あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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14-009

 あなたが療養するための部屋が急遽整えられた。

 縁側に面した、日当たりのよい部屋があなたに割り当てられた。

 普段はここに連なる3部屋すべてを『アルバトロス』チームが寝室として使っているのだが。

 

 いまは5人しかいないので、3部屋も要らない。

 そして、客間なども普通にあるので、必要に応じてそちらも使うとのこと。

 なので、気兼ねなく部屋を使っていいとのことだ。

 

 あなたはありがたくその厚意は受け取った。

 実際、落ち着いて休める部屋が欲しいのは事実だ。

 動けるようにはなって来たが、体力的にはまだ厳しい。

 剣での試合なんかすれば、30分ほどで体力を使い果たして眠りたくなるのだ。

 

 いつでもすぐに休める部屋はあった方がいい。

 実際、起床して帰って来て、それから2時間ほど眠ったくらいだ。

 あなたの体力状況は率直に言って赤ん坊よりはマシくらいなものだった。

 

「赤ん坊くらい大人しくしてくれてれば楽なんだがな……」

 

 大和がそんな風に溜息を吐くが、エロ本がいっぱいあればそのようにしようではないか。

 

「取引条件がよぉ……」

 

 余計にでかでかとした溜息を吐かれた。ひどくないか?

 

 

 

 リビングでぼんやりと時間を過ごしている。

 テレビとか言う道具では、映像を見ることができる。

 早口なのでちょっと聞き取りにくいが、音声も聞ける。

 家にいながらして遠方の映像を楽しめるとは、すごい道具だ。

 

 そして、大和や克己が持っていた、スマートフォンとか言う道具。

 アレを使うと、遠方の人間と会話をすることもできるらしい。

 それのみならず、計算機機能とか手紙機能とか、辞書機能とか。

 ものすごく便利な機能がいくつもいくつも捻じ込まれているらしい。

 

 まるで魔法のように思える便利さだ……。

 そのようにカル=ロスにこぼしたところ、さもありなんと頷く。

 

「イントゥアーヌェッツの叡智は、下手な魔法より便利ですからね。高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないのです」

 

 ほほう、なるほど。

 なんとも詩的な表現だが、言い得て妙だ。

 実際、あなたも蓄音機を見た時に魔法だと思ったものだ。

 

 今でもなお魔法じゃないのかと思うほど蓄音機は不思議だ。

 なんで溝に音声を蓄えておくことができるのだろうか?

 聞くほどに詐欺を働かれてるのではと思えて来るくらいだ。

 

「まぁ、この次元で暮らしていれば、そのうち慣れますよ」

 

 そんなものだろうか。まぁ、そんなものかも。

 エルグランドに移住して来た者も1年もすれば慣れると言うし。

 この世界の技術力の高さも、1年もすれば慣れるのかも。

 

「しかし、ヒマですね……テレビも面白くないし……」

 

 ふわー、と大きく口を開けて、カル=ロスがあくびをする。

 あなたはテレビを見ているだけで結構面白いのだが。

 カル=ロスにしてみると、見慣れたつまらないものなのだろう。

 あなたは膝枕でもしてやろうかと提案した。

 

「わぁい、お母様の膝枕。落ち着くんですよね」

 

 カル=ロスが速攻であなたの膝に懐いてきた。

 あなたはカル=ロスのさらさらの髪を撫でながらテレビに見入る。

 いまは、なんかどこかの店で食べられる料理の紹介をしているようだ。

 なんだか知らないが、テレビは食べものの話が多い気がする。

 

「はえー……げんこつ唐揚げおいしそー……おかあさん」

 

「おう、今日の晩飯は唐揚げにすっか」

 

「おかあさん」

 

「あん?」

 

「おかあさん、今日はお父さんだって訂正しないんだね?」

 

「今はおかあさんだからなぁ……」

 

「へぇ~……ん? じゃあ、今までは本当にお父さんだった……?」

 

 瑞穂と大和の間で今日の夕飯のメニューが決定している。

 なるほど、唐揚げ。あれはジューシーでじつにうまかった。

 大和の手で作られる唐揚げは、もっとうまいに違いない。楽しみだ。

 

「アストゥム、紀元前に殴ってくるのやめてくださいよ。どうして有人の指導者のとこに殴り込んで来るんですか」

 

「いやほら、斧が余ると軍事予算がね……」

 

「斧ばっか作ってないで穀物倉庫でも作ってください」

 

「まあ、そこに殴れそうな都市があるから……」

 

「だからってうちを殴らないでくださいよ。よそ殴ってください、よそ」

 

「しかしですね、周囲の指導者がモンちゃんとかアレクサンドロスなので……」

 

「おっかしいな、眠れぬ夜に会いに来たはずなのに、大陸が闇に包まれてる」

 

 アストゥムと晶はなにかよく分からない遊びをしている。

 パソコンとか言う変な道具を使ってゲームをしているらしいが……。

 

 克己と睦美は、一度帰宅している。

 割と近所に家があるんだとか。

 そこであなたの使うベッドを用立ててくれるらしい。

 

 あなたはあくびをひとつこぼした。

 なんだか、穏やかな時間が流れている。

 子供を可愛がってやりながら緩やかな時間の流れに身を浸す……。

 それはたぶん、とんでもなく贅沢な時間の使い方だ。

 あなたは極上の時間に思わずため息を吐く。

 

 なんとなくだが……いま、あなたは幸せだった。

 

 

 克己と睦美が戻って来た。

 自動車にベッドを積み込んで戻って来た。

 

「克己さんって、ベンツの後部座席で紅茶でもしばいてそうな外見の割にプロボックス転がすんだな……」

 

「自宅工場尋ねていくと、咥えタバコしながら機械整備してますからね……場合によって旋盤とかフライス盤いじってますし」

 

「に、似合わねぇ~……!」

 

 なんだかよく分からないが、大和たちが微妙な気持ちになる自動車らしい。

 後方の荷物を積むスペースが広くて便利そうな車だが……。

 

「しかし、それ言ったらお母さんだって冷徹な女軍人みたいな顔してるけど、実は戦闘とかダメダメじゃないですか」

 

「マッサージなら得意だぞ。何を隠そう、俺はマッサージにおいても真にして真たる天才だからな」

 

「戦闘って言ったの、聞こえてました?」

 

「聞いてたよ。秘孔とか突いて、目が悪いのを治したり、足が悪いのを治したり、相手をアヘ顔晒しながら爆散するようにしたりもできるぞ」

 

「マッサージなんですよね?」

 

「マッサージだが?」

 

 大和と瑞穂がそんなことを駄弁る中、克己と睦美が自動車から降りて来る。

 自動車はそのうちあなたも操縦してみたいが、やっぱりむずかしいのだろうか?

 以前、秋雨が運転していたところを見た限りではむずかしくなさそうに見えたが……。

 

「おまたせしました。ささっと組み立ててしまいますので、お庭をお借りしますね」

 

 降りて来た克己は上下ひとつながりの服を着ている。

 作業用の服だろう。頑丈そうな生地で、大きなポケットがいくつもある。

 睦美は自動車から金属製のパイプを何本も降ろして来る。

 そのパイプを組み合わせてベッドにするということだろうか。

 

「足場用の単管パイプがたくさんありましたので、そのままベッド型に組んでしまおうと思います。床板はホームセンターで買ってまいりました」

 

 言いつつ、工具でも入っているのか赤い箱を車から降ろす克己。

 睦美はパイプを纏めて抱え上げ、庭の方へと持っていく。

 

「このパイプ、なんでまたこんなにたくさんストックしてあったんですか?」

 

「単管パイプはよろづのことに使ひけりと、竹取りの(おきな)も言っていたほど使い道の多い材料ですからね」

 

 睦美がそのように言うが、オキナってだれだろう?

 

「竹って単管パイプの業界用語とか隠語のことなんですか?」

 

「そうですよ」

 

「曇りなき眼ですぐ嘘つく」

 

 克己と睦美の持ってきたもの、パイプ。

 金属製の薄肉の筒で、極めて均一な太さだ。

 かなり高度な技術が使われているように見えるが。

 こうもあっさりと持ち出して来るあたり、高価なものではないのだろう。

 

「それじゃ、睦美。手伝ってくれますか?」

 

「はいはい。なにすればいいの?」

 

「えっと、地走(じばし)り……?」

 

「高所にベッド作るの?」

 

「ええと、まぁ、補助です。おねがいしますね」

 

「はいはい」

 

 克己と睦美が作業に取り掛かりはじめた。

 あなたはその作業をぼんやりと眺めることにした。

 

 

 あなたの見ている前で、パイプが金具で繋がれて箱型に成型されていく。

 あまり手慣れた作業ではないらしく、やや動きはぎこちない。

 克己の本業はなんか道具類の整備らしいので不思議でもないが。

 しかし、そう難しい作業でもないので、多少の後に作業は終わった。

 

「ふぅ、これで完成。あとはおうちの中に運び込みですね……暑い……」

 

 言いながら、克己が作業着の上を開き、それを脱ぎ去った。

 おおっ、とあなたは思わず前のめりになる。

 克己は作業着の下には、胸元を覆う布を1枚巻いているばかりだ。

 

 ほっそりとしたウエストのラインが眼に毒だ。

 そしてうっすらと汗の浮いた鎖骨のくぼみがやたら煽情的。

 あなたは思わず食い入るようにその素肌を見つめる。

 

「ちょっ、お母さん、脱いじゃダメでしょ!」

 

「あら? こんなおばさんの肌を見ても楽しくないでしょうに」

 

 くすくすと克己がそう言って笑う。

 笑い方には妙に品があると同時、見た目不相応の落ち着きがある。

 このなんとも言えない年輪を感じさせる余裕……。

 なんだかよくわからないが、妙にエロい。

 

「もう、上着る! うちの工場じゃないんだから!」

 

「あらあら、あらら。これはインナーで、下にちゃんともう1枚下着は着ているのですが……」

 

「そう言う問題じゃないの! 暑いからって脱がないでよ!」

 

 睦美がぷりぷり怒りながら克己に服を着せる。

 残念、隠されちゃった。あなたはがっかりした……。

 

 

 

 あなたのベッドが用意され、寝泊りの準備は万端となった。

 今朝使った寝具、フートンとか言うのも悪くなかったが。

 やはり、ベッドの方が落ち着く。ふっかふかのラグの上で雑魚寝と言うのも好きだが……。

 

「フートンて」

 

 睦美が苦笑するが、なにか間違ったろうか?

 今朝、カル=ロスがあなたを寝かしつけながらそう言って来たのだが。

 フートンで寝ておれ、オヌシは実際眠いのであろう、とか言いながら。

 

「アイエェ……これクライアント悪くないですね……」

 

 睦美がさらに苦笑する。なんだかよくわからん。

 さておき、あなたはそっと睦美に問いかける。

 やっぱり、克己にアプローチかけない方がいいのかな、と。

 

「もしかして、私に遠慮してお母さんに粉かけてなかったんですか?」

 

 べつにそんなことはない。単純にタイミングの問題だ。

 だが、睦美がどうしてもいやというなら遠慮する余裕はある。

 いま体調がよろしくないのもあるし。

 

「ですか。うーん……まぁ、率直に言えば複雑なものがあるのは事実なんですが。うーん……まぁ、その、お母さんの趣味を否定するのもアレですしね……」

 

 趣味?

 

「うち、6人家族なんですけど」

 

 ほほう。睦美と克己、そして克己が言うところの睦美の義姉。

 その3人は聞いていたが、残りの3人はだれだろう?

 

「2人はお母さんの恋人で、残る1人はお母さんの下僕です」

 

 おっと、突然インモラルな話が出て来たぞ。

 恋人が2人いると言うことは、浮気?

 

「いえ、公認の関係ですね。その2人は姉妹なので。姉妹でお母さんを共有していると言うべきでしょうか」

 

 なるほど、インモラルだ。

 しかし、その関係性はドエッチだ……。

 

「お母さん、口では嫌がってるようなこと言いつつも、なんだかんだベッドに誘われたら断らないんですよね……やっぱ、そう言う趣味あるんだと思います」

 

 まぁ、本当に嫌だったら普通は断るだろう。

 膂力的な意味での力関係があって逆らえないとかはあるかもだが。

 睦美や、その義姉はおそらく克己の味方であろうから。

 力に訴えてどうこう、というようなものではなさそうだ。

 

「そうですね。ですから、やっぱり、自由恋愛の範疇なら私がとやかく言うことではないのでしょう。クライアントなら無理強いしたり、力に訴えるような真似はしないでしょうし」

 

 もちろん、そんなことはしない。

 いや、どうしても切羽詰まっていたらやるかもだが。

 それはたとえば1か月禁欲した後なのに娼館がどこにもないとか。

 そう言うにっちもさっちもいかないような状況ならだ。

 いまの状況でそんなことになる心配はまずないだろう。

 

「ああ、でも……私の前で口説くのはやめて欲しいですね。やっぱこう、お母さんがメスの顔してるのは見たくないので」

 

 そのあたりは配慮するとしよう。

 それくらいの配慮は女たらしとして当然のことだ。

 あなたはそのように頷いた。

 

 

 

 お昼は大和特製のオムライスだった。

 あなたをして文句ひとつ付けられない最高の出来栄え。

 激ウマ過ぎて昇天するかと思ったほどに美味だった。

 これで実は手加減しているだなんて信じられない……。

 

「お粗末さんっと……さて、瑞穂、買い物行くから付き合ってくれ」

 

「お、晩御飯の材料の買い出し? うんうん、いくいく~。唐揚げ楽しみ~」

 

 そう言えば、食費とかそのあたりを払っていない。

 後ほど、金貨の換金の手立てを克己から聞くべきか。

 あるいは仕事を探して稼ぐべきか……仕事探したら怒られそうだから換金の線で行こう。

 そのように内心で決めたところで、克己が声をかけて来た。

 

「カル=ロスちゃんのママさん、少し、お付き合いいただけませんか?」

 

 もちろん構わないが。

 何の用事だろう?

 

「睦美、あなたもすこし」

 

「え? 私?」

 

 あ、なるほど。

 睦美と腹を割って話したいという。

 以前に約束していたアレのことだろう。

 

 あなたは穏当に行くといいのだが……と内心で戦々恐々とした。

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