あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 鋼の大地を疾駆する。火薬の弾ける音、鋼の衝突音。

 コリントいわく、レーシキセンシャとか言う鋼の箱。

 ハウロがぶん殴ると簡単にひしゃげて壊れる。

 あなたも試しにちょっと殴ってみたが、非常にあっさりと破壊出来た。

 

 ブリキのバケツほど脆いわけじゃないが。

 こんなに楽々破壊出来てしまうようでは戦争には使えないのでは。

 いや、少々でかいが、量産可能な武具と考えると比類なき強力さではある……か。

 

 大砲はクリーンヒットさせればベテラン冒険者でも即死。

 上手く防いでも重大な傷を負わせることができるだろう。

 それほど強力でありながら、あれはあくまでも道具だ。

 つまり、扱い方を覚えれば、長年の訓練は必要ないのだろう。

 

 剣士が一端になるには早くても1年はかかる。

 その一端と言うのも、あくまで最低限の戦闘が出来るかどうかだ。

 1年の訓練ではレーシキセンシャに手も足も出ないだろう。

 むしろ10年や20年訓練しても、成すすべなく負ける者の方が多かろう。

 

 なるほど、普通なら雑兵で終わるような者の平均値を大幅に底上げする。

 そう言う意味で、レーシキセンシャと言う兵器は極めて強力だ。

 レーシキセンシャ並の戦闘力を持てるのは極一握りの才能ある者だけだ。

 あとは値段と、製造にかかる時間だろうか。

 あれだけ強力な大砲となると腕利きでないと作れなさそうだし……。

 

 まぁ、『インメタル』が送り出す限りにおいては。

 どうやらそれは無尽蔵かつ無制限で、無料らしい。

 1つ壊したらもう1個無料。そのくらいの勢いだ。

 内側に大規模な鍛冶場か、工廠でもあるのだろうか。

 

 レーシキセンシャが次々と吐き出されては、ガラクタに変わり果てる。

 あなたたちの往く道に、一山いくらの金属スクラップが転がる。

 

「おい! 今度はメックみてぇなの出て来たぞ!」

 

「ドラグーンよ! AIアビオニクスは体の扱いは“巧い”けど、身体能力は大したことないわ! 受け流せないように切って!」

 

「よし来た!」

 

 レーシキセンシャが途切れたかと思うと、次々と人型の兵器が出現してくる。

 ソーラスの迷宮で戦ったドラグーン、その亜種や強化種と思しきもの。

 ライデンとか言うのよりも、さらに大型であったり、さらに小型であったり、さらに細身であったり。

 よくぞまぁこれだけの種類が……と驚くほどの種類が次々と出現してくる。

 

 ライデンより一回りは巨大で、丸っこい体躯のドラグーンが手にした大砲を向ける。

 ハウロが飛んで来た弾丸を飛び蹴りで横合いに弾き飛ばす。

 が、蹴りが命中した瞬間にそれは炸裂。ハウロの全身が火に包まれた。

 

「ああああああぎゃああああああああぁぁぁァァ――――!!」

 

 ハウロの壮絶な悲鳴があなたの耳朶を打つ。

 いくら肉体が頑強でも属性耐性は普通手に入らない。

 それは防具や魔法で手に入れるものだからだ。

 

「ヘビーフレームのスコーチング・タイタンじゃない! テルミットランチャーは触発信管だから触れた瞬間に炸裂するわ!」

 

「それはもっと早く言ってあげてください!」

 

 エルマの魔法によってハウロの火が鎮火させられる。

 あなたが『ジュステアトのまなざし』をぶち込むと、即座に回復。

 ぱっと弾かれたように飛び起き、ハウロが戦線に復帰した。

 

「熱いじゃあねえかよコノヤロウ!」

 

 ハウロがブチキレると同時、背に負っていたカバンを引き裂く。

 ボルボレスアスには魔法の道具もほとんど存在しない。

 そのため、道具類を運ぶのにカバンや背負子を使うのは普通のことだ。

 なのでそのカバンの存在に疑問は抱いていなかったのだが。

 

 どうやら、中に入っていたのは便利な冒険道具などではなく。

 背に負っていた大型武器の、鞘代わりに負っていたらしい。

 手にしていた旋棍2つを連結し、1メートルほどのポールに。

 そのポールを背負っていたモノに接続、振り上げる。

 

 奇妙な武器だった。

 それは超大型のバトルハンマーに見えたが。

 ヘッドは奇妙なほどに平べったく、シャフトは短い。

 しかし、バトルアックスと言うには分厚過ぎる。

 どっちつかずの、奇妙な打撃武器だ。

 

「どぉらぁあああ!」

 

 振りかぶった一撃を強烈にスコーチング・タイタンへ叩きつける。

 スコーチング・タイタンはその重厚な見た目に反し、酷く滑らかな動きでそれを受け流そうと試みた。

 だが、その技量を超えるほどの速度とパワーが、それを打ち破った。

 

 スコーチング・タイタンの正面部分が陥没し、数メートルほど吹き飛ぶ。

 スコーチング・タイタンはまんまるい印象のそれに違わず、ボールのように転がっていく。

 

「あの重さの敵を、純粋な腕力で吹き飛ばしましたね……」

 

「スコーチング・タイタンって、自重10トンはあるはずなんだけど……」

 

 コリントが呆然と呟く通り、ハウロの力はすさまじい。

 あれで魔法による増強無しなんて信じられない……。

 

 魔法で丹念に増強し、魔法の装備で補強したならば。

 ハウロの凄まじい筋力は神話の領域に達する。

 ドラゴンを小指で薙ぎ倒して酒のツマミにするなんて朝飯前だろう。

 

「まぁだ行くぜ!」

 

 ハウロが手にした戦槌を振り上げる。

 そして、その戦槌のヘッドがパクンと開いた。

 それは左右に広がって、まるで三日月のような形状に変形。

 ぎらりとぬめるような光沢を宿した刃が顔を覗かせていた。

 

「っしゃあ!」

 

 刃の後方にあるシャフトを握り、ハウロが飛び上がる。

 まるで空中で弾かれたような機動は目を疑うような光景だ。

 だが、それが何によってなされたものか、あなたには分かる。

 

 ハウロは気功が使えるのだ。

 

 旋棍を使っていた時からなんとなくそうだと思っていたが。

 ハウロはあなたがセリナに習い覚えた気功の使い手だったのだ。

 精錬した気を練り、それを爆発力に、推進力に変えている。

 

 ボルボレスアスの狩人の肉体能力、その素質、才能はすさまじい。

 学びさえすれば、あなたより格段に上手くやると思っていたが……。

 なるほど、気功を覚えた狩人ってあんな化け物だったんだ……。

 

「おおおおおおらああああああぁぁぁぁぁぁ! 退け! 退け! 邪魔だボケが! 死に晒せやぁ!」

 

 円月剣による凶悪な斬撃、戦槌による強烈な打撃。

 その2つを使い分け、気功による身体増強、機動力強化。

 そして、時にヘッド部を蹴り飛ばして遠隔攻撃をし、旋棍で薙ぎ払う。

 

 奇妙な仕掛け武器を使いこなす技量。

 そして何よりも神がかり的な身体能力。

 まさに人間の形をした暴風の如き暴力だった。

 

「……戦士系のピュアビルドってあそこまで爆発力あるんですね……知らなかった」

 

「私たちのビルドは小賢し過ぎるのかもしれないわね……」

 

「純粋な打撃力っつーか、戦いにだけ特化した戦士ってあそこまでなんだねぇ……」

 

「儂、怖過ぎてハウロに近づきたくない……一瞬で挽き肉にされそうじゃもん……」

 

 キャロラインを除いた全員が、やや恐怖混じりにハウロを評した。

 あなたは純粋に、すげー、と思っていた。まさに戦いの芸術と言うか……。

 暴力性と超人的な身体能力、そこに実戦で錬磨され尽くした総合戦闘技術で覆う。

 すると、あんな人の形をした暴風のようなものになるとは……。

 

 純粋な破壊力や戦闘力ではあなたの方が上だが。

 ある種の芸術性すら感じさせる野趣あふれた闘技にはどこか惹かれるものがあった。

 

「すばらしい……破壊に優れ……無慈悲で……暴力的だ……おお、美しき野獣よ……貴公の美しき闘技、堪能させてもらった……ならば、次はこの熱血の闘士が熱月の秘跡をご覧に入れよう」

 

 今まで黙って追随していたキャロラインがそう零す。

 左手を胸に当て、右腕をうなじに当てる、不思議なポーズ。

 そして、目をぎょろぎょろと蠢かせながら、叫ぶ。

 

「見たまえ! 月は空にある!」

 

 そりゃそうだろ。あなたは思わず胡乱な目で見る。

 が、直後にあなたは異変に気付いた。

 

 月が浮かんでいる以外は無明の闇だった空。

 それが今は、見惚れるほどに眩い星の大河となっている。

 美しい……これほどまでに美しい星空は初めて見た。

 エルグランドの冬の星空は世界一美しいと思っていたが。

 これはそれよりもずっと美しかった……。

 

「おお! 熱月よ……星光の襲撃者よ!」

 

 そして、その眩い星の大河は、星屑となって降り注いだ。

 魔力、あるいは別の力か、分かるのは、ただ強大であるということ。

 その強大なパワーの放射が次々と地表へと降り注ぐ。

 

 凄まじいパワーを帯びた青白く輝く岩塊。

 それは鋼の大地をいともたやすく粉砕する。

 居並ぶドラグーンが一撃で木っ端微塵になる。

 

 まるで『メテオスウォーム』のようだ。

 だが、アレよりもずっと強力で広域に渡る破壊を及ぼす。

 あなたの皮膚を焼く破壊の余波からするとだが。

 おそらくあなたの防具の耐性でも威力を削減できない。

 

「なにこれ……呪文でも、サイキックでもない……」

 

「システムが違い過ぎる……」

 

「月じゃ。儂にはわかる。あれは月の呪文じゃ」

 

「ああ、そうだね……あたしら星見にはわかる。懐かしい月の香りだね、姉者」

 

 『メテオスウォーム』は火の属性を持つ。

 広域に高威力の攻撃をばら撒く、極めて強力な呪文だ。

 そして、エルグランドにおいて火の属性は……。

 強力であるがゆえに、無力なものとなっている。

 

 強力な温度変化は物品の破壊をもたらす。

 それゆえ、対策を講じるのは必須事項。

 それは時代が変わっても変わらないひとつの真理。

 

 であるがゆえに、多くの人々が火への耐性を得る方法を考えた。

 その歴史の積み重ねがゆえに、火の属性はネタになった……。

 誰もかれもが火属性への耐性を万全にしているからだ。

 

 つまりだが、もしも『メテオスウォーム』の属性をべつのものに。

 それこそ耐性を得るのが難しい純粋魔法属性にでもできたら。

 それはすばらしい破壊の呪文となってもてはやされるだろう。

 

 キャロラインがやっているのは、それに近しいものだ。

 あなたは羨ましくなった。

 

 

 ドラグーンの集団を突破し、前面も大幅に耕した。

 キャロラインの星光の爆発の範囲と威力はすさまじかった。

 ただ、攻撃密度が割と大雑把で、生き延びた敵も少なくなかった。

 

 それらを相当しながら前進し続けて。

 あなたたちは遂に辿り着いた。

 

「やあ。待ってたよ」

 

 先ほどあなたたちを攻撃したチョコがそこには待っていた。

 全員が警戒するが、チョコは動きを見せる様子はない。

 

「大丈夫。ここまで肉薄されたら、私に打てる手はないよ。厳密に言うと打てる手はあっても、君たちには通じないからね。でも、私は『アルメガ』と同様の性質を持っている」

 

 それはつまり……光と同化するとか言う意味不明なヤツ?

 

「そうだね。私は光じゃなくて空間と言うか、歪みに依存してるんだけど。光すらも逃さない空間の歪み……だからこそ『アルメガ』の対抗策たりうるんだけどね」

 

 歪みに……依存? 意味は分からないが……。

 どうやら、厄介な不死性の持ち主なのは同じらしい。

 

「君は、自信あるよね」

 

 なんの?

 美貌とかスタイルの美しさなら、まぁそれなりに。

 お金持ちさとか、戦闘力とか、夜のテクとかなら、絶大に。

 

「君、『アルメガ』が復活してもなんとかなるさ、って自信ありげな顔してたよ」

 

 そんな機微まで読めるらしい。

 あなたは機械の癖に人の心情に聡いなと唸った。

 

「『アルメガ』を倒す自信、あるんだよね」

 

 ないと言えばうそになるだろう。

 

「そう。私はそれを確かめたい。というより、君に倒されておかないと、『アルメガ』に情報が流れる危険性がある」

 

 ならば、お望みどおりにしてやるとしようではないか。

 いま、ここで、『インメタル』を討たせてもらう。

 

「君にとっても、『アルメガ』に通じるか確かめられる……私を倒せれば『アルメガ』も倒せると思っていいよ」

 

 なんとも殊勝な提案だ。

 予行演習の相手になってくれるなんて。

 ならばと、あなたはやってやると頷いた。

 

 あなたは周りの仲間たちに、一時離脱して欲しいと頼んだ。

 エルマのやった、約20秒間の時を飛ばす荒業。

 あれで20秒の間だけ逃げていて欲しい。

 そうでないと、おそらく破壊の余波で仲間たちを殺してしまう。

 

「任せてええんじゃな……?」

 

 なんとかなるさとあなたは笑って頷いた。

 エルマはコクリと頷いて、複数の呪文を発動して一同が消え去った。

 

 

 それらを見送って、あなたは『インメタル』の端末、チョコに向き直った。

 

「じゃあ、やってみてよ」

 

 お望みどおりにしてやるとしよう。

 あなたは自身の速度を最大にまで引き上げた。

 

 周辺への影響が出ない最大戦闘速度。

 それを大幅に超えた、危険速度をも超えた速度。

 あなたの生得的に持つ超速度が最大限に発揮される。

 

 だが、それもやがてはある一定の段階で止まる。

 そして、あなたは切り札を切った。

 『根之堅洲國死返法(ねのかたすくにまかるかえしのほう)

 

 かつて、パンサラゲア神を倒した時にも使った切り札。

 あなたのどことも言えない場所に、壮絶な激痛が走る。

 魂をやすりにかけられているというのだろうか。

 あるいは心臓に縄をかけて、全力で引っ張られるような。

 

 そしてあなたは、なによりも速く、誰よりも速く、飛んだ。

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