あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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  それからのこと。

 あなたはカウンセリングとやらを受けさせられた。

 心療内科とやらの医者に親身になって話を聞かれ。

 あなたはそのまま話術で先生を落としてホテルに行った。

 

 孫もいるのに……なんて恥ずかしがっていたが。

 あなたの手によって若かりし頃の感覚を甦らされ。

 女とはいくつになっても女なのだと思い知らされてしまった。

 

 熟女特有の柔らかで熟れた肢体をたっぷりと堪能し。

 あなたは心療内科の医者に、特に問題なしとのお墨付きをもらった。

 

「心に問題はなくとも、頭の方に問題はありそうですが……」

 

 まぁ、そうだとしても今まで問題なく過ごしていた。

 なので、それはさしたる問題ではないのだろう。たぶん。

 根拠はないが、きっと、おそらく、そうなのだろう。

 

「まぁ、理屈の上ではそうですね……」

 

 カル=ロスには呆れられたが、それがあなただ。

 申し訳ないが甘んじて受け入れてほしい。

 

「はぁ」

 

 さて、それで?

 

「なにがですか」

 

 今まで勝己に大和に鮮香ときたのだ。

 この調子で『アルバトロス』チームの親が勢揃いする流れなのでは?

 

「そんなことはないですが?」

 

 そんなバカな。それではあなたはどうやって『アルバトロス』チームの母親を食べればいいのだ?

 

「まずそもそも、娘の友人たちの母を食べることを当たり前のように捉えないで欲しいのですよね」

 

 そんな、難しいことばかり言わないでほしい。

 あなたに存在が明らかな女を食うなとは無体がすぎる。

 わかった、嫌ならば妥協しよう。あと3人だけにするから。

 

「人数の問題じゃないんだよなぁ……」

 

 とりあえず晶の母親とかどうだろう

 あ、いや、別次元の出身だから無理なのだったか。

 

「そうですね。ついでに言うと、晶は母親はいないですよ」

 

 そうだったのか……。

 では、名前の響きが他の子と違うアスマイーフはどうだろう。

 なんとなく響きがあなたたち側っぽいというか。

 この次元っぽくない響きと言うか。

 

「この次元は地域性が結構大きいので……まぁ、それはともかく……アスマイーフは、うーん……いえ、いいでしょう」

 

 いいのか。言ってみるものだ。

 あなたはウキウキでアスマイーフはどこにいるの? と尋ねた。

 

「王府なので、ちょっと歩いてはいけないですね。まぁ、転移で連れて行ってさしあげますよ」

 

 それはありがたい。では、ぜひとも頼む。

 あなたはそのように頷いて、カル=ロスに転移を頼むのだった。

 

「はいはい。おまかせあれ」

 

 カル=ロスが手を差し伸べて来たので、あなたはその手を握る。

 カル=ロスが呪文回路を形成し、転移魔法の構築をはじめる。

 エルグランドの民にはよく見慣れた『引き上げ』の呪文だ。

 あなたは空間の歪む感覚を浴びながら、そっと転移した。

 

 

 空間の揺れを感じながらも、それは数秒ほどで収まる。

 やがて、あなたが目にしたのはのどかな田園風景だった。

 マフルージャ王国でも度々目にした風景だが、こちらはよく整っている。

 

 田んぼ自体が綺麗な形に成型されているのだが。

 田んぼに植えられた種苗が大変秩序だった植え方がされているのだ。

 この田んぼを整えた人物はよっぽど几帳面だったのだろう。

 それとも、これほど綺麗に植えるとなんかいいことでもあるのだろうか。

 マフルージャの田んぼはどれもこれも種をばら撒いて作ったように雑なものだったが。

 

「あ~、こっちは暖かいですね。まぁ、茨城よりも南ですしね」

 

 感慨深げにカル=ロスが言う。

 言われてみると、たしかにぽかぽかとした陽気で心地よい。

 爽やかな陽気に包まれた、のどかな風景。

 あなたには馴染ない光景のはずだが、なんだか妙に落ち着く。

 

「ここは年間を通して温暖で、水も豊かで、地形も平坦。つまり、最高の米どころ。それが王府(おうふ)ですよ」

 

 米どころ。

 つまり、米がたくさん収穫できる地形と言うことか。

 そう言った豊饒の大地はやはりもてはやされるもの。

 ここは日本と言う国における胃袋なのだろう、たぶん。

 

「ま、他にも米どころはたくさんありますし。王府は小さい県ですからね。生産量はそこまで、って感じなんですが。アスマの実家があるところなので、私たちにはいちばん食べ慣れた米です」

 

 あなたがこの次元に来てから食べていた米は、アスマイーフの実家で作ったものだという。

 やはり、そうした農業を営む家の出だと、そう言う食べ物が手に入りやすいらしい。

 おかげで『アルバトロス』チームはいつでもごはん大盛りだ。

 

「先日も御挨拶したんですが、今回もきちんと失礼が無いようにしないと。お母様もお願いしますね」

 

 なるほど、そう言うことであれば。

 カル=ロスの食事、その根底を支えてくれていると言ってもいい人だ。

 失礼のないようにきちんと挨拶をしなくては。

 と言うか、それだったら手土産も用意したかった。

 

 なんでもっと早く言ってくれないのか……。

 まぁ、言ってもらったところで土産を買う先は分からないのだが。

 

「では、いきましょう。あちらの家です」

 

 カル=ロスが指し示した先には、でかい家があった。

 『アルバトロス』チームの家、4件分くらいはあるだろう。

 傍らにはどうやら牛用の家畜小屋だったと思わしきものまである。

 牛は久しく飼っていないようで、内部には独特の形をした車が置いてあるが。

 

 なかなか古い家のようで、よくよく見れば木が経年劣化で痩せていたりする。

 しかし、手入れは行き届いており、塗装もしっかりされている。

 丁寧に丁寧に手入れをしながら住んでいることが伺え、住んでいる者の几帳面さが伺える。

 

「ノックしてもしもし。ごめんくださーい、カル=ロス・気比(けひ)です~。そちらのアスマイーフちゃんのマブダチなのですが~」

 

 ドアを叩いて、カル=ロスがそのように言う。

 それからしばらくして、ドアが開いた。

 

「おや、本当にカルロじゃないですか。どうしたんです。クライアントも一緒になって」

 

 出迎えたのは、華やかな色合いのシャツに、巻きスカート姿のアスマイーフだ。

 いつも目元を隠している髪もアップに纏めており、雰囲気がまるきり違う。

 

「いえね、お母様が、女たらしの魂が勃起するとか言い出しまして」

 

 言ってない言ってない。

 そんな下品なこと言ってない。

 

「ああ、なるほど……え、それでウチに来るってまさか」

 

「はい。夜の保護者参観の時間だとか言い出しまして」

 

 しかし、アスマイーフはまるで疑問は抱いていない。

 あなたは女たらしの魂が勃起するとか言い出すように見えるのだろうか。

 ……まぁ、この様子だと見えてるんだろう、たぶん。あなたはちょっと悲しくなった。

 たしかに漁色は派手だが、そこまで下品ではないと思っていたのだが……。

 

「ええ~……あの、クライアント。その、家族を紹介するのは構いませんが……あの、うちの家族関係を破壊するような真似は、厳に慎んでほしいというか……その、はい……」

 

「これで米農家廃業するとかなったら12人全員マジギレ案件ですからね。分かりますか、お母様。やばいと思ったが性欲を抑えきれなかったとか言い出さないでくださいね」

 

 そんなにまで言われなきゃダメか。

 まぁ、それくらいのことをしてる自覚はあるが。

 

「うちは、その、割と特殊な家族関係ですから……その、本当に、クライアントが強引なことすると……困るので……本当に、困るので……」

 

 アスマイーフは本当に困ってそうな顔をしていた。

 あなただってよその家庭環境を壊したいわけではない。

 いや、たしかにサシャの家族関係は修復不能なまでに粉々にしたが。

 しかし、それはあくまでも合意の上の行為であるし……。

 

 なので、アスマイーフの家族もちゃんと合意を取るし。

 意図的に家族関係を崩壊させるような真似はしないと誓うし。

 

「いまいち信用ならないんですよね……いえ、まぁ、紹介自体は構いません……こちらへどうぞ」

 

 溜息を吐かれたが、紹介はしてもらえるようだ。

 あなたはウキウキ気分でアスマイーフの後をついて歩く。

 

 入口からすぐ横の部屋がリビングになっているらしい。

 そちらへと入ると、甘い煙の香りが漂う部屋があった。

 

 とんでもなく小型の蓄音機から軽やかなメロディーが流れている。

 カウチの上で、俯き加減な姿で読書を嗜んでいる女性がいた。

 

 紙面を追う瞳は蒼く、風に揺れる髪は金。

 小柄で細身の体躯は良家出身の貴婦人のようだ。

 しかし、零れる髪を掻き上げる指には厳めしい修練の痕跡。

 なにかの身体鍛錬と、武器の扱いを、現役レベルで行っている。

 なんだか見た目の情報がいろいろとそぐわない女性だ。

 

「お婆様、お客様です」

 

 お婆様なのか……見たところ、30そこそこ位に見えるが。

 しかし、お婆様と言うなら実際はもっといってるのだろう。

 

「うん? まぁまぁまぁ。これはこれは、大変失礼いたしました。お客様を前に読書に耽るなんて無作法を」

 

 女性は恥ずかしげに笑いながら、そつのない動作で本を畳んだ。

 そして、キビキビとした動作で立ち上がると、額に人差し指と中指を当てる姿勢を取った。

 騎士や軍人がやる仕草、敬礼の仕草そのものだった。

 

「シャロン・アットイーヴと申します。あなたははじめてのお客様かと思いますが……カル=ロスさんとご一緒と言うことは、もしや?」

 

「はい。こちらがどこに出しても恥ずかしい女たらしであり、すべての男にとっての悪夢、そしてすべての女の敵である、私の母です。本当にごめんなさい」

 

 そんなひどい紹介をするやつがあるか。

 反論する言葉がどうしても思い浮かんでくれないが。

 しかし、そんなひどい紹介しなくても。

 全部事実ではあるけれど……反論はできないけれど……!

 

「まぁまぁ……私はシャロン・アットイーヴと申します。アスマイーフとは、祖母と孫と言う間柄になります」

 

 あなたは頷いて、自己紹介をする。

 どこに出しても誇らしい一流冒険者であり、すべての女の味方、そして金持ちだ。

 あなたはそんなポジティブな自己紹介をした。

 

「どうぞ、よろしくおねがいします」

 

 差し出された手を受け、握手する。

 見た目にそぐわない、硬い手だ。

 『アルバトロス』チームの手に似ている。

 

 『アルバトロス』チームは独特な形状の銃を使う。

 いや、この世界では一般的な銃なのか?

 ともあれ、あちらの次元では一般的ではない銃だ。

 そのためか、手に特有のタコがあるのだが……。

 シャロンの手にあるタコは、それと同じだ。

 彼女も銃器の訓練を、かなり厳しく積んでいるらしい。

 

「本当はもう1人、にゃーさんがいるのですが……」

 

「日課の釣りに行ってて、いないんです。まぁ、日が暮れる前には帰ってくるでしょう」

 

 その、にゃーさんなる人物がアスマイーフの母親だろうか。

 

「はい。まぁ、例によって例のごとく、私も養子なのですが」

 

 アスマイーフも養子らしい。

 なんか、この調子だともしや……。

 

「はい。『アルバトロス』チームは全員みなしご、親がいてもそれは義理の間柄です」

 

 そうだったんだ……接点が見えないチームだと思っていたが。

 みなしご、孤児だったという情報から集まったということか。

 なるほど、たしかにそう言った生い立ちは共感を産むので納得いく経緯だ。

 

「まぁ、みんな平穏かつ平和に育ってますので、気になさらないでください」

 

「継母にいじめられたとか、義両親の実の子に使用人扱いされたとかもないし、学校でいじめられたとかもないですから」

 

 よかった。可哀想な境遇の子はいないんだね。

 あなたはそのように頷いてほっと溜息を吐いた。

 やっぱり女の子は幸せそうに笑っているのが一番だ。

 悲しい境遇で育ったなんてことはない方がいいのだ。

 

「私も厳しく育てられましたが、えーと、はい、当人を前にして言うのもなんですが、可愛がってもらったと思います」

 

「アスマは神様が私たちに贈ってくれた子なのだと信じていますから。血縁はないかもしれませんが、私たちはたしかに家族です」

 

「そう言うことらしいです」

 

「だって、あなた家の前に捨てられていたのですよ? 我が家の前ですよ? それも、20年以上前なのですか。お隣さんですら10キロ先なのに!」

 

 そりゃ遠い。ここはかなりの過疎地らしい。

 広大かつ多数の田んぼがあったが、世話する人間はどうなっているのだろう。

 もしや、便利な機械で世話をしているとか?

 なるほど、それならそんなに人数がいなくてもいいのか……。

 

「神様でないにせよ、それはきっと超越的な存在に違いありません。運命だったのです、私たちが家族になるのは」

 

 そう言う風に、シャロンはアスマイーフを認識しているらしい。

 なるほど、義理の親子であれ、それは確かな家族である。

 アスマイーフは順当かつ穏当な環境で育っていたらしい。

 

 この様子だと、にゃーさんなる人物も穏当な人物なのだろう。

 どんな人物なのか、会うのが楽しみだ。

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