天才の天才による天才のための料理なる理不尽クッキング。
これによってあなたは脳とか常識を破壊された。
なにをどうやったら10秒でスポンジ生地が焼けるのか……。
普通に考えて意味が分からない。
どう考えてもなにかがおかしい。
物理法則が定まっていないエルグランドの民が言うことでもないが。
あんなの物理法則が乱れている。
しかし、あなたがワケわかんなくとも現実は変わらない。
あまりにも理不尽で受け止め難い事実であってもそうだ。
天才は10秒でスポンジが焼けるし、どうみても1個しか焼いてないのに出来上がったら2個出来ているのだ。
「ふむ……ちょっと張り切り過ぎたかな」
「デザートにケーキまで焼いたのはやり過ぎだったかもしれませんね」
「まぁ、人数が人数だ。問題ないだろう」
米と調味料しかなかったはずなのだが。
あなたたちの前にはそれはそれは豪勢な料理が並んでいた。
大和が調理した、無。
なにも存在しないが、おいしそうな湯気を立てている。
そしてなによりも鼻腔をくすぐるかぐわしい芳香。
なにも存在しないけど、とにかくおいしそうだ。
そして克己が主体となって作ったフルーツケーキ。
もぎたての瑞々しい果実がふんだんに使われたおいしそうなケーキだ。
スポンジケーキは割と小麦粉の使用量が少ない。
なので少ししかなかった小麦粉からでもなんとか作れた。
上に乗っている果実は、克己が想像上の木から採取したものだ。
無から採取したのとはまたちょっと違うらしい。
想像上の木からもぐ方が難易度が低いらしい。
はた目から見てる分には何が違うのかさっぱりだが。
「想像上の木は無限にあるわけではないからな。想像上とはいえ、有限だ」
「無を取り出すというのは無なので、無限なのですよ。それを料理に調理するのが酷く難しいのですが……」
なるほど、意味が分からん。あなたは理解を諦めた。
あなたがあの大陸……リリコーシャでたくさんの人に味わわせて来た理不尽。
まさか、それと同じようなことをこの次元で味わうことになるとは。
世界とは広いものだ。
あなたは深く深く、溜息を吐いた……。
唯一普通に調理され、普通に作られたもの、ライス。
電気炊飯器なるものがあり、米を研いで、水を入れてスイッチを押せば全自動で美味しく炊いてくれる。
衝撃的な便利さの道具だ。ぜひとも持って帰りたいが……あなたの屋敷には電気がなかった。
さておき、そのライスをたっぷりとよそって。
ぶち抜きの広間へとそれを運ぶ。
この屋敷は複数の居室がふすまによって区切られている。
そのふすまを開けるか、外すかすると、ひとつながりの広間になる。
カル=ロスによると、比較的古い様式の間取りらしいが。
10人を超える大人数の起居には好都合な様式だろう。
「わぁい、ごはん。自分で作らないごはん大好き」
「え、なにこの、え、なに……なに?」
「なにもないけど美味しそう……? 精神汚染ですか……?」
「これはお母さんの秘中の秘……無料理ですね」
「無料理!?」
「無を採取して、調理する技術です。無なので、食味や栄養素を自分で添加する必要があるので難しいそうですよ」
「無とは……? RTAやってんじゃないんですよ」
「じゃあ、TASなんじゃないですか」
「そう言うことじゃないと思うんですがそれは」
「世の中には真の天才と言うのがいるものですからね」
「真の天才だから無を調理て」
「真の天才ヤバ過ぎますね。こんだけヤバいと功績がクソデカになるのは確定ですから、歴史上にはいなかったんでしょうね……」
「いえいえ、わかりませんよ。始皇帝みたいな功績クソデカの人がそうだったかもしれないですし」
「それは
『アルバトロス』チームが困惑している。
やはり、彼女らをしても尋常の行為ではないらしい。
まぁ、これが普通だよと言われても困るが……。
「ロクな材料がなかったのでな。俺が本気を出せば、土や皿だって食えるよう調理可能だが……嫌だろ?」
「まぁ、食べたくはないですね……」
「そう言うわけで、無を調理した」
そう言うわけで。ただそれだけの理由で。
あなたは理解が及ばなさすぎて頭痛がした。
「まぁ、それなりに食える味に仕上げた。おなか一杯食べろよ」
「はぁ。では、皆さん、いただきましょうか」
『いただきます』
『アルバトロス』チームがそのように唱和する。
そして、ひとりにつきひとつ提供された無に箸をつける。
何もない空間にスッと箸が入る……いったい何を見ているのかと不安になって来た。
「たしかに、ありますね……味は……あっ、うま……うまま……」
「うンめぇー!」
「なに、この……な、なに……? これは、何を食べてるんだ私は……」
「ウマーイ!」
味は文句なく美味しいらしい。
あなたの分ももちろんあるので、あなたもフォークで刺して食べてみるが……。
……なんかステーキみたいな味がする。
牛肉のステーキに、塩コショウをよく効かせたような。
いや、もう、目を閉じて食べると完全にそれだ。
食感もステーキのそれで、きこきことした肉の歯ごたえがある。
あまりにも意味不明であなたは困惑のし通しだ。
普通に味は美味しいし、これはなるほどライスにあう。
白いライスは正直見た目的に苦手なのだが、うまい。
こんなことができるなんて、世の中は広い……。
おなかいっぱいごはんを食べ、『アルバトロス』チームが風呂へ。
なんせ人数が人数なので、交代で入らなくてはいけない。
あなたの屋敷のように広々とした風呂はないのだ。
家のどこかで入浴している音が聞こえる。
テレビとか言う映像を届けられる驚天動地の道具の音声。
『アルバトロス』チームが翌日の分の麦茶を仕込んでいる声。
そんな音を聞くのは、日常の最中にいると感じさせてくれる。
そんな穏やかな時間が流れる中、あなたは縁側にいた。
屋根付きのウッドデッキと言うべき空間の場所だ。
どことなく、空間を仕切ろうとしないと言うか、意識の稀薄さを感じる。
ふすまに描かれていた絵は、非常にデフォルメの効いた風景画だった。
曖昧さの中に、なにかを見出すような意識が民族性なのだろうか。
そこからくる意識なのか……住居には文化が現れるものだ。当たらずとも遠からずか。
ひんやりと涼し気な空気が頬を撫でる。
あなたがそらを見上げれば、まん丸い月が浮かんでいた。
月の数はこちらの次元でも同じらしい。
「お月見ですか。風流ですね」
つっかけ履きを履いた克己がふらりとやって来た。
そして、隣にすとんと腰かけ、懐をまさぐった。
取り出されたのは紙製の箱。そこからするりと白い紙で巻かれた棒が取り出される。
「あ、いいですか」
克己の問いにあなたは頷く。
克己は懐から取り出した道具の蓋を開け、それを擦った。
どうやらフリントか何かが入っているらしく、火花が飛ぶ。
そして、ひょろりと飛び出した紐に着火……。
なるほど、紐には燃焼性の高いオイルが浸透しているようだ。
なかなか合理的な構造の道具だ。
魔法が使えない空間とかで使うには便利かも。
克己がそれで着火した火を用い、棒……タバコに火をつける。
深窓の令嬢染みた外見の割に、タバコを
「ふふ……似合わないのは百も承知ですし、健康的にもやめるべきとは分かっているのですが」
紫煙を吐き出しながら、克己が苦笑気味に言う。
「
寂しかったから、なのかもしれない。
常習性の高い嗜好品と言うのは、寂しさや退屈を紛らわせるのに最高のおもちゃだ。
あなたが克己の傍にいたら、そんな寂しい思いはさせなかったのに。
「成り行きで拾った子ですが、あの子は本当にいい子でした。言ったことはすぐ覚え、聞き分けもよくて、本当に手のかからない子で……」
あなたはうんうんと頷く。
昔を語る女の話を邪魔してはいけない。
気持ちよく話させるのは女たらしの当然のテクニックだ。
「聡い子でした……だから、あの子は遠慮をしてしまったのでしょう」
遠慮?
「私と睦美、外見がもう少し似ていれば、優しい嘘もついてあげられたのですが……生憎、この通りの外見ですから」
なるほど、そう言う。
克己の外見は睦美とはあからさまに異なっている。
血縁は一切感じさせないし、もっと縁遠いような雰囲気すらある。
異民族かなにかなのか……外見の系統そのものが違う。
たしかに、これでは優しい嘘はつきようもない。
睦美は幼い頃から、自分が養子だと理解していたのだろう。
「あの子の義姉は、私によく似た外見をしていましたし、私に無邪気に懐いていたものですから……余計に、疎外感を感じさせてしまったのかもしれません」
あなたは頷いて、苦労したんだねと背中を撫でてやった。
「小学校を卒業してすぐに家を出ると言い出して……紆余曲折の末に、少し離れたところにあったこの家を買い与えました。そして、あの子は友人……『アルバトロス』と名乗るチームで、シェアハウスをはじめました」
小学校と言うと、たしかこの次元の初等教育だったか。
6年制で、入学時は6歳とのことだから、12歳か。
独り立ちにはちょっと早いかもだが、早すぎると言うほどでもないだろう。
あなたも11歳で独り立ちして冒険者になったのだから。
「それからほとんど帰ってくることはなくて……たしかに、あの子は私がお腹を痛めて産んだ子ではありませんが……」
タバコが燃え尽き、それを懐から取り出したケースに捻じ込む。
そして、間髪を入れずに新しいタバコに火を点けた。
「それでも、心血注いで育てた、可愛い我が子です。心配しないわけがありません。今日だって、数カ月ぶりに連絡して来たあの子に会えると思って……」
なるほど。お互いにちょっとすれ違い気味なのかもしれない。
睦美と克己はちゃんと腹を割って話し合うべきだろう。
第三者を挟むことで上手く話し合えることもある。
あなたでよければ、睦美と克己の間に立って仲介することもできる。
実際、誇っていいことでもないが、あなたはこんな状況に立ったことが何度もある。
親と仲たがいしたり、疎遠になっていた女の子と懇ろになり。
そして、その上でその親と仲直りさせたり、あるいは逆に縁を切ったり……。
睦美は少なくとも険悪な関係ではないのだから、絆を結び直すこともできるかもしれない。
少なくとも、腹を割って話し合えば、すれ違いはなくなるだろう。
「そうだと、いいのですが……」
溜息と同時に吐き出される紫煙。
またタバコを吸い、また吐き出される重苦しい煙。
「なんとなく昔から、あの子の趣味と言うか……まぁ、同性愛に興味がある子なのはわかっていました。というより、少し男性嫌悪があるみたいで……」
再度、溜息と同時に吐き出される紫煙。
克己には睦美にちゃんとした結婚をして欲しい願望があるのかもしれない。
まぁ、その手に孫を抱けるかどうかは、割と大きな問題だろう。
だが、あなたはその点に関して心配はいらない。
エルグランドでは女の子同士でも子供が作れる。
将来的に睦美がどういう選択をするかは不明だが……。
少なくとも、あなたと仲良くやっていくならば、克己に孫を抱かせてやることは可能だ。
「すごいですね、エルグランド……その点は諦めていたというか、そもそもあんまり考慮していなかったのですが……」
孫をその手に抱く夢は諦めなくても大丈夫だ。
まぁ、睦美が嫌だと言うならばまた話は別だが……。
少なくとも、あなたは『アルバトロス』チーム全員に対し、責任を果たす覚悟がある。
全員養うし、全員可愛がる。そして、望むなら全員に子を授からせるつもりもある。
「なんと言うか、ええ……とんでもない人らしいとは思っていましたが、なんと言うか……はぁ……」
深々と吐かれる溜息。
申し訳ないが、あなたはそう言うやつなのだ。
許してほしい。改善できないし。
「……睦美がそれでいいと受け入れた人です。それが一時の迷いなのか、若さゆえ性欲に溺れた結果なのか、真実の愛なのか……そのいずれかは、わかりませんが……」
正直なことを言うと、たぶん性欲に溺れただけだ。
カル=ロスの経験を共有したせいで叩き込まれた快感。
アレをもう1度味わってみたい……そんな思いはどこかにあっただろう。
その絶好の機会があなたによってもたらされたわけで……。
「睦美のことをよろしくお願いしても、よいでしょうか」
あなたは頷いた。
たしかに、性欲に溺れただけかもしれないが。
そこから関係が発展していく恋や愛だってあるだろう。
そうなるのならば、あなたはそれを積極的に進めるつもりだ。
「睦美のことを泣かせたら許しませんからね?」
克己は笑って、タバコを再度ケースに捻じ込む。
「睦美は私たちみんなの娘であり、妹ですから。私以外にも激怒する人が4人はいますからね。それはもう手酷く報復してしまいますよ」
なるほど、それは怖い。
心して大事にするとしよう。
「ええ、お願いします。大事にしていないとわかったら……私たち『
『プレデターズ』。なにかの集団だろうか?
どうにせよ、睦美のことは大事にしてやらなくてはだろう。
まぁ、あなたが女の子を粗末に扱うわけもなく。
それはさしたる問題ではないように思われた。
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