お互いに妙な心配はいらないと分かって安堵したあなたと聚楽氏。
しかし、それと同時にあなたの中でむくむくと鎌首をもたげる疑問。
魂が欠けることがあるというのはわかった。
時としてあなたや聚楽氏のように大きく欠けている者がいるのも。
そして逆に、欠けのない
その欠けのない全き魂と言うのは……。
「そなたも半ば察しがついているようだが、
稀に
不死者とは、死なざる運命にあるもの。死なないもの。
それは多くの場合において神である。神とは死なないものだ。
ゆえに、あなたの信奉するウカノもまた、不死者である。
亡者ごときが不死者を僭称するなどへそで茶が沸くというもの。
トカゲがドラゴンを名乗るくらいには無理筋の発言だ。
神が完全無欠な魂を持つという考えは頷ける。
人と神の距離は果てしなく遠い。
それははじまりから終わりまで常に傍らにあり。
しかして、その存在の在り方はどこまでも遠い。
魂と言うもの、存在の根底があまりにも違い過ぎる。
それゆえの差であるというのは頷ける話だった。
「うむ。神と人は存在が遠い。なるほど、至言と言えよう。殺しても死なぬしな」
神と人の最大の違いはやっぱりそこだろうか。
エルグランドの民は死んでも蘇るが、死んではいる。
神はそもそもとして死なないのである。そう言うものだ。
岩を燃やしても溶けることはあるが、燃えることはない。
そのように、神とはどれほど叩いても切っても砕いても、死なない。
まぁ、死なないだけで、その存在を矮小化させることはできるが。
なので、回復に時間が必要なまでに痛めつけることは可能だ。
「神と言えば。そなたらは稲荷信仰なのであったな」
いな……なんて?
「稲荷信仰。穀霊神、あるいは農耕神たる稲荷
なるほど、それはたしかにウカノの権能の範疇だ。
国が違えば神の名が違うというのはよくあること。
同じ存在でも発音の違いから名が違っていたりとか。
別側面を現した言葉が名になっていたりとか。
そう言うような感じでウカノとイナリとやらは同じものなのだろう。
「そなたらの場合、広く稲荷神、稲穂、食物神らを崇めているのであろう」
あんまりその辺り考えたことがないのだが。
聚楽氏はいったいどういうところからそう考えたのだろう。
あなたは普通に唯一の神はウカノとしか考えていなかったのだが。
「そなたの娘、家名として
いや、知らないが……。
だが、食物はとても大事だとあなたは考えている。
やはり、食物がたくさんあるというのはいいことだ。
国を栄えさせるのも、軍隊を駆動するのも、すべては食物。
あなたがウカノを崇め奉るのは五穀豊穣の神だからというわけではないが。
そう言った部分、自分以外に関連する五穀豊穣、豊作祈念のことを考えなかったと言えばうそになる。
それを思えば、食物を権能の範疇に収める神を崇めるのは、まぁ納得いく話か。
それを第一の神とするかはともかく、敬うとは思う。
「さようか。そも、ウカノミタマ神も元を辿れば稲荷神と言うわけでもなしにな……そのあたりは厳密に定義しているわけでもないゆえ、自由なのであろう」
それでいいのだろうか……。
まぁ、この国のことをよく知るであろう聚楽氏が言うからいいのか。
あなたはそのように理解すると頷いた。
ちなみにだが、聚楽氏はどのような神を信じているのだろうか。
「私か。うむ……神への信仰どうこうは考えたことがなかった。無宗教だ」
そんなバカな。
いや、エルグランドでもそう言う者はいなくはないが。
普通、そう言う者でも虚空神を信仰していると称するものだ。
この国ではそんなものなのだろうか。
「そんなものであろうな。秋雨も無宗教ではないか」
そんなんでいいんだ……。
あなたはこの国の人間の宗教観念に首を傾げた。
神への理解は随分とあるのに、無宗教って……。
権能の範疇、その神格の性質まで知っていて。
その上で信奉していないっていったいどういう感覚だ。
あなたは意味が分からずに首をひねるしかなかった……。
それからしばらく、あなたは聚楽氏と何くれとなく話し合った。
そうしていると聚楽氏とはずいぶんと心地よく話せると思った。
べつに話術がうまいとかそう言うことはないのだが。
なんと言うか、雰囲気的に心地いいというか。
これが魂に由来する相性のよさと言うやつなのだろうか。
あなたは魂の持つ相性の奥深さについて思い知った。
思い知った上で、あなたは悔しくなった。
なぜ男なんだ……女の子ならよかったのに!
あなたは思わず聚楽氏に対してそれを口にし、なじった。
女の子に生まれてくれていればよかったのに。
そうだったらそのまま仲良くベッドイン……! 朝までフィーバー!
男だからそんなことできない。悲し過ぎるではないか。
いや、性転換させりゃいいだけの話ではあるのだが。
「そう言われてもな……」
聚楽氏は形の良い柳眉を歪めて困ったような顔をする。
ただの冗談に近い苦言だったので、あまり気にしないでほしい。
「左様か。そなたが望むのならば、女になっても構わなかったが」
じゃあ、女になってほしい。
あなたはそのように頼んで『ミラクルウィッシュ』のワンドを渡した。
自分から頼むのは申し訳ないような……そんな気分だったのだが。
向こうからそう言ってくれるならぜひともやってもらおうではないか。
しかし、頼むのが申し訳なく感じるというのがなんとも言えない気分だ。
いつもの自分だったらそんなこと思わないのだが……。
「いや、このようなものはいらぬ。十全に気功の技術を修めたならば、陰陽反転、性別は自由自在なものだ」
そのように言って、聚楽氏から得体の知れないエネルギーが発せられた。
あなたにはほとんど知覚、理解のできない種類のエネルギーだったが。
種別としては、気功の類だった。気功で身体を癒すとか、そう言う種類。
それで性別を転換って、そんなことできるのだろうか。
「できた」
…………なんも変わったように見えない。
涼やかで鋭い相貌も、細身の体躯も、そのまなざしの色も。
どれもまったく変わって見えないのだが……。
「そうか」
そう言いながら、聚楽氏が胸元をはだけるではないか!
そうして露わになる白く滑らかな素肌。
そこにまろやかでささやかな膨らみがあった……。
これこれこれぇ……!
あなたはニヤける感覚をこらえきれずに嗤った。
これはたまらん、あーもうだめだめエッチすぎる。
こんなの見せられちゃったら我慢できなくなってしまう!
あなたは今すぐベッドにいこう! な! と提案した。
「風呂に入ったばかりなのだが」
そう言われるとたしかにその通りである。
風呂に入ったばかりで風呂に入る必要があることをするのはなんとも。
あなたは渋々頷いて、夕食後、寝る前にどうかなと提案した。
「どう、とは。つまりなんだ、私とまぐわいたいのか」
その通りだ。それ以外になにかある?
「ふむ……もしや、私はなにかやってしまったか?」
なにかとは?
「私はそなたに懸想されると困るのだが……」
困るってなんでまた?
まぁ、たしかに男女だった時に言い寄られて困るのは分かる。
しかし、聚楽氏は今は女。なら問題ないだろう。
「うむ……? む……? そう、なのか?」
男だと勃たないと入らない。
しかし、女はべつに潤滑さえあれば入るではないか。
それに刺激さえすれば気持ちよくなれるのは男女共通である。
男だって勃たなくったって刺激してりゃ出るものは出るらしいし。
「そうなのか……」
そうらしい。
「まぁ、そなたがそう望むのならば、好きなようにせよ」
では、好きなようにさせてもらおう。
あなたは今から夕食後が楽しみだと猛った。
それからしばらくして、秋水が帰って来た。
それから秋雨と一二三と共に料理をし、夕食の時間だ。
夕食の席は大変な大所帯だった。
日中は家の外、裏手の森の中で修行をしていたとか言う一二三の家族。
一二三の義父に義兄、そして義祖父。
誰もが一二三の言う通り大変にゴツい男だった。
聚楽をはじめ、秋水と秋雨のこの家の住人。
そして、あなたとカル=ロス。総計して9人にも及ぶ大所帯だ。
食卓のスペースが足りず、急遽もうひとつ机が出されて来たほどだ。
「今日は天ぷらにしました。どうぞご賞味ください」
以前、ソーラスの町で食べた覚えのあるフライと同じ物だ。
この人数分の揚げ物を作るのは大変だったろうに。
「いえいえ、大したことではありません。炊き込みごはんと、うどんもありますので、主食が欲しい方はどうぞ」
とのことで、あなたたちは思い思いに夕食を楽しんだ。
さっくりと揚がった天ぷらなるフライ料理は軽やかでおいしく。
炊き込みご飯が白米が苦手なあなたでも食べやすい見栄えの料理。
「うンめぇ~! 春菊の天ぷらが美味すぎて無限に食えますわ! お
「あほう! ワシの春菊を勝手にいらうな! せめて交換せぇ交換!」
「むほほほほ、この葉っぱの天ぷら美味すぎません? なんですかこの葉っぱ」
「桑の葉ですね。パリもちとした食感が美味です。夏に近くなるとゴワゴワしてまずくなるので、今の時期だけですね」
「うどんがおいしい。なんですかこの上品な出汁。めっちゃうまい、天の国が見えた。成仏します」
騒がしくも賑やかな食事の席に、あなたは思わず頬が緩む。
こういう賑やかな団欒も悪くない。あなたはそのように頷いた。
それから、しばらく。秋水や秋雨たちが夕食後の片づけをし。
庭先で一二三と、その義兄が組み手をしている光景を眺める。
2人とも無手、徒手格闘での戦いを基本としているらしい。
エルグランドでは素手での闘技はあまり盛んではない。
そのため、あなたにとっては非常に新鮮で見ごたえのある組手だ。
あなたの隣では、2人の父と祖父がその組手をゆったりと構えて見ていた。
まぁ、べつに、隣にいることはとやかく言うつもりはないのだが……。
なんであなたの左右に座るんだろう……。
こう、2人とも物凄く体格がいいので、すごい……嫌だ……。
オッサンとジジイの筋肉の圧力に押し負けそうだ。
べつに密着されてるわけでもないが、圧迫感がすごい。
しばらく我慢して見ていたのだが。
あなたは嫌気が差して来たので、気配を消してそっとその場を去った……。
さて……食休みも済んだわけだし。
そろそろ、いいだろう。あなたは頷く。
あなたは道場の方へと向かい、中を覗き込む。
そこには、窓から差し込む月光に照らされている聚楽氏の姿があった。
静謐な美しさに満ちた姿は、声をかけるのが惜しいほどに美しい。
あなたは思わず息を飲んで、その美しい姿に見入った……。
「そなたか。いかがした」
が、聚楽氏はすぐにあなたに気付いて声をかけて来た。
あなたはそんな聚楽氏に、直球でお誘いをした。
今すぐに聚楽氏とエロいことがしたい。しよう。
「そうか。では、しよう」
そう言うことになった。
聚楽氏に案内され、あなたは聚楽氏の私室に入る。
そこは畳敷きのさして広くもない部屋で、小さな書き物机と木製のワードローブと思しき家具が置いてある。
壁に剣置き場のようなものがつけられており、そこには幾本もの剣が置かれていた。
聚楽氏はこの国において偉大な権力者であるという。
それを思えば、この剣もすばらしい来歴のある銘品なのだろう。
「その剣か。ベイナイトの刀だ。エアハンマー刀は見栄えはせぬが、蛮用に耐えるよいものだ」
ベイナイトと言うのは素材名だろうか。
エアハンマーはおそらく剣匠の名だろう。
特別な素材を、名のある剣匠が鍛えた代物と。
古い歴史はないが、名のある名匠が手掛けた逸品と言うことだろう。
「布団を敷く。しばし待て」
聚楽氏が壁の収納を開け、そこから言葉通りに寝具を取り出す。
こちらの次元に来た初日に使った寝具、フートンだ。
「ふむ。私はその手の情交の機微を知らぬゆえ、そなたに一切任せることになると思うが……よいのか?」
全然よい。構わない。問題ない。
むしろ好きにさせてもらえると思えばありがたいくらい。
あなたはそのように食い気味に頷いた。
「そう言うものか……よく分からぬが、そなたが欲するのならば、応えぬ理由もあるまい。好きにせよ」
では、遠慮なく好きにやらせてもらうとしよう。
あなたは聚楽氏をフートンに押し倒す。
最初の予定では秋雨の母、秋水とお楽しみする予定だったが……。
まぁ、秋雨の親であるのに違いはない。
今夜は眠れないな!
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