あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 しばらく談笑するなどして時間を潰し。

 やがて、鮮香の下に電話なる仕組みで連絡が来た。

 

 電波とか言うものに情報を乗せて発信できるらしい。

 そして、それを手のひらサイズの端末でキャッチ、確認できるとか。

 それに使うスマートフォンとか言う代物は大抵の人が持っているらしい。

 スマートフォンと言うからには、クルード(大雑把)フォンもあるのだろうか。もしくはダル(まぬけ)フォン?

 

「ああ、ああ……本当かね? 性的接触人数が軽く見積もっても30人とか言う女傑だぞ? ……たしかに検査結果は嘘をつかんが……しかし……」

 

 鮮香は信じ難いことを聞いた……と言わんばかりの顔をしている。

 それからしばらく鮮香は話し込んでいたが、やがて電話を切る。

 

「……結果が出たそうだ。健康状態に問題なしだそうだ。どうなっとるんだね君は……」

 

 信じられないものを見た……という顔をする鮮香。

 そんなこと言われても……。

 なっていないものはなっていないのだから……。

 

「普通、アレコレやってたらクラミジアだの淋病だの梅毒だのもらっていてもおかしくないものだが……」

 

 病気の名前を挙げて、ぶつぶつと呟く鮮香。

 あなたが性病の類とご無沙汰になってから数十年が経っている。

 なんで罹らないのかはさっぱりわからない。

 

「……待てよ? そもそも、異世界にクラミジアだの淋病があるのか?」

 

 ハッ……と気づいた顔をする鮮香。

 そして、あなたへと詰め寄って来た。

 

「君ッ、君が今まで罹った病気について教えたまえ!」

 

 いきなりそんなこと言われても。

 まぁ、覚えている限りは教えるが。

 

 まず、エルグランドの風土病である覚醒病。性病じゃないが病だ。

 赤ただれ病、猛病、骨砕け病、背反り病、足曲がり病、(つり)(わらい)熱、足焼け病、死溶(しよう)病……。

 そう言った種々様々の病気に感染し、快癒、あるいは闘病虚しく死んだことがある。

 

「聞いたことがない病気ばかりだ……この世界にある病気と同種のものもあるだろうが……カル=ロスくん。この世界にも存在する病気かどうかわかるものはあるかね?」

 

「はい。猛病がなにかは分かりますよ」

 

「なにかね?」

 

「放射線障害です」

 

「病気じゃないだろう、それは」

 

「エルグランドでは病気だと思われてるんです」

 

「そう言うことか……他は?」

 

「あくまで、私の知識に照らし合わせたものなので間違いもあると思いますが……」

 

「それで構わん。教えてくれ」

 

「骨砕け病はイタイイタイ病。背反り病は破傷風。攣笑熱はチフス。足焼け病は麦角菌(ばっかくきん)中毒かと思われます」

 

「イタイイタイ病とは?」

 

「あー……えーと、なんでしたっけ……カドミウム中毒です。たしか、骨が折れて、痛い痛いと叫ぶから……だったかな?」

 

 額を抑えて考え込んで少ししてから、カル=ロスがそのように答える。

 骨砕け病って中毒だったのか……カドミウムってなんだろう?

 

「たしかにカドミウムの過剰曝露(ばくろ)によるカドミウム中毒では骨軟化症があるな……骨砕け病というのもうなずける。他の病気は?」

 

「赤ただれ病は、全身に赤いただれが出来る病気です。足曲がり病も読んで字の通り、足がひん曲がります。死溶病は……よく分からないんです。患者を見たことが無くて」

 

「ふむ。赤いただれだけではなんとも言えないな……足曲がり病な……主な患者は子供だったりするかね?」

 

「よくお分かりで。こちらにもある病気ですか」

 

「くる病っぽいなぁ。大人だと骨軟化症というが。原因はいろいろなので一概には言えんが……死溶病というのはどんな病気だ?」

 

 鮮香の視線にあなたは頷いて、体が溶けて死ぬと答えた。

 恐るべき死病であり、この死病に感染すると治療法が存在しない。

 感染初期は微熱が3日ほど続き、次に体が動かくなってしまう。

 そこから高熱が出て、意識が朦朧としたまま2日ほどで身体が溶けて死ぬ。

 感染すれば1週間足らずで死に至るというわけだ。

 つまり、エルグランドでは大して恐れられない病である。

 

「なんでだ。助からん死病が恐れられないってなんでだ」

 

 病気は死んで、蘇ると大抵は治る。

 そして、死溶病もその典型である。

 つまり、3日でさくっと治ると言ってよい。

 

 エルグランドで恐れられる病気は長患いするもの。

 それでいて苦しく、なかなか死ねないもの。

 その上で意識もハッキリしているとなお怖い。

 そう言う意味で一番恐れられているのは背反り病か。

 あれは死ぬ直前まで意識がハッキリしている。

 

「文化の違いが凄すぎるな。うーむ、この調子では、この世界では未知の感染症を持っている可能性が高いな……君のことは隔離すべきなのでは?」

 

「しかし、鮮香さん。その手の心配をするのは10年遅いのではありませんか」

 

「そうだな、君が既に10年前からこの世界にいるな」

 

 ついでに言うなら、カル=ロスは送り出される直前にあなたに食われている。

 なので、性的接触で感染する病だったらカル=ロスも持っていただろう。

 

「まぁ、漂流者がゴロゴロいる世界で、今さらな心配ではあったな……はぁ」

 

「なんかすみません」

 

「君は悪かないよ。雨後のタケノコくらいの勢いで漂流者が来るのが悪いんだから」

 

「はぁ」

 

「まぁ、これで憂いなく楽しめるようになったな」

 

「はい?」

 

「さぁ、私とセックスしよう!」

 

 よし来た! やるか!

 あなたは鮮香のドストレートなお誘いを受けて立つ。

 

「スパムメールみたいなお誘いするなこの人……」

 

「カル=ロスくん。君もどうかね?」

 

「遠慮します」

 

「私の体に不満があるかね? たしかに還暦も近い身だが……まだまだ体の若さには自信があるのだが……」

 

「か、還暦……迫水家、半妖家系だからってインチキ臭い体質してるなぁ……」

 

 カンレキってなんだろう。

 なんか前にも大和がそんなことを言っていたが。

 そのように溢したところ、カル=ロスが教えてくれた。

 

十干(じっかん)十二支(じゅうにし)と言う(こよみ)がありまして。10と12を組み合わせた60を周期とします」

 

「で、その(こよみ)(かえ)るので還暦と言うのだな。つまり、60歳のことを言う」

 

 なるほど、よく分かった。

 つまり、鮮香は60近い年齢、50歳以上と言うこと……50過ぎ!?

 あなたは鮮香の驚異的な若さに目を疑った。

 

 どうみてもいいとこ15~16くらいだろ。

 まともに考えたら12~14くらいに見える。

 それが実は50過ぎ? ウソウソ信じないモン。

 

「ああ、そうか……お母様、鮮香さんは迫水家と言いまして、半妖家系……まぁ、異種族の血が混じった家系の方なんです」

 

 ほう? すると、ハーフエルフみたいな?

 

「迫水家は鬼ですね。鬼は……エルグランドで言うとオーガのことです」

 

 どうみてもオーガってナリじゃないだろうこれ。

 ハーフオーガはこんなに小柄にはならない。

 オーガほど巨大ではないものの、大柄な人間くらいにはなる。

 

 オニと言うのもなんか聞き覚えがあるような……。

 たしか、邪悪な悪霊のことではなかっただろうか。

 なんらかの人型生物の肉体を乗っ取る邪悪な霊だったはず。

 

「まぁ、次元が違えば勝手も違いますよ。で、迫水家はごらんの通り、若さを非常に長く保つ特性があります」

 

「私は特に若々しい部類に入るがな。旦那から生命力を奪い取って若さを保っている甲斐があるというものだ」

 

「それ一般的には邪法だと思うんですけど」

 

「ちゃんと節度を守っているから問題ない」

 

「そう言う問題かなぁ……」

 

 まぁ、人的被害が出ていないなら、それでいいのでは。

 あなたはそのように言い、疑問は解消したので始めようと提案した。

 

「くふふ、楽しみだな。いくら歳をとってもエロいことは気持ちいいものだ! さぁ、行こうではないか!」

 

 もちろんだ。でも、その前に軽くデートもしたい。

 この次元の町で買い物とかもしてみたいのだ。

 やはり、その際には同性に案内してもらう方が捗るわけで。

 

「そんなもの君の娘に案内してもらいたまえ。私はデートよりもセックス派だ!」

 

 なるほど、そう言うのも悪くない。

 風情はまるきりないが、それはそれでアリだ。

 セックスはスポーツ。そう言う派閥か。

 

 エルグランドでもそう言うタイプの人間は多い。

 って言うか、ハイランダーがそう言う種族だ。

 あなたがハイランダーにしちゃ抒情(じょじょう)的過ぎるのだ。

 

「それに、その、なんだ……デートまでしてしまうと、こう、本格的な浮気になってしまうだろう!」

 

「セックスした方が本格的な浮気ではなく?」

 

「違うのだ!」

 

「なにがですか」

 

「なんかがだ!」

 

 なんかよくわからんが、鮮香的にはそうらしい。

 であれば、そのお望みにお答えするのが女たらしと言うもの。

 あなたはバリリバだし、どんなシチュエーションも美味しく食べられる。

 鮮香が肉欲に塗れた行為をお望みならお答えするまでだ。

 

「ふはは、ではいこうではないか! 近くにホテルはあるかね!」

 

「あっちの方に真っ直ぐいけばありますよ」

 

「では、いこう!」

 

 いこう。

 そう言うことになった。

 

 

 

 

「優花。どうです?」

 

「うぅ~……正直、受け止めきれないというのが正直なところです……」

 

「まぁ、気持ちはわかりますが。少なくとも、鮮香さんは嘘は仰っておられないようですよ」

 

「晶が言う以上は、たしかなのでしょうね……」

 

「そもそも、本当に優花の才能を見込んで育てたんなら、外に出ることも認めないと思うし、仮に認めるにしても仕送りなんかしないと思うんだよね」

 

「優花は月40万とトップクラスの仕送りもらってますからね……しかも、大学卒業後の今も貰ってますし。睦美は家賃分しかもらっていないでしょう?」

 

「はい。月5万ですね。あとはバイトで賄うよう言われてます」

 

「どう考えてもメチャクチャ可愛がられてますし、メチャメチャ大事にされてますよ」

 

「でもぉ……お母さん、私のこと気付かなかった……」

 

「まぁ、それは見分けられないように頑張ってる私たちの努力の成果ですから……」

 

「カル=ロスのお母さんは気付くじゃん……?」

 

「あれは例外中の例外です」

 

「マジであの人は化け物」

 

「どうやって見分けてるのかサイコメトリで確認したことあるんですけど、あの人、恐ろしいことに1人1人の体格とか髪の長さ、ミリ単位で把握してますよ」

 

「ええ……」

 

「喋り方……口調もイントネーションも語調も完全に統一して、立ち居振る舞いも同調させてるのにどうやって見分けてるのかと思ったら……」

 

「これから散髪のタイミングも同期しないとダメですか」

 

「ですが、体質の差で髪の伸びる速さに違いがありますから……」

 

「そもそも、全員の身長が数センチほど違うのはどうしても変えられないですから……」

 

「たしかに、身長の差を一見して見分けて来る感覚の持ち主を相手にすると、見分けられるのはどうしても……」

 

「シークレットシューズ……いや、骨延長手術……」

 

「なんでそんなところまで考慮しなくてはいけないんですか……?」

 

「しかし、そこら辺統一したところでどうやってか見分けて来るような気はするんですよね」

 

「ぐぅ……正直クッッッソむかつくので、なんとかして見分けられないように頑張りたい……!」

 

「こっちが努力して見分けられないようにしてるのに、なんで見分けるんですかあのパッキン女たらし!」

 

「でも家族には一目で気付いて欲しい、この切ないディレンマ」

 

「わかる」

 

「わかりみ」

 

「カル=ロスが羨ましいと思わなくもないけど……」

 

「カル=ロスのお母さん、あなたの悪い噂を聞きました」

 

「それは口にするのもおぞましい鬼畜の所業」

 

「異 常 性 愛 者」

 

「だからべつに家族には居てほしくないんだよなぁ……」

 

「お母様のことを悪く言われて嫌な気持ちはあるのに、反論だけはどうしても思い浮かんでくれない、この苦しさよ……」

 

「悲しいね、カル=ロス」

 

「顔いいし、優しいし、強いし、賢いし、料理うまいし、いい匂いするし、すっごくいい人なんだけどね……」

 

「それらの美点をことごとく帳消しにする異常性欲よ」

 

「まぁでも、女だからよかったと思おう」

 

「と言うと」

 

「男だったら、誰彼構わずケツを掘りまくる……」

 

「怖過ぎ」

 

「男狩りじゃん」

 

「あの人が男だったら「男が強姦されたなんて恥ずかしくてまず誰にも言えないよ。仮に言っても誰もまともに取り合わないさ」とか言って無理やり尻掘ってそう」

 

「い、言いそう……!」

 

「嫌だなぁ、その解像度の高さ……」

 

「まあ、ほんとに、女だからまだしもよかったよね……」

 

「たしかにね……」

 

「まぁ、ねぇ……」

 

「だからこそ、みんなでクライアントの警護に行ったわけだしさ」

 

「んね」

 

「『アルメガ』との戦いさぁ、どうなると思う?」

 

「わかんない。私たちの過去からすると、どうやら私たちだけじゃ勝てなかったみたい」

 

「でも、私たちまでもがそうなるかはわからない。この世界では、タイムパラドックスは関係ない。未来は変えられる」

 

「そのために……ってわけでもないけど、私たちは戦うために、そして、勝つために鍛えて来た」

 

「『アルメガ』との戦い……そう、時間はないんでしょ?」

 

「うん。イミテルさんの出産前らしいから……」

 

「あと半年も無いんだ……」

 

「どう、なるんだろうね……」

 

「もしかしたら、私たち全員死んで……クライアントも死んで……完全敗北……そんな未来もあり得る?」

 

「ありえる」

 

「だから、戦うんでしょ」

 

「最善を尽くすことが私たちに許された最大の足掻きだよ」

 

「勝とうね」

 

「うん」

 

「負けないよ」

 

「私たちは『アルバトロス』。不墜の翼」

 

「私たちは勝利の栄光を運ぶ翼だから……」

 

「よーし! 戦う意気込みはキマったね! 晩御飯は! 肉を食べよう!」

 

「いいですねぇ、肉! 今夜は焼肉だー!」

 

「このために庭があると言っても過言じゃありません!」

 

「焼肉は私に任せろー! ジュウジュウ!」

 

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