「存分に堪能したか。そうか。それはよかった」
あなたは聚楽氏の体を存分に堪能した。
率直に言って聚楽氏のサービス精神はゼロだったが。
まぁ、反応が鈍くて、横たわったままのマグロも嫌いではない。
ロクに反応を引き出せなかったのは悔しいが、まぁ、それはそれで。
少なくともゴーレムを抱いたよりは反応があった。
あと、アンデッドよりはずっとマシだったのは間違いない。
ゾンビとかならまだしも、スケルトンをよがらせるのは不可能に近い。
それはそれとして抱くのがあなただが、やはり肉のある体はいい。
なにより、聚楽氏はこの国における高位の権力者。
それを閨で好き放題にしたのだと思うと、得も言われぬ興奮が……。
この国の民たちに対して、ほの暗い興奮を抱くことができる。
おまえたちの仰ぐ指導者をベッドの中で可愛がってやったぞ、と。
「そなた、なにやら妙なことを考えておらぬか」
べつにそんなに妙ことは考えていない。
こう、聚楽氏と言う権力者を抱いた喜びを噛み締めていただけだ。
「一応だが。私は表舞台から姿を消した、歴史上の人物に過ぎぬぞ。名声はあれど権威はない」
そうなの?
「私が長きに渡って権勢を欲しいがままにしては国政も腐ろうもの。権力の座からは退いて久しい」
権力を手放したんだ……。
あなたからするとそっちの方が驚きである。
大抵の人間は権力に執着するものだが。
「私は必要とあらば武力で以て権力の座に再度就くことができる。執着する理由がない」
なるほど、そう言う。
たしかにすぐに手に入れられるものに執着する理由はない。
あなたが金に執着しないのはすぐに手に入れられるからだ。
魔法でもそうだし、冒険をしてもそうだ。
金を稼ぐ手段なんていくらでもあるし、それはあなたにとって容易いこと。
それを思えば、聚楽氏の権力への姿勢も理解できる。
その圧倒的な武威があれば、実力ですべてを片付けられる。
そのような自信があって聚楽氏は平然と権力を手放したのだろう。
あなたもやろうと思えば、エルグランドで女王になるくらい楽勝だ。
建国するか
だが、そんなことはしない。いつでもできるからやらないし、やる理由がない。
なるほど、そのあたりの感覚は異次元でも共通なのだ。
あなたはなんとなく面白いものを知ったという気分になった。
起き出していくと、秋水と秋雨が朝食の支度をしていた。
聚楽氏はそのまま修行をするとかで庭の方に出て行った。
「おはようございます、クライアント。ゆうべはおたのしみでしたね」
「ゆうべはおたのしみでしたね」
なんか伝統があるらしい慣用句でそのように言われた。
秋水まで言うとは、ずいぶんと幅広い世代に浸透した言葉なのだなぁ。
「なんと言うか、ええ、その、悪食ですね」
秋水がなんとも言えない顔でそんなことを言う。
あなたは女の子しか好きじゃないよと秋水にそう答えた。
「聚楽様は男性ですが……いえ、あの方、ソシャゲー主人公くらいカジュアルに性転換するので、本来の性別が男性かは存じ上げないのですが……」
「え、そうなの。お父様って生来的に男性じゃなかったのですか、お母様」
「不明ですよ。本人の自覚的にはどちらかと言うと女性らしいですけど……」
「男じゃないの!?」
そうだったの……?
その割には男でいるのか……。
「どうにせよ、なんとも言えない気分です。同じ屋根の下で、上司がお客様に抱かれている……あれ、なんか背筋ぞくっとした。これが、寝取られ……?」
「お母様、変な性癖に覚醒しないでください。って言うか寝てから言っ……うーん……」
「あ、はい、そうですね。寝たことはないです。寝てから言えって言うツッコミ待ちですから。突っ込んでください」
「寝てから言ってください!」
「よし」
もしよければ、秋水ともイイコトをしたいものだ。
そう言う趣味がなければ無理にとは言わないが、どうだろう?
「う~ん……興味がないと言えば嘘になるのですが」
「えっ」
「しかし、ぜひともやってみたいと言うほどの気分でもありませんから。なんとも」
つまり、押せばイケる……!
あなたはそのように理解した。
これからデートとかどうだろうか。
「うーん、そうですねぇ……最新グラボ買ってくれたら、わからないですね。あ、水冷ユニットも欲しいですね」
「お母様がクライアントに貢がせようとしている!」
それっていくらくらいなのかな……あなたは不安になった。
克己から巻き上げた金は多少なりあるが、莫大な額ではない。
それなり以上に高額な金なのは間違いないが、遊び倒せば早晩尽きる額だろう。
「あ、それからゲーミングスマホの新モデルが出たのですが、欲しかったのですよね。スマホ向けゲームコントローラーもセットでプレゼントされたら嬉しいです」
くっ、どんどんおねだりが増える……!
だが、それを買ってあげさえすれば靡いてくれるなら喜んで貢ごう。
嬉しいとか欲しいと言ってるだけで、具体的に何をしてくれるとも言っていないのが不安だが……。
少なくとも好感度は稼げると思うので、散財は許容しよう。
その上で、あなたは秋雨に頼みたいことがある。
「な、なんでしょう」
稼げる仕事を紹介してもらえないだろうか。
秋水にプレゼントするお金を稼がなきゃ!
「パパ活に入れあげて定時後にコンビニバイトしてるオッサンみたいだぁ……」
秋雨に白目を剥かれてしまった。なんでだ。
「あの、お母様……やめてください……マジでやめてください……クライアントをママ活の餌食にしないでください……やめてください……お母様を軽蔑しそうなので……」
「あっはい……やめます」
やめちゃうのか。あなたは逆に困った。
遠慮なくおねだりして欲しいのに。
「やめてくださいね、クライアント。本当にやめてください……見てるだけで悲しい気分になってきます。療養中の人がなけなしのお金で貢ぐ姿とか痛々し過ぎて見てられません……」
そう言われてみると、たしかに悲惨な絵面だが。
しかし、話術やルックスで秋水を落とせるかと言うと、微妙。
ならば物質的豊かさで落としに行くしかないのだが。
「わかった。わかりました。クライアント、後で私がサービスしてあげますから、お母様に入れあげるのはやめてください」
「えっ」
なんと、秋雨がイイコトしてくれると!?
既に何度となく抱いたが、イイコトしてくれるというなら何か特別なことをしてくれるかも!
そう思うと昂ってくるので、じゃあそうしようとあなたは頷く。
秋雨はなにをしてくれるんだろう? 物凄く楽しみだ。
「あ、あの、秋雨?」
「なんですか、お母様」
「その、それはつまり、彼女と、そのようなアレで?」
「どのようなアレかは分かりかねますが、男女だったら子供ができるようなことをしていることは認めます」
「なるほど……」
ふらりと秋水がどこかに立ち去って行った。
どこにいったのだろう? 秋雨も首を傾げていた。
「どこいったんだろ……まだ朝ご飯の支度終わってないのに……まぁいいや。味噌汁の火だけ止めておきますか」
秋雨がそう言って、ガスコンロなる道具を弄って火を止める。
スイッチひとつ、レバーひとつで点火も火力調整も自在な便利な家具だ。
いったい何が燃えているのか不明だが、すばらしく便利である。
「クライアントってお味噌汁平気でしたっけ」
たぶん平気だと思われる。
そう頷いた直後、強烈な破砕音。
そして、あなたの全身を貫く強烈な衝撃。
あなたの意識が一瞬飛ぶ。
そして、全身を打ち付ける衝撃にあなたの意識が戻る。
もうもうと立ち込める土煙の中、あなたは地面に転がっていた。
よろめきながら立ち上がり、込み上げてくる吐き気にあなたは血を吐いた。内臓が傷付いたらしい。
「クライアント!? いったい何が!」
秋雨が駆け寄って来て、あなたに肩を貸してくれる。
あなたは礼を言いかけたが、その直前で『ポケット』から『瑞穂狐』を抜いて正面に構える。
そして、あなたの体の芯にまで響いてくる強烈な打撃に呻く。
ぎりりり、と火花を散らしながら擦れる金属音。
土煙にけぶる視界の中、白銀のきらめきを纏う戦士の姿が見えた。
それは、信じられないほど豪壮な造りの剣を手にした、重厚な金属鎧の戦士だった。
巨人族用の剣かと見まごうほどの剣を押し込む力はすさまじい。
異様に鋭い装飾の鎧。裂いた瞳と口のような顔貌を象った顔。
そして、頭部は縦に長く伸びた異形のそれで、妖美な意匠だった。
「と、
秋雨が呆然と叫ぶ。なんだ、トウセイグソクって。
察するに、この異様な金属鎧の戦士のことだと思われるが。
『うちの娘を傷物にしてくれた落とし前を……つけなければなりません……』
「ああっ、中身お母様だこれ! 生身の人間に当世具足はまずいですよ!」
『どきなさい、秋雨。彼女には説教が必要です!』
「落ち着いてお母様! クライアント悪くないですから!」
『騙されてる女はみんなそう言います!』
「言葉選びをミスった!」
あなたは自分に『軽傷治癒』をかける。
生命力の激減している今、それで十分な回復になる。
あなたは口内の血を吐き捨て、落ち着いてもらえないかと声を上げた。
『あなたを殺ってからそうさせてもらう……!』
これは落ち着いてもらえないやつ。
あなたはそう理解した。そう理解せざるを得ないくらい勢いがあった。
「ダメです、止まってくれません……昔、お父様が私を強姦したと勘違いした時くらいの勢いを感じます!」
そんなことあったの?
「修行中の怪我で下着が血で汚れただけだったのですが……」
で、その時はどうやって落ち着かせたのだろう。
その時と同じことをするしかないのでは。
「お父様がお母様をしばき倒しました」
つまり暴力で解決するのが一番と。
しかし、今のあなたは著しい弱体化中。
なんとかなるだろうか……いや、しなければならない。
しかし、正面切っての戦いはおそらく不利。
剣を交えて理解したが、膂力は負けている。
ならば、今現在でも人間相手には十分なアドバンテージのあるもの。速度で勝負するしかない。
あなたはそう理解すると、体を宙へと舞い上げた。
ついてこい! そう叫んで、あなたはその場を飛んで離脱した。
「あー! クライアント! 当世具足は飛べます! 気を付けて!」
なんて?
そう思ったのも束の間、甲高い音が周囲に響き渡る。
音の出所を見やれば、それは秋水の纏うタテエボシなる鎧。
そのタテエボシが、火を吐いてその躯体を宙へと舞い上がらせた。
あなたの飛翔速度は基本的に走る速度と変わらない。
あなたが全力で走っても時速35キロでるかどうか。
10倍速に加速したとしても、時速350キロそこそこ。
つまり、それ以上の速度で飛翔できれば。
秋水があなたに追いつくことは難しくなかった。
爆炎を吹き上げながら飛翔するタテエボシ。
手にした剣がうなりを上げてあなたへと迫る。
飛翔速度をも上乗せした剣戟の威力はすさまじいだろう。
『そこぉ!』
あなたは強引に直角に落下した。
頭に血が上る感触がし、視界が赤くなる。
だが、その強引な回避によって、辛うじてタテエボシの剣戟を避けた。
あなたはその場でくるりとタテエボシの背後を取った。
あなたの飛翔、その機動性は完全な制御下にある。
火を噴いて飛ぶ方法は小回りが利かないと見た。
ならば、背後を綺麗に取ればなんとかなるはず……。
そう思った時、あなたは直感に従って上昇した。
なんでか分からないが、なんとなく嫌な予感がした。
そして、一瞬前まであなたを居た場所を貫いていく桃色の光。
『避けた!?』
飛んで行った光は、気功の類のそれであることが分かった。
ここ数日、気功に接した機会が多かったせいで感覚が鋭敏になっていたおかげか。
これが魔法だったらおそらく察知できなかった。
魔法に親しみ過ぎて鈍感になっているのだ。
避けられたのは半分くらい奇跡だろう。
避けられた秋水も相当驚いているし、よほど自信があったのだろう。
『ええい!』
ワイヤーか何かでタテエボシの手元に引き戻されるもの。
それは独特の形状をした銃だった。タテエボシのゴツイ手がそれを握る。
あれをあなたの意識外から撃って来たというわけらしい。とんでもない戦技を使う。
『俗物め……! 貴様の欲望に私の娘は変えられてしまった!』
でも合意取ったし!
秋雨も普通にノリノリだったし!
むしろ喜んでた方だと思うの!
あなたは精一杯の反論をした。
宥めるよりはキレ倒させた方がいいという判断だった。
『死ねッ、女ったらしの悪党が!』
酷い言われようだ。
反論できないけど。
でも悪党とまで言われる筋合いはない。
善人と言うつもりもないが。
『そう言えば納得するとでも! 私が粛清してやる! 世のために、女のため、女を殺す! 死んでしまえ、善い事とするために!』
なんのなんだって?
あなたは支離滅裂な秋水の発言に目を白黒させながらも、飛来して来た桃色の弾丸を弾く。
生命力、気功を増幅、収束した上で加速させてエネルギーを増幅。弾丸として射出しているらしい。
普段なら直撃しても平気だが、今はまずい。
この戦い、やや厳しいものになるか。
あなたは眉を顰めた。
まさかこんなことになるとは思わなかったが……。
やれるだけのことをやるしかあるまい。
文字数はどの程度が好ましいですか?
-
2000文字前後
-
3000文字前後
-
4000文字前後
-
5000文字前後
-
6000文字前後
-
7000文字前後
-
8000文字前後
-
9000文字前後
-
1万字前後