あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「そうですね……どう切り出したものでしょうか。そうだ。レウナさんはお元気ですか?」

 

 突然レイがそう切り出して来て、あなたは首を傾げる。

 同じ次元の出身とは聞いていたが、レウナとは知己だったのか。

 

「ええ。私も星屑戦争に参画していた者のひとりですから。タイトさんもお元気でしたか?」

 

 あなたは頷いて、元気だったよと答える。

 カーマイン4姉妹も、サツキも、ティーも、クリーブも、アクアも。

 みんな元気でみんなえっちでみんなかわいかった。最高だった。

 

「そうでしたか。それはよかったです」

 

 そのように優しく笑い、そこであなたはようやく情報を呑み込めた。

 先ほど、レイは『グレイスメイデン』と言ったか?

 

「ええ、言いました。私たちは『グレイスメイデン』。麗しの淑女の名を受けた者たち」

 

 男なのに?

 

「私もそこのところは大変疑問に思っていますが、そう言うコードネームなのでしょうがないんです」

 

 なるほど、そう言うことか。

 人に贈られた名と言うのはなかなか変えられないもの。

 

 あなたの父は『虹を架ける妖精』。

 あなたの母は『ゾフルの紅い風』。

 なんともカッコいい称号で憧れる。

 そんなあなたの称号は『とてつもなく合体』。ひどくないか?

 しかし、贈られた称号では変えようもない……。

 

「『グレイスメイデン』の名に聞き覚えがありましたか」

 

 あなたは頷く。

 レウナも言っていたが、たしかにタイトたち『トラッパーズ』も言及していたはず。

 そうだ、たしかキャロラインがレイの忘れ物を探していると言っていた。

 なるほど、たしかにあの次元にいたらしい。

 

 レウナは『アルメガ』の生存を知った時に取り乱したが。

 その時に『グレイスメイデン』と『プレデターズ』がいれば勝てる可能性があると言うようなことを……。

 ん? 『プレデターズ』? なんか最近聞いたような……?

 

「克己さんの所属している傭兵団が『プレデターズ』と言いますよ」

 

 するとなにか? 克己たちもあの次元の出身なのだろうか?

 

「あの戦いが終わった後、生き延びた人たちは各々の道に戻りました。その中には、平和な次元で静かに暮らすことを選んだ人もいるのですよ」

 

 克己はその口だったと……聞けば、睦美の上にも義娘がいるという。

 その娘を養育するために平和な次元に移り住んだということか。

 

「ついでに言えば、大和さんもそうですよ」

 

 2人に面識があったのはあちらの次元でのことだったのか。

 それならそれで教えてくれればよかったのに……。

 とも思ったが、今考えてみるとヒントはあったか。

 

 以前、克己との会話でエルグランドについて軽く触れたことがある。

 初日の夕食後、縁側で喫煙する克己と語らった時だ。

 たしか、エルグランドでは女同士でも子供が作れると説明した。

 

 その時、克己は実にあっさりとエルグランドと言う単語を受け入れていた。

 考えてみると、あの反応はちょっとおかしかった。

 エルグランドと言う単語だけなら会話の流れで地名と判じたと考えられる。

 だが、女同士でも子供が作れるという事実。

 これを克己はあまりにもあっさりと受け止め過ぎていた。

 

 それは別大陸では驚天動地の事実であるし。

 この次元でも、それはまずありえないことだ。

 あり得ることなら、ラルカとシャロンの間には実子がいたことだろう。

 

 つまりだ、克己は知っていたのだ。

 エルグランドの民が同性でも子供を作れると。

 そう考えてみると、あの反応も頷ける。

 既に知っていたがそれでも驚きの事実。

 それを再認識したと思えば、妥当な反応と思える。

 

「そうですね。あの戦いの折、魔神大戦と星屑戦争の立ち役者『トンネルワーカーズ』にはエルグランドの民もいましたから」

 

 ほほう、それはたぶん初耳だ。

 まぁ、アルトスレアにならいてもおかしくはないが。

 実際、あなたも相当昔とは言えアルトスレアを旅したことがある。

 

 航路も、まぁ、気楽に往けるほど安全ではないが。

 それなりに確定した、実績ある航路がある。

 無事に辿り着くのが難しいだけで、行くのは簡単だ。

 

「ちなみにですが、あなたの妹さんですよ」

 

 ……意外なところでつながるものだ。あなたはちょっと驚く。

 あなたには4人の妹が居て、ひとつ下の妹はあなたと同じく冒険者をしている。

 まぁ、冒険者と言うよりは旅行者とでも言うべき態度のやつなのだが。

 

 そのため、それなりには強いが、超級冒険者の足元にも及ばない。

 身体能力も魔法の練度も生命力量も速度も、なにかもが桁が違うほど低い。

 戦闘速度は……まぁ、ざっと30倍速くらいか。その辺りが限界速度。

 身体能力はザックリとあなたの50分の1くらいじゃなかろうか。

 そして生命力量はあなたの10000分の1以下。それほどまでに弱い。

 

「…………」

 

 レイが目元をもみもみとほぐした後、引き攣った顔で尋ねて来た。

 

「あの。彼女、生身で核兵器の直撃に耐える超人なんですけど、弱いんですか」

 

 核兵器と言うと『ナイン』のことか。

 あんなもの、エルグランドの冒険者の大半は耐えれる。

 まぁ、駆け出し冒険者とかならともかく。

 それなり以上に鍛え上がっていたら楽勝だ。

 

「普通、あれが直撃したら即死なのですが」

 

 まぁ、ざっくり『ナイン』の威力が1000としようか。

 あなたの妹は大体これの直撃に50回くらいは耐えるだろうか。

 

「ご、50……」

 

「カル=ロス。『ナイン』って出力1メガトンなんですよね」

 

「ですよ。まぁ、あれは威力可変式水素爆弾なので多少は威力弄れますけどね。お母様が使う時は1.2メガトンです」

 

「広島型原爆80発分……」

 

「ちなみに私は1発くらいならなんとか耐えれます」

 

「エルグランドの民やばすぎませんか」

 

 たしかにカル=ロスは1発いけるかどうかくらいか。

 魔法による軽減とかも踏まえれば、まぁ問題ないだろうが。

 

 そして、あなたは、まぁ、自然回復や軽減を考慮しないとしても。

 ざっくりと10万発くらいは耐えられるのではないだろうか。

 もう1ケタ上は……どうだろう。装備や魔法で増強すれば行けるとは思うが。

 

「本気で仰って……おられますね」

 

 あなたはちょっと考えて、サイコダイブってレイもできるの? と尋ねた。

 以前、晶があなたに使用し、晶の経験を追体験したサイキックだ。

 晶を抱いた後に、晶にその経験を追体験させてもらえばすごい倒錯プレイができそうだとおもっているのだが、今のところできていない。

 

「ええ、もちろん私にもサイコダイブはできますが……」

 

 そのサイコダイブで、あなたの経験を追体験してみては。

 ちょっと前、役所に税金を納めに行った時に『ナイン』を使った。

 すぐ真横で起爆したので威力を体感するにはピッタリだろう。

 

「なぜ納税で核兵器が起爆するのですか?」

 

 なんでって……まぁ、なんとなく?

 しばらく使ってなかったから使いたかったとか。

 空が青かったとか、手頃なところに『ナイン』があったとか。

 まぁ、そのくらいのところだろう。

 

「なんとなくで核兵器……」

 

「まぁまぁ。エルグランドでは核兵器が豆まきくらいのノリでばら撒かれるのはよくあることですから」

 

「そんなノリで核兵器をばら撒かんでください」

 

 まぁまぁ、そのあたりはどうでもいい。

 試しにやってみてはどうだろうか。遠慮はしなくてもいい。

 それ以外のところを読まれるとちょっと困るが……。

 

「では、その時のことを想起しておいていただけるでしょうか。そうでないと、広域探査をして当該記憶に当たりをつけるところからやる必要がありますので」

 

 お安い御用だ。

 あなたは当時のことを思い起こした。

 そして、レイと晶があなたの手を握った。

 

 

 

 ………………………………

 

「こんにちは~。納税に来ました~」

 

 そう告げながら、私は役所に入る。

 役所は金銭を取り扱う場所だから、当然ながら衛兵がいる。

 その衛兵たちが私の顔を見るや、血相を変える。

 

 私の顔は幅広く知られている。

 そして、私はまず間違いなく指名手配されている。

 長期間の税金滞納の罪だ。しばらく留守にしていたからしょうがない。

 捕縛に来るだろうから、応対する必要があるだろう。

 

「女を隠せ! 金髪の女たらしが来たぞ!」

 

「ガード! ガード!」

 

 が、その前に、同じく納税に来ていた市民がそう叫んだ。

 そして少し遅れて、衛兵が武器を手に駆け寄ってくる。

 

「大人しくお縄についてくださいおねがいしますなんでもしますから!」

 

「ちくしょうなんで俺が当番の時に納税しに来るんだよぉぉぉ!」

 

 なんて泣き叫ぶ衛兵たち。私は苦笑して、頬を掻く。

 彼らも仕事だから、敵わないと知っていても戦いから逃げることは許されない。

 なぜなら逃亡者は銃殺されるからだ。悲しいね、衛兵さん。

 

「優しくしてあげるから、あんまり無理に抵抗しないでね」

 

 私は拳を握って、衛兵たちを適当に殴って黙らせる。

 切り捨ててもいいけど、足元が汚れると嫌だしね。

 

 それから、私は税金の請求書に応じた金貨を収める。

 名声も実績もある冒険者なので、その額は莫大なもの。

 まぁ、名声も実績もある冒険者にとって、金貨なんてほとんど無意味なものだけど。

 お上も実際のところ、そう真剣に徴税してはいない。

 

 超級冒険者であっても納税をしている。そういう実績が欲しいだけなのだから。

 本当に価値あるものを納めさせようというなら、古代のように物納のほうが都合がいい。

 

「よし。じゃ、免罪符を(あがな)って罪を(あがな)おう。それから家に帰って、お姉ちゃんと朝までイイコトしよう!」

 

 なんせ年単位で留守にしていたわけだから。

 私の最愛のペット、お姉ちゃんとはすっかりご無沙汰。

 仲直りのためにも熱くやらしく盛り上がりたいところ。

 これからまた留守にするので、その分も含めて堪能したい。

 

「ふっふっふ……楽しみだなぁ」

 

 そう言いながら振り返った私を待っていたのは、大量の衛兵。

 10人を超える衛兵たちは完全武装状態。

 超級冒険者たちに散々おもちゃにされまくった彼らは強い。

 壮絶な実力差のある相手と決死で何度も戦っているのだから。

 彼らの実力が飛躍的に向上するのは当然のこと。

 生半な冒険者では手も足も出ないだろう。

 

「大人しく武器をおいてくださぁぁぁぁい! 死にたくない! 死にたくなぁぁい!」

 

「神妙にお縄についてくださいおねがいします! 私には妻と夫と猫がいるんです!」

 

「おまえは戦いに積極的に参加しようとしている! 闘争者は歓迎されない!」

 

 まぁ、残念だけど、私には歯が立たないけど。

 私たち冒険者みたいに、毎日が戦いの連続ってわけではないから。

 やっぱり、彼らの戦闘力の伸びは割と鈍いのだ。しょうがない。

 

 できれば殺さずに済ませてあげたかったけれど。

 この状況ではそうもいかなさそうだ。

 

 私は渋々愛剣を抜く。愛剣は嬉しそうに私の手の中で震える。

 だが、その前に私はふと思いついたことがあって愛剣を鞘に納める。

 その姿に衛兵たちがほっとした顔をする。私が大人しく捕縛されると思ったのだろう。

 

 だが、私は『ポケット』から『ナイン』を取り出し、すぐさま時限起爆にセット。

 そしてスイッチを入れ、無機質なカウントダウンが始まる。

 

「逃げろォー!」

 

「しぬぅ! ころさえう!」

 

「ラーラララララ! おしまいだァー!」

 

 衛兵たちが驚き戸惑う中、私はただ起爆を待つ。

 そして『ナイン』が起爆した。

 解放された圧倒的な破壊のエナジーが大地を舐める。

 

 爆発のエネルギー、その解放は一瞬。

 その一瞬の時に、きちんと力を込めて堪えれば大丈夫。

 体表を焼く熱も、爆風も、私を傷つけられない。問題ない。

 

 そして数秒後。

 周辺は綺麗に更地になっていた。

 先ほどまで人でにぎわっていた役所はもうない。

 そこにたむろしていた人々ごと消し飛んだ。

 

「ちくしょうお縄についてくださいって言ってるだろぉぉぉ!」

 

「熱い熱い! ノータイムで『ナイン』使いやがって頭おかしいんじゃないのか!?」

 

 私と衛兵たち以外は。

 超級冒険者に比べれば弱いけど。

 世間一般で考えると彼らも超絶に強いからね。

 

 それに、『ナイン』の強みは広域制圧にある。

 広大な範囲を制圧できて、それなりの威力がある。

 つまり雑兵を薙ぎ倒すのに便利な道具でしかないわけだ。

 残ったそれなりに強い精兵は、それぞれ対処すればいい。

 

妖精(フィー)射手(シュッツ)よ。我が敵を穿つ(プファイル)を」

 

 私は適当に『魔法の矢』で生き残った衛兵を爆散させた。

 

「ウァーッ!」

 

「おうち……かえ……ぅ……」

 

「た、隊長ォー!」

 

 衛兵たちは口々に叫んで爆散していく。

 そうして、私以外に動くものはいなくなった。

 

「じゃ、帰ろーっと。妖精(フィー)(フリューゲル)(オーガー)長靴(シュティーフェル)、私の親指(ダウムン)。私を望むところへと連れて行って」

 

 私は『引き上げ』の呪文を唱え、家へと帰る。

 これから熱い夜が待っている……楽しみだ!

 

 ………………………………

 

 

 意識が現実に立ち返る。

 あなたはくらりと来ためまいに思わず目元を抑える。

 

「マジで核爆発にしれっと耐えてたんですけど」

 

「普通にそこらの警備員みたいな人も耐えてましたね」

 

「エルグランドの衛兵は強いですからね。並みのドラゴンくらいなら彼らでも倒せますよ」

 

「ファンタジー世界の衛兵がそんな強かったら問題起きそうにないですね……」

 

「エルグランドの民はすごいな思っていましたが、これほどとは……」

 

 あなたは納得いただけかなと尋ねた。

 

「はい……あの無法な強さにも納得がいきました。平均レベルが高過ぎるのですね……」

 

 あなたに言わせれば、この次元の方が平均レベルが圧倒的に高いと思うが。

 それに、晶とレイはサイキックとしてはかなりの強さ。

 『グレイスメイデン』も相当平均レベルが高いと見受けるが……。

 

「たしかにサイキック能力は高いですが、肉体能力は相応ですから」

 

「核兵器に生身で耐えられる人間なんかいるわけないんですよ、普通は」

 

 そうなんだ……。

 ところ違えば変わるとは言うが。

 それにしたってこんなに違うとは。

 

 …………それで、なんの話してたんだっけ?

 

「あなたの妹さんがどれくらい強いかと言う話でしたが……彼女ですら苦戦した相手、あなたに期待してよいのかと、そう思っていたのですが……」

 

 まぁ、あなたの妹が苦戦できる程度の強さなら。

 あなたはまず間違いなく勝てるだろう。問題ない。

 しかし、この流れでその話になると、その相手と言うのは……。

 

「察していらっしゃるようですが……はい。『アルメガ』と、そう呼ばれていたかの巨神です」

 

 やはり。

 『グレイスメイデン』はタイトたちが言及していた集団。

 彼ら『トラッパーズ』同様、その祖に『アルメガ』を持つ存在。

 それゆえに『アルメガ』との生存競争を繰り広げていた集団。

 

 まぁ、そもそも星屑戦争とやらの真の敵が『アルメガ』なのだ。

 そう言う話の帰結になるのはむしろ自然なことだろう。

 

 あなたは頷いて、レイに話の続きを促した。

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