「ここは、あなたたちの戦いから20年以上も未来の時間軸です。だからこそ、あなたの経緯は存じております」
と言うと、推定なんらかの神があなたを選び。
わざわざあの大陸に送り込んでまで戦わせようとしたことか。
正直気に入らないが、必要な戦いだとは思うので渋々納得している。
「あなたは選ばれた戦士だった。それは、なぜなのでしょうか。その強さゆえ、なのですか?」
20年以上も前のことならいろいろ知っているのでは?
「20年以上前の戦いの時点では私たちは綺麗さっぱり蚊帳の外に置かれていましたので。事後になって事情は知りましたが、詳細な経緯は不明なのです」
なるほど?
まぁ、そう言うことならできる限り応えるが。
しかし、あなた側から見ると戦いは始まってすらいない。
答えられることに限りはあるので、それは承知してもらいたい。
「ええ、もちろんです。『アルメガ』……天体制圧兵器に個で勝る……私にはとてもではありませんが、想像がつきません。いったい、どうやって?」
普通にこう、武器とか、魔法で、えいやっ……って。
「えいやって」
「なんだろう。普通の敵みたいな倒し方するのやめてもらっていいですか」
晶に突っ込まれるが、それ以外にどう言えと。
まぁ、前に『インメタル』と戦った時は他に兵器類も使ったけど。
「待った。待った待って、待て待て待て。今なんとおっしゃいました?」
『インメタル』と戦った時は兵器類も使った。
「『インメタル』と戦ったんですか……どこで、どうやって……?」
こないだ夢の次元イリーズに行った時に。
厳密に言うと本物ではなく、『アルメガ』の悪夢として顕現したものだったが。
まぁ、スペック的には同質くらいなんじゃなかろうかと思われる。
「勝てたんですか?」
勝ったよ。
最大限に強化した『太源の波動』でも3割吹っ飛ばすのがやっとで。
使うのを待ちわびていた『てのひらのはめつ』も腕一本吹っ飛ばすのが精一杯。
それでも最後の最後に切り札を切ることで何とか勝利した。
「なるほど、苦戦され……くせ……善戦し過ぎじゃないですか?」
「そうですか? 1割吹っ飛ばすのがやっとでは、とてもじゃないですが勝利には遠いような……」
「晶さん、冷静に考えてくださいね。『インメタル』も『アルメガ』も、その存在規模は惑星規模です。いいですか、彼女は惑星の3割を吹き飛ばすような攻撃をぶっ放してるんですよ」
「…………言われてみるととんでもないことし過ぎですね」
晶が今さらそんなことに気付いたらしい。
『てのひらのはめつ』なんかエルグランドを根こそぎ消し飛ばす威力がある。
先日のパサファロンの戦いで知ったが、そりゃ神が止めに来るのも納得の威力だった。
渾身の力を振り絞ったとは言え、それを上回る威力を叩き出すのは無法もいいところだ。
まぁ、仮にエルグランドで『太源の波動』を全力でパナしても。
普通に純粋魔法属性の完全耐性があれば防げてしまうし。
なにより、純粋な武力では神の成す巻き戻しに抗う術がない。
そう言うことを考えると、結局はあなたも無力な定命の存在なのだ。
逆に、神格のような権能を一切持たず。
それでいながら神格をも超える圧倒的な質量と規模を持ち。
さらには膨大な数のしもべを使役する力を持っている。
そんな無法な力を持つ『アルメガ』と『インメタル』がおかしいのである。
「単独で天体制圧兵器を超える力……なるほど、あなたが戦いのキーパーソンに選ばれた理由も分かるというもの。一騎当千の選ばれし強者と言うわけですか……」
「でも、さすがにそうゴロゴロいるわけではありませんが、お母様くらいの実力者ならほかにもいますよ」
「え?」
「お爺様とお婆様は得意分野ではお母様を超えていますし、お父様も近接格闘に限って言えばお母様より若干強いですしね」
カル=ロスが言う通りだ。
あなたはたしかに猛烈に強いが、あなたより強い者はいる。
あなたの両親、そしてあなたの最愛のペット。
それぞれ得意分野であなたを上回る。
あなたは剣も魔法も妥協しないオールラウンダータイプだ。
それは言ってみれば、剣も魔法もある程度は妥協しているということ。
剣だけに注力すると、魔法の行使に不都合な装備が必要になる。
魔法だけに注力すると、剣での戦闘に最適な装備が邪魔になる。
その折衷案を取ると、どうしても中途半端になるのは避けられない。
そう言う都合で、あなたより強い者はそれなりにいる。
あなたの家族以外でも、あなたと親しい友人たちにあなたを超える者はいる。
たとえば銃使いの機械神エクセロトの信者とか。
たとえばポールウェポン使いの農耕神クルシュラグナの信者とか。
たとえば馬上槍使いの慈愛神ジュステアトの信者とか。
彼ら彼女らの得意分野で戦えばもちろん負けるだろう。
逆に、あなたの得意分野、つまり剣か魔法で戦えば勝てる。
そして、実戦となると得意なもの一辺倒では戦えないものだ。
銃使いは懐に入り込まれるとやはりナイフなどで応戦するし。
ポールウェポン使いも距離を取られれば弓で応戦する。
馬上槍使いは遮二無二突撃するか、魔法を使うか……。
あなたはなんだかんだオールラウンダーなので全般的に対応できる。
そう言う意味で友人たちとの喧嘩の勝率はかなり高かったりする。
「……では、なぜあなたがキーパーソンに選ばれたのでしょうか」
レイの疑問に、あなたは推測になるが……と前置きしつつ答えた。
あなたが選ばれた理由は、あなたの持つ切り札、『
あれは魂に凄まじい負荷がかかる。鍛えればどうこうと言うものではない。
あれは天性の素質、素養がないと使いこなせないタイプの魔法だ。
理の完全反転。つまり、効果時間中不死身の戦士になる出力。
これをあなたは10秒も維持できない。できて5~6秒くらいか。
あなたの父はこれを超広域に半年展開とかやってのける。
あなたの父が、この魔法に最高の適性を持つが故の無法だ。
だが、本当にまったく素質がないと、1秒たりとて維持できない。
理の完全反転ほどの出力を出せるだけで滅多にいない素質だ。
「ですが、それならば無法な素質のあると言うクライアントのお父様が選ばれるのでは」
あなたの父はアルトスレアの出身だ。
尋常の生命ではないので『アルメガ』の服従因子は含まれないだろうが……。
自然は理の発露でもあるので、『アルメガ』の影響が皆無とは言えないし。
アルトスレアの自然に由来する存在なので、アルトスレアの自然が滅べばあなたの父も滅ぶだろう。
『アルメガ』は大陸の礎となった巨神だ。大陸まるごとを一瞬でどうにかすることは可能だろう。
「そうですね……いざとなったら大陸ごとと言うのはあり得る話です。休眠状態ではあるのでしょうが、覚醒すれば大陸を丸ごと捕食することも考えられます」
だから、素質は劣れどもあなたが選ばれたのでは。
あなたはそれなりの素質を持ちつつも、エルグランドの民だ。
『根之堅洲國死返法』に高い適正を持つ者は結構希少だ。
たぶんだが、エルグランドの超級冒険者の中ではあなたと父くらいだ。
『アルメガ』との戦いでは、それが重大な要素になるのではないだろうか。
あなたの『根之堅洲國死返法』を使った切り札はそれだけ強力だ。
そして、『根之堅洲國死返法』は素質が重要なので、あなたの切り札と同じことが出来るのはあなたの父だけ。
「効果中、不死身の戦士になれる力……なるほど、どのように勝利するかはわかりませんが、凄まじい力であることはわかりました」
レイがそのように納得する。
実際は違うんだけど……まぁ、いいか。
あなたの切り札は『根之堅洲國死返法』を使うが。
その効果の主体として語られる、不死身の戦士になる部分はあんまり関係ない。
理を遮断し、反転させる。ここが重要なポイントだ。
まぁ、説明するのもめんどうだ。
あれはあなた自身よく分かっていない使い方でもある。
詳しく説明すること自体がむずかしいのだった。
ひとまずレイに納得してもらえた。
それで、あなたの方から聞きたいのだが。
そのレイから見て20年前の戦いはどう始まったのだろう。
「いえ、私は戦闘詳報を読んだだけなので詳しくは……カル=ロスさんの方が詳しいのでは」
「説明してもいいんですけど、私から情報を知って有利に立ち回ったら未来変わりますよ」
そして、良い方向に変わるとは限らないと。
「そう言うことですね。まぁ、いつ頃はじまったかくらいは知ってもいいと思いますが……」
さすがにそれくらいはセーフだろう。
あと、どれくらいで起きるの?
「あと半年も無いですね」
思ったより近い……。
あなたは唖然とした。
なんだかドキドキして来た。
星を覆う巨神との戦いが間近に迫っている……。
カル=ロスが存在し、未来のあなたも存在すると言うからには。
あなたでも十分に勝てはするのだろうが。
しかし、それは凄まじい戦いなのだろう。
……どんな戦いになるのか、不安だが、同時に楽しみだ。
エルグランドの冒険者の力、存分に見せてやるとしよう。
「そうですね。私は冒険者ではありませんが、エルグランドの民です。やってやりましょう」
カル=ロスも意気込みは十分のようだ。
「エルグランドの民の無法な力、加速の凄まじさを教えてやろうというものですよ」
たしかにあれはエルグランドの民にしかできない。
『アルメガ』もさぞかし驚くに違いあるまい。
「加速?」
「エルグランドの人間って、生命の標準速度みたいなものを鍛えられるんですよ、ママ」
「生命の標準速度……?」
「つまりなんですけど、普通の人間って1秒は1秒で生きてますよね」
「はい」
「でも、私たちサイキックは、その時間の認識をいじれる。1秒を5秒と認識できますよね」
「はい」
「エルグランドの人間もそれができるのですが、同時に肉体の動作速度も5倍速にできるんです」
「本気で言ってます?」
「本気ですよ。先ほどクライアントが言っていた妹の30倍速はそれのことです」
「あの子供好きの人は、私たちが1秒の間に30秒動けると?」
「そうですね。肉体の動作速度も30倍なので、走ったら時速30キロだとしたら900キロで走ることになります」
「えええええ……」
エルグランドの民特有の無法な能力にレイが戦慄している。
あなたからすると一般常識なのだが、他大陸のみならず他惑星の人からしても異常なことらしい。
「ちなみにカル=ロスってどれくらいが最高速なんですか?」
「生身だと5倍速くらいしか出せないですよ。魔法とか色々コミでも10倍速が精一杯ですね」
「クライアントは最高速どれくらいなんですか」
わかんない。
厳密に測定とかしたわけじゃないので。
ただ、普通に音の壁くらい楽勝で超えちゃうので。
そこらで適当に最高速を出すと大惨事が起きる。
「生身で音速突破て」
あなたの場合、速度はある地点で妥協している。
エルグランドに存在するタルタロスやナラカと言った迷宮。
あそこには独特の法則が作用しており、特定のエンチャントが効果を発揮しなかったりする。
そのため、あなたはそれに合わせて速度を鍛えるのをやめた。
「ほほう。それってどれくらいなんですか」
ざっくりとだが。
「ざっくりと?」
音速の1万倍くらい。
「なんて?」
音速の1万倍くらい。
実際はもうちょっと遅いとは思うが。
その速度を測る術がないので、体感でそのくらい。
音速の定義もエムド・イルの超科学文明が導き出した数値を知っているだけで。
それが本当に正しい数値なのかは知らないし。
「まぁ、クライアントの額にピトー管捻じ込むわけにも行きませんし、速度が測れないのは分かりますが……い、1万倍……?」
あなたは頷く。
エルグランドの速度を鍛えるに至った冒険者には、ある紳士協定がある。
周辺に無意味な被害が出るので、市街地では戦闘速度を超えないようにするというもの。
この戦闘速度と言うのが、人間が生まれ持つ速度の約30倍ほど。
30倍だと不安だから余裕を持って29倍にするのが一般的である。
この速度ならば、肉体が音速を超えることはない。
剣先や矢が音速を超えることはあるが、質量が小さいので影響は小さい。
時速1200キロくらい。それが戦闘速度。
その戦闘速度の、ザックリ1万倍ほど。
それがあなたが生身で出しうる最高速だ。
「………………ママ、音速の1万倍ってどれくらいですか」
「大気中のことを言うなら、光速の1パーセントくらいですね。厳密に言うと1.1パーセントくらいですが、些事です」
「つまりなんですか。クライアントは生身で光速を引き合いに出すほどのスピードを出せると」
出せる。出す用事がないから出さないけど。
この速度を出すと、もう生活もクソもなくなる。
たとえばだが、朝起きて隣で寝ていた可愛いペットを起こしたとする。
その時にあなたが最高速まで加速して生活したとしたら。
顔を洗い、朝食を食べ、トレーニングし、昼食を食べ、昼寝をし、娯楽に勤しみ夕食を食べ、眠気を感じた頃。
隣で寝ていたペットは、あなたにおはようの返事を返し終わるかどうかというところ。
標準速度で進んでいた世界もまた、1秒すら経っていない。
最高速で生活するというのはそう言うことだ。
29倍速の1万倍なのだから、29万倍速で行動している。
世界の1秒があなたにとって29万秒、日数で言うと3日と少し。
こんなのただの地獄である。
だからこそ『時逆の歯車』と言う減速魔法があるわけだが。
「それだけの速度出せて勝てない相手なんかいるんですか」
相手も同じくらいの速度出して来ることがあるので。
まぁ、別大陸ではまずいないが、そうすると周辺被害がまずい。
特殊な空間内でもなければ、やはり戦闘速度は29倍速が限界なのだ。
それ以上出すと、仲間を衝撃波で殺しかねない。
「エルグランドだと被害が出ないんですか?」
出るが、市街地でもなければ誰も気にしない。
「なるほど……いや、凄まじ過ぎる……そして意味が分からない……」
「生身で超音速の時点で無茶苦茶ですが……原理解明出来たら私たちにもできないでしょうか」
晶とレイが慄いている。
カル=ロスは平然としている。知っていたのだろう。
エルグランドでは割とよくあることなのだが。
あなたくらいの速度に至っている者も、探せばいることはいる。
まぁ、レイが自分も速度を鍛えようとしているので。
いつかはレイたちもエルグランドの民みたいになるのかも。
頑張ってほしいものだ。
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