あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「うあー……腰が痛い……体力はまだあっても、腰がついていかん……歳だな……」

 

 あなたと鮮香はねっとりたっぷりと愉しんだ。

 愉しんで愉しんで愉しみまくったが……鮮香が先にダウンしてしまった。

 

 しかし、鮮香の若々しくも熟れた肉体のすばらしさといったら……。

 情熱を秘めた体と言うか、柔さに満ちた熱い肢体だった……。

 これを好き放題しまくっている旦那が羨ましい限りだ。

 ……いや、話を聞く限り、好き放題しまくってるのは鮮香か。

 

「はぁ、やれやれ。若い頃は一晩中ヤりまくって、そのまま翌朝出勤なんてしたものだがな……」

 

 いいなぁ。鮮香とそんなけだるい朝を迎えてみたかった。

 やっぱり鮮香の旦那が羨ましい……そして過去の男たちも……。

 やっぱりこう、とっかえひっかえだったのだろうか……。

 

「おいおい、私は浮気はせんぞ。恋人にはきちんと操を立てる、貞淑な女だったのだぞ」

 

 今の旦那に薬盛ったのに?

 

「それは、それはなぁ……! 30手前になって焦り出したアラサー女の前に、若さ溢れる高校生男子なんか現れたら……迫るだろうが!」

 

 年齢がちょっとわかりかねるが、結構な年下らしい。

 学生だというから、たぶん10代……だと思う。

 

「一応言っておくが、逆レったわけではないぞ! 睡眠薬を盛って眠らせ、ベッドに潜り込んで、そのまま夜這いしただけだ。ちゃんと意識が覚醒してから合意もとった!」

 

 なら、セーフか?

 まぁ、あなたがとやかく言うことでもない。

 あなたはフィリアに完全に同意なしで行為に及んだりしたし。

 あなたは可能な限り合意を取るが、いざとなったら無法を働く節操のない女たらしなのだ。

 

「やめよう。この話はやめよう……すればするほど墓穴を掘るような気がする。帰ろう」

 

 あなたは頷いた。

 

 

 

 町中に出て、暮れ始めた空を眺めながら町を往く。

 この次元でも暮れなずむ空の美しさは同じだ。

 世界を赤く染める夕焼けの色があなたの瞳を満たす。

 

「この歳になっても、夕焼けを見ると心がざわつくよ。早く家に帰らないとお母さんに叱られる、とな」

 

 あなたも同じだ。

 まぁ、あなたの場合、怒るのは父だったが。

 

「はは、私も口酸っぱく叱るのは父だったな。男親と言うのは娘が心配なのだろう……その父も、だいぶ前に泉下の人となってしまったが」

 

 センカの……人……?

 表現はよく分からないが、察するに亡くなったということだろう。

 あなたはたぶん間違いではないよな……と思いつつ神妙な顔で頷いた。

 

「いくら年を取ろうと、人の心の中には幼い頃の自分がいるのだろう。私の中にもいる。いつの日か、父母に甘えていた私がな」

 

 その気持ちはあなたもわかる。

 あなたの中にも幼い頃の自分がいる。

 妹が欲しいと喚き続ける異常なガキが。

 3人の妹がいても、まだ欲しいと思ってる。

 

「優花の中にもきっといるのだろうな。あの時、うまく甘えられずに、寂しい思いをした、小さなあの子が……」

 

 暮れなずむ空に想いを馳せながら、鮮香がそう零す。

 優花も克己のように、距離があったのだろうか。

 

「優しい子なのだよ。遠慮しいで。弟妹の面倒をよく見て、弟妹を優先してしまう。私も母として未熟だった……あの子の優しさに甘えてしまったわけだ」

 

 下の子が産まれた時、上の子を放置するとよくない。

 そのごく単純な仕組みに気付くのに時間を要することは多い。

 特に鮮香は上の子が養子で、下の子が実子だ。

 やはり、腹を痛めて産んだ我が子は可愛いものだ。血脈の確実なつながりを感じてしまう。

 つい下の子を優先してしまうことが、何度となくあったのだろう。

 

「時は戻せないが、叶うことなら、あの時の私の頭を引っ叩いて、優花を抱っこしてやりたいのだがな。ままならんものだよ」

 

 まぁ、それでも。

 優花は鮮香のことを母として慕っているし。

 やや心理的な距離はあれど、疎んでいるわけでもなし。

 親子の時間を取って、少しずつ心理的距離を詰めるしかないだろう。

 

 話し合えとは言わないが。共に過ごす時間は作った方がいい。

 優花はもう幼子ではないが、それでも、その心の中には救われたかった幼子がいる。

 

「ふむ、そうか……そうかもな。うむ、君の忠告通り……もう少し、親子の時間を作るとするさ」

 

 一応言っておくが。

 ベッドの中で親子の時間は無理だからね。

 

「……さすがに私でもそのくらいは分かっている」

 

 なら、いいのだが……。

 

 

 

 家に帰り着くと、なんだか幸せな香りが漂っている。

 脂の焼ける、じんわりと甘い香りだ。腹が減る。

 その香りに誘われていくと、家の庭で煌々と炎が燃えていた。

 

「あ、クライアント。おかえりなさい。今夜は庭で焼肉ですよ!」

 

「庭で焼肉、台所で大和さんの唐揚げ……」

 

「この凶悪な挟み撃ちにより、私たちは肉に溺れます!」

 

「米が消えるぅ!」

 

 なんか『アルバトロス』チームのテンション高ェな……。

 あなたは目を白黒させた。

 

「ほう、ドラム缶コンロか。自作かね」

 

「ええ。パチって来た空のドラムを秋雨が切ってくれたものですね。加工は睦美が」

 

 半円形の形をした金属容器の中に、たっぷりと炭が敷き詰められている。

 パチパチと弾ける様子からすると、あまり品質の高い炭ではなさそうだ。

 そして、その炭の上に金属製の網が乗せられ、そこで肉が焼けている。

 薄切り肉を焼いて、ソースをつけて食べているようだ。

 

「ささ、クライアントも、鮮香さんも、肉を食べましょう」

 

「米は台所から適宜持って来てください」

 

「服の汚れが気になる方は、紙エプロンありますよ」

 

「トルティーヤもありますよ。ラップサンドにして食べてもうまいんです!」

 

 なるほど。しかし、今のあなたは体調の都合もあり、量が食べれない。

 量が食べれないのは悔しい。ならば、他人に食べてもらう。

 料理と言うのは粗末にされたら殺したくなるが、喜んでくれたら嬉しいものだ。

 あなたは自分もなんか肉料理でも作るかと『四次元ポケット』を開いた。

 

「く、クライアントまで……!?」

 

「いったい何を食べさせてくれるんですか?」

 

「クライアントの料理って豪華だから期待しちゃいますね……」

 

「ワクワクが止まりません」

 

 あなたは愛用のバーベキューコンロに点火。

 夏の熱気にも負けない炭火の暑さを感じながら、あなたは肉を取り出す。

 コンロの上に豪快に置かれた、超巨大サイズの肉。

 それは、かつてあなたが冒険者学園の卒業試験の際に手に入れたもの。

 ヒャンの町を襲ったドラゴンから採取した肉だった。

 

「ドラゴンステーキ!」

 

「あー、ドラゴン肉。実際のところ、味はほどほどなんですよね。でも、ドラゴンの肉と言う情報が食えるんですよ」

 

「そんなことよりこのバカでかい肉をムシャムシャ食えるのがすごい」

 

「顔よりでかいステーキ……! 夢がありますね! こんな肉、そこらで売ってませんし!」

 

 『アルバトロス』チームのテンションは最高潮だ。

 ドラゴン肉だからというより、純粋にでかい肉に興奮しているらしい。

 やはり、肉とはご馳走だ。そして、肉が大きいほどに喜びも大きくなる。

 肉と財布は大きければ大きいほどにいい。おっぱいは応相談だ。

 

「ほう、ドラゴンステーキ……なかなか興味深いな。それに大和くんは料理の天才と聞くから、彼の料理は食べて見たかったので唐揚げもいただきたい」

 

「有名なんですか?」

 

「裏界隈では有名だよ。彼の店の裏メニューは、一見するとただのモーニングなんだが……食べると射精するらしい」

 

「なにそれこわい」

 

「女だとどうなるのか分からないが、まぁ、イクんだろう」

 

「イッちゃいますか」

 

「イくんだろうな」

 

「さすがに裏メニューを人前で食べる勇気はないが、そこまでの腕となったら気になるだろう」

 

 大和の唐揚げはあなたも食べて見たい。

 普通に料理も抜群においしかったし。

 ならば、やはり唐揚げもおいしいのだろう。

 

「ふむ。やはり焼肉は普通にうまいな。米が欲しくなる……だが60代女性の胃には限界がある。肉を10枚も食ったら限界だ」

 

 悲し気な顔で鮮香がそう溢す。

 老いと言うのはどうしても避けられないものだ。

 まぁ、避けられない上で若返るとか手はあるが。

 老いていく体に、どう向き合い、付き合うかは千差万別だ。

 

「いつかは私たちも老いて体が動かなくなるのでしょうか……」

 

「そんな、私たちは生まれた時からどんぶり飯なのに……」

 

「焼肉で白米がバクバクいけなくなる時が来るなんて信じたくないです」

 

「老いが今から恐ろしい……」

 

 などと言いながらも手を止めない『アルバトロス』。

 この健啖っぷりを見るに、老いても相当食うのではなかろうか。

 そもそも老いても体を動かしていれば食事量は多いものだ。

 

「まぁ、君たちは鍛え込み方が生半ではないし、怪異やら異形と戦い過ぎだ。うちの旦那のように、人の域から脱してもおかしかないよ」

 

「人の域から脱する?」

 

「うむ。うちの旦那は人外と戦い過ぎて、半分人の理から脱してしまった。超人になってしまったのでな。40過ぎだが、まだ20代の身体を維持したままだ」

 

「ほほう……たしかに、私たちの仕事は似たようなものだし、似たような状態になってもおかしくないと……」

 

「角度も20代のままだし」

 

「そうですか。よかったですね」

 

 下世話な話につなげて来た鮮香をさらっと流す優花。

 

「まぁ、そうなれば生まれた時からどんぶり飯の君たちならば、米寿になっても飯中を喰らうことが可能だろう」

 

「大は?」

 

「とても食えんよ。中盛りでたくさんだ」

 

「衰えてるじゃないですか」

 

「いや、とても食えないですよ。中でたくさんです」

 

 鮮香と優花がニヤニヤしながらそんなことを言い合っている。

 

「んん~……?」

 

「なんです、なんのネタですか?」

 

 なんて話していると、大皿に唐揚げを山盛りにした大和が現れた。

 それをローテーブルの上にどかんと置く。

 

「おら、唐揚げだ。腹いっぱい食え」

 

「わぁい、唐揚げ。お母さんの唐揚げ大好き」

 

「うわぁ、サクッとしてるのに、ジューシーで、じゅあっとして」

 

「むちむちでぷりぷりでうまうまで……」

 

「うまいうまいうまいうまい無限に食えるうまいうまいこれうまいうまいめっちゃうまいうまい」

 

 大和の唐揚げに全員が勢いよく群がる。

 あなたも抗えぬ魅力に負けて群がる。

 そして、唐揚げを口に運ぶと魔術的な美味さすらも感じた。

 

 なんだこれ、うんめぇ~!

 

 砕けた調子でそう叫んでしまうほど、その唐揚げは美味だった。

 うますぎる、気が狂いそうなほどに、うまい。

 

「うまうまうままま。お母さん、唐揚げ美味し過ぎる」

 

「だろうよ。ご馳走系はちょっと加減しないで作ってるからな。唐揚げとかステーキは特別美味くても許されるからな」

 

「なるほどよくわからんうまうまま、ごはんおかわり」

 

「なんだこれ美味すぎるではないかね。おかしい、衰えた私の胃がもっと唐揚げを寄越せと叫んでいる。今なら飯中が食える」

 

「生まれた時からどんぶり飯たる私が進化してしまう……飯大を食える日が来てしまう……!」

 

 たしかにこれはうますぎる。

 ライスが進む。進み過ぎてしまう。

 いかん、体調が悪いのに食べ過ぎている。

 これは食後に苦しくて吐きそうになる流れ……!

 だが、手が止まらない! 唐揚げが美味すぎる!

 

「こっちがドラゴンのステーキとやらか……ほう、肉のポテンシャルを最大限に引き出してるな。なかなかうまいじゃないか。野趣あふれる味わいだ」

 

「ステーキもうまままま、肉欲の限りを尽くします」

 

「私、今日はこのまま胃が破れるまで食べます」

 

「メンタルを癒す山盛りの肉……素敵ですね……」

 

「無限に食えるぅ、胃が破けるぅ」

 

 あなたも無限に食えそうだ。

 唐揚げが美味すぎる……ライスが、進み過ぎる……。

 とても食べられない……腹が裂ける……。

 そう思っているのに手が止まってくれない。

 

 美人局(つつもたせ)と分かっているのに引っかかってしまう、あの感覚……。

 それに近しいほどの凄まじい吸引力を唐揚げから感じている……!

 

「ああ、そう言えば、カル=ロスくん」

 

「あ、はい」

 

「君のカウンセンリングについてだが、話は付けておいたので後日こちらに向かうように」

 

「ああ、どうも。正直、無用だとは思うのですが……」

 

「うーん。正直、私もそんな気はしてるんだが。やはり、一応はやるだけやっておけ。問題ないことを知るのも大事なことだ」

 

「そんなものですか」

 

「うむ。君の母親の愉しみっぷりと言ったらハンパではなく、心理的要因で好色なのではないと確信が持てるほどだったが……やはり、診断を出すのは大事だ」

 

「ええ、まぁ、はい。お母様は間違いなく徹頭徹尾趣味だと思いますよ」

 

「まぁ、療養で来てるのだろう。諸々の診断を出して、不調をすべて片す下ごしらえとでも思うといい」

 

「そう言う考え方もありますか。では、そのように……」

 

 その後、あなたは腹が裂けるまで唐揚げを食べた。

 あなたは翌日の夜までごはんが食べられないほど胃がもたれた……。

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