あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたは浜辺にいた。

 透き通った蒼く爽やかな海。

 遠景に見えるは双子の島。

 傍にはヤシの木が生え、南国の風に揺れる。

 流れ着いた流木たちの黒く塗れる様が美しい。

 

 暖かく、さわやかな空気に満ちた浜辺。

 それはあなたにとり、天国に最も近い光景にすら見えた。

 エルグランドの民にとっては楽園と言う他にない光景だ。

 

 そんな光景を前にして、あなたの心には暗雲。

 止めどなく涙が溢れて来てどうにも抑えようがない。

 あなたは美しいビーチの中で泣きじゃくっていた。

 

 

 昨晩のこと。

 シャロンとラルカが秘め事を楽しむ中、あなたもこっそりと自分を慰め。

 シャロンが2回戦を終えた頃にはその10倍くらい昇り詰めた。

 

 聞くに、シャロンは40手前くらいの年齢らしい。

 女は不思議と30代後半から40代頃の性欲が強い。

 シャロンもその例に漏れなかったらしく、歯止めの効かない欲望にラルカは翻弄されていた。

 

 それを聞きながらの自慰行為。

 苦しくて、つらくて、悲しくて。

 だが、意味不明なほどに気持ちいい。

 あまりの情けなさに涙すら零れた。

 

 シャロンとラルカが行為を終える頃には。

 あなたの足元はぐしゃぐしゃだったし、あなたは疲れ果てていた。

 しかし、シャロンとラルカに気付かれるわけにはいかない。

 足腰立たないくらいガクガクだったが、その場をなんとか逃げ出した。

 

 勢いのまま走り、目についた道をひたすら疾走した。

 泣きながら夜道を走るあなたは爆裂に怪しかったが。

 幸いにも、誰かに目撃されることはなく、そのままあなたは走り続けた。

 

 そして、このビーチに到達。

 海を前にして、あなたの足はようやく止まった。

 水辺を前にして、平気で突っ込む人間はあまりいない。

 同様にさしものあなたも水辺を前にすれば、足は止まる。

 そして、あなたは感情に任せるままに泣き続けていた。

 それ以外に出来ることがなかったし、泣きたい気分だったから。

 

 

 いったい自分はなにをやっているのか。

 女の子と仲良くするために来たというのに。

 やってることは落とせなかった女の子たちの情交の声を聴きながらの無様な自慰行為。

 あまりにも情けなく、救いようがないほどに滑稽だった。

 

 ショーケースのパンを眺めて口をもごもごさせている孤児かなんかか?

 あなたはパンを与える代わりに処女をいただく類の人間だったはずだ。

 間違っても自分がそうして眺める側に回っていいはずがない。

 

 そんな後悔、そして自己嫌悪。

 それらに任せて、あなたは泣きじゃくっていた。

 泣いて泣いて、泣きまくって。

 目も腫れてしまうほどに泣き続け。

 

 そうして朝日が昇りだし。

 美しい朝焼けに照らされる頃、あなたの心はようやく晴れた。

 ひたすらに泣いて泣きまくれば、ストレスも発散できるというもの。

 

 やはり、うまく説明できないがいろいろとうっぷんが溜まっていたのだ。

 どうしても弱体化すれば、普段と違って出来ないことが増える。

 いつもなら酒なんか水同然に飲めるのに、今は蒸留酒を2杯も飲んだら酔う。

 眠気に負けてうたたねなんて普段はしない。

 そして優しさゆえのこととは分かっていても……。

 カル=ロスら『アルバトロス』チームの気遣いが癪に障る。

 

 弱体化していることは認めよう。

 だからと言って守られるべき弱者になったつもりはない。

 1対1なら『アルバトロス』チームに負ける余地はないし。

 さすがに全員は厳しくとも、1セクション、つまり4人になら勝てる自信もある。

 

 それでも『アルバトロス』チームはあなたを守るべき者として扱う。

 それが彼女らの仕事であることは理解している。

 もともと、あなたの警護のために来ているからだ。

 まぁ、依頼主は未来のあなた自信らしいのだが……。

 

 しかしだ、あなたは守られて喜ぶような姫君ではない。

 あなたは自分自身が前に立つことを尊ぶ冒険者だ。

 守られている自分にうっぷんが溜まるのもやむなしだろう。

 

 まぁ、たくさん泣いて、すっきりした。

 そうしてみると、この美しい浜辺が気に入って来た。

 この風光明媚な浜辺、のんびり時間を過ごすのにはピッタリだ。

 

 あなたは後ほどここに散歩に来ようと決めると、家へと引き返した。

 全速力で走って来たので、なかなか距離がある。

 あなたは急ぐかと速度を上げて走り出した。

 

 

 

 暖かな空気に包まれての疾走はなかなか心地よい。

 あなたは走り続け、やがてアスマの家へと辿り着いた。

 時刻はまだ日の出からそう間もないが、みんな起きているだろうか?

 

 そう思いながら敷地に入ると、庭の方で水音がする。

 不思議に思ってそちらへと向かってみると、そこにはラルカがいた。

 口に咥えタバコをし、緑色の細長い筒を手にしている。

 そして、その筒からはビシャビシャと勢いよく水が噴き出している。

 

「お? あれ? どっから出て来たにゃ? 外から入って来なかったかにゃ?」

 

 あなたは周りを散歩していたと端的に答える。

 向こうの方の浜辺まで行ってきたが、とても綺麗だったとも。

 そう言ってあなたが指差した方角に、ラルカが首を傾げる。

 

「おん……? 北の方にビーチはないにゃよ……? 浜辺があるのは、反対にゃよ?」

 

 言って、ラルカが指差すのは南側だ。

 なるほど、反対にも浜辺があったのか。まぁ、たしかにあってもおかしくない。

 昨日、ラルカは魚を釣って来たが、さすがに北側の浜辺は遠すぎる。

 しかし、あなたが見に行ったのはたしかに北側の浜辺だ。ちと遠かったが。

 

「いや、たしかに北側にもいくつか浜辺はあるにゃけど……20キロくらい離れてるにゃよ。ちょいと行ってこれる距離じゃないにゃ」

 

 結構あるな。まぁ、あなたが全速力で走れば5~6分でいける。

 

「って言うか、山超える必要あるにゃよ」

 

 超えた。慣れてる。

 

「……なるほど、奥さんも超人枠だったにゃ。とんでもねーにゃ」

 

 ラルカがそのように頷いた。

 まぁ、20キロを5分で走破はそんなに難しくない。

 この次元の人間でも、特に鍛えてる者なら可能なのだろう。

 

「まぁ、にゃーさんも本気で走れば時速70キロくらいは出せるにゃし……若い頃は100キロ分装備担いで戦って、ことあらば人間1人担いで帰って来たりもしたもんにゃ。そう考えてみると、時速200キロくらいなんてことないにゃ」

 

 ラルカも納得してくれたようだ。

 それで、ラルカの方はなにをしていたのだろう。

 

「庭の水やりにゃ。あと、朝のニコチンタイムにゃね。うちは屋内禁煙にゃ」

 

 言って、口から紫煙を吐き出すラルカ。

 克己もそうだったが、やはり年配になると喫煙が好きになるのだろうか。

 あなたもかつてちょっと試したことはあるが……。

 あんまり好ましい趣味とは思えなかった。

 吸っている人間にとやかく言うつもりはないが。

 

「まー、タバコなんか吸わない方がいいにゃ。にゃーさんはもう癖になっちゃってるにゃよ。あはははは」

 

 まぁ、趣味はそれぞれだろう。

 タバコも嗜んでみれば奥深いのかもしれないし。

 少なくとも長年愛好できるようなよさがあるのだろう。

 単に依存性があるだけなのかもしれないが。

 

「あっはっはっは……まぁ、依存性にゃね。にゃーさんがタバコ吸い始めたのは16の頃だから、もう30年以上にもなるにゃねえ……あ、にゃーさんの国では16歳から合法だったにゃ。違法じゃないにゃよ」

 

 むしろ喫煙に違法適法なんてあるのか。

 あなたはこの国の奇妙な法律に思わず首を傾げた。

 

「さて、ニコチンもチャージできたし、朝ご飯にするにゃー。朝からちゃんと食べて、しっかり働くにゃ。今日も田んぼの世話にゃよー」

 

 そして、それが終わったらのんびり釣り?

 

「あっはっは、引っかけ釣りで無理くり釣ってるから、のんびりではないかにゃ~。食べるための釣りにゃからね。ぶっこみやるにゃけど、オマケにゃねえ。たまに大物釣れるからやって損はないにゃし」

 

 なるほど、実利的な理由で釣りをしていたらしい。

 あなたもかつては釣りと言えば糊口をしのぐためにやっていた。

 なんだかんだ、釣ることだけを目的にやればそれなりに釣れるものだ。

 

 特定のものだけを狙ったり、大物狙いをしたり、仕掛けにこだわったり。

 そう言うことをすると、途端に難易度が上がってくるが。

 逆になんでもいいから食えるもの釣れろ! というやり方ならなんだかんだ釣れるものだ。

 

「そうそう、奥さんもわかってるにゃね。釣りなんか食えればいいにゃ。まぁ、不味い魚もいるにゃけどね」

 

 なんて言いながら、屋内に入っていくラルカ。

 あなたもその後に続いて屋内に入った。

 すると、リビングではシャロンとアスマがお茶を飲んでいた。

 

「あら? 奥様も外にいらしたのですか?」

 

「散歩にいってたらしいにゃよ。北のビーチにいってたらしいにゃ」

 

「北……山しかありませんが?」

 

「山超えしたらしいにゃ」

 

「なかなかストロングな散歩をなさるのですね……」

 

 なんて、話す2人に昨晩の情交の名残はない。

 昨日の日中に談笑をした時のそれと同じ。

 あなたは脳が歪むような、奇妙な興奮を感じた。

 

 なんだこれは、エロい。

 

 うまく説明できない。だが、なんかエロい。

 あなたは言葉にできないエロさに身悶えした。

 

「まぁまぁ、朝ご飯にするにゃよ。アスマ、表で魚焼いてくれにゃ。炭は炊いてるにゃ。にゃーさんは味噌汁作るにゃ」

 

「はい」

 

 アスマとラルカがキッチンに引っ込んでいく。

 

「さ、奥様、お散歩をなさってお疲れでしょう? 朝食の前ですが、お茶などいかがですか?」

 

 では、いただこう。

 あなたはそう答えながら席に着く。

 そして、シャロンの手で給仕された紅茶を飲む。

 気候は温暖だが、やはり朝は暖かい紅茶に限る。

 

「ところで、奥様」

 

 なんだろう。

 

「昨晩の雨は大丈夫でしたか?」

 

 雨? いや、一晩中ずっと晴れていたと思うが。

 まぁ、夜半に山向こうにいってしまったので。

 こちら側では雨が降っていた可能性もあるが……。

 しかし、周囲の様子を見るに、雨が降った様子はない。

 

「昨晩、庭のコンバイン置き場の地面がぐっしょりと濡れるほど雨が降ったようで」

 

 言いながら、くすくすと笑うシャロン。

 あなたはきゅっと心臓が掴まれた気分になりつつお茶を飲む。

 どうやら、あなたが1人寂しくお愉しみしていたのがバレているらしい。

 

「私はにゃーさんと共に、朝までぐっすりだったのですが……奥様は大丈夫でしたか?」

 

 あなたは全然眠れなかったと正直に答えた。

 しかし、こちらの環境がゆえか、それはそれで楽しかった。

 なので苦には思っていない。むしろ次があったらまた愉しみたいとも。

 

「まぁ……なかなか素敵な趣味をしていらっしゃるのですね」

 

 シャロンにちょっと驚かれたが。

 まぁ、あれはあれで、愉しめる。

 苦しくて、つらくて、悲しいが。

 しかし、だからこそ興奮するというか。

 

 寝取られは、やはり、妙な興奮がある……。

 

 

 

 その後、ラルカとアスマの心づくしの朝食をいただいた。

 その際には起き出して来たカル=ロスに散々疑いの目で見られた。

 昨日部屋に戻って来なかったあたり、絶対やらかしただろ……と。

 

 まぁ、やらかしたと言えばやらかしたか。

 しかし、そのやらかしはべつに他者に対するやらかしではないし。

 

 むしろ、カル=ロスにその目で見られると、興奮する。

 結局、あなたはシャロンともラルカともヤれなかった。

 むしろシャロンとラルカの情交を指をくわえて見ているしかなかった。

 そんなあなたの成功を確信しているカル=ロスの姿。

 

 得も言われぬ興奮と言うか、苦しさと言うか。

 背筋の焼けるような、奇妙な焦燥感めいた興奮。

 あなたの性癖はますますひん曲がっていった……。

 

 

 さて、あなたの性癖がますます手遅れになるのはともかく。

 長期滞在をするわけではないので、そろそろお暇しようではないか。

 

「もう少しゆっくりなさっていかれては? せめてお昼くらい……」

 

「そうにゃそうにゃ。まだまだ美味しいものあるにゃよ? 外の釜に火入れて、ピザでも焼くにゃよ?」

 

 シャロンとラルカには名残惜しそうに引き留められたが。

 このままシャロンとラルカのやり取りを見ていると脳が破壊される。

 いや、もうとっくの昔に脳は破壊されているが。これ以上破壊されると死ぬ。

 ここにいると、苦しい。そして興奮する。暗い快感が湧いて来る。

 

 そして、ここで無様に逃げ帰ったらもっと興奮する。

 

 あなたはそのような論理の下、無様に逃げ帰ろうとしていた。

 あなたはあなた1人の中で寝取られを完結させる境地に至っていた。

 寝てもいない相手を寝取られたと、その相手のパートナーに敗北感を抱く。

 

 あなたの寝取られ癖は、既に他者を置き去りにしていた……。

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