あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「……卒業したのは処女では?」

 

 アレコレと致した後、大和はそのように述懐(じゅっかい)した。

 今さら気付いたのかとあなたは内心で笑った。

 

 口と指で柔らかくほぐして昇り詰めさせ。

 さらに2回戦に突入してお互い深く繋がり合い。

 そこまでお愉しみしてようやくは遅すぎでは?

 

 まぁ、どうにせよ純潔を捨てたことに違いはない。

 あなたは熟練の手管で大和を愉しませた。

 それに対して何か後悔でも?

 

「いや、そう言うわけじゃない。最高の初体験だった。そこはたしかだが……し、しかしなぁ……」

 

 なんか違うと、そう言うことらしい。

 この反応、元男の女がよくする。

 

 やはり男だからなのか、女相手に腰を振りたいのだろうか。

 女になっても腰を振られる側に回りたくはないと思うのだろう。

 まぁ、男で腰を振られる側に回りたいというのは少々……。

 

「うん、そうだな。どう考えても、うん、昨今の風潮的に否定的見解はよくないが、アレだな」

 

 大和とあなたは同じ見解に至ったようだ。

 あなたは頷いて、次に大和にそっと囁いた。

 今度は大和が上になって3回戦する? と。

 

「します」

 

 そう言うことになった。

 

 その後、大和とお愉しみを2回ほどして、あなたは寝入った。

 本当はもっともっと愉しみたかった。

 今の今まで禁欲中だったのだから、それを取り戻したかったのだが。

 残念なことに、体力の方が追い付いてくれなかった。

 

 病み上がりと言うか、今まさに病んでる最中なのでしかたないが。

 極上の美女を前にして眠るしかできないのはいかにもつらい……。

 

 

 翌朝、目覚めたあなたのコンディションはかなり最悪だった。

 頭痛がするし、体の節々は痛むし、ずーんと重い鉛のような疲労。

 なにより、顎あたりとか、太ももとかが筋肉痛で焼けるような痛みがする……。

 

「帰ったら薬膳を作ってやる。身体的不調はそれなり以上に改善できるだろ」

 

 さすがに料理ひとつでそこまでうまくいかないとは思うが。

 しかし、なんせ無を切り出して、それを調理できる人間の言うことだ。

 案外、あなたの重篤な後遺症もそれなりに改善してくれるのかも……。

 

 ともあれ、あなたは帰り支度をする。

 リリコーシャにもあったが、さらに洗練されたシャワーで身を清め。

 それから服を身に着け、剣帯で剣を吊る。

 エルグランドから持ち込んだ、魔法威力増強の効果がある長剣だ。

 

「剣帯で剣吊ってるのかっけーよなー……って、あんた帯剣許可証持ってんのか?」

 

 帯剣許可証……?

 

「この国じゃ剣を帯びるのには許可証が必要だぞ。ない限りは帯剣禁止だ」

 

 なんてことだ。あなたはそんなもの持っていない。

 帯剣するのに制限があることは珍しくはないが。

 平時に、どこであろうとも、というのはあまり聞かない。

 

「ちゃんと剣帯から外して、携帯用の袋に入れるとかしろ。肩で負うようにしないと帯剣とみなされるぞ」

 

 背負ってればいいのか。

 それは帯剣と何か違うのだろうか。

 

「すぐ抜けるか否か、かなぁ。0.1秒の差は達人同士の戦いじゃあまりにもでかいだろ? 肩に負った袋から刀出す、じゃ1秒は差が出る」

 

 まぁ、その理屈はわかるが。

 町中にいるだろう官憲に達人の腕前を要求するのは無理があるのでは。

 

「ああ、そうか……あんた別次元から来たんだもんな……まぁ、町中に出て、警察の腕前見れば分かるよ」

 

 なるほど?

 まぁ、そう言うことなら。

 あなたは頷いて、帰り支度を済ませた。

 

 

 腰に剣を帯びず、剣は『ポケット』に放り込む。

 放り込まれ際、あなたの愛剣は寂しそうに震えた。

 腰にいつもの重みがないと、なんだか落ち着かない。

 

 早朝の町中は静かだが、それでも人通りがある。

 たぶんあなたと同業であろう女が目につく。

 男と連れ添って歩いているので、ほぼ確だろう。

 

「ここ、筑波(つくば)研究学園都市は俺の店があるさいたま総合学園都市とは違って、研究学園都市だからな。普通にこういう歓楽街もあるし、歓楽街なんてどこの町でもそう変わらんからな」

 

 学園都市。なんだかずいぶんと仰々しい名前だ。

 しかし、学び舎の園が、都市と言えるほどの規模とは。

 そんな学園都市とやらが複数存在するのも驚きだ。

 

「この辺りの学園都市は研究機関として構築された、学術の都で……さいたまの学園都市は、教育機関がいっぱい集まってる都市だ。性格はだいぶ違うものだけどな」

 

 なにが違うのかあなたにはよくわからない。

 学問と言うのは、学び問うことであり、学び(きわ)めること。

 たしかに年齢ごとに学ぶ内容、その程度の差はあろうが。

 どうにせよ、学びを得ることに違いはないだろうに。

 

「筑波はあんたの想像するそれでいい。さいたまの方は、なんつーのかな……学ぶが、問うのではない。覚えるところと言うか……まぁ、社会に出るのに必要な知識を覚えると言うか……ああ、言葉は強いが、愚民を良民にするための教育施設だ」

 

 なんとなく理解した。

 エルグランドに類似した施設はないが……。

 要するに、商店で修行したり、軍隊で戦いを叩き込まれたり。

 そんな感じの学びについての初歩を行う場、だろうか。

 

「大体そんな感じかな。だから、さいたまの方は子供が多い」

 

 なんと言うか、社会の構造そのものが大幅に違うのだなとあなたは頷いた。

 民草すべての底上げを画策できるほど社会に力があり。

 そして、民すべての底上げを図らねばならないほど、力が必要な社会なのだ。

 教育についていけない者、馴染めない者には、恐ろしく生きづらそうな社会だ。

 

「そうかもな……人間に求めるものが増えすぎた(いびつ)な社会と言えなくもない」

 

 息苦しそうな世界だ。住み良さと言う意味では素晴らしかろうが。

 少なくとも、あなたのようなアウトロー側の人間は馴染みにくいだろう。

 この次元に魅力的な迷宮でもあればべつだが、住みたいかというと微妙だ。

 

 あなたと大和がそんな話をしながら歩くうち、人通りが途絶え始めた。

 眠らない町である歓楽街も、朝方には眠りに就く。そのような時間に入ったのだ。

 そうなると、町を往く人間で目立つのは、制帽を被ったお仕着せ姿の人物たちだ。

 

 腰にはハンドガード付きの豪壮な作りのサーベルを吊っている。

 官給品なのか作りは一様だが、どうも刀身部分は差し替えている気配がある。

 そして、それら剣を吊っている者の、だれもかれもがいっぱしの達人であることが伺えた。

 

 純粋な訓練によって培ったろう技量と体力。

 それはあなたの知る軍のそれを遥かに超越したレベルにあり。

 おそらく、彼らが100人もいれば、1000人規模の普通の軍隊を易々と破ってのけるだろう。

 それほどまでの達人がそこらへんをほっつき歩いていた。

 

「あれ、警察」

 

 あれが!?

 あなたの知る警察とあまりにも違い過ぎてあなたは目を疑った。

 警察と言うのは、それなりに規律ある軍隊から抽出されて構築される警邏(けいら)部隊では……。

 

 規律のよさはちょっとわからないが。

 あんな凄腕の剣士を多数揃えるとかそんなことある?

 普通、軍の精鋭部隊とかに配置すべきでは?

 

「べつに珍しかないさ。ちゃんと見ろ。あそこ歩いてる姉ちゃん、強そうか?」

 

 言われて、あなたは大和の指差す先を見る。

 そこを歩いているのは、20そこそこくらいの若い女だ。

 派手でセクシーな服装に身を包んでおり、まさに娼婦そのものの姿。

 

 ただのエロい姉ちゃんだ。ぜひヤりたい。

 そう思ったものの、あなたは真剣に強さについて洞察した。

 手足の筋肉量、体格、全体の筋肉のバランス、そして身のこなし……。

 

 それらを勘案して、総合的に判断した時。

 あなたは自分の出した結論が理解できなかった。

 あの女性は疑いようもなく一流の剣士であると結論が出たのだから。

 

「流派はわかんねーが、高校くらいまでは真面目に剣やってた感じだな」

 

 一般市民が?

 

「サッカーやピアノに並んで普通の習い事だからな……いや、その2つよりもさらに重要だな……会得してる剣術流派次第で就職が決まることだってある」

 

 サッカーは知らないが、ピアノは知っている。

 淑女の楽器と言われるチェンバロから派生した楽器だ。

 あなたの父もこのピアノの演奏を非常に得意としていたし。

 淑女の嗜みとして、あなたも演奏を習い覚えたことがある。

 それに並ぶ、いや、上回るほど人気の習い事が、剣?

 

「この国はそう言う文化なんだ。中学高校くらいになりゃ、剣術流派免許皆伝がゴロゴロいる。そこら歩いてる警察官だって、特別強いってわけじゃないぞ」

 

 あなたは驚天動地の事実に思わず嘆息する。

 学びの面で、民すべての底上げを狙っているのは先ほど聞いたが。

 まさか、体力面、戦力面でもそうしていたとは……。

 

 そこらへんを歩いている一般市民が達人級の腕前なのだ。

 エルグランドのそこら辺の市民の強さが1としよう。

 軍隊でそれなりに訓練を受けた兵士なら2だろう。

 そして精鋭部隊と言えるほどの練兵を受けたなら3か。

 対して、この国でそこらを歩いている警察は5くらいはある。

 

 1違えば圧倒的な差がある評価だ。

 そこらへんの雑兵10人を1人で薙ぎ倒せる。

 この国の警察官はそれくらいの強さだ。

 そして、これが一般的とすると、その数は……。

 

「警官の数か。たしか、全国総計で140万人だったかな」

 

 多過ぎて笑うしかない。

 警察官と軍は別枠らしいが、軍は……?

 

「空陸海ぜんぶ合わせて180万人だったはずだ」

 

 つまり、凄腕の戦士が、戦士として扱われる状態で320万人いる。

 そして市井には軍にも警察にも入らなかった戦士がゴロゴロいるのだろう。

 先ほどの娼婦だろう女性が、一流の剣士たる実力を持っていたのだから。

 あまりにも頭のおかしいお国柄にあなたは笑うしかなかった。

 

 この国、エルグランドとは別方向でヤバ過ぎるだろ。

 あなたはそんな結論に達した。

 

 

 

 途中、あなたと大和は24時間営業だと言う店に寄った。

 

「歓楽街のあたりじゃ、仕事帰りのお姉様が買い物することもあるからな。24時間営業の店は多いんだ」

 

 便利だ。24時間営業の店と言うだけでもまずないのに。

 まぁ、商店の主を叩き起こして無理やり買うことはあるが。

 たまにキレて襲い掛かってくるので返り討ちにすることも稀によくある。

 

 スーパーなる、何に対してスーパーなのか分かりかねる店舗。

 そこでは肉に魚に野菜、そして主食類の他、調味料や酒などの多種多様な商品が売られていた。

 凄い品揃えだ。しかも、歓楽街の外れにポツンとあるあたり、珍しい店でもないのだろう。

 

 この次元には自動車と言う便利な道具がある。

 あれらを高度に連携して運用することで、超高速の流通を実現しているに違いない。

 そうでなければおかしいほどの品揃えだ。

 

「うん、まぁ、こんなもんでいいか」

 

 大和がそこであれこれと食材を買い込む。

 店を経営しているというからには、やはり料理店なのだろう。

 昨日の無料理とか言う意味不明な代物ではなく。

 その腕前をきちんと振るえる食材があれば、どんな料理になるのか。気になるところだ。

 

「まぁ、俺がやってる店は喫茶店だけどな……」

 

 あれだけの腕があって、茶が主体の店なのか。

 あなたはあまりのちぐはぐさに首を傾げた。

 

 

 それからまた歩いて家に帰り着く。

 まだ早朝と言って差し支えない時間帯だが、『アルバトロス』チームは元より朝が早い。

 既に全員が起き出して、朝の訓練に大忙しと言った様子だった。

 

「あ、クライアント。また黙って外出しましたね?」

 

 ちょうど、ランニングに出向こうとしていた1セクションの1人がそう咎めて来た。

 半径300キロくらいならOKとのことだったので。あなたはそう弁解した。

 

「うん、まぁ、たしかに半径300キロくらいなら晶が追跡サイコメトリで探知できますけどね。魂の姉妹の義母2人が絡んでるところ探知しちゃった晶が可哀想だと思いませんか?」

 

 それは本当にごめん。あなたは謝った。

 なるほど、追いかけて見つけることはできるが。

 見つけた場合、そうなってしまうとは知らなかった。

 まぁ、ちゃんと外出の際は連絡するとしよう……。

 

「しかし、やるだろうなとは思ってましたが、ほんとにやりましたね。ねぇ、お母さん?」

 

「ふしだらな母と笑いなさい……」

 

 あなたを咎めていた瑞穂に顔を染めながら言う大和。

 

「で、でもな……俺は未婚だぜ……? 義娘(むすめ)も成人して、大学も出てる……ちょっと大人のお付き合いしてなにが悪いってんだ!」

 

「それでクライアントに女の子にしてもらったと?」

 

「ぐっ……ま、まぁ、一時的なものだし……すぐ戻してもらうさ」

 

「処女って戻せるものなんですか?」

 

 無理じゃないか?

 まぁ、肉体の時間を巻き戻すとかすればできるかも。

 

「いやいや、そっちじゃなくて。俺は男だ。男だっての。まぁ、今はちょっと女になってるが」

 

「お母さん、そんな乳腫れた男いるわけないでしょ……? メートルありそうなバスト持ちながら男とか頭おかしいの?」

 

 瑞穂は普通に大和が男だと信じていないらしかった。

 まぁ、あなたも未だに半信半疑ではあるのだ。

 性転換を望んで女になっていたら、男だったのだと思うが。

 女になりたいと叫んでいたので……それは男女どちらでも女になるので元の性別がどうとは言えない。

 

「というか、クライアント、戻すつもりあるんですか?」

 

 ないけど?

 

「は?」

 

 大和が裏切られた! と言わんばかりの顔をしている。

 だが、あなたはもう1度性転換するための用意をするなど一言も言った覚えはないが……?

 

「お、おおおい! 待て! 戻せ! 戻してください! 俺は登記上もちゃんと男なんだぞ!」

 

 知らん。そんなのは管轄外だ。

 あなたはにべもなく切って捨てる。

 

「まぁまぁ、いいじゃない。女になったなら一緒にお風呂入れるんでしょ?」

 

「いやいや、ジョージが言ってたって! 子供と一緒に風呂入るのは虐待になる可能性があるって!」

 

「それブリテンの方の認識だって言ってるでしょ! 娘に背中流してもらえたらうれしいでしょ! うれしいって言え!」

 

「ぐぅっ、惹かれないと言えばうそになる……!」

 

 あなたは笑って、風呂の準備をしておこうかと提案した。

 給湯設備とやらの使い方はちょっとわからないが。

 風呂桶を掃除して、水を満たして温めるのは魔法でもできる。

 

「じゃ、おねがいします。お母さん、ランニングから帰ってきたらお風呂入ろうね?」

 

「ううむん……」

 

 そう言って、瑞穂たち4人がどこかへと走り去っていった。

 そこらをぐるっと走ってくるのだろう。

 なんか葛藤するものがあるらしく、大和はしばらく唸っていた。

 

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