14-001
なんのかんのとあなたの体調は復調して来た。
まぁ、受傷してからそろそろ1週間が経とうとしている。
とりあえずの小康状態に入るには十分な時間だ。
そして、あなたはぼつぼつと訓練に参加するようになった。
もともと訓練期間だったのだ。訓練に戻るのは当たり前だ。
って言うかなんでクロモリの悪夢をなんとかしようとした結果が瀕死の重傷なのか……。
文句を言うつもりはないが、いまいち釈然としない。
まぁ、とやかく言ってもしょうがないか。
べつに褒めてもらいたくてやったわけでもなし。
クロモリにわざわざ説明して謝罪を引き出そうとも思わない。
クロモリがまだ堕ちてなかったら、恩着せがましく説明して一発や二発ヤらせてもらった可能性は否定しないが……。
さておき。
あなたは訓練に復帰したが、とてもではないが完調ではない。
それこそ、動くのも億劫な状態から抜け出しただけだ。
まだ動くと全身が痛むし、食欲もあまり湧かない。
だが、動けないほどではないし、深い疲労も消えて来た。
日常には戻れた。能力の低下は極めて深刻なものだが……。
いまのあなたは水が満載のタルを片手で持ち上げることもできない。
両手を使わないと持ち上げられず、素早く動くこともできない。
平時なら小指で持ち上げ、地平線の彼方まで投げられるというのに。
いつもの天下無敵の筋力は影も形もなかった……。
「水が満載のタルを持ち上げられる時点で十分超人的ですけど」
フィリアに突っ込まれてしまった。
まぁ、さすがにそれくらいは分かっているが。
いつものキレがない体は、やはり重い。
日常生活には困らなくなってきたので。
まぁ、勉学面を重点的に修行をするとしよう。
ジルに『
ハウロやセリアンやコリントと共に体を動かし。
あなたは充実した訓練の日々を送っていた。
「こいつ身体能力が落ちても普通にメチャ強ェのなんなん……?」
今日はハウロと剣での試合をした。
旋棍と戦槌を主体にしているが、モモロウよりなお達者な剣技も使える。
ボルボレスアスの狩人よろしく、粗削りで対人向けでない剣技だが。
やはり、タイミングや呼吸を計る技量、そこに打ち込む思い切りのよさ。
そう言う部分はやはりすばらしいものがあり、かなり強い。
まぁ、ハウロが言う通り、普通に勝利したが。
「衰えたにしても、一般的には超人的な身体能力があるのと」
「身体能力由来でない、純粋な技術の部分がヤバいのと」
「あと、普通に頭のデキってーか、経験? クレバーさって言うのかね?」
ジルにコリントにセリアンがそのようにあなたを評する。
身体能力が落ちている今、頼れるのは技量と経験だ。
いつもは割と雑に戦っているところがあるが。
最近は衰えた身体能力を補うべく、丁寧に戦っているし。
「この人、ヤバ過ぎる身体能力と魔法に目が行きますけど、普通に各種技能も高度ですからね」
「あと、何気なくハウロの癖とか技術とかもちゃんと覚えてるから、そのあたり突かれて負けてるわね」
「てっきり力任せなタイプかと思ってたんだけど……力任せじゃなくても、やれるんだねぇ」
ハウロは基本的には高度な戦闘技術を持つ戦士だが。
やはり、対人ではなく対飛竜が専門の戦士だ。
そのため、つけ入る隙は結構あるのだ。
仕切り直しに退く際は上体から退いてしまうし。
躱す時は最短最速で避けようとする癖があり、右に抜けようとすること。
そして、武器をよく見て動く癖があるので、相手の剣の持ち方で顕著に動きが変わること。
そのせいか、戦闘中に剣を持つ手を入れ替えると少し反応が鈍くなること。
そう言う癖や弱点があるので、正直ハウロはそんなに強くなかった。
「くそぉ、そう言うことか……情報収集とか対策とか、キッチリやられてんのか……」
「ハウロさんが対人戦闘が不得手なのも大きいとは思いますがね」
実際それはある。
あなたはジルやコリントには割と負けているからだ。
というより、ジルやコリントには8割以上は負けている。
魔法無しの純粋な肉弾戦なら6割くらい勝っているが。
「弱体化してもこんだけ強いとはねぇ……いやぁ、本当にとんでもない子だねぇ」
セリアンに頭を撫でられ、あなたは鼻高々だ。
いくら強くなっても、褒められるのは気分がいい。
体を動かす訓練は基本的には体を慣らす目的が強い。
そのため、あなたの訓練の本題はやはり魔法にある。
『
そうでなくとも、オリジナル魔法の作り方、その儀式の手法は非常に勉強になる。
やはり、かゆいところに手を届かせる魔法が欲しいものだ。
問題があるとしたら、やはり、練り込み不足というか……。
十全に研究し、よく練り込み、丁寧に纏める。
その上で長年の研究を経て、効率化していく。
魔法と言うのはそのようにできている。
だからか、オリジナル魔法の多くは非効率なものとなった。
この大陸の魔法で純粋魔法属性の『火球』を作ってみたが。
本来3階梯の魔法なのに6階梯の魔法になってしまった。
純粋魔法属性が強力にせよ、6階梯まで上がるのはやはりあなたの未熟さがゆえ。
世に知られる魔法たちの神がかり的な効率性には驚かされるばかりだ……。
そこに近づけるのに長年の研究をしろと言うことなのだろうが。
さすがに魔法作成の達人になってから冒険に出るわけにもいかない。
そんな気の長いことやっていられない。非効率は承知で、最低限の使用に留めるしかあるまい。研究は追々だ。
「お、お金が……! お金が飛んでいく……!」
レインが嘆くように、研究には金がかかり過ぎる……と言う問題もある。
悲しいことだが、金とは使ったら無くなるものなのだ。
研究ばかりしていたら財布に穴が開いてしまうだろう。
魔法の使用に用いる触媒の効能の研究、また魔法の作用の観測。
そして、それら魔法を使うのに必要な諸々のコストや道具。
そう言ったものを勘案すると、出費は莫大なものになる。
1つの魔法の作成に金貨数百枚や数千枚がかかることもザラ。
そして、レインが挑んでいる『神話級呪文』はケタが1つや2つ上がる……。
あなたはともかく、レインの財布はそんなに厚くないのだ。
魔法使いとは金がかかるものなのは世の常だが。
『神話級呪文』の研究にはなおさらに金がかかる。
あなたは世知辛いなぁとぼやいた。
「有用な魔法だったら、スクロールにして売り捌くとか手もありますがね。オリジナル魔法なので多少ボッても文句言われませんし」
「ぐぅ……! 『風呂作成』の呪文なんて誰が買うのよ……! どこでもお風呂に入れたらと思って作ったら、7階梯呪文になっちゃったんだけど……!」
「うわぁ。効果はどんな感じですか」
「厚さ5センチ、長さ50センチの岩の壁を10枚召喚して箱を作り、そこに300リットルのお湯を満たす呪文ね」
「うーん。7階梯呪文にしてはややしょぼい。生命力増強とか、そんな感じの付加効果は……」
「ないわ!」
「無茶苦茶しょぼい」
たしかにものすごくショボい。
なにがショボいって、その魔法を使う必要性がない。
5階梯呪文の『石壁』と、1階梯呪文の『水作成』。
温度を上げる方法は種々様々にあるので割愛するとして。
5階梯呪文1回、1階梯呪文が5回くらいで済むだろう。
7階梯呪文1発よりは消費が少ない。
以前にレインに教わった魔力温存特技の『水の飛沫』が使えれば5階梯呪文1発で済む。
「『水作成』は信仰系よ……私には使えないわ」
そう言えばそうか。あなたはその辺りの区別に疎い。
呪文回路さえ覚えてしまえばどちらも問題なく使えるからだ。
あと、ジルやコリント、エルマも、そのあたりの区別なく使える。
なので余計に、レインも信仰系が使えるように錯覚してしまう。
「でも実際のところ、水を用意するだけならそれらしい呪文はいくつもあるの。この呪文のいいところは呪文1発で済むところだけなのよ……!」
本当にショボすぎて涙が出て来る。
存在価値がまるきり感じられない。
まぁ、あなたみたいに莫大な魔力の持ち主ならアリかもだが……。
「まぁ、面白そうなので、スクロールを1枚作っていただけたら買い取りますよ」
「うぅ、悔しいけど財布の足しにはしたいから造らせてもらうわ……」
嘆くレインに助け舟を出すジル。
あなたも可哀想だったので、1枚買わせてもらうことにした。
エルグランドに持って帰って複製し、友人たちに配ろう。
そうでなくとも自分で風呂に入りたい時に使ってもいいし。
スクロール1枚で済む手軽さは割と得難いと言えばそうだし。
時間経過で消滅するだろうから掃除の手間も無いだろうし。
7階梯呪文なので値段がクッソ高いことを除けば。
スクロール1発で風呂が用意できるのは便利……かも。
こんな調子で、あなたの訓練の日々は順調だ。
今日もまた勉学と運動に精を出し、屋敷の風呂で汗を流す。
訓練には不参加のイミテルを気遣いながらの入浴だ。
まだそこまでお腹も大きくはないが、やはり足を滑らせたら大変だし。
「ふいー! この家の風呂はデカくて最高だぜぇ~!」
「うむ、最高じゃのー」
「この大陸は風呂に対して関心が強いよねぇ。あたしは水浴びも風呂も好きだからうれしいけどね!」
屋敷の風呂は広い。
マフルージャ王国において、貴族の家の風呂と言うのはステータスのひとつだ。
贅を凝らした絢爛な風呂だったり、温泉を引いてみたり、とにかくでかくしたり。
やりかたは種々様々であるが、基本的には誇示するものだ。
そのため、貴族の家の風呂は程度の差はあれ広い。
アノール子爵領の領主屋敷もその例に漏れず、大変広い。
いま招いているメンバーにEBTGのメンバー全員が同時に入っても問題ないくらいだ。
「そう言えば、ジルはいないのね」
思い出したようにコリントがそう呟く。
入浴中ということもあって、灰青の瞳も露わだ。
「モモロウが1人で風呂入るの寂しいとか泣き言抜かしたので、一緒に入ってあげてるみたいです」
メアリがそのように教えてくれた。
なるほど、そう言う事情があったとは。
ジルはちょっとカジュアルに性別を変更し過ぎな気がする。
「男を片っ端から女にした挙句、戻してやらないあなたよりかはマシでしょ……」
レインに冷たい目で見られ、あなたは笑った。
そのように笑ってごまかし、あなたは溜息をひとつ。
そして、どうも湯あたりしそうなので先に上がると告げた。
「あ、はい。じゃあ、イミテルさんの付き添いは私が」
サシャがそのように申し出てくれたので、頼むね、と答えてあなたは風呂から上がった。
濡れた体を拭き、服を着て、部屋に戻る。
そして、ベッドに倒れ込んで、あなたは枕に顔を埋めて叫ぶ。
エロいことしてぇ~!!!!!
あなたの偽ることなき本音だった。
エロいことがしたい……! したくてたまらない!
体は復調して来たのに、エロいことできないなんて死ぬ!
いや、やろうと思えば、ヤれる相手はいるのだが。
だが、異次元から来た子としか寝れないなんて!
メアリもハウロもサシャもレインもフィリアもイミテルもクロモリも!
この大陸で知り合った女の子たちとお楽しみできない!
目の前にいて触れられるのに。
共に同じ夢を見ることはできない。
あなたは吐き気がするほどに狂おしい悲しみに襲われた。
しばらく憤っていると、疲れて来た。
いつもなら三日三晩激怒し通すことも可能だが。
いまのあなたは弱体化中なのでしょうがない……。
溜息を吐いて、あなたはベッドから降りる。
湯上りと言うこともあるし、キッチンで何か飲み物でも貰って来るか……。
あなたはふらりとキッチンに向かった。
「おや、お母様。キッチンになにか?」
キッチンに来ると、そこには義娘のカル=ロスがいた。
ばかでかいケトルを火にかけているので、ムギチャの用意をしているらしい。
あなたは飲み物をもらいに来たが、シェフは? と尋ねた。
「買い出しに出て来ると言っていましたよ。飲み物でしたら、麦茶をお分けしましょうか」
では、もらおう。
あれは香ばしくてほのかに甘くてうまい。
「沸くまで少々お待ちを」
もちろんだ。
あなたは頷いて、カル=ロスを眺めた。
訓練後なのだろう、かすかに汗を掻いている。
汗の浮く、ほっそりとしたうなじ。
上気した頬、長く艶やかな髪……可愛い。
カル=ロスはこの次元の出身だが……。
エルグランドの民だ。セーフだろうか。
「どうしました?」
問われて、あなたは軽く説明をした。
異次元出身者じゃないとエロいことするのはまずいのだと。
なんか『アルメガ』に生命力を詐取されるらしいので……。
「なるほど。じゃあ、別次元に女漁りにいけばいいのでは」
それも少し考えたが。
やはり、別次元に行くというのは大変だ。
完調な頃ならともかく、療養中の今はちょっと。
となると別次元出身者を狙うしかない。
それはそれで楽しいのだが。
やはり相手が固定されてしまってマンネリになると言うか。
なにより、特定の相手とだけヤり過ぎると。
こう、不和とかを招いてしまうので……。
そのあたりを勘案してがまんするのも女たらしの甲斐性と言おうか。
そのため、あなたは療養中で性欲が湧かないとか言ってだれとも寝ていない。
ものすごくつらいが、関係性を瓦解させるよりはいい……。
「ははぁ、なるほど……つまり、お母様はこのように仰せですね?」
ほう?
「別次元で、以前からの情婦たちの眼に晒されず、安全に、誰憚ることなく女漁りをしつつ、療養もしたい」
まさにそのとおりだ。
しかし、そんな欲張りセットが実現できるわけもない。
「できると言ったらどうします?」
土下座するのでその夢の国に連れて行ってください。
あなたはそのように懇願した。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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3000文字前後
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4000文字前後
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5000文字前後
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6000文字前後
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7000文字前後
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8000文字前後
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9000文字前後
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1万字前後