あなたと克己はタフなネゴシエーションをした。
まぁ、基本的に立場としてはあなたの方が有利だ。
どうも、この次元には若返りの技術は存在こそすれ、扱いが難しいものが多いらしい。
「ええ、私にも手がないわけではありません。しかし、私が利用できるもの……“再生”と呼ばれる施術ですが。これは本来は若返りのための施術ではありません……そのこともあり、記憶障害の発生率が極めて高く、あまり取りたい選択肢ではありません……」
記憶はその人間を構成する重大な要素だ。
それを喪えば、人格は大きく変じてしまうだろう。
それを使うことをためらう気持ちはよく分かる。
「その点、若返りの薬は後遺症なく、ノーリスク、リハビリ不要、しかも飲むだけ……日帰り入院とはいかない“再生”とは次元が違う利便性です!」
だからこそ、あなたの若返りの薬の価値は高い。
あまりにも高過ぎて、あなたのネゴシエーション自体は楽勝。
しかし、あなたには低すぎず、高すぎない条件を出す手腕が求められる。
そもそも、あなたはこの次元の貨幣価値と言うものをまったくわかっていない。
大和の買い物を見たので一般的な品々の価値は多少分かっているが。
しかし、物価と言うのは時と場合によって大きく違うものだ。
たとえば、あなたが持っていて愛用している懐中時計。
エルグランドの懐中時計の相場は金貨30000枚ほど。
しかし、あなたが冒険中のリリコーシャの懐中時計の相場は金貨15枚ほど。
これは金相場がエルグランドとは別次元に高いからである。
しかし、そんなリリコーシャでも、常に金貨15枚で時計が手に入ったわけではない。
懐中時計の機構が世に広く知られる前は金貨数百枚はしたと言うし。
それこそ登場初期では値段がつけられないほど貴重で高価だった。
時代が違えば値段が異なり、貨幣の価値を保証する物品の相場が違えば額面が変わる。
技術レベルも時代も文化も貨幣の仕組みも、なにもかもが違う。
そんな場所ではあなたの持つ常識が通用するわけもなく。
あなたはそこを探るためにのらりくらりと交渉する必要があった。
貨幣の価値はいくらほどなのか。
世の人々の持っている金がどれほどか。
生きていく上で最低限の出費がいくらか。
税金として徴収されていく額の程度……。
それらを聞き出した上で、双方を納得させる。
なんて難しくタフなネゴシエーションなんだ……。
あなたは難しさに打ち震えながらもめげない。
この交渉を乗り越えて、克己とイイコトするのだ。
その上でナンパのための軍資金も獲得するのだ。
この療養を豊かで実りあるものにするため。
あなたは困難な戦いへと赴く……。
「では、若返りの薬10服に関しては、1000万円で合意……そして、さらに10服は……ええと、はい、その……はい」
交渉の末、そうなった。
1000万円と言う額の価値は……正直微妙にわからないのだが。
それなり以上の、中堅以上の勤め人の年収に匹敵するとは分かっている。
あまり心強い軍資金とは言えないと言うのが正直なところだが。
克己の持っている金以上に取ることはできないし。
あるだけ毟ってしまえば、それはそれで遺恨が残る。
双方を納得させるのが最良のネゴシエーションだ。
相手に一方的に損させてもよいなんて理屈が通じるのは弁護士くらいだ。
この結果はこれでよかったのだろう。きっと。
それに克己とイイコトする約束もできたし。
「その、よいのですか? 私の体に1000万円分の価値なんて、とてもではないがありませんよ?」
たしかに、克己の言うことは正論かもしれない。
彼女の具体的な年齢は知らないが、40は過ぎている。
年齢を商品とするなら、それはもはや商品にはならない数字だ。
買春の世界は20代ですら年嵩に見られる世界。
30代なんてもう引退必至。40代なんているわけもない。
それほどまでに娼婦の世界とは若さが必要な場所。
40代女性の春なんて、商品価値はない。
だが、あなたにとっては違う!
あなたにとって、女とはそれだけで贈り物だ。
それどころか、90代の老婆は希少価値が高い。
10代の処女は町を探せばいくらでもいるが。
90代の老婆と言うのは町を探して片手の指で足りるほど少ないのだ。
そんなあなたにとり、40代なんてまだまだ若い盛りだ。
あなたにとってみれば、1000万円以上の価値がある。
金で女を買うのは褒められたことではないかもだが。
それほどまでの熱意があると示すのには、分かりやすい道具だ。
あなたは莫大な金銭を払ってでも、克己とイイコトがしたい。
仲良くなりたい。克己のことをもっとよく知りたい。
あなたはテーブルの上に置かれていた克己の手をそっと握る。
硬くなった手、それは彼女が職人として働いてきた証だ。
この手で睦美を育てて来た、彼女の生涯の証だ。
「あ、その……」
克己の手を優しく握り、あなたはニコリと微笑む。
それに対し、克己がほのかに頬を染めて目を伏せた。
「その……私、同性との経験はそれなりにあるのですが……いつもリードしていただくばかりで……」
つまり、バリネコと言うことだろうか。
問題ない。あなたはバリリバだ。どちらにも対応できる。
克己のことを丁寧に、優しく、可愛がろうではないか。
「それに……わ、私……実は……」
実は……?
「せ……」
せ?
「性欲が……強くて……ご迷惑を、おかけするかと……」
問題ない。何も問題ない。むしろいいことだ。
性欲が強いと言うのはあなたにとってプラスの要素しかない。
そもそも、あなたほど性欲の強い人間は滅多にいないのだから。
「一晩で、5回もしたことがあって……いつも、3回は……」
なんて頬を染めて顔を伏せる克己。
なんだその仕草、めっちゃかわいいな。
しかも一晩で5回って。いや、たしかに一般的に考えるとかなりの回数だ。
3回と言うのも、普通に考えると多い部類だろう。
普通は1回か2回くらいであり、3回や4回まで行くのは珍しい。
だが、あなたはそこらへんの常識がぶっ壊れた性欲おばけ。
一晩で2ケタ回数まで到達するのは珍しいことではない。
相手のことを気遣っていつも抑えてはいるが。
本当なら朝から晩まで、夜から朝まで愉しみたいのだ。
思えば、かつての冒険者学園での一時……。
レナイアに脅されていた2年生の最初の頃はよかった。
いくらヤッても、向こうからもっともっとと迫ってくる日々。
体力を使い果たして、精も根も尽き果てて、それでもと叫ぶ。
情熱的だ……すばらしい……最高だ……へたくそだったけど……。
それを思えば3回や5回なんてかわいいもの。
むしろもっとしたいねとあなたの方から提案するレベル。
なにも問題はない。
「そ、そうなのですか? では、その……た、たくさんしましょうね?」
そっとあなたの耳元でそう囁く克己。
あなたは脳がジーンと痺れるような感動を味わった。
この次元の言語……あるいはこの国の言語か。
なんとなくだが、かわいらしく感じる発音なのだが。
囁くような声で言われると、脳が痺れるようなかわいらしさがある。
それが耳もとでなんて、脳が溶けてしまう……!
「ゴホンッ!」
横から出て来たデカイ咳払いであなたの意識が戻る。
そちらを見ると、難しい顔で咳払いをしている睦美の姿があった。
「あっ」
睦美のことを微妙に失念していたらしい。
克己が顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「話は終わりましたか? 終わりましたね、クライアント」
いいや、まだ終わっていない。
「……そこで自分のペース貫けるところは尊敬しますよ。でも、これ以上は聞きたくないです。母親が女の顔してるところなんて……そう言うわけで、話は終わり。よろしいですね?」
よろしくない。
あなたは席を立ち、睦美の傍まで歩み寄って耳元で囁く。
克己を口説いていて、寂しい思いをさせてしまったかな?
でも、心配はいらない。あなたはきちんと睦美のことも大事に想っている。
あなたはそう囁いて、そっと睦美の手を取った。
ぴくりと少し強張ったものの、すぐに睦美の手はあなたの手を受け入れる。
そして、あなたは睦美の手をそっとあなたの胸に当てた。
あなたの強い脈動が睦美の手へと伝わっていることだろう。
「!」
仲良くしたいんだ。睦美とも。
あなたはそう囁いて、真剣なまなざしで睦美を見つめる。
そうすると、睦美の顔がたちまちのうちに赤くなった。
「や、やめていただけますか……クライアントは、自分の顔がどれだけいいか! わかっていないですよね!」
もちろんわかっている。わかってるからこんなことやっているのだ。
しかし、そんなことは口に出さず、あなたは睦美の手を握る。
自分の胸がドキドキしているのが伝わるだろうか?
睦美のことが大好きだから、こんなふうに胸が高鳴るのだ。
睦美とも仲良くなりたい、イイコトをしたい。
克己と睦美、
「えっ、えっ、えっ……さ、さすがにそれは、い、インモラル過ぎませんか!」
嫌だろうか? あなたはそう囁く。
それに対し、睦美が頬を染めて俯く。
……血のつながりはないけど仕草はよく似ている。
親子と言うのは、やはり血だけでなるものではない。
あなたはなんとなくだが、克己と睦美の距離があった理由が分かる。
睦美はもともと、同性愛趣味があったという。
かなり昔から自分が養子であるという自認があったこと。
そして、克己から距離を取ろうとした心理の動き。
義姉に対して遠慮していたというのもあるのだろう。
それはたしかな睦美の真心であり、けなげな心遣いだ。
だが、同時に……。
睦美は、克己のことを、一個の人間として好んでいたのでは?
対外的に親子でこそあれ、実際は血縁のない赤の他人。
そして、幼少期から大事に大事に可愛がられて育ってきた。
親とはもっとも初めに意識する異性であると言われる。
男児が母親を、女児が父親を、ある種の理想の異性と捉える。
庇護してくれる存在を愛好する感覚は人間として自然なものだ。
睦美と克己は同性だが、睦美は同性趣味があると克己にも言われていたし。
実際、あなたとのアレソレを愉しんでいたので、間違いなくその趣味はある。
睦美が克己のことを意識してしまうのは自然とすら思える。
しかし、睦美は一般常識があり、良識もある人間だ。
義理とは言え、母親に懸想する気持ちは封印するだろう。
だからこそ距離を取っていたのではないだろうか。
それはおそらく無意識で、義姉への遠慮をことさらに自分に言い聞かせるような形だったろうが……。
あなたはこの予想が当たっている自信があった。
だから、強引に押せば、イケる! そんな自信もあった。
克己の方がちょっとわからないが……条件的には睦美と同じだ。
恋人が2人に下僕が1人とか言うインモラルな私生活らしいし。
というか、目の前でこんな会話しといて止めに来ない時点で半ばOKなのだろう。
「わ、私とお母さんの関係を結び直してくれたことは感謝しますけど……! こういう形で結び直してほしいとは思っていませんよ!?」
嫌だろうか? 睦美は克己と仲良くしたくないと?
克己の肌に触れ、その胸に抱かれたいと思わないのか?
「せ、性的な意味でなければ抱かれたいかなと思いますけど……」
本当に? 本当にそうだろうか?
想像したことがなかったとは言わせない。
克己と恋人が、そう言った行為に耽る声を聴いて。
それに興奮したことがなかったとは言わせない。
「………………」
睦美は無言で目を反らした。
もはや語るに落ちているようなものだ。
あなたは強引に睦美を抱き上げる。
弱体化している今でも女の子1人を担ぐくらいは楽勝だ。
「わっ!」
「な、なにを?」
今からイイコトをする。
克己もよければイイコトをしないか?
あなたがそのように提案をすると克己が顔を赤くする。
「そんな……私と睦美は親子なのですよ……たしかに、血縁はありませんし、男女ではないのですから子供ができる心配もありませんが……しかし、親子なのですよ」
そう、親子だ。だが、義理だ。
あなたは義理の娘であるカル=ロスとイイコトをする仲だ。
だから、何も問題ない。そう言うことだ。分かったろうか?
あなたはそんな詭弁を堂々と言い張る。
あなたとカル=ロスがやってるからなんだと言うのか。
あなたとカル=ロスが異常者だと言うだけだ。
前提からして破綻した意味不明な詭弁でしかない。
「そう言うもの……ですか……」
「お母さん?」
だが、そんな詭弁でも、言い訳を求めている人間には響く。
あなたは勝利を確信した。
さぁ、愛し合おうではないか。
この次元でのナンパ2人目の成功だ。
まったく、楽しい限りである。
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