「なるほど、『上級空間転移遅延/グレーター・ディレイド・テレポーテーション』で物質界への出現を3ラウンド遅延させることで、実質的に3ラウンドの無敵時間を強引に創り出したと……」
「これそう言う魔法じゃないのだけどね……」
再出現すると、周囲には何の影響も残っていなかった。
マイクロブラックホールなるものの影響は後を引かないらしい。
絶体絶命の状況を乗り越えられたならありがたい限りだ。
あなたはエルマに賛辞を送りつつ、次なる手を考える。
魔法で3割一気に吹き飛ばしてもダメだった。
ならば、順当にやっていてもだめだろう。
『インメタル』は乱れ打ちしているだけで勝てるのだ。
あなたたちの勝利条件は飛空列車に乗り込み、月まで移動すること。
その月からゲートに入り、べつの領域に離脱すれば後は逃げれる。
厳密に言うと、そちらの領域に移動してから、この次元界イリーズから離脱する必要があるが。
そちらの領域にさえ移動できれば、離脱自体は簡単だ。
「ええ、そうです。あれが次元の境をぶっ壊してさえいなければ、ここでもできたんですけどね」
『インメタル』は巨大化した際、物理的に次元の境をぶっ壊した。
そのせいで、次元を超える転移はいま非常に不安定だと言う。
厳密に言えば次元内の領域を破壊してつなげてしまったのだが。
そのせいで現在座標はむちゃくちゃ。
この状況で無理やり転移するとなにが起こるか……。
変なところに出るならまだしも、未知の遠方次元に飛ぶ可能性もあると言う。
そうなった場合、帰って来れるかもわからない。危険すぎる。
破壊されていない上方次元に離脱してからでなくては転移不能だ。
イチかバチかでやるのは最後の手段にすべきだろう。
「他になにかないのですか? 究極破壊兵器の類でも、終末兵器でも、なんでもいいです」
あなたは微妙だと唸った。
終末兵器は文明の終焉を招いた兵器だ。
未使用のまま封印されたものもあるが。
エムド・イルの超科学文明が産んだ『てのひらのはめつ』と『はいいろのそら』がそう。
そしてだが、純粋な破壊力で文明の終焉と言うのは、むずかしい。
『呪詛の祈祷書』や『てのひらのはめつ』が例外の方に位置するのだ。
普通は『かなたよりこなたまで』とか『とおいそらへ』などの、使い方次第で危険すぎるものの方が多い。
『かなたよりこなたまで』は世界法則を破綻させてしまうからだし。
『とおいそらへ』は惑星環境を激変させてしまうからだ。
どちらも攻撃性はほとんど皆無である。
純粋な破壊力と言う意味では究極破壊兵器の方が強力な場合が多い。
しかし、究極破壊兵器もスタンドアロンでは使えないものもある。
『空の振り子』なんかその典型で、あれは元の次元界でないと使えない。
結局『てのひらのはめつ』くらいしか有効なものはないだろう。
「なんとか持ち堪えるしかないのですか……」
悔しそうにジルが言う中、あなたは切り札を切ることを提案した。
あなたの持つ最大の切り札、かつてパンサラゲア神を撃破する際に使ったもの。
あれを使えば、なんとかなる……かも。
「そんなのあるのですか」
ある。だが、あなたの切り札は甚大なリスクがある。
最大限の効果を発揮出来るのはよくて10秒程度か。
実際には10秒にも満たない程度……精々5~6秒程度だ。
5~6秒あれば『インメタル』に肉薄して破壊することもできるかもだが。
可能なことならば『インメタル』に肉薄してから使いたい。
ほんの5秒でも足止めする何かに引っかかったらそこで終わりだ。
あなたたちと『インメタル』の間に横たわる数百キロメートルの距離……。
その間に、あなたでも探知し得ない罠がある可能性は否めない。
そのリスクを可能な限り低減したい。
「つまり、道を切り開けと、そう言うことですね?」
「転移で肉薄……大き過ぎて距離感が掴みきれないわね……」
「至近まではいけるじゃろう。飛んで、そこから肉薄……なんとかするほかあるまい」
「肉薄するなら俺も役立てるかもしれねぇな……」
まず、『インメタル』に肉薄。
体表に取りつくまで援護を受けたい。
そして、体表に取りついたら1人を除いて離脱。
あなたが切り札を切って『インメタル』を撃破。
倒し切れるかは不明だが、甚大な損害は与えられるはず。
その上で、切り札のアフターリスクに苦しむあなたを連れて離脱して欲しい。
おそらく、切り札を切った直後はろくに動くこともできない。
それだけ強力な切り札なので、致し方なしと思って欲しい。
「なるほどね……分かった。離脱は私に任せてちょうだい」
「ならば、ゆくとするか」
「ゆこうか」
エルマとセリアンが頷き合い、エルマが足元に魔法陣を展開する。
高位の秘術である『瞬間移動陣』である。あなたたちはその転移に逆らわず、飛んだ。
あなたたちは漆黒の闇の只中へと放りだされた。
皮膚が焼ける感覚も、血が沸騰する感覚も、目が膨らむ感覚もない。
体にかかる重力はないのに、宇宙空間ではないという不思議。
そんな感覚を感じる中、あなたは遠方に見える壁を見やる。
人はあまりにも大き過ぎるものを上手く認識でない。
近付き過ぎたことで、あなたたちの眼には『インメタル』は壁にしか見えなくなっていた。
「さらに飛ぶわよ! 『グレーター・テレポーテーション/上級転移』!」
コリントが周囲の者たちの手をひっつかんで、さらに転移。
あなたたちは鋼色の大地に立った。ちゃんと立てる。
あなたたちの頭上には、先ほどまで立っていた大地がある。
奇妙なことに、そこにあったのは真四角の大地だ。
大地の端からは、どこかへと砂が零れて消えている……。
「なんて質量なの……地球と同等以上の重力が発生するなんて……」
コリントが呆然としたように溢す。
あなたはそれはさておき、切り札を切ると宣言した。
「待ってください。もっと万全を期すべきです」
しかし、それはジルに止められた。
あなたは万全とは? と尋ね返す。
体表にまで取りついたのだ、これ以上の万全があるだろうか?
「『インメタル』は機械です。ならば、どこかに中枢、管理部分がある。先ほどのチョコと言う人物こそがそれでしょう。彼女の至近まで近づくのが最善……そうではありませんか?」
たしかに、そうかもしれないが。
しかし、ここは既に敵のおひざ元なのだ。
非常に危険だ。それでも、やってくれると?
「ったりめーだ! ここまで来てなにもしてねぇ! 俺の働き場所がないじゃねえか! 特級狩人の名が泣くわ!」
ハウロがキレている。そんな理由で?
そう思ったが、あなたは笑って、それもそうだなと頷いた。
ここまで来て、何もしないでは悔しいだろう。
あなたはみんなにもう少しだけ力を貸してくれと頼んだ。
「案ずるな。最後まで付き合ってやるわい」
「水臭いこと言いっこなしさ! もう少しくらい頑張んないとね!」
エルマたちも骨を折ってくれるらしい。
あなたはこの得難い仲間たちに思わず目が熱くなる。
臨時で出来たこのチームで、こんな激戦に赴くことになるとは。
まったく、いい思い出になりそうだ。
「『ディサーン・オブジェクト/物体探知』……あちらです。部位で言うと心臓部分。『グレーター・テレポーテーション/上級転移』」
あなたたちはジルの転移によって飛んだ。
そして、なにかに激突したような衝撃に弾き飛ばされたように現実世界へと出現する。
あなたは全身に叩きつけられた衝撃に身を捩る。
べつに痛くはなかったが、得も言われぬ違和感が……。
「空間が歪んでおる……ここより先は走るほかないようじゃな」
「『ディサーン・オブジェクト/物体探知』。距離5キロメートル……この空間の歪み、心臓部分は
「なんですそれ」
「元素としての性質を維持しつつ、中性子星並の超密度、1立方センチあたり10億トンもの密度を実現した物質よ」
「正気で言ってますか? 物理法則舐めてませんか?」
「ええ、正気よ。つまり物理法則を舐めているわ」
「意味が分かりません」
「そう言うものよ。重力ギア発電システムは、その質量を用いて発電するもの。これの作用する物体は、通常の物理法則から解き放たれる。実質の質量操作技術ね。無制限に使えるものではないけれど、『インメタル』ほどの大規模建造物ならコンデンサにも消費先にも困らない……実質無制限ね」
「どうにせよ、この物質の周辺では通常の物理法則が成立しない……転移が成功しなかったのはそれですか?」
「そうよ。空間の歪みが強制的にゼロにされているの。転移しようとしても、転移先の歪みを電力に変換されてしまう。走るしかないわ」
理屈はよく分からないが、結論は分かり易かった。
「つまりだ……走れってこったな! いくぞぉぉぉぉ!!!!」
ハウロの怒号と同時、あなたたちは走り出す。
奇妙な違和感の層を抜けて、あなたたちは鋼の大地を走る。
空は暗く、遥か彼方に大地が見え、あなたたちの先には敵。
鋼の大地が浮き上がり、分離し、円筒が伸びる。
大砲……か? あなたがそう目を細めたのと同時、爆炎を伴う発砲。
飛来して来た何かをコリントとジルが殴り飛ばして弾く。
連射されるそれをことごとく弾き、うち1つが正確に打ち返される。
出現してから1分たらずで大砲が爆散した。
「さすが心臓部だけあって、対コマンドか知らないけど対人兵器が充実してるわね! でも76mm高速砲程度ではエクゾスケルトンならともかく、私たち相手じゃ話にもならないわ!」
「未来の兵器とは言え、火薬砲もそのままあるんですね」
さすがはジルとコリントだ。飛来兵器に関しては2人に任せておけばいい。
そう思ったのも束の間、周囲に無数の砲塔が浮かび上がる。
そして、それは次々に間断なく発砲し始めた。
「ああああああ待って待って待って! 速い速い! ばかばかばか! 分間95発の砲を20も30も出さないで!」
「待ってください機関砲や機関銃も出すのはやめてください! 防げるからと言って楽なわけではないのですよ!」
そんな風に泣き言を言いつつも、撃ち返したりなんだりで砲が次々と爆散していく。
一瞬たりとも足を緩めずの迎撃は極まった芸術のような美しさがある。
だが、大砲だけなら苦労することなく辿り着けそうだ。
他の面々は知らないが、あの程度の攻撃なら直撃しても平気だし。
そう思った直後、あなたたちの進む先の地面がパクリと開く。
そこから飛び出して来たのは、鋼の箱のような奇妙なものだった。
上部には大砲が乗せられていて、その下はより大きな箱。
平べったい金属の板がキュルキュルと回って走っている。
「戦車まで出て来たぞ!」
叫びながら、ハウロが前方へと突出。
ハウロには大砲に対処する技術はないが、よける技量はある。
発砲された砲弾を躱しながら突進、手にした旋棍で砲を殴り飛ばす。
砲は肉厚の薄い金属で出来ている。
強い力で殴りつけられれば破損する。
ぐにょりと砲が曲がり、砲は使い物にならなくなった。
「しゃあっ!」
その横を走り抜け様、旋棍による渾身の打突。
分厚い金属板に見えたが、思ったよりは薄いらしい。
ハウロの旋棍打突が装甲を爆砕し、内部の構造を破壊した。
「うおっしゃあっ!」
裂帛の気合と共に、ハウロが箱に飛び乗り、さらに跳躍。
空中に飛び上がり、無数に出撃して来た箱を次々と殴り壊していく。
「0式戦車をバカスカ殴り壊してるんだけど。130mm砲防御なんだけど」
「130mm砲は10d15でしょう。最大値でも150では大したことないと思いますが」
「言われてみるとそうね……」
見た目の重厚さに反し、割と脆いらしい。
ならばとセリアンも飛び出し、背に負っていた鉄板の如き剣で殴り壊していく。
アダマンタイトの巨剣はその超重量だけで装甲を破砕する。
「姉者! なんか冴えた方法ないのかい!?」
「この状況では別次元からクリーチャーを招請もできんわ! 儂も一応『迷路』とか『異次元捕縛』で対応しとるんじゃぞ!?」
エルマは肉体的にはか弱い。
しかし、その対応能力は非常に頼れるものだ。
先ほどから他の面々の手が届かないような敵をどこぞに葬っている。
こういう目端の効く魔法使いがいると非常に助かるものだ。
いける。
このまま。
チームワークが『インメタル』の喉元に刃を届かせようとしている。
あなたは勝利への確信を深めはじめた。
まだ、この先に強敵はいるかもしれないが……。
みんなとならば、いける。
そう信じられた。
心臓部まで、残り3キロメートル……。
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