切り札を切ったあなたは何よりも速い。
そして、緩慢に進む世界の中で、あなたは酷く単純な一手を切った。
ただ一撃に懸ける……いや、一撃に懸ける以外に道がない。
二撃目を放つ余裕などあるわけもない切り札なのだから。
だからこそ、その一撃は乾坤一擲の一撃だった。
すべてが崩壊する。
鋼色の巨人が消し飛ぶ。
そしてすぐさま 『
0.01秒であろうが続けていたくないほどの負荷なのだ。
あなたは『インメタル』が消し飛ぶ中、アフターリスクに身悶えした。
げうー、とあなたは激しく吐血していた。
内臓がずたずたで、今のあなたの体内は血のシチューのような有様だ。
全身の肉と言う肉がちぎれ、骨と言う骨が砕けていく。
「なるほど……発想の直線運動としか言いようがないよ。もう少し物理法則に敬意を払った方がいい」
いつの間にやらあなたの眼の前に流れて来た、頭部だけのチョコ。
あなたは倒し切れなかったのかと戦慄した。
「言ったでしょ。私は『アルメガ』の悪夢。見る者にとって最大限不都合な、最悪の悪夢……つまり、殺せないんだよ」
なるほど、それはなんとなくわかる。
あなたにも幼く純粋な頃があったが。
その頃に見た怖い夢の怪物は無敵だった。
魔法を叩き込んでも、剣で切りつけても倒せない。
そんな絶望的な悪夢の怪物がいたものだ。
『インメタル』がそうならば、なるほど、倒せないのだろう。
「君、自分がなにをやらかしたか理解して……ないね」
フゥー、と口で溜息をついたような仕草をするチョコ。
「まぁ、いいよ。たしかに、アレなら『アルメガ』も殺せる。応援してるよ……」
チョコは最後にそう言って微かに笑った。
そして、ぼろぼろと鉄片を零して、消えて行った。
チョコが消え去り、あなたはようやく体面を取り繕わなくてよくなった。
痛ェ~!!! とか叫びながらあなたは耐える。
叫んで悶えるくらいしか、出来ることがないのだ。
この痛みは魔法では癒えない。時間だけが唯一の薬だ。
パンサラゲア神の時にやったよりも後遺症が酷い。
0.1秒の差でも後遺症の度合は段違いなのでしょうがない。
『アルメガ』相手に使った時、無事でいられるだろうか……。
「うおっ、何もねぇぞ!?」
「わっ、わっ……あれ? 落っこちない?」
「無重力状態ですね」
苦しみに悶えていると、そんな声が聞こえて来た。
どうやら20秒ほど経って、他の面々が戻って来たらしい。
あなたはお帰りと笑って声をかけた。
しかし吐血が止まらず、溺れた人が助けを求めるような声が出た。
「ただ……ワァーッ! 凄いことになってる!」
「医者ぁー!」
「『復元/レストレーション』! ……なに!?」
ジルが驚いているが、残念ながらあなたに回復の効果はほとんど出なかった。
今のあなたは魂に壮絶な負荷がかかり、ひどく摩滅した状態だ。
生命力の器たるものが壊れているので、満ちるはずもない。
あなたは気にするなと口からドバドバ血を流しながら言った。
「いや、気にするなて……どうしましょう」
「儂らに分かることではないんじゃろう。どうすればいい?」
エルマが真剣な顔であなたに尋ねて来る。
あなたは物理的、魔法的治療は無意味だと答えた。
魂そのものを回復させるような技術が必要だ。
そして、そんな魔法や技術は存在しない。
「蘇生呪文はどうじゃ?」
あれは魂を呼び戻して、肉体を再構成する魔法だ。
魂が無事なのは前提条件なのである。
なので、破損した魂を回復させるような効能は一切ない。
「なら、何かして欲しいことはあるか?」
ハウロがあなたの手を優しく握り、そう尋ねて来る。
あなたはせめてものこと、おっぱいが揉みたいと搾りだすように言った。
「割と余裕じゃねえか?」
「儂、揉めるほどないが、それでもええか?」
「ほら、遠慮なく触んな」
エルマとセリアンが1ミリの躊躇もなく触らせてくれた。
あなたはあまりの素直さに思わず涙ぐむ。最高の看護だ。
「おいおい、いいのか?」
「実際、魔法も薬も効かんのならば、寄り添ってぬくもりを与えるくらいしかできんからのう……」
「死ぬ寸前の重傷を負ったやつが、せめて女の胸を触りながら死にてぇって言うことは結構あったからねぇ……」
「お、おお……お、俺の優しさが不足してただけか……ご、ごめんな?」
ハウロが申し訳なさそうに謝って来た。
が、普通にあなたの方が悪いので気にするなと笑った。
だが、申し訳ないと思って居るなら、せめてひと舐め、ひと吸い。
「ふざけんな」
ハウロがあなたの頭をベシッと叩いた。
あなたの首の骨がボキッと折れて、首がぐにゃりと曲がった。
あなたの呼吸は止まった。むがっ、あっ、ちょっと死ぬっ!
更なる苦しみの追加に悶えたところ、冷たい手があなたの頭を正常な位置に戻した。
「なにやってるのハウロ!」
「おおおおお俺が悪いのか!? 軽く叩いただけだぞ!?」
「軽くであっても重傷患者を殴る時点で非常識なんですけど」
「それはそう……」
「ハウロ……あんた、責任取って吸わせてやんなよ」
「うぐぅ……く、くそ……」
あ、吸わせてくれるんだ……。
ハウロが渋々ながらも鎧を外して服を脱ぎだした。
あなたは言ってみるもんだなとウキウキした……。
しばらく看護され、小康状態に入ったところであなたは転移で移動した。
だが、まだ動けそうにもない。魔力も生命力もほぼ空っぽだ。
あなたは『ポケット』の荷物を大半放り出し、『四次元ポケット』を無理やり発動させた。
魔力の枯渇に対し、生命力が強制変換される。
あなたは血反吐をぶちまけたが、歯を食い縛って無理やり魂を現世に踏み止まらせる。
息も絶え絶えになんとか『四次元ポケット』に荷物を放り込む。
虫の息のあなたは申し訳ないが運んでくれと頼んだ。
「お、おう……おら、おぶされよ……」
ハウロがおんぶしてくれた。これはありがたい。
ハウロの高めの体温が気持ちいい。
「本当にリスクが激しい切り札なんじゃな……」
「ここまでと言うのはなかなかないわよね……」
「おお、貴公……激戦であったのだな……後ほど、私の乳房を存分に吸わせてやろう……」
ものすごくうれしい申し出なのだが。
キャロラインはなんか変な汁出て来そう。
なので吸いたいが、吸いたくない。
しかし、揉むだけ、舐めるだけなら……。
「『インメタル』の脅威はなくなったわけだし、ゆっくりと元の領域に戻ろうや」
「そうですね。無事な空間にまで出れば、後は転移ですぐです」
「彼女の負担にならないよう、ゆっくり行きましょうか」
そうしてくれると本当にありがたい。
いつもならそんな気遣いは不要と言うのだが。
今はもうとにかく丁寧に扱ってほしい。
ハウロが歩く衝撃だけで物凄くつらい。
肺が打ちのめされるようだし、胃は弾けているかのようだ。
物凄く気分が悪いし、全身が痛かった……。
それからしばらくのこと。
あなたたちは飛空列車に乗って月まで移動し。
その月から遥か彼方の上方領域にまで転移した。
そしたら後はジルの手で元の次元に帰還するだけ。
あなたは慣れ親しんだアノール子爵領に帰って来た。
半死半生のあなたは速やかに部屋に戻され、ベッドに寝かされた。
首を動かす力さえもロクに残っていないため、柔らかな布に埋め込まれるような状態だ。
「俺はおまえの仲間に連絡してくるわ」
「効くか分からんが、鎮痛の薬湯でも作るかのう。セリアン、薬草摘みを手伝ってくれ」
「あいよ」
「私とジルは魂の消耗に効果のあるマジックアイテムがないか探して来るわね。少し留守にするわ」
「まず私の領地の倉庫を見て、それからコリントさんの城に行きましょうか」
「ふぅむ……ならば、私は救児院の方に連絡に行くとするか……」
とのことで、ハウロを筆頭にぞろぞろとみんなが出ていく。
部屋に1人となったあなたは、やることもないので寝るかと眼を閉じた。
痛くないところがない有様なので、なかなか寝苦しいが。
まぁ、目を閉じて大人しくしていればいつかは寝れる。
そう思って大人しくしていると、部屋のドアがノックされる音。
あなたは眠る準備を妨げられて少し不快に思ったが、入室を促した。
すると、部屋に入って来たのは、サシャとレインとフィリア。
EBTGの始まりのメンバーと言うべき3人だった。
「うわ、本当にヤバそうじゃない……なんで半死半生で帰ってくるの……?」
「ご主人様が半死半生になる相手……!?」
「いったい何があったんですか!?」
サシャたちには心配されてしまった。
今の今まで、あなたは無敵の頼れるご主人様だった。
それが半死半生で帰ってくるなんて、青天の霹靂と言うほかない衝撃だろう。
実際、あなたが半死半生になるなんて普通はないことだ。
まぁ、しばらく安静にすれば多少なり復調する。
どこまで復調するかは不明だが、それなりに動けるだろう。
少なくとも指1本動かすのも苦労する状態からは脱せるはずだ。
「それにしたってね……何か必要なものとかある?」
今のところ特にはない。
可能ならおっぱいのひと揉みもしたいところだが。
正直、今はおっぱいを揉むのもしんどい。
受傷直後はまだ動けたのだが。
いったん安静にしたから気が抜けてしまった。
今はひたすら眠りたい。
「ご主人様死んじゃいやですよ! 私を置いていかないでください! やだ、やだぁ!」
「ああ、ザイン様……! なにゆえ勇敢な戦士に無用な死の定めをお与えになるのですか……!」
「い、イミテルを呼んで来るわ! 諦めちゃダメよ!」
休ませてくれと頼んだら、そんな反応をされた。
なんで……? あなただって休みたい時くらいあるのだが……。
イミテルを呼ばれても今は応対するのもきつい。
疲れてるので、もう寝かせてくれとレインに答える。
妻相手に不義理ではあるが、目が覚めてからで。
まぁ、少し長い眠りにはなると思うが。
「生きることを、諦めないで……!」
いったいなんの話をしているのだろう……?
涙ながらにそう叫ばれ、あなたは言葉に詰まった。
べつに生きることを諦める理由なんかカケラもないのだが。
部屋から飛び出していったレインを見送る。
なんかよくわからないが、眠らせてもらおう。
「起きて! 目を閉じないでご主人様! 私も、お母さんも、イロイも、どうしたらいいんですか!」
え、なんの話……?
あなたは閉じかけた目を無理やり開く。
サシャとブレウとイロイがどうしたって?
「イロイはまだ生まれたばっかりで……」
うん、そうだね。
「お母さんもまだイロイを産んだばかりで……」
うん、そうだね。
「私は本を出したばっかりなのに……!」
うん、そうだね……うん、それで?
あなたを叩き起こす理由はどこに……?
「私たちみんな、ご主人様が大好きなんですよ!」
知っていたことだが、口にされると超うれしい。
あなたは思わず笑って、自分も大好きだよとサシャに答えた。
「う、うわぁああん――――!」
なんか泣き出した。
そんな勢いよく泣くほど嬉しかったのだろうか。
あなたが首を傾げていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「あなた!」
イミテルだった。
もうだいぶお腹も大きくなってきたのに、走って来たのだろうか。
あなたはお腹の子に悪いよと少し注意した。
「馬鹿者! そんなことを言っている場合か!」
駆け寄ってくるイミテル。どうしたのだろう。
「わ、私を置いていくつもりなのか……!?」
なんの話?
あなたは目を白黒させた。
置いていくって?
どこに?
「だめだ、死ぬな! お腹の子を父無し子にするつもりか!」
死なないが? なんの話だ?
たしかに半死半生だが、放っておいたら死ぬほど悪くもない。
少なくとも、攻撃されでもしなければ死にはしない。
「えっ」
えってなんだ、えって。
「し、しかし、レインがあなたが危篤だと……」
危篤状態と言うと、助かる見込みがないことを言う。
あなたは助かる見込みがバリバリにあるのでそれは違う。
なので、レインの早とちりだと答えた。
すると、イミテルがやや剣呑な目でレインを見やった。
「……おい」
「だ、だって! 冒険しにいって、1日留守にしてたのよ!? 禁欲して来たハズ! なのに誰ともヤりたいって言い出さなかった上に、眠らせてくれとまで言ったのよ!? 死ぬと思うじゃない!」
「た、たしかに、我が鼓動がそんなことを言い出したら死にそうではあるが……! だがなぁ!」
「も、もう! 紛らわし過ぎますよご主人様! 死にそうな誤解を振りまかないでください!」
半泣きのサシャがそう言ってあなたの胸を叩いた。
あなたの肋骨が折れ、肺に突き刺さった。
あなたは勢いよく鮮やかな血を噴き出した。
どうやらあなたはここまでのようだ……。
「う、うわぁぁぁぁぁあ! ご主人様ぁぁぁ!」
「重病人を叩いちゃダメですよ!! 『大治癒』!」
フィリアが血相を変えてあなたに『大治癒』を流し込む。
その暖かな光にあなたの折れたあばらが回復する。
今のあなたは生命力の上限そのものが削れている。
そのため、フィリアの回復魔法も十全に効果を発揮してくれた。
「ど、どうやら、死なずともすごく危険な状態ではあるらしいわね……」
「う、うむ……」
もう頼むから本当に寝かせて欲しい。今ので余計に疲れた。
あなたは静かに息を吐いて、そっと気絶した……。
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