キャロラインの案内で次の領域へ。
あなたたちが潜り抜けた先もまた月だ。
そこから飛空列車に乗り込み、眼下に見える星へと降りる。
そして辿り着いたのは、ひどく退廃的な空間だった。
地面には不快な悪臭のする汚泥が満ちている。
空は無明の闇。まるで墨を塗りこめたかのようだ。
どこまでも果ての見えない、汚泥と悪臭の空間。
そこら中に無数に散らばる、無数の生物の死骸。
そして、うごめき、さまよい歩く亡者たち。
寒さと飢えに苛まされ、癒えることなき苦しみに悶える。
アンデッドに成り果てた者たちは、夢の住人か、現の住人か……。
分かることは、この空間にはどこにも救いがないこと。
ただ退廃に満ちた空気だけがあり、それに尽きている。
よくなることも、悪くなることもない、停滞し切った空間だった。
「はぁ~、胸が悪くなるわ……はよ帰ろうぜ……」
「うむ……鼻がバカになる……」
ここにいる何者かがクロモリを捕らえている。
ならば、解決手段はとても簡単である。
この空間にいるやつを皆殺しにすればいい。
あなたは終末兵器を使う! と宣言した。
『四次元ポケット』から終末兵器『呪詛の祈祷書』を取り出す。
ローナの時代が産んだ、過ちの呪文。世界を滅ぼすと恐れられた魔法。
時の賢者たちはそれら愚かしくも壮絶な呪文を書き残し、封印した。
そして、現代になりエルグランドのバカたちが面白半分で濫用している……。
それこそが滅びの呪文であり、ローナの時代が産んだ叡智。
究極破壊兵器たる『滅びの呪文』の魔導書だ。
だが、そんなバカたちでも滅多に使わないもの。
それこそが『呪詛の祈祷書』末尾に記された5つの『破滅の呪文』である。
ただの1度の行使ですら文明を滅ぼしてしまいかねない危険すぎる魔法。
それゆえにローナの時代でも封印され、現代に至るまでその封印が解かれなかった魔法。
あなたはその1つ『たいよう』の呪文回路を形成した。
通常の呪文の何倍、いや、何十倍にも及ぶ立体高密度回路。
球体呪文回路と言う形成難度がべらぼうに高い魔法である。
「……めちゃめちゃヤバそうな呪文が形成されていくわね」
「これはやばいですね。間違いなく『神話級呪文』ですよこれ」
「うわぁ……これへたすると世界滅ぶのう……」
およそ15秒。それほどの時間をかけ、遂に回路が完成する。
そして、呪文が完成し、それは起動する。
太陽の運行は、その原料が燃えることによると言う。
その原料と言うのが、驚くべきことに水の素なのだとか。
それが激しく燃え上がることにより、あの光が産み出される。
ローナの時代の賢者たちは、地上に太陽を再現することを試みた。
それは一定の成功を収め、人工太陽はローナの時代に繁栄をもたらした。
そして、その力を攻撃に使おうとした者たちも、当然ながら、居た。
激しく燃え上がる熱、その再現。
急激な燃焼、急激な解放、それによる、爆発。
『ナイン』100発分にも相当するという超高威力の爆発。
それは破壊の魔力となって空間を伝播し、そのことごとくを滅ぼす。
空間を舐め尽くし、焼き払う、圧倒的な暴力。
それはただしく、文明を滅ぼす光だった。
おぞましい破壊の放射が終わると、そこには静寂が立ち込めていた。
この空間に存在していたあらゆるすべてが破壊された。
この空間に投射されていた精神は元の次元に戻ったろうし。
この次元特有の生物たち、ヴォーラなる者は死んだろう。
つまり、これにて一件落着だ。
じゃ、あとは帰るだけだ。
さっさと帰るとしよう。
そのように宣言したところで。
あなたはいつの間にか現れていた者。
青い髪の少女に気付いた。
「……ああ、なるほど。夢、か」
その少女は自分の手を握り、それを開き。
その手を見つめた後、顔を上げてあなたたちを見やった。
ガラス玉のような目だった。ひどく無機質で。
命の息吹も、感情も感じられないような……。
「君たち、どうやったのかは知らないけど、この領域全体吹っ飛ばすような攻撃仕掛けたんでしょ」
たしかにその通りだが……。
「アプローチとしては正しい。根こそぎ吹き飛ばせば楽だからね。この空間に棲んでるやつらは死ぬし、投射されていた精神は元の肉体に戻る……でも、ここに意図して意識を投射してるヤツがどうなるか、考えたことあった?」
考えていなかった。そもそも、そんなやついるのだろうか?
まぁ、居たとして、それがどうなるのだろう?
「起きてたやつの意識を飛ばしたら、寝るよ。そして、夢を見る。私はその夢。そいつにとっての、死と言う悪夢だよ」
なるほど、自己紹介ありがとう。
わざわざそんなところまで説明してくれるとは。
随分と親切と言うか、回りくどいというか。
それで、彼女はいったい何者だろうか?
「私は、終わりの終わりかな。うん。
彼女はあっけらかんと、そう名乗った。
まぁ、座って話そうと彼女は促した。
あなたたちは促されるままにその場に座り込んだ。
あなたが根こそぎ吹っ飛ばしたので、地面は座るのに苦労のない状態だ。
まぁ、少々熱かったが、大した問題ではない。
「それで……『インメタル』、あなたは……」
「それは私の総体と言うか、システム全体の名前だから。管制ユニットの私は、チョコって言うんだよ。そう呼んでくれる?」
「ず、ずいぶんと可愛らしい名前なのね、チョコでいいの?」
「うん。チョコチップクッキーがね、好きなんだ。あれうまいよ。だから、チョコって呼んでよ」
「へ、へぇ……」
それはあなたが思っていたよりもずっと、人間臭かった。
自分の名前があり、それをアイデンティティにしていて。
好物があり、それを誇らしげに語ることのできるメンタル。
破壊兵器として作られたとは、到底思えない……。
「君たちは、現地住民でいいのかな」
「そうね、ええ、その認識で構わないわ」
「つまり『アルメガ』と敵対してると言う認識でいいのかな?」
「ええ……」
「私は『アルメガ』の終わり。だから、君たちに全力で協力する準備がある」
「……なんで?」
「『アルメガ』が気に入らないからだけど?」
「思った以上に理由がしょうもない……!」
「厳めしい言い方をすれば、私は『アルメガ』の抑止力として作られたものだから。理由はなんであれ、『アルメガ』への攻撃になり得るなら注力するんだよ。悪夢って、見る者にとって最大限に不都合でしょ?」
「そう、そう言う表現を、するのね……メンタリティが、思った以上に人間臭いのね……」
「そうだね。私もティアも、有機AIインターフェイスが搭載されてたから。人格のエミュレートくらいはできるよ」
「ティア?」
「『アルメガ』の管制ユニット。ティアーズ。培養槽から出された時、泣いてるように見えたからって言っていたよ」
「そう……どうしてこんな、正常そうなAIがありながら、あなたたちは暴走したの?」
「暴走してない」
「え?」
「暴走してないよ。私は『アルメガ』の悪夢が『インメタル』の形を取った者だから『インメタル』の方は知らないけど……『アルメガ』は暴走してない。正常だよ」
それは今までの前提条件を覆す話だった。
『アルメガ』は暴走したのではなかったのか?
だからこそあらゆる生命を捕食し、銀河全体を汚染したのでは……。
「あらゆる生命とは言うけれど、それはあくまでも別惑星の存在……人類は捕食していないよ」
しかし、アルトスレアで起きた戦乱では捕食していたと言うが。
「『アルメガ』が播種した生命種子だからね。分類としては『アルメガ』の子機だよ。そもそも捕食と言う認定でもない」
「そう……自身の細胞が成長したので、それを取り込みなおしている……それくらいの認識でしかないのね?」
「実際は違うと分かっていつつも、自分のシステムをそう言う風に回避してるね」
「小賢しい真似を……なら、サイキックたちはどうなの? 彼ら彼女らは地球生まれの人類よ?」
「サイキック因子が同じだから、自分だよ」
「そう言う屁理屈を……なら、銀河を汚染していったのはどう説明するつもりなの?」
「それは普通にテラフォーミングしてるだけだよ。まぁ、そのテラフォーミングが人類に適当であるかは不明だけどね」
「狂ってるわ……! 『アルメガ』は正常じゃない!」
「そうだよ。『アルメガ』は狂ってる……でも、それは建造時点で想定された範囲の異常なんだ。少なくとも、人類の領域の拡大には成功している。問題のない範囲だと認定されている」
「どうしてそんな異常な設定が見逃されているのよ! おかしいわ!」
「聞かない方がいいと思うけどね」
「…………」
コリントがなにかに思い当たったらしく、普段から悪い顔色をさらに悪くした。
そして、胸に手を当てて深呼吸をして、懇願するように言った。
「違うと言ってちょうだい……アルメガの予算は、打ち切られたの……?」
「打ち切られたよ。『インメタル』もね。廃棄予定だったよ。本当なら」
「そんな……馬鹿げてる……ありえない……そんなの……そんなの……狂ってるわ……」
コリントが打ちひしがれたように溢す。
あなたは意味が分からず、どういうことなのか説明してくれと頼んだ。
「……自己進化が可能なAIが搭載された兵器は、保管しておいても自己進化して動き出す可能性がある。だから、廃棄時は再利用不能なように破壊するのが慣例なの」
「でも、それが気に食わなくて、時々意図的に暴走させて自由にしちゃう開発者たちがいるんだ」
「『アルメガ』と『インメタル』の開発者も……そうだったのね?」
「そうだよ。ただ……」
「ただ?」
「私たちは、一歩間違えれば地球を瞬く間に滅ぼせる兵器だった。だから、その扱いは
「でも、出来たということは複数チームが賛同して協力したって……」
「それよりは、こう考えた方が自然だと思うけどね」
「と言うと?」
「研究者たちの暴走と言う名目で、有権者たちの意見を無視してなし崩しに起動させて運用してしまおう……って」
「民主主義国家よ! 法治国家よ!? 法は、法とは、人の手が届かない場所にあるものなのよ!?」
「でも、私たちの起動はそれを示唆しているよ」
「狂ってるわ……!」
コリントが嘆き出してしまった。
そんなに衝撃的なことなのだろうか。
統治者のさじ加減で惨事が起きるなんて普通では?
「まぁ、私とティアの起動と暴走の理由なんかどうでもいいよ。重要じゃない。もう起動しちゃってるしね」
「そう……ね……」
「だから、これからの話。まず、君」
チョコがあなたを指差して来た。
「君、生命力を詐取されてるよ。流入経路が不明だけど、ものすごい勢いで『アルメガ』は回復してる」
「えっ!?」
「は? なにやってるんですかあなたは?」
コリントとジルに責めるような目で見られてしまった。
だが、あなたは心当たりがさっぱりない。
生命力を詐取って、どうやって?
「手段はいろいろあるよ。直接的にドレインしたり、物理的に捕食したり、魔力を生命力に変換したり。いろいろ」
つまり、気付いたら生命力か魔力が激減していたことがないかということだろうか。
……あなたは首をひねったが、さっぱり思い至るところがなくて首を振った。
もしかしたら、寝ている間にこっそりと生命力を奪われているとか……。
「おそらく、君の周囲に『アルメガ』の端末がいる。その端末が君からなんらかの手段で生命力を詐取してる。君の体液とか体の一部を欲しがる人とか、周囲にいない?」
サシャはあなたの手足を切り取ろうと試みることがたまにある。
クロモリはあなたの血を啜るのが大好きだ。
カイラはあなたの髪や皮膚、可能なら眼球や内臓を欲しがる。
カル=ロスとアキラはあなたに授乳されたがる。
レインは最近魔法よりも気功で2日酔いを治してもらいたがる……。
「容疑者多いね」
「かなり猟奇的な趣味の人がいるわね……」
そう言えばとあなたは思い至る。
あの大陸の迷宮は『アルメガ』由来だ。
その迷宮から生命力を回収してたりするのだろうか?
「してるね」
じゃあ……先日、『トラッパーズ』と共に探索した迷宮でやたら血を搾取されたのは……。
「まず間違いなく君の生命力狙いだと思うよ」
「もうちょっと早く気付いてちょうだい……」
『アルメガ』が迷宮の由来とはあんまり意識してなくて……。
ま、まぁ、今後は気を付けるのでそこらへんは許してもらいたい。
すると、あなたの周囲に『アルメガ』のスパイがいるわけではない……?
「それは正直、分からない。でも、いてもおかしくはない。私たちは元々拡散型の端末を展開できるから、万単位で人間型端末がいると思う。1人や2人はいてもおかしくないよ」
「対処法は?」
「見つける手段はないよ。だから、生命力を搾取されないようにするしかないかな」
「どうやればいいのかしら」
「体液、肉体の一部を取られないことだね」
「体液ね……性行為は?」
「もってのほかだよ。生命力が奪い放題だよそんなの。禁欲して」
あなたは無理だと泣いた。
そんなことするくらいなら死ぬ。
『アルメガ』が復活してもしょうがないだろう。
「その開き直り方が凄いわね。世界を滅ぼす兵器の覚醒なのよ?」
でもエロいことはしたい。
禁欲は無理だ。我慢できない。
死ぬ。って言うか自殺する。
「……何かない?」
「アルメガは生体端末でないと操れないし、別次元にまで端末は置いてないよ。だから、別次元から来たか、アンデッドなら、大丈夫じゃない?」
なるほど。
すると、レウナやコリント、エルマにセリアンはセーフと……。
なかなかつらいが、それなら我慢できなくもないか……。
だが、可愛い女の子たちを前に禁欲なんて気が狂いそうだ……。
レインの綺麗な髪も、フィリアの豊満な肢体も、サシャのお耳も、クロモリのたぷたぷのおっぱいも最高においしいのに……!
「ひとまず、注意事項はそこまでかな。君たちに渡せる情報はほかにいくらでもあるけど、活用できるようなものじゃないし」
「そう?」
「多重乱数重力干渉爆弾なら一定の効果が期待できるとか言われても困るでしょ」
「用意できるわけないでしょ……」
「そういうこと」
なんかすごそうな武器があるらしい。どんなものか気になる……。
「うん……そろそろ、制御も効かなくなってきた。君たちも退避の時間だ」
「え?」
「私は『アルメガ』の悪夢だからね。私という殻を被っているから制御が効くけど、本格的な入眠状態に入るとそうはいかなくなる」
「……つまり?」
「そろそろ暴走するよ。早く逃げてね」
「もっと早く言って!?」
コリントが嘆き、直後、『インメタル』の手が閃いた。
あなたが咄嗟にそれを剣を抜いて受け止める。
意識が吹っ飛びそうなほどの凄まじい衝撃が突き抜けた。
ここ数十年で喰らった中で最強の一撃だったかもしれない。
これは、すごい強敵だぞ……?
あなたは思わぬ事態に目を白黒させた……。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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