団らんの後、朝食を済ませて出発する。
馬はあまり走らせると潰れるので、歩かせての移動だ。
正直な話、乗馬は疲れるのであまりやりたくないのだが。
「なんであなたそんなに疲れた顔をしてるの?」
小休止の際、レインにそう問われた。
なんでもなにも、単純に疲れているのだ。
まぁ、肉体的には大したことはないのだが、精神的に。
1日くらいならともかく、2日も3日も続くと疲れようものである。
「馬を歩かせてるだけじゃない?」
「乗馬は慣れてると言っていませんでしたか?」
レインとフィリアが不思議そうにしている。
まぁ、そう思うのも分かるので、説明すべきだろう。
あなたは『ポケット』から愛用のおもちゃを取り出した。
丸い金属製の球体であり、ほんのひとかかえ程度の大きさだ。
ただし、見た目以上に重く、下手なグレートホースよりも重い。
触れてみると不思議とほのかな熱を感じる……ような気がする。
「なにこれ? 大きい鉄の球体?」
「武器……ではないですよね?」
「なにか機械仕掛けみたいですが……お姉様、これは一体?」
これは『爆裂弾』と呼ばれる道具の一種だ。
その最上位品である『ナイン』と呼ばれるものだ。
実は『テン』もあるので最上位品ではないのだが。
『テン』の一般認知が著しく低いので、そう言われている。
エムド・イルの文明が産んだ究極の破壊兵器のひとつ。
技術も力もいらない。スイッチひとつで周囲を破壊しつくす。
単純な破壊力や殺傷力は、実のところ大したことがない。
事実、究極破壊兵器の中では最下位あたりの存在なのだが……。
この『ナイン』の恐ろしいところは、その手軽さだ。
だれでもスイッチを押すだけで町ひとつ消し飛ばしてしまえる。
しかも量産可能な上に、そんなに高価じゃないので乱打もできる。
その手軽さは究極破壊兵器と言って差し支えあるまい。
「町ひとつを消し飛ばす!?」
「あ、危なっ、危ないですよ! なんでこんなの持ってるんですかお姉様!」
スイッチを入れなければ大丈夫だ。
仮にスイッチを入れても起爆までに時間がある。
うっかりスイッチを入れても『四次元ポケット』に放り込んでおけばいい。
そもそも爆発したところで、そんなに甚大な被害は出ない。
せいぜい半径数キロ範囲内を消し飛ばすくらいだ。
また、爆発による熱放射は半径十数キロくらいを焼き尽くす。
町ひとつを消し飛ばすので精一杯ということだ。
しかし、いま重要なのはそこではない。
あなたはこれを50個ほど持ち歩いているわけだが。
「町ひとつ消し飛ばす武器を矢と同じ感覚で持たないでちょうだい」
「1個持ってるだけでも相当ですよねこれ」
そこはとにかくいい。重要ではないことだ。
重要なのは、これが大変重いと言うことだ。
グレートホース1頭分くらいの重さだ。
つまりおよそ1000キロくらいである。
あなたはこれを50個も持ち歩いている。
約50トン。馬車に載せても運べないだろう。
まして、背負うなんてどんなに立派な馬でも不可能だ。
物理的に潰れる。背骨が圧し折れて即死だろう。
つまり、あなたは乗馬をする際、馬に重さをかけていない。
そう、体を物理的に浮かせて馬に乗っているのだ。
「今さらりと常時空を飛んでいるという事実が示唆されたわね」
「お姉様、次々と衝撃の事実をワッと浴びせかけてくるのはやめませんか」
「ご主人様凄いです」
「サシャ、あなたももうちょっと突っ込んでちょうだい」
「いえ、もう、ご主人様なので……」
「あなたなんて顔をしているの……」
サシャがなにやら諦めきったような顔をしていた。
ともかく、そのように常時空を飛ぶのは結構きついのだ。
肉体的にはさほどではなく、飛ぶだけなら楽勝なのだが。
乗馬にあたっては、程よく飛ばないといけない。
そうしないと馬が浮いてしまうのだ。
その微調整に神経を使って疲れるのだ。
「と言うか、お姉様。さらっと言いましたが、グレートホース50頭分の荷物を持ち歩いているってどういうことですか」
「言われてみると……いえ、あなた、一体どれだけの荷物を持ち歩いているの?」
実際のところ、50個と言うのはちょっと盛った。
すぐに使えるようにしている『ナイン』は1つだけだ。
他は『四次元ポケット』の中なので、重さはかかっていない。
その『ナイン』1個に加えて種々の道具の重さがあなたの荷物だ。
おおよそであるが、あなたは10トンほどの荷物を持ち歩いている。
「10トン。10トンって、あの、10トンですよね」
「……それを平気で持ち歩く身体能力が凄まじいわね」
「と言うか、お姉様は一体どんな魔法でそれを持ち歩いているんですか……?」
あなたは『ポケット』についてフィリアに簡単に説明した。
「そんなすごい魔法が……便利そうですね」
「便利よ」
レインは既に使えるので、便利さは身に沁みているようだ。
既に結構な荷物を『ポケット』に放り込んでいるようだ。
重さはそのままなので、あなたほど大量ではないのだろうが。
それでも、普通に持つよりははるかに大量の荷物を持っているだろう。
『ポケット』の魔法は全身に荷重がかかる。
なので背負ったり手に持つよりも遥かに多くのものを運べるのだ。
全身鎧を手に持つのと着るのとでは、後者の方が楽なのと同じ。
冒険者の馬鹿力の前では誤差だが、体重が増えるのと同じなので打撃の威力も上がる。
「魔法が使えるのって凄いですね……」
この集団で唯一魔法が使えないサシャが羨ましそうに言った。
あなたは使いたければいずれ教えてもいいと伝えた。
「ほんとですか!」
「待ちなさい、サシャ。この場合、教えてもらえるのはエルグランドの魔法よ。凄まじく危険よ」
「あぅぅ……」
『ポケット』の魔法であればそこまで危険ではない。
と言うか、珍しいことに『ポケット』の魔法はかなりの安全機構がついている。
いつからある魔法なのか不明だが、現在主流の魔法とはだいぶ性格が違う魔法なのだ。
「そうなの?」
代わりに効能も低い。そう言うものだ。
だから『ポケット』は重量がかかるのである。
現在主流の魔法方式で作られた『四次元ポケット』は重さがかからない。代わりに危険だが。
そのため、『ポケット』の魔法だけならそこまで危険ではないだろう。
「なるほど……言われてみれば、たしかに私もそこまで違和感を感じずに使えたものね。私たちの魔法とかなり性格が近いんだわ」
「よかったですね、サシャちゃん」
「はい! あの、ご主人様、いつか教えてくださいね!」
もちろんである。ペットを鍛えるのはあなたのライフワークだ。
まぁ、ちょっと熱が入り過ぎてペットが爆散することもよくあるが。
そのあたりはコラテラルダメージと言うやつなのだろう。
サシャも1回や2回死んだくらいでめげないで頑張って欲しい。
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