あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 キャロラインから血のエンチャントを受ける。

 そして、前線に出て攻防を重ねる。

 攻撃力の不足はもどかしいが、さしたる問題ではない。

 こちらの防御力、生命力は圧倒的だ。

 ……そう思っていたのだが。

 

「くそっ、喰らうほど、力が抜ける……! なんだってんだ……!」

 

「血が凍るみたいだ……! さ、寒い……!」

 

 幾度か打撃をもらい、治療も受けているはずのハウロが溢し。

 門番の打撃をもろに食らったセリアンが搾りだすように言う。

 白い肌からは血の気が失せ、明白に息が荒くなっている。

 いつもは桃色の唇も紫色になり、寒気ではなく正真正銘の寒さを感じているのだろう。

 

 門番の攻撃は、見る限りではそれほど強力ではない。

 だからハウロもセリアンもある程度の被弾は覚悟して攻めていた。

 しかし、あの程度のダメージでここまで消耗するだろうか……?

 

「キャロラインさん、あれはどういう理屈ですか。説明してください」

 

「我ら熱血の闘士、その真質は熱血にある……されば、有効打足りうるものがなんであるか、論ずるまでもなかろう?」

 

「吸血攻撃というわけですか」

 

 ジルが前に出て、門番の打撃をもろに喰らった。

 勢いよく退いて、あなたたちの下へと戻ってくる。

 

「なるほど、これは……」

 

「血だけを奪われたのね?」

 

「はい。言うなれば、ヒットポイントではなくライフポイントとでも言うべきか……」

 

「致命傷を避ける総合的な技術、体力を表現するヒットポイントと。生命力を表現するライフポイントと言うこと?」

 

「どれほどのすばらしい技術、体力を持っていても、失血死は血液量との相関です。そう言う意味ではこれほど強力な攻撃はない」

 

 ジルとコリントの会話にあなたは頷く。

 エルグランドの超級冒険者は凄まじい肉体強度を有する。

 ギロチンを弾き返し、『ナイン』の爆心地で耐え、宇宙からの大質量攻撃を受け止める。

 

 しかし、傷口が出来てしまえば、出血する。

 血液量はどれだけ鍛えても早々増えはしない。

 あなたも体格相応の血液しか持たないため、大量に失血すれば死ぬ。

 

 そう言う、失血に対する弱さと言う意味では。

 あなたはそこらの町娘たちとそう変わらない。

 比較的体格がよいのでその分だけやや頑丈ではあるが、ほぼ誤差だ。

 普通は治癒力も高ければ容易に止血が可能なので対応に問題ないが……。

 

「普通、身長体重をそう簡単には変えられません。失血は言ってみれば、割合ダメージなのですよね」

 

「それも防御無視の上に、回復阻害のデバフ付き、と言ったところかしら」

 

「失血の治療は高位呪文が必須ですからね……」

 

 相手は外傷無しに血液だけを奪う。

 防御力も、治癒能力も、まるで意味を成さない。

 血液を作るにはしっかりと休む必要があるし。

 ジルが言う通り、回復魔法の場合は高位のそれが必要だ。

 

 あなたたちはその高位魔法の使い手には困らないが……。

 戦闘中、無造作に使えるほど油断のできる相手でもない。

 つまり、あなたたちは今、自らを害し得る敵と戦っている。

 

 たとえば1発でコップ1杯分の血液を奪うとしたら。

 あなたであっても10回も喰らったら致命傷だ。

 死には至らずとも、5回も喰らった時点で相当なダメージだ。

 呼吸の乱れ、眩暈、寒気、吐き気、喉の渇き。失血はそんな症状をもたらす。

 動き出した瞬間に貧血で意識を喪失なんて可能性すらある。

 

 この守護者は、あなたたちを殺しうる。

 あなたの脳と心は、ようやくその事実を認識した。

 

 そして、楽しくなってきた。

 ここには敵がいて、自分がいる。

 戦わなければ負けるし、負ければ死ぬ。

 

 これは戦いなのだ。

 適当にやって潜り抜けられるものではない。

 いざとなれば瞬殺できるようなものでもない。

 あなたは笑った。戦いを全うするとしよう。

 

 

 

 あなたが前に出る。

 それに応じるように、キャロラインも前へ。

 手振りで下がれと示すと、ハウロとセリアンが勢いよく退いた。

 

 ジルとコリントは高位魔法の行使ができる。

 失血を回復してもらい、いずれ戦線に復帰してもらおう。

 

「さぁ、守護者よ……貴様の溜め込んだ血、瀉血(しゃっけつ)と参ろうか……」

 

 言いながら、自身の胸に短剣を突き立てるキャロライン。

 それを引き抜くと、ぞるぞると血の刃が伸びた。

 手のひらに収まるほど小ぶりな刃渡りの短剣が長剣に。

 キャロラインがそれを無造作にこちらへと投げ渡して来た。

 思わず受け取ると、血に濡れた長剣があなたの手に納まる。

 

「長くは保たぬが、構うまい……」

 

 言いつつ、自身はメイスを手にするキャロライン。

 マロンちゃんも素手で戦っていたし、ここに来るまではキャロラインもそうだった。

 なので闘士とは素手での戦闘を得意とするのかと思っていたが、そうでもないらしい。

 

「来るぞ」

 

 キャロラインの警告の声。

 その直後、門番の触手のような腕が勢いよく伸びて来る。

 あなたはそれを血の剣で斬り払いながら横へと躱す。

 

 頬に掠った攻撃にダメージのようなものは感じない。

 失血も……しているのかもしれないが、わからない。

 自分のコンディションを把握するのは得意ではあるが。

 さすがに微弱な出血を感じ取れるほどの鋭敏さはない。

 

「砕けよ」

 

 キャロラインの厳かな声。

 めしゃ、とか言う音がして、門番の顔面に当たる部位がひしゃげた。

 血を塗りたくってはいないはずだが、それに相当する威力があるらしい。

 

 熱血の狩人、その本領と言うべきか。

 何もせずとも血による攻撃が叶うらしい。

 この領域、次元界に適応した生態、あるいは職能と言うか。

 

「むんっ!」

 

 突如振り返り、自分の胸にメイスを捻じ込むキャロライン。

 それは胸を貫通して背から飛び出したかと思うと、血が凝固。

 おぞましく暴力的な形状のヘッドが形成され、それが門番の頭部を痛打した。

 

 数多ある眼球がぎょろぎょろと蠢き、熱血の火に焼かれる。

 戦い方がおぞまし過ぎる……そう思いながらも、あなたも血の剣で斬りつける。

 

 妙に軽く振り心地が気持ち悪い。

 血の重さは鉄とは比べるべくもないほど軽いからか。

 血だからか、鞭のように重さの移動が一瞬遅れる。

 そしてなにより、真っ直ぐで整った形状でもないので、空気との接触でブレが起きる。

 

 ひどく癖のある長剣だ。

 もし店にこういう使い心地の長剣があったとしたら。

 絶対に買わないし、作ったやつには転職を薦める。

 しかし、今はこれしか頼れる武器がない。

 

 あなたは渋々その長剣を手に再度切り込む。

 数多伸びる触手による攻撃は酷く避けにくい。

 顔にいくつか当たる打撃を甘受しながら長剣を捩じり込む。

 

 まるで枯れた木のような異様な質感の胴体に突き込まれる剣。

 それを力づくで回し、その内部をゴッソリと掻き回す。

 そして、あなたの胴体を強烈に打ち据える門番の足。

 

 蹴りまで使ってくるのか。そう思いながら後ろに跳ぶ。

 着地と同時、眩暈がして、あなたの視界が黒く欠けていることに気付く。

 重篤な失血による意識喪失、その前駆症状だ。

 たった一撃でそこまでか。あなたは歯を食い縛り、祈りを捧げる。

 

 ウカノによる祝福は1度限り、どれほど重篤な怪我をも癒す。

 大量失血による死すらも覆すことが可能である。

 その切り札を切ろうとしたあなたは異様な違和感を感じた。

 

『――が信徒――――パル――こは遠――――――護が届――――………………』

 

 あなたの耳に微かに届いた、敬愛するウカノ神の声。

 それは酷く微かな声音で、同時にひどく大量の雑音が混じっている。

 そして、あなたにいつもの温かな加護は訪れなかった。

 

 ウカノ様の加護が届かない……?

 

 今までにない異常事態にあなたは思わず呆然とする。

 そして、そんなあなたを襲う門番の触手攻撃。

 あなたがソレに気付いて咄嗟に防御の姿勢を取る。

 血の長剣で触手を薙ぎ払うも、それを潜り抜けた一撃があなたを打ちのめす。

 

 あなたを襲う、猛烈な吐き気、眩暈。

 目の前は真っ暗で、ガンガンと打ち付けるような頭痛がする。

 大量失血による意識喪失寸前の状況。

 歯を食い縛って根性でそれに耐える。

 

「――――して――さい――――ですね――『復元/レストレーション』」

 

 突如、あなたの視界が晴れる。

 状況の激変に戸惑うあなたの胸にジルが手を当てていた。

 

「意識はしっかりしていますね? さぁ、戦線に復帰してください」

 

 あなたはコクコクと頷いた。

 なるほど、どうやらジルによって回復されたらしい。

 アルトスレアの15階梯の神聖魔法『復元』。

 いかなる傷をもたちどころに癒し、それは欠損ですらも例外ではない。

 

 立ち上がり、辛うじて握っていたらしい血の長剣を握り直す。

 そして、客車の屋根を駆け、戦線に復帰する。

 

「それ寄越せや!」

 

「あたしんだよ!」

 

「待てなにをする待てよせやめろ」

 

 自分の武器が通じず業を煮やしたハウロとセリアンがキャロラインのメイスを奪い取っている。

 それを後目に、あなたは片手持ちした剣を渾身の力で振り下ろす。

 もう一方の手には『サルガッスム・シールド』。エルグランドのイモータル・レリックのひとつ。

 

 粘りつく盾の異名を持つこの盾は敵の攻撃を絡め捕る特別な効果がある。

 まあ、武器限定の効果なので、正直この門番相手にはほぼ無意味だが。

 純粋な盾としての性能も高く、純戦士をやっていた頃は大変世話になった防具だ。

 

 避け切れないし、防ぎ切れない。

 ならば、盾で無理やりにでも受け止める。

 さすがに武器や剣越しには吸血もされまい。

 

 門番の振るう腕。それをシールドバッシュで迎え撃つ。

 馬鹿力で無理やり跳ね上げ、がら空きになった胴体へと踏み込む。

 門番の足を切りつけて、そのまま勢いよく退く。

 

 あなたが一瞬前まで居た位置を門番の腕が薙ぎ払っていた。

 攻撃範囲が極めて広い。迂闊に踏み込めば狩られるだろう。

 

「キャロライン! 他に武器ねぇのか! 出せよ! ジャンプしろ!」

 

「血を主体とする武器は他にはない……セリアンの死血(しけつ)(つち)と、血闘者(けっとうしゃ)の長剣で店じまいだ……」

 

「くそっ、俺も闘士とやらなら苦労しなかったのに……素手でもいいんだもんな……ん? 闘士?」

 

「……?」

 

「そうだよ! ここにいい武器があるじゃねえか!」

 

「なに? よせ、ハウロ・G・ヒータ。なにをする。よせ!」

 

 自分が真剣に戦っているのに、後ろで何をやっているのか。

 思わず胡乱な目を向けると、そこにはハウロに足を掴まれているキャロラインの姿があった。

 今朝がた、キャロラインを地面に叩きつけてお仕置きをしたが。

 その時と同じような姿勢になっている。

 

「オッラァァァァ!」

 

「ぐわっ!」

 

 キャロラインを振りかぶって、門番を強打。

 キャロラインの悲鳴と、門番の声なきうめき声。

 ハウロはキャロラインを武器として使うことにしたらしい。

 なるほど、ハウロの人間性も限界と見える。

 

「うおりゃあ!」

 

 その一方で、キャロラインから武器を奪い取ったセリアンは威勢よく参戦してくる。

 手にする武器は、血によるエンチャントでメイスからウォーハンマーと言うべき形状に変貌している。

 ダイナミックな動作で振るわれる打撃は容易く門番の触手を打ち払っていた。

 

「いくぜ! キャロラインミサイル!」

 

 ハウロによって片手でぶん投げられるキャロライン。

 ぎゅるぎゅると回転しながらキャロラインが飛んでいく。

 普段はぼんやりとした表情を浮かべているキャラロインが割とマジでキレているのが見えた。

 どが、とか、ごすっ、とかいう鈍い音を立ててキャロラインが門番に激突。

 

「さらにもう一発!」

 

 そのキャロラインの足を棍棒で殴りつけて押し込むセリアン。

 なんだろう、キャロラインを武器か何かと勘違いしているんじゃあるまいか。

 あんまりにも扱いが酷過ぎる。振る舞いが奇矯過ぎて割と見限られているのかも。

 

 あなたは攻撃を躱しながら踏み込み、落下して来たキャロラインを受け止める。

 顔とか足が悲惨なことになっていたので『ジュステアトのまなざし』を叩き込む。

 エルグランドの最高位回復魔法の効果はすばらしく、一発で全治する。

 

 そして、あなたはそのままジルとコリントの控える後方に投げ飛ばす。

 あの血のガントレットのエンチャントでもし直して戦線復帰して欲しい。

 そう思って投げ飛ばし、前線に復帰しようと前に踏み出したところで。

 

 あなたの上空をキャロラインが飛んで行った。

 

 振り返ると、なにかを投げた姿勢のジルの姿があった。

 なるほど、あなた以外は皆キャロラインを武器だと思っているらしい。

 あまりにもひど過ぎる。キャロラインなんか悪いことした?

 憐れじゃあないか。彼女と言う闘士が、あんまりにも憐れじゃあないか。

 

 そんな涙を誘う扱いから早く解放してやろう。

 あなたは血の長剣を握り直し、再度戦線に向かった……。

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