あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

481 / 614
14-027

『そこだ! 直撃させる!』

 

 あなたの肉体へと直撃コースで飛来してくる桃色の弾丸。

 秋水の射撃は恐ろしく巧い。狙いが正確なのも当然だが。

 それ以上に、あなたの進路予測、回避の読みが凄まじく巧い。

 避けた先に弾丸を置かれているとしか言えないようなことをしてくる。

 

 辛うじて剣で弾いてはいるが、直撃をもらえば危険だ。

 あなたは自身の体の周辺に『要塞(ようさい)』を展開。

 エルグランドの魔法戦士ら御用達の魔法である。

 

 あなたの周囲に展開された魔法のオーラによる防御シールド。

 白く揺らめくオーラが桃色の弾丸に拮抗して弾き飛ばす。

 弾丸の威力を見切ってのギリギリの出力で展開したが、あっていたようだ。

 最高出力で展開すればその名に恥じない無敵の歩行要塞と化すが、それをやったら魔力枯渇で爆散必至だろう。

 今の心もとない魔力容量では節約は必須だ。

 

 あなたは続けざまに『英雄』の魔法を発動。

 これによりあなたの衰えた身体能力を補強。

 そして最後に『加速』の魔法であなたはさらに増速する。

 

 残念ながら今の魔力容量、出力ではさらに倍の速さ……。

 つまり、標準速度から20倍速程度が精々のようだが、十分だろう。

 

『見える! そこぉ!』

 

 あなたが詠唱した際に開いた口、そこへと弾丸を捻じ込む軌道。

 飛来してきた弾丸を剣で弾き飛ばし、適当に躱す。

 20倍速にまで加速できれば弾丸を見切るなど容易い。

 

『ちぃっ! やるな、女ったらしめ!』

 

 秋水の悪罵。それに対し、あなたは投槍(なげやり)を放って応える。

 20倍速に『加速』し、『英雄』のごとき身体能力を得たあなたの投擲。

 槍は豪速の弾丸となって秋水へと飛ぶ。

 

『この程度で!』

 

 あっさりと桃色の弾丸であなたの投槍が撃ち落される。

 どうやらこの程度の攻撃では話にならないようだ。

 続けざまに放たれた2発の弾丸を躱しざま、あなたは次の手を打つ。

 あなたは『四次元ポケット』から『超電磁虐殺銃』を取り出す。

 

 エムド・イルの超科学文明が産み出した個人携行兵器の到達点のひとつ。

 具体的にどういう仕組みのものかは知らないが、電磁気力による弾体投射兵器、つまり銃だ。

 手にした『超電磁虐殺銃』を構え、それを発砲。

 

『はっ!』

 

 強烈な反動があなたの体を貫く。『要塞』と『英雄』で身体増強をしていなければ危険なほどの反動だ。

 そして、それに見合うほどの凄まじい出力で放たれる弾丸。

 それを秋水が辛うじてと言った調子ながらも躱してのける。

 秋水に当たらなかった弾丸が遥か下方の森に命中、数本の木を薙ぎ倒した。

 

『貴様ァ! なんでそんなものを地表に落とす! それでは雑木林が壊されて林業を営む村民(そんみん)の皆さんが困る! 収入の冬が来るぞ!』

 

 それはごめんなさいだけど!

 でも先に殺しに来てるのは秋水の方だと思うの!

 だから反撃をして、秋水にお仕置きをしようとしてるわけで!

 

『人が人に罰を与えるなど!』

 

 先に罰与えようとして来たの秋水じゃない……?

 自分勝手と言うか、言ってることが滅茶苦茶だ。

 さっきから発言が支離滅裂だったが、なんでこんな有様なんだ。

 

『往け、三明剣(さんみょうのつるぎ)!』

 

 一瞬意識を反らしてる間に秋水が次なる手を打つ。

 その背から離れ、飛翔するのは3振りの剣だった。

 秋雨たちも使っている、反りのあるサーベルタイプの剣。

 それが宙を滑るように飛翔してくる。魔法……か?

 

三明(さんみょう)六通(ろくつう)! 我が剣、転回自在なり!』

 

 それは突如鋭い軌道を描き、あなたへと襲いかかってくる。

 あなたは咄嗟にそれを躱すも、その剣がすぐさま方向転換してあなたへと再度襲い掛かってくる。

 三方向同時、剣戟の檻にあなたを捕らえる必殺剣となって剣が襲い来る。

 

 あなたは『呪文高速化』を適用して宣言詠唱を破棄した『短転移』を起動。

 視界内にランダムに吹っ飛ぶという転移魔法である。

 緊急回避用に使うのだが、狙った場所に飛べない不便な魔法である。

 

『そこか! 狙い撃つ!』

 

 そして、空間の歪みによって物質界に出現したあなたに突き刺さる弾丸。

 脇腹を深々と抉り、服と肉を引き裂いて後方へと弾丸が抜けていく。

 明らかに弾丸の威力が上がってるのだが。気功だから威力調節可能なのだろうか。

 

 大した距離を離れておらず、秋水の前に無防備を晒してしまったらしい。

 あなたは血を吐きつつも『軽傷治癒』を自分に叩き込んで回復。

 

『畳みかける! そこか!』

 

 その魔法使用の隙を突いて秋水が襲い掛かってくる。

 爆炎を噴射しながらの大上段の一撃。あなたは愛剣でそれを迎え撃つ。

 空中に飛翔能力で自分の体を固定して、受け止める。

 

 凄まじく重い手応えがあなたの体を突き抜ける。

 だが、問題ない。あなたは剣を渾身の力を振り絞って横に捌く。

 そして、あなたは剣を腰だめに構え、全力でぶつかりに行った。

 

『なにっ! 捨て身か!?』

 

 白銀の胸甲に激突し火花を散らす愛剣。

 真っ直ぐ正確に突き込めば、鎧を貫くことは十分に可能。

 人間が纏える範疇の鎧には厚さに限界というものがあるのだ。

 

 厚くし過ぎれば重くて動けなくなるのは当然のこと。

 タテエボシなる鎧は随分と厚いようだが、それでも限界はあるだろう。

 

 と言うより、このよく動く様子から見て、内部には随分と広い空間があると見た。

 全身みっしりと鉄が詰まっているにしては動きが軽やか過ぎるし。

 二重構造になっていて、弾丸が突き抜けにくい種類の装甲の可能性が高い。

 

 ならば、剣を体重と膂力で押し込めば貫ける!

 ……そのはずだった。

 

 約1センチ剣を切り込ませたところで、あなたの動きが止まる。

 あまりにも分厚い装甲に刃が立たなかったのだ。

 

『パワーダウンのようだな!』

 

 嬉々とした声で秋水が叫び、あなたの腕を殴りつける。

 あなたの腕がポッキリとへし折れ、あなたは思わず悲鳴を上げる。

 

『お前には私の絶望を実感させてやろうというんだ!』

 

 ぐりり、とあなたの胴体に深く突き込まれる銃。

 そして、桃色の弾丸が弾け、あなたの胴体の中心を貫いた。

 あなたの体から、色んなものが抜け落ちた。

 飛翔能力が途絶え、体はふらりと墜落していった。

 

 

 

 

 意識とか精神とか、いろんなものが千々に乱れ。

 あなたは意識を現世に留めるので手一杯だった。

 地面に背中から激突し、土煙を立てて地面にめり込む。

 

 やり過ぎだろ。あの女郎(じょろう)、胴体のど真ん中ぶち抜きやがった。

 下半身の感覚が綺麗さっぱりない。これは高位の再生魔法じゃないと2度と歩けない。

 って言うか瀕死の重傷なので、動くことすらも叶わない。

 

『あーもし! クライアント! 聞こえますか! 晶です! 生きてますか! どうぞ!』

 

 ……なんか脳に直接声が響いて来る。なんだこれ。

 あなたは首を傾げつつ、聞こえてるよと言葉を返す。

 

『居ましたか! ウワーッ! 死にかけてるんですけど! 脊髄損傷してるんですけど! 全身バキボキなんですけど! やり過ぎでしょコレェ!』

 

 どうやら晶はあなたの状態を把握できているらしい。

 向こうの、『アルバトロス』チームの家に置いてきたはずなのだが。

 300キロ範囲内くらいなら探知できるとかなので、意外と近いのだろうか。

 

『今はアンプリファイアがいますので。いいですかクライアント! クライアントがいま戦ってるのは、当世具足(とうせいぐそく)というものです! 呪術による倍力(ばいりょく)機構を備え、魔化した鋼による装甲を持つ最強の個人戦闘単位です! オカルトパワードスーツです! お分かりですか!』

 

 ぜんぜんお分かりになんない……。

 パワードスーツってなぁに……?

 

『ともかく相手は大変に頑健な手合いで、生半な攻撃は通じません! 40mm機関砲くらいなら弾きます! その上、相手が悪いです!』

 

 相手が悪い?

 たしかに秋水は大変に優れた戦士だとは思うが。

 凄まじいほどの強さ、と言うようなものは感じない。

 うまくやれば普通に勝てそうな気がするのだが。

 

『絶対にうまくやれんのです! 薬袋秋水はサイキックです! 彼女は未来予知にも匹敵する直感と、半径数千キロを圏内とする知覚能力、さらには他者の心に侵入せずに察知する超絶の隠密性を持つサイコメトリができます! 全部読まれてます!』

 

 なんだそれずるい。

 なんか読まれてるっぽい感じはしていたが。

 だとすると、あなたの策も誘われていた?

 

『可能性は高いです。よいですか、クライアント。こちらで彼女の知覚能力を妨害します。すみませんがこの距離ではそれくらいしかできません。やれますか?』

 

 それだけやってくれれば十分。

 あなたはここからが本番だと頷いて、無理やり上体を起こす。

 貫かれた部分が痛むが、下半身には痛みすら感じない。

 

 その状態で、あなたは必死で祈りを捧げた。

 

 ああ、ウカノ様、ウカノ様。

 あなたの忠実なるしもべが傷付き、死に瀕しています。

 どうかどうか、私をお救いください。

 この哀れなるあなたの信徒に、どうかお慈悲を。

 そして、今一度戦いの場に立つ活力を!

 

 あなたの必死の願い、祈りは天に通じた。

 あなたへと降り注ぐ、暖かくやわらかな光。

 小さな声で、ウカノがあなたへと激励を送った。

 

 あなたの全身に活力がみなぎり、すべての傷が癒える。

 喪われていた下半身の感覚もまたたく間に回復していく。

 あなたは立ち上がり、勢いよく上空へと飛びあがった。

 

 秋水の姿は、すぐ真上にあった。

 

 

『馬鹿な……女ったらしめ、死んだはずではなかったのか……!』

 

 あなたの下へと舞い降りようとしていた秋水が慄く。

 魔法の類がなければすぐさまの回復は不可能な類の深手だったので驚くのも無理はない。

 

『まぁいい! ならば、もう1度あの世に送ってやると言うんだよ!』

 

 殺意に溢れすぎでは?

 そう思いつつ、あなたは剣を構える。

 

『どうか! 怖かろう! フアハハ! しかもすべてを知覚できる! しかも手足を使わずに振るえる剣を用いれるこの機体を使う私を恐れないとは、貴様もつくづく頭の悪い(やから)だな!』

 

 秋水の哄笑と同時、ビリビリと襲い掛かってくる重苦しいプレッシャー。

 弱体化していることもあって、凄まじい重さだ。息苦しさすら感じる。

 

『知りたいというか! ならば教えてやろう! この具足、立烏帽子(たてえぼし)の語られざる真実の由来を! 平安の世に生まれた(はがね)の秘密を解いた男、入間(いりま)刀刃斎(とうじんさい)の異世界から来た科学者ブロウメアナ・クラッスラが産み出した傑作を! 刀刃斎が創りし秘された鋼、それは遡れば800年の昔となり700年前かつての鬼大戦において鎮狄(ちんてき)大将軍たる者が纏うべく造られた鉄丸(てつがん)に続き支給された人類の刃、遮那王(しゃなおう)独鈷剣(とっこけん)飾剣(かざりたち)茜御前(あかねごぜん)大典田(おおてんた)飾剣(かざりたち)夫婦剣(めおとつるぎ)(こしらえの)具足(ぐそく)の後継である三明剣(さんみょうのつるぎ)(こしらえの)具足(ぐそく)を!』

 

 なん……なんだって?

 トウジンサイと言う人がいて……その人はブロウメアナが作った……?

 あ、いや、トウジンサイと言う人がいた世界から来た、ブロウメアナと言う人物がタテエボシを作った……?

 

 それで、800年前に700年前に起きた戦争……で……ち、チンテキ、将軍?

 その人が使っていた、テツガンと言うものに続く……剣? なんか、すごく長い名前の……。

 それの後継が……サンミョウノツルギ……? ……タテエボシはどれのことなの?

 そもそも、鎧の話をしてたはずなのに、なんで剣の話になってるの?

 

 あ、頭に入って来ない!

 ぜんぜん説明がわからないぞ!

 

『落ち着いてください、クライアント。そんな話を真に受ける必要はありません』

 

 冷静な晶の声にあなたは気を取り直す。

 そうだ、その通りだ。いまやるべきは戦うこと。

 秋水のおっそろしく分かり難い説明を聞く必要はない。

 いや、そもそもこの妙な話術自体がただの攪乱(かくらん)か……。

 

『いえ、秋水さんは自分の言いたいことを好き勝手に喋り散らかしてるだけで、相手に話を理解させる気がないだけです』

 

 それはそれでひどいな。

 あなたは思わずそう思ったが、気にしないことにして剣を握る。

 

『いいですか。これから彼女の知覚を妨害します。ハンパにやっても意味がないので、短期間完全に封じる方向性でやります』

 

 あなたは内心でそうしてくれと答えを返す。

 

『こちらも全力でやりますが、なにせ彼女は知覚方面に限ってはおそらく人類屈指の天才。あまり長くは保ちません。おそらく1分。それが妨害し切れる時間です』

 

 十分すぎるほどの時間だ。

 まともにやっていれば10回は交錯できるだろう。

 それだけの交錯を経て勝てなければ、大人しく白旗を上げるとしよう。

 

『では、いきます』

 

 そう晶が言い。

 元気よくペラを回していた秋水が身じろぎをする。

 

『なに!? なんだ! これは! ぐっ、ずかずかと人の中に! 土足で人の中に入るなッ! く、くくっ……! 押し返せ、ない!? なんだこのパワーは!?』

 

 秋水が戸惑う中、あなたは遮二無二突進した。

 全力で振りかぶっての、渾身、真っ向からの一撃。

 

『はっ!?』

 

 察知の遅れた秋水が剣を構える。

 だが、遅い。

 あなたの剣が秋水の鎧、その縦長の頭部をしたたかに打ち据えた。

 

 なるほど、どうやら戦いの領域に入れそうだ。

文字数はどの程度が好ましいですか?

  • 2000文字前後
  • 3000文字前後
  • 4000文字前後
  • 5000文字前後
  • 6000文字前後
  • 7000文字前後
  • 8000文字前後
  • 9000文字前後
  • 1万字前後
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。