あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 お茶漬けと言うのはダシの効いたスープをかけたライスのことらしい。

 それをスプーンで掬って、流し込むようにして食べる。

 考え方としては、パン粥に近いような代物だろうか?

 

 あれは硬くなったパンを食べ易くするために発展した料理だ。

 そして、柔らかく食べ易いので病人食としてもピッタリ。

 さらには上に乗せる具や、煮込むスープの味付けでアレンジもできる。

 まぁ、作り手の性格や味覚が如実に出て来る料理と言える。

 

 お茶漬けもそれに近しいものらしく。

 カル=ロスは上にプラムの塩漬けを乗せて食べている。

 酸味が効いて美味、らしい。

 

「あー、ほっとする」

 

 あなたは特にコレと言ったアレンジはしていない。

 なんか旨味が効いてて中々イケるスープと共にライスを流し込む。

 目を瞑りながら、さらさらと流し込むとなかなかイケる。

 

「目を閉じてまで味わうなんて、気に入りました?」

 

 いや……スープに浮くライスが……。

 水死体から溢れ出した蛆虫みたいに見えて……。

 吐きそうだから見ないようにしてる……。

 

「あっ、うーん……まぁ、ビジュアル苦手な料理は、いろいろありますしね。ハイ……」

 

 あなたは頷く。

 こればっかりはどうしてもだめなので許してほしい。

 

「まぁ、好き嫌いなんて誰にだってありますし。それ食べなきゃ死ぬわけでもありませんし。特にお母様は文化圏の違う出身ですから、しょうがないですよ」

 

 その通りだ。あなたはそのあたりは割と寛容に考えている方だと思う。

 お菓子しか食べないとか、酒ばかり飲むとか、そう言う異常な偏りならともかく。

 特定の野菜が嫌いで食べれないとか、そのくらいは鷹揚に考えていいだろう。

 無理に食べさせてなんかいいことがあるわけでもないし。

 

 あなたも嫌いな食べ物はそれなりにある。

 人肉とか、野菜の種とか、腐ったものとか。

 それを克服しようと思ったこともない。

 人間、それくらいの愛嬌はあってもいいだろう。

 

「ですよね。お母様その辺り寛容だからほんと助かります」

 

 などと言いながら、スープの一滴も残さず食べ終えるカル=ロス。

 あなたも同様にあらかた食べ終える。なかなかおいしかった。

 

 お腹が軽く満たされ、あなたは落ち着いた。

 朝っぱらから戦いはなかなかキツいものがある。

 のんびりして休みたい。そもそも療養してるんだから休むのは当たり前だ。

 

漁色(ぎょしょく)してた人が言っていい言葉じゃないんだよなぁ……」

 

 呆れたような顔をされた。

 あなたも反省しているのでゆっくり休みたい。

 だが、晶の父、レイが来ているというなら、無理か……。

 あなたはしくしくと痛むような気のする胃を慰めつつ、その時を待った。

 

 

 しばらく待っていると、晶がティーポットを片手にやって来た。

 そして、あなたたちの前にお茶とクッキーを出してくれた。

 ごろごろとたっぷりナッツが入ったおいしそうなクッキーだった。

 

「どうぞ、クライアント。ダージリンです。で、こっちはママの特製クッキー」

 

 人の作ったものは食べないようにしているが……。

 さすがにこの場面で断るのは礼儀に反するか……。

 あなたは渋々ながらも紅茶とクッキーに手を付ける。

 

 ざくざくとナッツがたっぷりと入ったクッキーだ。

 ほろりさくりとほどける食感が実においしい。

 なるほど、これはじつにうまいとあなたは頷く。

 

「お口に合いましたでしょうか」

 

 そのように訪ねて来るのは、晶の父でありママであるというレイ……。

 父でありママであるってなんだよ。意味がわからない。

 

 しかし、見れば見るほどに、晶とレイは似ている。

 いや、似ているなんて陳腐な言葉では言い表せない。

 瓜二つと言っても過言ではないほどに似ている。

 『アルバトロス』チームは全員養子だと聞いたが。

 この調子だと、晶とレイだけは血縁があるのでは?

 

「そうですね。晶さんとは血縁があると言ってもよいでしょう。ですが、親子と言うわけではありませんよ」

 

 じゃあ、兄妹とか……?

 

「ああ、そうですね。たしかにそれがもっとも近い関係と言えるでしょう」

 

 なるほど?

 既存の家族関係で言い表せないほど複雑な間柄っぽいことは分かった。

 

 しかし、血縁があることは間違いないだろう。

 あまりにもそっくりだ。大抵の人間に見分けはつかないだろう。

 レイは耳元にピアスをしているので、そのピアスを見ればわかるだろうが。

 

「でも、クライアントならピアスなくても見分けるんでしょう?」

 

 晶の言葉にあなたは頷く。

 似ていると言っても、やはり生き物。

 そっくりに作った人形ほどの完璧なそっくり度合ではない。

 

 晶よりも少しだけ髪が長い。3ミリくらい。

 声音も若干ながら晶より低く、また言葉尻のアクセントが微かに高い特徴。

 瞳の色がややくすみ気味に見えること、口元の皮膚の癖。

 眉毛が少々ながら晶よりも濃く、同時に眉の整え方が晶よりシャープ。

 他にも種々様々な差があるので見分けはつく。問題ない。

 

「……すごいですね。純粋な見の技術で見れるとは」

 

 目を白黒させるレイにあなたは笑う。

 女の子の見分けをつけるのは大得意だ。

 まぁ、『アルバトロス』チームは見分けられたくないらしいので。

 あんまり個人を特定するようなことは言わないようにしているが。

 

「そうですか。改めまして……私はレイと言います。どうぞよろしくおねがいします」

 

 そう言って髪を上げて笑う、それはそれは可愛らしいレイ。

 養父、養父と言うのは、まぁ、分かった。

 当人も言っているし、晶もそうと理解している。

 

 じゃあ、その膨らんだ胸元はいったいなんなのだろう……。

 レイの胸元は明らかに膨らみがあった。

 間違っても服の皺とかではないサイズだ。

 晶と遜色ないサイズと見える。数字で言うと80後半くらい。

 

 しかし、その点を抜きにして見ると……。

 たしかに男……と言うのも納得か?

 体格や腰の位置とかが、男っぽいような気がする。

 すると、胸のふくらみは詰め物なのかもしれない。

 

 女を見る目にかけては一流のあなたは詰め物など見抜くが……。

 なにせ、この次元は色んな道具の技術が発達している。

 あなたでも一見して見抜けないほど高度な偽乳もあるのかも?

 なんのために偽乳なんかつけてるのかはともかく。

 

「ご挨拶をと思いまして」

 

 あなたも名乗り返し、よろしくと答える。

 用件はともかく友好的に接触をして来た人物を無下にするほど狭量でもなし。

 あなたは友好の証にと握手するべく手を差し出した。

 

「いえ……私はサイコメトリストですから。触れれば読めてしまいますよ」

 

 じゃあ、やめよう。

 あなたは手を引っ込めた。

 

「…………」

 

 レイはなんとも言えない顔をしていた。

 やめた方がいいよと言ったのはそっちでは……?

 

「いえ、はい。はい……それはそうではあるのですが。気にしないよと強がり半分に言って握手をする人の方がはるかに多くて、手を引っ込められるのはレアパターンなものですから」

 

 なるほど。

 まぁ、あなた個人のことを見られてもべつに恥じることはないのだが。

 

「は?」

 

「なにいってだこいつ」

 

 晶とカル=ロスから熱いツッコミ。

 あなたはそれを無視し、レイに軽く説明する。

 

 あなた自身の言行はべつに知られても構わない。

 だが、冒険者としての仕事には守秘義務が伴うこともある。

 それらを迂闊に破るのは愚かな行為だ。

 

 そして、あなたの夜の秘め事にはもちろん相手がいる。

 見られるの大好き! と言う変態ならともかくとして。

 普通の人間は見られることはあんまり好まないだろう。

 あなた自身見られるのを好まないので野外趣味はない。

 

 そう言った種々の理由もあって、避けられるなら避けたいところだ。

 

「そうでしたか……なるほど、とても冷静な視座をお持ちですね。むしろ、安易に受け入れられるよりも、その方が好ましいと思います。はい」

 

 そのように笑うレイの顔は驚くほど晶にそっくりだ。

 顔立ちもそっくりなわけだが、表情の作りがよく似ている。

 この似通い方は、心が通っていないと起こらないことだ。

 

「それに、握手などしなくとも、会話で心を通じ合わせることはできます。私たちは言葉を使える人間なのですから」

 

 そのように言うレイにあなたはその通りだと頷く。

 人間には言葉と言う最大の武器があるのだ。

 それを正しく使えば、握手ごときできずとも問題などない。

 

 だから、暴力に訴えてこないでくれ……!

 

 あなたは必死でそのように祈る。

 朝っぱらから秋水と決死の戦いをしたのだ。

 切り札の祈りも使ってしまっている。

 あれは頻繁に使えないから切り札なのだ。

 

 普通にやっていては、次に使えるまで1カ月はかかる。

 まぁ、お供え物をたんまりと弾めば割とすぐ使えるようにもなるが。

 しかし、そんなすぐに必要になるとは思っていなかったので、そんなことはしていない。

 

 今攻撃されて、祈りが必要な場面になったらどうなることやら……。

 なんでか知らないが、『アルバトロス』チームの親は強いのが多い。

 大和も克己も実際に戦ったわけではないが、弱くはなさそうだった。

 そもそも、そこらを歩いていた娼婦と思しき若い女も一廉(ひとかど)の剣士だった。

 

 それより歳を重ねているであろう大和や克己はもっと強かろう。

 そして、鮮香はさらに年上な上に、肉体的に強靱な異種族ハーフ。

 この次元の平均が高いというのもあるのだろうが、にしたって強過ぎる。

 

 晶は聞くところによると、あなたと同じ次元の出身らしいが。

 レイは晶より格上のサイキックな上に、見るからに手練れの気配。

 武具を執る戦士とは違うようだが、間違いなく高度な戦技を会得している。

 これと戦うのは骨が折れるだろう。あなたは身震いするような感覚を覚えた。

 

「……あの、どうされました?」

 

 レイが心配そうに尋ねて来た。

 どうやら動揺と言うか、不安と言うか、そのあたりが漏れていたらしい。

 あなたは意を決して、レイに直球で言うことにした。

 

 晶のことはとても大事に想っています!

 決して弄ぶつもりなんかないし、遊びでもない!

 だから、粛清しようとしないでください! お願いします!

 

「ああ……? あ……? ん? んん? あの、なんの話ですか?」

 

 なんの話って……。

 晶を女の子から女にしたことだが……。

 

「えーと……? つまり、晶さんと交際なさっていると、そう言うことですよね」

 

 まぁ、そう言うことだ。

 

「それになにか問題でもおありなのですか」

 

 なにか問題がって、それはまぁ。

 頭のおかしい妻子ある女たらしの毒牙にかかっていたら。

 普通、親は心配するものではないのだろうか。

 

「私はべつに晶さんのことは娘だとは思っていませんが」

 

 え、そうなの?

 あなたは思わずレイと晶双方に尋ねかける。

 

「え、はい。たしかに私は乳幼児期の晶さんを養育しましたが。それは私がサイコメトリストだからですし。そもそも上から任務として振られた、課業だからやったまでです」

 

「そうですね。私も、育ててもらったとは思っていますし、続柄処理は養父ですが、ママであってお義父さんと思ったことはないですよ」

 

「私も乳幼児期に上官に育てていただきましたが、上官とは思っていても、義父や義母と考えたことはありません」

 

 ここにも独特な風習が出て来た……。

 

「いずれにせよ、晶さんが決めたことなのでしょう。たとえ私が実の父であったとしても、とやかく言う筋ではないと思いますが」

 

 いや、娘が悪いやつに騙されていたら、普通は心配するものでは。

 

「はぁ。それは情報リテラシーが粗末なだけではありませんか。たしかに弱者救済の措置は必要と思いますが、それはあくまで司法や行政が判断することであって、個人間の自己救済は不適当と考えます」

 

「そうですね。仮に私が騙されたにせよ、クライアントの異常性癖は周知ですから。やはり自己責任としか」

 

 冷静過ぎて逆に気味が悪い。

 だがまぁ、助かると言えば助かる。

 あなたは安心し、気を取り直した。

 そして、あなたはいつも通りの自分らしく行動する。

 つまり、レイに妹か姉はいないか? と尋ねた。

 

「クライアント……」

 

「お母様……」

 

 2人に呆れられたが、無視する。

 

「姉か妹ですか。いると言えなくもありませんが……」

 

 要領を得ない返事だ。

 どういうことか尋ねると、レイが懐から何かを取り出した。

 それは薄い1枚の板で、ぺらぺらとした紙のようなもの。

 それにはじつに精巧な絵……いや、写真だ。

 

 そして、その写真には、同じ顔が何十となく並んでいた。

 10歳くらいだろう子供……おそらく晶の肩に手を乗せている……たぶんレイ。

 その周囲には、髪を染めていたり、アクセサリーを付けていたりと違いはあるが。

 体格と相貌がほぼ完全に一致する人物が、何十人もいる……。

 あまりにも異様な写真にあなたは慄く。なんだこれは……。

 

「私たち『グレイスメイデン』は、同一人物を祖とする集団なのです。兄弟や姉妹と言う関係は、便宜上のものでしかないのですよ」

 

 そのように告げるレイの顔かたち。

 それはやはり、写真の中にいる者たちと同じもので。

 同じものが複数人いる、その異様さにあなたは息をのむ。

 

 まるで、コピーしたかのような瓜二つさだ。

 ダイアとダイア女王くらいのそっくりさ。

 肉体を複製した同一人物に匹敵するほどのそっくりさとは。

 

 あるいは……レイたちも……?

 

 あなたはあまりの恐ろしい想像に息が詰まった。

 誰が何を考えてこんなことをするのか……聞くのが怖くなった。

 ……聞かないでおこう! その方がいいね!

 

 きっと、とても重く苦しい、人に話すのもつらいような……。

 そんな複雑で踏み込めない事情があるに違いない!

 突っ込んで話を聞くのは心に土足で踏み込むようなもの!

 だから、聞かないでおこう! あなたはそう結論付けた。

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