しばらく、ラルカと談笑をする。
ラルカの話術はやわらかで嫌味がない。
安心できるというか、心を開きたくなるような。
友好的に物事を進めるのに長けた話し方だ。
シャロンは打てば響くような、簡潔かつ端的な物言いをする。
物腰や喋り口調こそ貴族的な鷹揚さ、老獪な物を感じさせるが。
発言内容そのものはきわめて明快なものだ。
シャロンの身に沁みついた戦場の垢。
それを思えば、本来的な性格は端的な物言いをする方なのだろう。
戦場にあってこそ本質が見えるタイプの人間かもしれない。
まぁ、そう言う人間は結構いる。
「いやー、むかし……アスマがうちの前に捨てられてた時は本気でびっくりしたにゃよ! ここらへんはドが5個くらいつく田舎にゃよ? いったいどこから出て来た赤ちゃんなのにゃって思ったにゃよ」
「そりゃもう、コウノトリが運んできてくれたんですよ」
「あっはっはっは、んじゃ原産地はキャベツ畑かにゃ」
「日本の野菜摂取量トップは大根らしいので、大根畑ですよ。抜いたら赤んぼ出て来るんです」
「窒息しそうだにゃー」
ラルカとアスマの会話はジョークを交えた軽妙なものだ。
親子と言うよりは友人関係に近いようなコミュニケーションだ。
そのあたりはたぶんラルカの性格的なものだろう。
同様の、戦塵に塗れた人間特有の気配は感じるが。
ラルカの喋り口調は穏やかかつ、優し気なものだ。
言葉に強いものが混じらないように心掛けた喋り方。
母親らしさ、と言うべきか。そんな口調だ。
子供を威圧しないような喋り口調。こなれているのは、子育てに従事して来た年輪の証か。
まぁ、ラルカは美形な上、迫力のある相貌だ。
黙っていたら不機嫌に見えるを通り越し、怒っているようにも見える。
柔らかな物腰と、コミカルな喋り口調あっての人あたりのよさか。
そうでなかったら子供に泣かれるタイプの人間だったろうな……あなたはそのように思った。
「アスマが来てくれたおかげで、うちはなんかこう、明るくなったにゃよ。やっぱり子供がいると違うにゃ」
「今はもう大人になってしまいましたけどね」
「それでも、にゃーさんたちにとっては子供にゃ。これからも明るく輝いて欲しいにゃ。必要に応じて電球も変えるにゃ。カバーも磨くにゃ」
「もしかして私、物理的に光ってたりします?」
「そうにゃよ。暗い夜にはアスマの光が役に立つのにゃ」
「マジかよ。どこが光ってるんですか。頭ですか、やっぱ。中身入ってないと思ってたら電球入ってたか……」
「あっはっはっは! まぁまぁ、頭空っぽの方が色んなものが入るにゃ。にゃーさんも昔は頭空っぽだったにゃけど……」
「ちょいちょい」
「んにゃ?」
「今も、な?」
「驚くほど失礼にゃこの子は」
軽快な喋りにあなたは思わず笑う。
カル=ロスもころころと笑っている。
この家は穏やかな時間が流れている。
心地よい空間だ。こういうのもいい。
あなたはそんな感慨に浸った。
そこで、シャロンが戻って来た。
「そう大した部屋でもないのですが、ゲストルームが整いましたので。そろそろ、夜もよい時間ですから、夕食の支度といたしましょうか」
「お、そうにゃね、お嬢。豪勢にビンチョウマグロを食べるにゃよ~。アスマ、捌くの手伝ってくれにゃ~」
「はいはい。メインディッシュはなんですか。ラルカのホイル焼きとかですか」
「アスマの姿焼きとかでもいいにゃよ」
なんて話をしながら、ラルカとアスマイーフが奥へと引っ込んでいく。
察するに、そちら側にキッチンがあるのだろう。
先ほど、ラルカが釣って来た魚を置きに行ったのもそちらだった。
この次元のキッチンには大変便利な道具がたくさんある。
それによって、どうにかして魚を保存しているのだろう。たぶん。
察するに、電気式冷蔵庫なる魔法のようで魔法でない道具だろう。
先日、『アルバトロス』チームの家で見た冷蔵庫は驚愕だった。
まさか、電気の力によって物を冷やすなんてことが叶うとは……。
魔法を使っている気配は一切感じなかったので、本当なのだろうが……。
だが、いったいなにをどうやったらそんなことができるのだろうか。
電気の力はたしかに強大で、なおかつ利用しやすいものだ。
動力として使用することは既にエルグランドでもリリコーシャでも広く行われている。
まだまだ黎明期の技術ゆえに、それほど有用性の高いものではないが……。
しかし、動力ではなく、温度を下げるってどうやるのか。
上げるほうは、まぁ、わからなくはない。やりようはどうにでもある。
だが、冷やすって……どうやって? さっぱりやりようが分からない。
魔法によって冷やしていると言われる方がまだしも納得がいく。
いや、だが、以前にどこかで製氷機というものが作られたと聞いたような……。
氷を作ることができるのならば、ものを冷やすこともできる……のか?
「私は料理はさっぱりなのですが、にゃーさんとアスマは料理を趣味にしておりまして」
ほほう、それはいい。
アスマイーフが料理を趣味にしているとは知らなかった。
銃火器を磨くのを趣味にしていると思っていた。
「それは単に、そう躾けましたから。やはり、発射ガスがこびりついた銃身の掃除は大変ですから、早め早めにするようにと」
「アスマは銃の整備が丁寧ですね。当日に整備して、翌日まで整備用油に漬け込んでススを浮かせてもっかい整備、みたいなこともしますから」
「ふふふ。うちでは3日かけます。質の悪い油でも整備が出来るようにそうしていた名残なのですが」
「3日はすごいですね……」
「上質な洗浄油が手に入るなら、1日で十分ですから、アスマのそれも間違いではありません」
なるほど、そう言う家庭の方針だったとは。
あなたは滅多に使わないが、銃を使った場合は魔法で洗浄しておしまいだ。
しかし、その後の油を塗って磨いて保管して……みたいな流れは手作業でやる必要がある。
だからめんどくさくて銃は使わない。
「……まぁ、ごく一般の家庭で銃の整備についての方針みたいなのは珍しいとは思いますが」
カル=ロスが微妙な顔で言う。
この国では銃はあんまり一般的ではないらしい。
まぁ、たしかに銃を担いで歩いている人は見かけなかったし。
「それほど銃規制が強いお国柄ではありませんが、やはり日本は刀の国ですから。刀持ち歩いている人なら結構いますよ」
「そうですね。この国の方は、銃弾を刀で捌くのがお上手で。私は剣はあまり得意ではなくて」
なるほどなぁ。お国柄。それは色んな事情が絡むものだ。
そう言うのを知れるのも、他国を旅する醍醐味か。
この国の剣士の腕前なんかも知って見たいものだ。
後ほど、腕に覚えのある人とかに会えたら手合わせ願いたいものである。
それからしばらくシャロンと談笑するうち。
奥の方から得も言われぬ旨そうな香りが漂って来た。
魚の焼ける、香ばしい香りだ。
エルグランドでは魚食の文化も盛んなので好ましく感じる。
やがて、ラルカとアスマがたくさんの皿を手にやって来た。
「さぁさぁ出来たにゃ出来たにゃ。たくさん食べるにゃ、たくさん飲むにゃ。おなか一杯食べてくにゃ!」
「では、僭越ながら、当家のシェフである私、アスマイーフ=ティルス・アットイーヴが手掛けた料理についてご説明しましょう」
「頼むにゃ、敏腕シェフ!」
「これは魚、これは魚、これも魚、これは肉、あとなんかこれは、なんだっけ? まあ、食いモンですよ。腹に入ればいっしょいっしょ。あとはその他大勢です」
「このシェフ、騙りにゃ?」
愉快な紹介を経て、あなたたちの前にたくさんの料理が並べられる。
なにかしらのソースと油で漬け込んだらしい生魚、マリネの類だろうか?
豚肉の蒸し焼き料理、細切れの魚とトマトのサラダ、鶏肉の炙り焼きなどなど。
ラルカの宣言した通り、実に豪華な晩餐だった。
「カルロ、ポキボウルはどうしますか。ミディアム? 松? 特盛? ベンティ?」
「これ、どう答えるのが正解なんですかね……? とりあえず大盛で」
「竹一丁」
「竹って大盛なんだ……」
アスマが生魚の漬け込みをライスの上に載せてくれる。
ポキボウルなる料理らしいが、ちょっと見たことがない料理だ。
「アスマの創作料理ってことになってます。まぁ、南国風漬け丼ですかね」
「クライアントは生魚平気でしたよね。あ、でも、体調悪いんでしたっけ。とりあえず小盛でいっときますか」
では、そのように頼む。
あなたはアスマからポキボウルなる料理を受け取る。
使われている魚はなるほど、ラルカが釣って来たビンチョウマグロなる魚のようだ。
この赤身の感じはマグロっぽいのでたぶんそう。メインディッシュに相応しいと言える。
「では、皆さんいただきましょう。1日の糧に感謝を」
「感謝にゃ。いっただきまーす」
「いただきます」
「いただきますか」
各々が食前の挨拶、祈りを捧げた後、食事に入る。
全員がポキボウルを主食に据えているが。
唯一、シャロンだけは粥らしきものを据えている。
独特の黄とも茶とも言える、あんまりうまそうには見えない代物だ。
なにか特別ないわれのある料理とかなのだろうか。
家の主だけが食べることを許される料理とかもある。
そう言う文化圏なのかもしれない。あなたはそのように理解した。
おいしい夕食をいただき、それから入浴をした。
カル=ロスと一緒に入り、大人しくゆっくりと身を清めた。
エロいことしたい気持ちもないではなかったが。
酒も入っていたし、さすがに他人の家の風呂を汚すのは……。
そう言うわけで、あなたは大人しく入浴をした。
しかし、シャロンとラルカのガードはなかなか硬い。
のらりくらりとして、とらえどころがないというか。
なかなか貞淑で身持ちが堅い。燃えるではないか。
あなたの話術でも早々落とせないのは悔しいが興奮する……。
また何か手を考えなくては。女たらしの名が廃る。
まだ夜は長い。就寝するには些か早いだろうし。
酔い覚ましと入浴の熱を冷ますため夜風に当たり、考えを纏めよう。
そのように考えて外に出て来たところ。
どこからかひっそりとした人の声が聞こえてくる。
あなたの聴覚や嗅覚は鋭いが、あくまでも常人の範疇だ。
鍛えられないのだからからしょうがないだろう。
だが、逆を言えば、弱体化しても感覚器官は衰えていない。
あなたの耳は冒険者らしい鋭敏さでその声の出所を察知した。
身体能力と違って衰えのない隠密の技量によって、あなたはその出所の下へと向かう。
その声は昼頃に見ていた、庭の家畜小屋から聞こえているようだった。
闇に同化し、音を殺し、存在を隠蔽しながら家畜小屋へとそっと入り込む。
家畜小屋の、奥まった方に、小部屋がある。
それなりに規模の大きな家畜小屋なので。
出産を控えた牛馬がいたりした時に、人が泊まり込むための部屋とかだろう。
それこそ人が2人や3人入ればいっぱいになるような小さな部屋だ。
その小部屋の中で、人の話し声がする……。
「お客様にデレデレしていなかったと……神に誓って言えますか?」
「い、言えるにゃ。誓って、誓ってそんなことしてないにゃ……アスマのお友達が来てくれて、にゃーさん嬉しかっただけにゃよ……」
「本当に? あの奥様は本当にきれいな子でしたね? 若い頃の私よりも綺麗でしたね? デレデレしていませんでしたか?」
「してないにゃ……ぜんぜん、そんなの、してないにゃよぉ……」
「もう、25年になるのですか……そうですね、あの頃は若く瑞々しい10代の少女だった私も、いまや40手前のおばさんです。にゃーさんほど若々しくもありませんから、目移りするのもしかたありませんね?」
「違うにゃあ……にゃーさんほんとに……そんなのないにゃ……」
「しかも、夕食の席で秋波を送られて、あんなまんざらでもない態度で……」
「直球で断ったら失礼にゃよ……」
「私はとても深く傷つきました。埋め合わせが必要です。お分かりですね?」
「で、でも、にゃーさん、もう50過ぎにゃよ……そんな、お嬢に喜んでもらえるような体じゃないにゃ……」
「そうだとして、何か問題が? さぁ、久し振りに燃え上がりましょう……」
「うう、お嬢の感性わっかんねーにゃ……」
そう、ラルカの泣き言が聞こえ。
それから衣擦れの音、粘性の水音、甘い声……。
あなたは気配を殺し、存在感を隠しながら、その声に聞き入る。
世の中には同性をパートナーに選ぶ者は少なくない。
エルグランドではよくあることだし、あなたがその筆頭と言える。
しかし、エルグランド以外では同性では子供は作れないのだ。
だからかエルグランド以外で同性をパートナーに選ぶ者は、残念ながらそう多くはない。
そんな風習もあって、制度の上でも同性をパートナーにできないことはめずらしくない。
それは愛する者とパートナーと言う形で家族になる方法がないということ。
そうした時、同性愛者たちは、ある方法で家族になることを選ぶことがある。
それこそが、養子縁組である。親と子という形になるが。
それはたしかな家族の関係であり、妥協案として選ぶことがある。
この国が同性婚可かは聞いていなかったが。
ラルカとシャロンは、そう言う経緯で義理の親子になったのだろう。
なるほど、ガードが堅いわけだ。
パートナーが真横にいたとはな……。
落とせるわけもない状況で間抜けにも突撃していたとは。
熟年カップルなだけあり、距離感を見誤ったか。
エルグランドでは同性婚が合法なので堂々としている。
しかし、そうでない国では密やかに付き合っている者も少なくない。
そうした隠蔽の姿勢が染み付いて、一見してパートナーに見えないことも少なくない。
あなたをも騙しおおせるとは。やるではないか。
あなたは畜生やられたと悔しがりながらもラルカとシャロンの情交に聞き入る。
乱入したいが、しても歓迎はしてくれまい。
あなたは悔しさに苛まされながら、2人の嬌声をオカズに自分を慰めた……。
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