あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 幾度かの交錯、そして回復。

 ジルとコリントの援護を受け、あなたたちは遂に門番の討伐に成功した。

 空を往く飛空列車から門番の巨躯が零れ落ちる。

 

 遥か眼下に落下していく門番。

 それを見送り、あなたは手にしていた血の長剣を降ろす。

 ハウロも手にした闘士の棍棒を降ろす。

 そして、闘士の棍棒(キャロライン)がハウロを殴った。

 

「痛ェ! なにすんだ!」

 

「貴公……私を武器にしたことについて、なにか言うことはないか……?」

 

「あ……? あー……やっぱ人間武器にするのって微妙だな。もっと関節固めてくれよ」

 

 人を武器にした挙句、文句までつけるらしい。

 キャロラインのグーが放たれ、ハウロがそれを受け止める。

 

「おのれ……」

 

「蠅が止まるわ雑魚が」

 

「ふむ……」

 

「お? お!?」

 

 どんなに強くなっても、血液量はそう増やせない。

 それと同じように、どんなに強くなっても体重はそう増やせない。

 であるから、ハウロもまた体格相応の体重しか持たない。

 

 骨格が太く、筋肉量も凄まじいので見た目よりは随分重いが。

 それでもいいとこ70キロから80キロくらいだろうか。

 キャロラインなら片手でも持てる重さである。

 

 であるから、キャロラインがハウロを持ち上げられるのは自然で。

 そのまま運ぶことも、飛空列車から飛び降りるのも、不可能ではない。

 まあ、要するにだが、ハウロはキャロラインの無理心中に付き合わされた。

 

「あああああああああ馬鹿かおめぇぇぇえぇえ――――…………」

 

 ハウロの悲鳴が遠ざかっていく。

 あなたたちが慌てて屋根際に寄ると、落下していくハウロとキャロラインの姿。

 あなたも続いて飛び降り、下方へと向かって飛行能力で加速する。

 

 普通、落下速度にはある一定の限界がある。

 そのため、先に落ちた者に追いつくのは無理なのだが。

 飛行能力で下方向に向かって加速すればその限りではない。

 

 あなたは素早くハウロとキャロラインに追いつく。

 そして、2人を抱き留めて上空へと舞い戻る。

 

「はぁっ! はぁっ! し、死んだと、死んだと思っだ……! お、おれ、生きてる……! 生きてるよぉ……!」

 

「ふぅむ……死に損ねたか……」

 

 あなたはキャロラインにいくらなんでもやり過ぎではと言い咎めた。

 そもそもお仕置きするにしても無理心中はどうなのか。

 

「さすれば……ハウロミサイル」

 

 キャロラインがハウロの腕を掴み、投げた。

 

「うわぎゃあぁあぁあああ――――!」

 

 ハウロが飛んだ。

 なるほど、キャロラインミサイルの意向返しはハウロミサイル。

 あなたは女たらしミサイルとなって飛び出し、ハウロを回収した。

 

 

 

「すいませんでした、俺が悪かったです、捨てないでください」

 

「分かればいい……」

 

 2回ほど死にかけたハウロがキャロラインにゲザった。

 あなたやコリントのように生得的な飛行能力を持っているか。

 ジルやエルマのように魔法で飛行できるかしないと。

 この超高所では投げ捨てられれば、それはすなわち死だ。

 

 まぁ、落下速度には上限があるので。

 その上限速度での叩きつけに耐えられれば。

 どれだけ高くから落下しても死にはしないのだが。

 たぶんハウロならよっぽど変な落ち方をしない限り死にはしないだろう。

 ここから落ちたら下で血吸いに集られるので結局死ぬ気はするが。

 

「それで? あの化け物を倒したら、後は次の領域にいけるの?」

 

 気を取り直し、あなたたちは次について話し合う。

 門番を倒した以上、次に進めると思っていいはずだが。

 そのようなコリントの問いに、キャロラインが頷く。

 

「案ずるな……あとはゆるりと構えていろ……さしたる時間もかからぬ」

 

 とのことなので、あなたたちは大人しく待つことにした。

 あなたはその際、べったりと張り付いて来るハウロを宥める。

 よっぽど怖かったのか、2度助けたあなたにべったりだ。

 

「高いところから落ちると死ぬんだぞ……手を放さんでくれ……頼む……!」

 

 しかし、そんなべったりくっつかれても困るのだが。

 また落ちたら助けてあげるから、ちょっと離れてもらって……。

 そのように言うと、ハウロがあなたの手を掴んだ。

 そして、そのままハウロが自分の胸へとあなたの手を誘導した。

 

「手を離すな! いいな!」

 

 ハイ喜んでー! あなたは大喜びで頷いた。

 おっぱい触らせてくれる上に、ずっと触っていろなんて……。

 そんな夢のような要求、頷かない理由がない……!

 

 ほどよく大きくて、それでいて張りがあって。

 しかも血気盛んだからか、いつでも体温は高めで温かい。

 上空の冷たい空気の中、熱い柔肌の心地よさよ……!

 

「考えてみると、空飛べないのってあたしとハウロだけなんだねぇ」

 

「言うても、セリアンは装備の力で飛べるからのう。正真正銘飛べんのはハウロだけじゃろ」

 

「あの怖がりようも頷けるってもんだねぇ」

 

 空を飛ぶ道具や魔法と言うのは非常にポピュラーなものだ。

 おそらくだが、探せば体のあらゆる部位の装身具に飛行効果がついたものが見つかるだろう。

 あなたの知る限りでも、飛行効果の付いたマジックアイテムはかなりある。

 靴、耳飾り、羽根飾り、帽子、マント、鎧、指輪、ペンダント、アンクレット、サークレット……。

 

 そんなわけで、熟練冒険者なら、戦士であっても飛行手段は確保しているものだが……。

 なんせ、ハウロはボルボレスアスの狩人なので、魔法の道具なんて縁がないわけで。

 

「てーか、それならハウロ」

 

「な、なんだよ?」

 

「あたしらがいま、あの子らに戦いを教えてる大陸……あそこなら空飛ぶ道具くらいいくらでもあるよ?」

 

「うむ。今回の仕事の報酬で、それを用立てたらどうじゃ? なんなら、そこな女たらしに用意してもろうてもええじゃろう」

 

「おお……その手があったか。あ、でも、ボルボレスアスの民って魔法すっげーへたくそなんだろ? 魔法のアイテムもうまく使えねえんじゃ……」

 

「キーワード型のものなら大丈夫じゃないかい?」

 

「あとはアレじゃな。飛行ではないが、落下の衝撃を緩和するマジックアイテムもあるはずじゃ。アレなら安いし、自動発動じゃから装備しておくだけでええじゃろう」

 

「おお、その手が……」

 

 というか、ハウロには以前にワンドをあげたと思うが。

 あれが使えたならば、マジックアイテムも恐らく問題なく使えるだろう。

 そう心配することはないと思われる。

 

「そんなもんか……んじゃ、ここの戦いが終わったら、マジックアイテムっての探してみるかな……」

 

 その時は付き合おう。

 そして、そのまま夕飯を食べたりなんかして。

 さらにはそのままいい雰囲気の宿になんか泊まったりして……。

 

「おいおい、スケベだな~。まぁ、見た目の割にメチャメチャスケベな体してるしな……マジでエロ過ぎ。病院行ったら診断書に『エロ過ぎ』って書かれるくらいエロい」

 

 どういう診断だそれは。

 

「つーか、買い物に付き合ってくれるのか? 魔法使いなんだろ? 自分で作るとかって出来ねぇの?」

 

 出来なくはない。作ろうと思えば作れはする……たぶん。

 しかし、あの手のアイテムの作成と言うのは時間がかかる。

 短くとも3日やそこらはかかるし、長ければ1か月近くかかるものもある。

 そのため、わざわざ作るよりも金を稼いで買った方が速い。

 

 なので手慰みとか、技術習得の一環として覚えたくらいで。

 本当に基本しか抑えていない。上手く作れるかは不明だ。

 

 例外的に、魔力消費を直接代替してくれる類のもの。

 つまり、ワンドやスクロールはそれなりに作っていた。

 なのでワンドやスクロールの作成技術はそれなりにある。

 

「ふーん、そんなもんか。まぁ、俺も剣の良し悪しは分かっても、剣を作れるわけじゃねえからな……」

 

「ちなみに儂は得意じゃぞ。マジックアイテム作成の弟子を取ったこともある」

 

「さすがエルフ。亀の甲より年の功だもんな。年とかいくつなの?」

 

「1万と……少しじゃ」

 

「ま、万……桁が違ったわ……500歳とかそんなんかと……」

 

「500歳じゃとまだまだ若者じゃな」

 

「じゃあ、俺くらいじゃ小娘みたいなもんか。人間のことジジイでもババアでも小僧とか小娘って呼んだりしそう」

 

「せぬわ」

 

「あ、そう?」

 

「ハウロよ。人を小娘だの小僧だの呼ぶようなやつはただの無礼者じゃ」

 

「まぁ、そうだが……」

 

「考えてもみよ。エルフではなく人間の婆がおぬしを小娘呼ばわりしたら、ただの無礼者じゃろうが」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「それがエルフなら無礼にならんと言うことはなかろう?」

 

「言われてみりゃそうなんだが、あんま想像したことなかったな……」

 

「それが親愛のある間柄であれば別であろうが、さしたる知己もない相手を小僧だの小娘と呼ぶようなやつはロクでもないぞ。まぁ、たまにおるがのう……」

 

「たまにいるのか……」

 

「まぁ、エルフにもおるからのう……年を取っただけで偉くなったと勘違いする阿呆が……」

 

「あ~……そこらへんは人間と同じなんだ……」

 

「老年の品格と言うものがある。そこを履き違えると老害になる……儂は老害にはなりとうない」

 

「エルフもそう言うジェネレーションギャップに悩んだりすんのね……結局、人型である以上は逃れらんねぇ運命なんかな……」

 

「まぁ、1つ覚えておくとええぞ」

 

「なにを?」

 

「人の社会に紛れて生きるエルフがいるが……人を小娘だの小僧だのと呼ぶようなやつは……」

 

「やつは?」

 

「……老害仕草を振りかざしたせいで他のエルフに煙たがられたので、煙たがられない人間社会に紛れておるだけじゃ……」

 

「…………そっか」

 

「そうなんじゃ……」

 

 なんだか物悲しいエルフの実態を聞いてしまった……。

 ……そう言うエルフなら寂しいから落としやすいのでは?

 老害仕草のエルフ……なるほど、ナンパのねらい目か。覚えておくとしよう。

 

 

 

 極めてしょーもない話をしていると、月が近づいていく。

 やがて、飛空列車は白く寂しい岩石の大地に着陸した。

 ぼこぼこした大地には無数のクレーターがあり、足場は悪い。

 あなたはここの月は呼吸ができるんだな~、とぼやいた。

 

「……なんか他の月にも行ったことあるみたいな言い方してないか?」

 

 ハウロが胡乱気な顔で尋ねて来たが、さすがにないと笑う。

 月に行ったことがある者から呼吸が出来なかったと聞いたことがあるだけだ。

 

「なんだ、そう言う……いや、月に行ったことあるやつはいるのか」

 

「アポロ計画涙目ですね。ふむ、ちょっとここの月の石持って帰ろうかな」

 

「やっぱりこう、種族的に月に力とか感じておくべきかしら……月の石のアクセサリーの1個や2個くらいは持っておいたほうが恰好がつきそうね……」

 

「姉者姉者、あたしたちがさっきまで居た星をバックに写真撮っておくれよー!」

 

「おお、ええぞ。終わったら儂の分も頼むぞ~。ほれ、笑って~」

 

「……貴公ら、月面に順応し過ぎではないか……?」

 

「キャロラインも撮ってやるぞ。ほれ、ピースせいピース」

 

「……ぴーす」

 

 あなたたちは順繰りにエルマの写真機で記念撮影をした。

 最後は全員で並んでの記念撮影をした。いい思い出になる。

 あとで焼き増ししてもらおう。

 

「貴公ら、次の領域に参るぞ……月の裏側だ」

 

 すたすたと歩いていくキャロラインに続く。

 月は重力が小さいのでふわふわすると聞いていたが。

 べつにそんなことはなく、普通に歩ける。

 

 夢と現実、その境目のような領域だからなのだろうか。

 分類上、連結地帯であるここは現実の世界のはずなのだが……。

 

「月の門番とかいたりすんの? 面白そうだから連れ帰ってペットにしてぇ~」

 

「餌なに食べるのかしら……」

 

「やはり、月の石でしょうか。調達大変そうですね」

 

 あいかわらず緊張感皆無である。

 まぁ、無暗に緊張するよりずっといいが。

 あなたたちは談笑しながら歩き続け、やがて月の裏側へ。

 

 そこではいままで連結地帯に存在したゲートがあった。

 地面から飛び出た、半円状の異空間。

 その先には今まで幾度となく見た夢の領域。

 そして、そのゲートが、数えきれないほど無数にあった……。

 

「うおおお……な、なんだこれ、すげぇ……」

 

「もしや、ここはハブ地帯……のような?」

 

「左様……パサファロンは夢と(うつつ)の狭間……それゆえ、すべての夢と現に繋がるのだ」

 

「なるほど、道理で門番なんてものがいるわけだわ……ここにさえ来れれば、次元のどこにでも行けてしまうのね」

 

「まぁ、正直言ってそれで悪用する術とかがあるとは思えませんが……」

 

「この次元界の存在にはなんかしら益があるんじゃろ」

 

「まー、あたしらには関係のない話だねぇ。さ、キャロ、次の領域に向かうゲートはどいつだい?」

 

 セリアンの言う通り、あなたたちには関係のない話だ。

 あなたたちはあくまでクロモリを悪夢から解放するために来た。

 

 次の死の夢の領域、そこで最後の戦いが待っている……。

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