『アルバトロス』チームの家に帰宅し、あなたは身悶えした。
ベッドの中でひとしきり泣いて、すっきりしたところでベッドから抜け出た。
キッチンで水をいただいて、人心地つく。
昨日はよかった。
こう、全体的にうまく決まらなかったが。
うまく決まらなかったが故の気持ちよさと言うか。
次も同じことをしようと思う。
そして、その上でアスマをかわいがろうと思う。
きっと、得も言われぬ背徳感があって最高に違いない。
あなたはそのような邪悪な計画を立てていた。
「……で、なんかあったんですか、お母様」
今朝からずっと疑いの目で見ていたカル=ロスがそのように訪ねて来た。
あなたは目元を濡らしたハンカチで冷やしつつ、答える。
つまり、ラルカを寝取られた……! と。
「寝てから言ってください」
ごもっとも。
だが、堕とせなかった上に、目の前でかっさらわれる……。
それがたとえ、20年以上連れ添ったらしいパートナーであっても。
あなたにとっては最高に悔しくてつらい展開だ。
叶うことなら2人纏めて可愛がりたかった。
だが、そこまで事態を進展させられなかった。
やはり、2人がそう言う関係と見抜けなかったのが痛い……。
次はちゃんとその辺りを踏まえて、2人同時に落としに行く。
大丈夫、攻略の糸口事態はしっかりと見えている。
シャロンは年齢的に性欲が強い年頃だ。うまく煽ってやれば手はある。
次に行くときは、それなりの長期滞在をしたいところだ。
その際にはきちんとした手土産を持って行かなくては。
土地柄的に海産物は豊富なようだが、畜産物はそうではなさそうだった。
次に行くときは牛とか豚を丸ごと持って行こうと思う。
「丸ごとは困ると思いますが……」
であれば適当に解体してから持って行こう。
まぁ、次があるかは分からないが、次があればそうする。
やはり、ラルカの猫耳も堪能したいところだ。
ケモ耳はいい。おそらく最高のものだ。
「お母様って性癖幅広い割に猫耳とか巨乳とか、割と性癖普通ですよね」
べつに特殊性癖で張り合ってるわけではないので……。
「まぁ、それもそうか……」
さて、それで、次はどうしようか。あなたは首を傾げた。
やはり、療養期間中に他の子の親にも会いたいが、誰にすべきか。
「療養してください、療養。体調悪くて休暇を取ってる自覚あります?」
自覚があるから大人しく漁色をしているのではないか。
自覚がなかったら修行をするか冒険に出発している。
「性質悪いなこの人……ああ、もう、じゃあ、秋雨のところに行きましょう。はい、決定」
ずいぶんと強引だ。なんで秋雨?
まぁ、秋雨は残る者たちの中では確実に当たりの部類か。
なぜならば、あなたは彼女の母親には既に会ったことがある。
この次元に初めて来たときにあった、ジュラクなる人物。
そのお供のシュースイなる人物がそうだったはずだ。
彼女もなかなか美人でじつによかった。
たしかに、彼女とイイコトできるなら楽しいに違いない。
「ちなみに、秋雨の実家と
微妙に言いよどんだが……。
「距離15キロくらいあるんで、車で行けば近いけど、歩いて行くとクッソ遠いんです」
なるほど、たしかにそりゃ遠い。
健脚な者でも軽く2時間以上はかかる距離だ。
しかし、乗り物があれば瞬く間に行ける距離か。
この次元はそうした乗り物が発達しているので近いの範疇と言えばそう。
「じゃあ、秋雨のところでよろしいですね」
もちろんだ。では、よろしく頼む。
「あと、お母様が言い出したことですからね。秋水さんと、後1人で終わりですからね」
たしかに言った。半分で妥協する、あと3人だけと。
こんなことなら言わなきゃよかったかな。
あなたはそんなことを思いつつも、転移を受け入れた……。
転移した先は、以前にあなたが案内された先と同じ場所だった。
この国特有の様式と思わしき形に整えられた庭。
木造建築と陶器の屋根。『アルバトロス』チームの家に似た様式だ。
「どうやら道場の方にいるようですね」
庭の方に建っていた建築物を指してカル=ロスが言う。
道場と言うのは?
「屋内訓練場です。この家では庭でもやりますが、道場でもやるんですよ」
なるほど、つまり訓練中、あるいは試合中というわけか。
では、失礼してちょっと覗かせてもらうとしようではないか。
「そうですね。べつに隠すような流派の人とかいませんし」
そう言うわけで、道場なる建築物に近づいて、あなたとカル=ロスは中を覗き込む。
扉は開け放たれた状態にされており、覗くのに不都合はない。
「アーッ! 無理です! 背中に目はつきません! 額にも目はつきません! 無理ですってぇぇぇぇ!」
「泣き言なんか聞きたくないですね。やれと言ったやるんです」
「ヒャハハハ! この人らの試合、メチャクチャおもろいでェ!」
そこには異様な光景が広がっていた。
目隠しをした秋雨、それに対峙する白銀の髪の少女。
それを見て爆笑している一二三。なにをしてるんだろう……。
そこで、一二三があなたたちの方に気付いた。
「って、あれ? クライアントやんけ。どしたんです? まだ集合には速いですよってに」
「一二三、方言、方言」
「っと……クライアントじゃないですか。どうしたんですか?」
あなたは頷いて、遊びに来たよ、と答えた。
「さいで。まぁ、秋雨は見ての通りの修行中です」
「これなんの修行ですか?」
「額に目を付ける修行です。目隠しをした状態で戦います。心眼を身につけるらしいですよ」
「心眼って、目以外の感覚器で察知する手段じゃないんですか」
「いや、第六感を強化して、それを用いて悪意や殺意を感知する修行らしいですよ」
「オカルトな修行だった……」
その修業は無理があるんじゃないかな……あなたはそう思った。
晶のようなサイキックならともかく、常人にそれは無理がある。
「というか、一二三はなんでここにいるんですか? 近いとは言え、さくっと遊びに来れる距離でもないでしょうに」
「聚楽さんのご厚意で、家族で修行がてら遊びに来てます。やっぱ、聚楽さんに稽古付けてもらえると伸びが違うんで……」
「ははぁ、なるほど……」
ということは、一二三の家族もいるらしい。
なるほど、それは実に楽しみだ。一二三の義母はどんな女性だろうか……。
まぁ、どんな女性であれ、それが女性であるという時点であなたにとっては最高だ。
「まぁ、うちは父子家庭やけどな、ブヘヘヘヘ」
なんてことだ……こんなことが、こんなことが許されていいのか。
「あ、桐生おじさんは性転換させて食っていいですよ。むしろ推奨します」
だれだ、桐生おじさんって。
「私の義父の弟さんですね。いわゆる叔父。婿入りしたのに離婚して出戻って来たんですよ。セコいオッサンですよ」
「叔父に対してあたり強いですね」
「桐生おじさんは正月時にアホほどしょっぼいお年玉を寄越してきたんです……その額、500円」
「たしかにしょぼい額だけど……あたりが強い理由もしょぼいですね……」
お年玉と言うのがなんなのかは知らないが、たしかに500円はしょぼい。
まだあんまり貨幣価値は把握できていないが、500円って1食食べれるかも微妙な額の気が。
「ああぁぁぁ! 無理! 無理です! しぬぅ!」
「額にも目をつけるんです! もっと、肌で敵意を感じ取って!」
「やってますよ! やってるんですよ必死に! その結果がこれなんですよ! 目隠しをして、竹刀握って! 今もこうしてボコられてる! これ以上、なにをどうしろって言うんですか! 何に注意しろって言うんですか!」
「集中しなさい、秋雨」
「集中したくらいで心眼が身についたら苦労しないんですよぉぉおおおお!!!!」
秋雨がバチギレし、シュースイによって竹刀で滅多打ちにされる。
秋雨も必死で応戦し、時に上手く受け止めたりもするし、切り返しもするが。
シュースイはまるで見ているかのように軽やかに躱し、受け止め、捌く。
双方共に目隠しをして条件は同じはずなのだが。
シュースイだけ目隠しをしていないかのような軽やかさだ。
目隠しをしていても実は見えてるのか、あるいはシュースイには第六感があるのか。
「んあぁぁぁぁぁぁぁあ! うわぁぁぁああん! 助けてお父様! お父様ー!」
「私が来た」
秋雨が叫び、その直後のこと。
突如として、道場のど真ん中に以前も見たジュラク氏が出現した。
あなたはジュラク氏がいたのを見落としていたのかと訝る。
だが、カル=ロスも一二三も明らかに驚いているので、どうやらあなたの見落としではないらしい。
すると、ジュラク氏は突如として出現した……? どうやって?
「秋水よ、そなたの異能を他者にも求めるのは無理がある……秋雨は必死で努力している。その労苦を酌んではやれぬか」
「でも、限界ギリギリまで追い詰めた方が伸びますよ」
「うーむ、たしかにその通りだ。では、秋雨が壊れる直前までは見守ろう」
「そう言うわけです。秋雨、剣を構えなさい」
「いやだぁぁぁぁ! 無理無理無理! 死ぬ! ころされう! 背中にも額にも目はつきません! だれかたすけてー! たすけてー!」
秋雨が泣きわめきながらそんなことを言う。
そのあまりにも憐れで必死な姿には思わず憐憫の情が湧く。
あなたはそこで、思い切りよくゴホンゴホンと咳ばらいをした。
「む」
「おや」
ジュラク氏とシュースイがあなたへと目線を寄越す。
それを受けて、あなたはジュラク氏とシュースイに告げる。
カル=ロスと仲良くしてくれている秋雨の親御さんにご挨拶に伺ったのだが……と。
「むむ、そうだったのか……これは無礼をした。茶を用意するゆえ、
「これはいけません。お客様がいらしていたとは。私も周囲への気配りが足りておりませんでした」
ジュラク氏とシュースイがそのような思考に至った。
秋雨があなたのことを拝まんばかりの勢いで見つめていた。
狙い通りの展開にあなたは思わず内心でガッツポーズ。
そう言うわけなので、母屋の方に行くとしよう。
母屋の方へと出向くと、ジュラク氏が手ずからお茶を淹れてくれた。
この国で一般的に飲まれている、緑茶と言う種類のお茶だという。
あなたが呑んでいる紅茶は発酵した茶葉で、緑茶は未発酵のもの。
その若々しさに見合うような、瑞々しく鮮烈な香りのあるお茶だった。
「よくぞ参られた、秋雨は私の子ではないが……我が子のごとく大切に育てて来た娘。そなたの娘、カル=ロス・気比との友誼に感謝の意を示そう」
「お菓子です、どうぞ」
手厚くもてなされ、あなたは緑茶とお菓子をいただく。
この……この……なんか……この……なんだこれ?
あなたは黒と言うか濃紫の得体の知れない直方体に戸惑った。
どうやって食べるんだこれ。そのまま食べていいものなのか。
「む。そうか」
そこでジュラク氏があなたの様子に気付き、頷く。
「秋水よ、舟和の……あの、美味には見えぬ芋のやつも用意せよ」
「ああ、そうですね。そうしましょう」
そう言ってシュースイが立ち上がり、どこかへと引っ込む。
そしてすぐに戻って来て、あなたの前の皿に黄色い直方体を追加した……。
違う、そうじゃない。そう言うことじゃない。
もっと欲しいな? という催促をしたわけじゃない……。
これをどうしろというのだ。これはなんなのだ……?
「あ、そっか。お母様、これはようかんと言って、食べ物ですよ。豆や芋を磨り潰したものに塩と砂糖、寒天を加えて練り上げたものです。そのまま食べれます」
言って、カル=ロスがヨーカンなるものを頬張る。
なるほど、添えられたピックで刺して、そのまま食べるらしい。
では食べて見ようと、あなたもそれを口に運ぶ……。
なるほど、たしかに甘い。
ねっとりとした舌ざわりで、脳天に突き抜ける甘さだ。
べたつく食感だが、これは砂糖たっぷりなためだろう。
エルグランドの民も好きな感じの味だ。
少なくとも、あなたは好きになった。
これはじつにうまい。
店とかで買えるのだろうか。
お土産に買って帰ろう。
「思った以上にウケてる……」
こっちの黄色い方もおいしい。
黒い方と比べてほろりとした食感で。
芋の素朴な甘みと、砂糖の上品な甘さ。
そして、それを際立てるのはごく微量加えられた塩。
なるほどこれはじつにうまい。
大味のようで、大変に繊細な味わいのお菓子だ。
これは素材がよくないとおいしくないタイプのお菓子と見た。
丁寧さというか、几帳面さと言うか、そう言うのが伺える味だった。
克己から巻き上げた金はあることだし。
こっちの芋ヨーカンなるやつもぜひともお土産に買って帰ろう。
あなたは予想外の美味との出会いに大変満足していた。
「気に入られたか。それはよかった」
「やはり、虎屋と舟和のようかんに間違いはありません……最良の答えの1つです」
「うむ。じつにうまい」
「あ、聚楽様のはコンビニのやつですよ」
「そうか……そうか? なぜ私だけコンビニのやつなのだ?」
「区別つくんですか?」
「うーむ…………わからぬ」
「そう言うことです。プラスチックの刀で鬼退治するような人間ですから、イミテーションでもいいかなと思ったんですが。本物のようかんなだけいいでしょう?」
「ぬぅ、なぜだ……あの、なんと言うたか。デラックスな刀で鬼退治をするのが、流行りなのであろう?」
「だから、無慈悲な鬼の虐殺は流行ってないって言ってるでしょう。
「ちゃんとその点を踏まえて、そなたが言うところの有情剣も編み出したのだぞ」
「切り殺したやつがアヘ顔を晒して狂死する技を優しい技だと思ってるんなら正気を疑いますね」
「なぜだ……」
なんだかよく分からない会話をしている。
カル=ロスが引き攣った顔で自分のふとももを抓って笑いをこらえている。
秋雨は頭を抱えてテーブルに突っ伏している。
一二三はうずくまりながら声を殺して笑っていた。
なるほど。
随分と愉快な主従だ。
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