あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 夕飯を終え、あなたは空を眺めていた。

 熾火(おきび)の熱に炙られながら、空を眺める時間はどこか心地よい。

 不思議と、こうして焚火を眺めている時間は心安らぎ、心地よい。

 時として、自宅にいるよりも安らげると思うこともある。

 そう言った時、あなたは根っからの冒険者であるのだなと苦笑するのだ。

 

「ご主人様のご両親ってどんな方なんですか?」

 

 ふぅふぅとお茶の入ったカップを冷ましていたサシャがそんな問いかけをしてくる。

 あなたは両親の可愛いところ、美しいところなら朝まで語り尽くす所存であった。

 

「あ、いえ、そう言うのはいいので……その、どういった冒険者だったのかとか、出会いとか……なんか、そう言う感じのを……」

 

「ああ、そうね。私もそう言う点には興味があるわね。あなた、いわゆる二世冒険者って奴だものね」

 

 なるほど、そう言った部分に興味があるのであれば、あなたも語るにやぶさかではない。

 

 あなたの父は別大陸の出身である。

 エルグランドは航海技術がよく発達していたが、別大陸はそうではなかった。

 危険な未開拓航路を用いた開拓船団に乗り込んでの渡航だったという。

 

 父の乗り込んだ船は運悪く難破し、父は海に投げ出された。

 だが、幸運にも父はエルグランドに流れ着いた。

 そこで偶然にもエルグランドのエルフに助けられたのだという。

 

「へぇ……未開拓船団に乗り込むなんて、度胸があるのね」

 

「可愛らしくて……未開拓船団に乗り込む度胸があって……魔法使い……?」

 

「ええ、そうね。余計によく分からない人になってきた感は否めないわ」

 

 父は幸いにも五体満足。

 別大陸から連れて来たペットとの合流にも成功。

 そして、そこから父の冒険の旅が始まった。

 

 エルグランドの大地に蔓延る(やまい)、覚醒病。

 その根幹に迫る冒険の旅であったという。

 まぁ、根幹に迫っただけで、べつに解決したわけではないのだが。

 なので未だエルグランドの大地には覚醒病が蔓延している。

 かく言うあなたも罹患者であるし、姉妹たちもそうである。

 

「風土病……ええと、その、それは私たちに伝染ったりは……」

 

 覚醒病は土地に起因するものなので、人から人に伝染したりはしない。

 そもそもからして病気と言うのも正しいか分からないものなのだ。

 

「一体どんなものなのよ?」

 

 覚醒病とは祖先の血脈が覚醒することを言う。

 つまり、数代前の祖先にエルフやドワーフがいれば、突然その形質が現れるのが覚醒病だ。

 姿かたちがちょっと変わるだけで、ハッキリ言ってそこまで致命的でない。

 

「へぇ……先祖返りを後天的に起こす病気ってこと? 直接的に命に係わる病気ではないのね」

 

 あなたは頷いた。

 ただ、エルグランドでは常軌を逸した混血が進んでいる。

 なので、エルグランドの民は直接的に命に関わったりする。

 

 かく言うあなたも、手の汗腺が突如として毒腺に変わってしまったことがある。

 毒塗れの食事を食べる羽目になったりしていた時期は本当につらかった。

 なにが悲しくて自分から毒を啜らなくてはいけないのか。しかも自分産だ。

 

 そのほか、頭に角が生える、眼が増える、脚が蹄になる、顔が崩れる、痴呆、甲殻の発生。

 そう言った「自分の先祖はいったい……?」と思わされる異常な病状が現れるのだ。

 こちらの大陸ではそんな混血は為されていなかっただろう。

 なので、精々エルフやドワーフの形質が現れるくらいだろうか。

 

「ふうん……それで、一体どんな冒険だったの?」

 

 あなたの父の冒険について語り尽くすとあまりにも長い話になる。

 そのため、あなたは父の冒険を掻い摘んで聞かせた。

 

 エルグランドで蠢いた陰謀。それを力づくで粉砕する父。

 そのさなかに愛も育まれていき、その結晶であるあなたも生まれた。

 

「ええと……ご主人様のお母様はいつ頃に出会ったのでしょう?」

 

 サシャに問われ、あなたは首を傾げた。

 最初に言ったではないかと。

 

「最初に……言った?」

 

「え? 言ってたかしら?」

 

「船が難破した時に一緒に乗ってたと言うことでしょうか?」

 

 フィリアが正解だ。

 あなたの父と母は開拓船団に同時に乗り込んでいた。

 そのため、冒険の旅には最初から父と母の2人がいたのだ。

 

「そうなのね。でも、難破した後に合流したとは言って……言って……ちょっと聞いてもいいかしら?」

 

 なんだろうか。

 

「……あなたの両親の間柄は……夫婦、でいいのよね?」

 

 それは違う。

 あなたの両親の間柄は、ご主人様とペットである。

 

「……ああ、そう。合流したペットって、あなたの母親のことだったのね」

 

「ええ……」

 

「ぺ、ペット……」

 

 まぁ、父と母は世間一般で言う夫婦と言ってなんら差し支えない間柄ではあった。

 ただ、関係性の始まりがペットだっただけだ。

 エルグランドではさほど珍しいことではない。

 

「ああ、まぁ、たしかに……? あなたのサシャの接し方を見ると、そうなのかも……?」

 

「異文化、ですね……」

 

 今の両親の間にペットと言う関係性があるのかは不明だ。

 ごく普通にあれは夫婦と言っていいのではないだろうか。

 

 そもそも、エルグランドではたしかに同性でも子供を作れる。

 だが、当たり前の話だが、結婚には合意が必要だ。

 そして、未婚で子供を作るのは許されないこととされている。

 ペットだからと言って無理強いできるものではない。

 

 そのため、あなたの両親は合意の上で結婚。

 そして、愛し合った末にあなたが産まれたのである。

 関係の始まりがなんであれ、夫婦と言っていいだろう。

 珍しいところなど、夫婦喧嘩が壮絶な激戦になることくらいだ。

 それ以外は、世間一般の夫婦とさほど変わらないとあなたは認識している。

 

「ふうん……そう言うところは意外と普通なのかしらね」

 

「ご主人様が奴隷の娘と言うことで虐げられていなくてよかったです……」

 

 なんて可愛らしいことを言うのだろうか。

 あなたは思わずサシャの頭を撫でた。

 

「はふぅ……考えてみれば、ご主人様ってご姉妹がいらっしゃるんですもんね……関係性は良好なんですよね」

 

 もちろんである。姉妹仲もいい。あなたは妹たちが大好きである。

 

「お姉様の妹様……どんな方なんですか?」

 

 あなたの妹たちは、ハッキリと特性の受け継ぎ方が異なる。

 

 あなたは両親のいいところを綺麗に受け継ぎ、混血の成功例のような存在である。

 次女は母の特性を強く受け継ぎ、強靭な肉体を主に受け継いだ。

 三女は見た目は母親似だが、特性は父親似であり、非力で魔法能力に秀でた。

 四女は完全に母親似であり、外見も特性も母親の生き写しだった。

 

「へぇ……つまり、次女の方が肉体的には強くて、三女の方が魔法は得意なのね」

 

 そんなことはない。肉体的にも魔法的にもあなたが最強だった。

 妹たちが得意分野でなら勝ることも出来るとか、そう言うことはない。

 普通に次女より肉体は強靭で、三女よりも魔法は得意だった。

 

「ああ、そうなの……じゃあ、四女は?」

 

 一般的にはだが、あなたの方が美しいと言われていた。

 ただ、肉付きの良さと言う意味では四女の方が勝っていた。

 そのため、男好きする、と言う意味で言えば四女の方が上だろう。

 

「かなり微妙ね……」

 

「言われて嬉しい評価かと言うと、ちょっと……」

 

 それに関してはあなたも同意だった。

 男に好かれてもなんにも嬉しくないからだ。

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