心地は快適だ。

 なにより煙草を吸う客がいないのが実によい。

 同じコンパートメントに煙草を吸う客がいると最悪だ。

 

 あなたは毎度その手の客を窓の外に投げ捨てていたが。

 そんな手間、ない方がいいのは当然だ。

 

「ところで、この汽車ってゲートに向かってるんですよね」

 

「左様……」

 

「どれくらいのところにあるんですか?」

 

「さて……この汽車に物質的距離は意味がない……なに、すぐに分かる……」

 

「はぁ?」

 

 物質的距離に意味がない?

 あなたは窓の外を見やる。

 

 ところどころに背の低い木が生えた、緑の草原が広がる風景。

 天気は悪いが、平坦でのどかな原野は平和だ。

 後方を見れば、高い尖塔がいくつも突き出た町が離れていく。

 こうしてみると、パサファロンの町はかなり規模の大きい町だ。

 

 しかし、見たところちゃんと遠方に向かって移動しているようだが……。

 不思議に思っていると、列車に衝撃が走った。

 

「なんじゃ? 脱線かえ?」

 

「いや、なんかギシギシ言って……上になんかいるね!」

 

 セリアンが窓を開け、そこから飛び出していく。

 あなたも続いて飛び出し、客車の天上へと飛び乗る。

 そして、そこに居たのは巨大なノミのような異形だった。

 

 客車の前、炭水車に取りついた巨大な化け物。

 それは頭部をこちらへと向けており、客車を鷲掴みにしていた。

 人間のような頭部から伸びた長い舌が鞭のように揺れている……。

 

「しゃっ!」

 

 セリアンの気合の声と共に繰り出される拳。

 客車を壊さないよう、上体の捻りのみでの拳撃だ。

 しかし、セリアンの筋力ならばそれで必要十分な威力がある。

 

 ……そのはずだった。

 

 セリアンの拳を受けたノミのような化け物は軽くのけぞったのみ。

 逆に、その口から伸びた舌がセリアンの足を鋭く打ち据えた。

 

「いだっ! な、なんだいコイツ!? 打撃が効かない!?」

 

「『魔力の弾丸/マナ・ボルト』」

 

 あなたたちに続いて飛び出して来たジルが放つ魔法の弾丸。

 アルトスレアにおけるもっとも基本的な秘術、『魔力の弾丸/マナ・ボルト』だ。

 別大陸の『魔法の矢』と性質は非常によく似通っており、それが複数発炸裂する。

 だが、そのノミのような化け物はやはり堪えた様子を見せない。

 

 あなたは複数発の魔法を強引に並列起動する。

 各種属性のボルト系魔法、『ファイア・ボルト』や『アイス・ボルト』『ライトニング・ボルト』の発動だ。

 マイナス100億度の超冷凍光線、7000億度の超焼尽光線、300億ボルトの超放電光線。

 それらすべてが同時に炸裂するも、敵は無傷そのものだった。

 

 やはり、属性に対する驚異的な耐性があるとしか思えない。

 その上で、物理攻撃に対する無効化同然の驚異的な耐性……。

 通用する耐性を調べるしかないだろう。

 

「『不協和音の炸裂/ディスコード・バースト』」

 

「『激毒の一矢/ヒュドラ・アロー』」

 

 コリントとエルマも飛び出して来て、状況を察知して新たな魔法を発動する。

 あなたとジルとコリント、エルマ。

 4人で手分けして相手の耐性の穴を模索する。

 そして、数度の交錯の末に、あなたは理解した。

 このモンスターを殺す方法がない、と。

 

「ちくしょう、こんなんアリですか」

 

「不滅のモンスターを出すのは紳士協定違反よね」

 

「しょうがないねぇもう! こうなったら、ちょっと壊れるのは勘弁しておくれよ!」

 

 セリアンがそう叫び、ノミの化け物に取りつく。

 打撃も斬撃も通じず、あらゆる打撃は通じなかったが……。

 しかし、持ち上げることに対する耐性までは存在しないようだ。

 

 セリアンがノミの化け物を無理やり持ち上げる。

 ベキベキと音を立てて炭水車の外壁が壊れ、石炭がガラガラと零れ落ちる。

 そして、ノミの化け物を原野へと向けて投げ捨てた。

 

「よし! 最初からこうすりゃよかったね!」

 

「うーむ。しかし、前の炭水車がちょいと壊れてしもうたからな……あまりすべきではない手じゃろうし」

 

「しかし、好きにさせておけばそのまま壊されてましたし……」

 

「やむを得ないことなのでしょうね……」

 

 まぁ、これで一件落着ならいいのだが……。

 やはり、そううまくはいかないようで……。

 

 あなたは汽車に並走している化け物を見やる。

 先ほどセリアンが投げ捨てた化け物ではない。

 それは軽く見る限り、30体以上も存在していた。

 

 長い手足を機敏に動かし、汽車に並走している。

 汽車と言うのはそんなに早いものではないのでしょうがない。

 まぁ、馬を全力疾走させるのとそう劣らぬ速度は出るが。

 馬より早く走れる動物には追い付かれるということだ。

 

「これは、まずいねぇ……」

 

「そう何体も取りつかれては汽車が壊れるのう……」

 

「スタンド・バイ・ミーでもする?」

 

「歩いて辿り着けるならそれでもいいのですが……」

 

 魔法で吹き飛ばそうにも無効化される。

 そうなると物理的に弾き飛ばすしかないが。

 それほどの威力の遠距離攻撃をするのは難しい。

 手がないわけではないが、それをやると反動で足場にしている客車が壊れる……。

 あなたたちがどうにもできずに手を拱いていると、新たな化け物が炭水車に取りつく。

 

「ちくしょう! また剥がすしかないのかい!」

 

 セリアンが引っぺがそうと立ち上がる中。

 ゆったりとした仕草でキャロラインが客車から登って来た。

 手には随分と古風な形式の銃を持っている。

 

 フリントロック式の銃に見えるが。

 フリントが挟まれているべき場所には布切れが挟まれている。

 それは赤黒く濡れており、今にも滴り落ちそうなほど。

 

 それをノミの化け物へと向け、発砲。

 おぞましい血臭を漂わせる硝煙が弾け、銃弾が飛ぶ。

 あなたの超人的な動体視力は銀製の弾丸であることを見て取った。

 

 銃弾がノミのバケモノの脳天に直撃。

 そして、バケモノの頭部が弾け飛んだ。

 

「は? なんだいそりゃ!」

 

「血吸いの化け物どもは内部に抱え込んだ血による加護を得るが……同時に、外より加えられる血の衝撃に弱い……我らの熱血だけが有効打たりうるのだ……」

 

「この領域限定の特殊な耐性と言うわけかえ!」

 

「なんですってそんなんありですか!」

 

「キャロちゃんに頼るしかないってこと……?」

 

 さすがは異次元と言うべきか。

 モンスターたちの耐性も異次元だ。

 だが、困った。熱血の狩人、その血をあなたたちは持たない。

 

 キャロラインだけが頼みの綱……。

 周囲を走る、大量の血吸い。

 それらを退けるのにキャロライン1人……。

 

 あなたたちは今までにない苦境に晒されていた。

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