あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 レイとあなたの問答が終わって、言葉少なにお茶とお菓子をいただいた。

 あなたもラチの実入りのクッキーを提供した。

 この次元には存在しない実だからか好評だった。

 

「世界が広いとは知っていましたが、生身で光速の1パーセントにまで加速できる人間がいるとは思いもよりませんでした」

 

 しみじみとレイがそのようにこぼす。

 世界の広さとはとんでもないものだ。

 たった1つの惑星の上で活動しているあなたでもそう思う。

 

 そして、レイたち『グレイスメイデン』はたくさんの星を股にかけて活動している。

 以前にタイトがあちらこちらの星を渡り歩いていると言っていたので。

 そんな彼の知る世界は、それはもう広いことだろう。

 

「ええ。でも、ひとつの惑星の上でも広いものですよ。世の中には知らないことがたくさんあります。超広域を探査できるサイキックの私でもそう思います」

 

 晶は半径300キロを探査できると言っていたが。

 レイはどれくらいのことができるのだろう。

 

「半径1000キロくらいですかね」

 

 とんでもない広さである。

 そんな彼をして世界は広いという。

 世界はあなたを飽きさせることがないだろう。

 そんな理解をすると、恐ろしいやら悔しいやら。

 

 この世の中には可愛くてエッチな女の子がいっぱい居る。

 まったく、楽しみでたまらない。

 

「クライアント。一応、改めて言っておきますけど。ママは男ですからね」

 

 晶にそのように釘を刺され、あなたは頷く。

 なんとも確証の持てない様相をしているが。

 男ならあなたの食指からは外れるし。

 男と称してまでも避けようと言うなら尊重しよう。

 どちらであっても無理強いまではしないつもりだ。

 

「そもそも、ママと添い寝をしていいのはバブちゃんである私たちだけなのですが?」

 

 などと晶がキマった顔でそのように言う。

 あなたはなかなかキマってるねと無難に答えを返した。

 独特の風習がある共同体に無暗に突っ込むと危険だ。

 変に突っ込んだ疑問を呈して何か得るものがあるでもなし。

 

「代わりに、ミズキさんを派遣しますから。それで我慢してください」

 

 だれだ、ミズキさんって。

 

「うちの上司です」

 

 わかんない。ぜんぜんわかんないよ。

 それでわかるのは関係性だけだ。何者なのだ。

 

「大変好色な人で、いつも性欲の発散に悩んでる女性です。同性もイケるはずです」

 

「まぁ、ミズキさんは分類上ノンバイナリーなので同性と言えるかは微妙ですが」

 

 なんだ、ノンバイナリーって。

 

「自分の性別を男女どちらにも区分できない、したくないと考える人のことです。ミズキさんは自分を男性とも女性とも捉えていません」

 

 肉体の性別は女?

 

「はい」

 

 じゃあ問題ない。あなたは体が女ならそれでいい。

 ノンバイナリーだろうがなんだろうが。

 『グレイスメイデン』なる集団の女の子は皆食べちゃいたい。

 

「なかなか難しいことをおっしゃいますね……うちは性別の多様性がとても広いところなので」

 

 体が女ならそれでいいが難しいってどういうこと……。

 

「そうですね……『トラッパーズ』は個にして群である集団ですね」

 

 その表現にあなたは少し考えたが、しばしの後に頷いた。

 タイト1人から生み出された多数の人間たちは群だ。

 しかし、タイトから生み出され、タイトを祖としているならば、たしかに個である。

 

「私たちは、群にして個である集団、と言いましょうか。群にして群でもあるような気はしますが……」

 

 先ほど見せられた、あの異様な写真。

 あの件に関する話だろうか。陰鬱な話になりそうなのでパスしたい。

 あなたは話を逸らすべく、晶以外にも娘がいるなら紹介してよと切り出した。

 

「え? 突然ですね……いえ、娘を紹介して欲しいと言うならお安い御用ではありますが……」

 

「クライアント、クライアント。これ、そんなに重苦しい話とかではないので安心してください。うちで悩んでる人はまずいませんから」

 

「え? ああ、なるほど……たしかに、自分のレゾンデートルに悩む子は皆無ではないですが、穏当なものですしね」

 

「ですです。中二病の延長くらいなもんですよ。だからおおらかに構えて聞いてくださいな」

 

 そう言うことであれば……。

 あなたは渋々ながら頷いた。

 

「私たち『グレイスメイデン』は、かつて存在した2人の超絶のサイキックのクローンなのですよ」

 

 クローンと言うのはタイトたちから聞いた。

 タイトを含め、かつて存在したサイキックたちのクローンがたくさん作られたと。

 血の一滴から人間のコピーを創り出す技術。

 

 エルグランドの人体練成は肉体のパーツをたっぷり集める必要がある。

 それを思うと、血の一滴でコピーを作れるのはすさまじい技術だ。

 

「他のサイキックの方たちと同様に私たちのコピーはたくさん作られました。ですが、『グレイスメイデン』の祖となった人物……ミズキはあまり多数が作られませんでした。実験的に少数が作られる程度。ミズキと言うサイキックの利用価値は低いと見られたのです」

 

 先ほど2人のサイキックと言っていたように思うが。

 もう一方のほうはどうだったのだろうか?

 

「ミズキは2人いました。兄の方、鑑瑞樹。姉の方、鑑瑞希。この2人こそがミズキと言うサイキックです」

 

 同名の人間は珍しくないが……。

 家族間で同名をつけるのはどうなんだろう。

 と言うか、兄と姉って、どっちが上でどっちが下なのか。

 

「そのあたり、区別しなかったようですよ。完全に対等な存在だから、どちらも兄で姉としたそうで」

 

 なかなか独特の感性だ。

 そうなると名前はしばらくの後に改名でもしたのだろうか。

 

「2人のサイキックは大変にシンプルなもので、純粋な念動力。いわゆるサイコキノ。極めて高出力、極めて高精度、その特性があるだけのシンプルなサイキック……兵器類でも代替可能なサイキックと考えられました」

 

 たしかに、それであれば利用法に困ると言うのは分かる。

 人間と言う存在を利用と言うのに少し引っかかるものはあるが。

 能力を武器として考えると、それは納得のいく考え方だろう。

 

 仮にあなたがサイキックを身に着けられるとして。

 それが純粋な破壊をもたらす能力なら、あなたは積極的に習得しようとはしないだろう。

 得られる力を無視するほど怠惰でもないが、利用価値の低い力を鍛えるほどヒマでもなし。

 

 純粋な破壊にしか使えないのであれば、殴ったり魔法をパナしたりする方が速い。

 すでにそちらの方の練度はきわめて高いのだから。

 サイキックを用いてそれを成す意義が感じられない。

 クローンを作った者たちも、攻城兵器とか大砲で十分と考えたのだろう。

 

「ですが、さる違法クローンの一個体に、不可思議な現象が起きました」

 

 と言うと?

 

「サイコキノではなく、サイコメトリが発現したのです」

 

 晶やレイの持つサイキック能力だ。

 ミズキと言う人物は実はサイコメトリが使えたと言うだけでは。

 

「そうではありませんでした。後に誕生した、完璧な再現クローンたちがそんな特性があると知らなかったと証言していましたから」

 

 本人たちが言うならそうなのだろうか。

 虚偽の発言をしている可能性も否めないが……。

 まぁ、そのあたりはどうでもいいか。

 

「その違法クローンを研究し、種々様々なの実験の果てに見出された法則……ミズキのサイキックは、その発現形質に性染色体が密接に関係しているというもの」

 

 性染色体?

 

「性別を決定する要素です。XXなら女、XYなら男と。これを、XXYにしたり、XXXYにしたり、Xだけにしてみたり、XYYにしてみたり……そんな風にいじることで、サイキックが変わるのです」

 

 なるほど?

 性別が違うと能力が変わると。

 たしかにタイトたちもそんなこと言ってたような。

 

 タイトを性転換するとサイキックが変わる可能性がある。

 そうなると、タイト以外の『トラッパーズ』メンバーが消滅するおそれがあると。

 

「ええ、それと同じです。ですが、ミズキの遺伝子はその影響が極めて大きかった。XXYであればサイコメトリ、XYYであればパイロキネシスの発現率が極めて高くなる。つまり、狙ったサイキックを作れるのです」

 

 そうなると、量産されそうだ。

 

「されました」

 

 やっぱされたんだ……。

 

「そうして製造されて母数が大きくなるほどに、ある可能性が高まっていきます……そう、完璧な再現クローン誕生の可能性が」

 

 たしか、完璧なクローンが誕生すると。

 そのサイキック能力から自我を再構築できると聞いた。

 タイトはその特性のおかげで1000年前に蘇ったのだとか。

 

「ええ、よくご存知で。そうしてミズキは現世に蘇った……そして、ミズキは自分たちのクローンが大量生産されてる事実にマジギレしました」

 

 そりゃ怒るだろ。

 誰だって怒る。

 あなただって怒る。

 

「ミズキさんたちは自分たちのクローンの保護に乗り出しました……それこそが『グレイスメイデン』。私たちは、そうして保護されたクローンなのですよ」

 

 なるほど……なるほど……。

 いや、普通にこの事情メチャクチャ重くない?

 

「クライアントのお父上って女性ですよね」

 

 突然の晶の疑問にあなたは首を傾げる。

 たしかにその通りだが、それがどうしたのだろう?

 

「お父上が女性なんて、さぞかし複雑な事情がおありなのでしょうね……きっと、重く人に話せないような複雑な事情が……そうなのでしょう?」

 

 言われて、あなたはなるほどと頷いた。

 エルグランドでは父親が女性なんて普通のことだ。

 だが、別大陸ではそんなことはまずありえない。

 そうなると、なにか複雑な事情があると思う可能性はある。

 

 あなたにとっては当たり前のことでも。

 他の人間からすると重いのではと訝る。

 

 これはそう言う話だったのだ。

 晶やレイにしてみれば、当たり前すぎてなんとも思わない話。

 自分がクローンで、作られたものだとしても。

 周囲の人間がみんなそうだから疑問にも思わないと……。

 

 あなたは妙な偏見を持った自分を恥じた。

 そして、疑ってすまなかったと謝罪をした。

 

「いえ、理解されがたい事情なのは承知しているつもりです。お気になさらず」

 

 レイはそのように優しく微笑んで許してくれた。

 くっ、これで男とは……女だったらぜひとも甘えたかった。ままならないものだ。

 

「まぁ、そんな事情で、私たちはミズキと言う個から誕生した集団なのですよ」

 

 なるほど、そのあたりは理解したように思う。

 その上で言うが、性別の多様性が広いというのはいったい?

 

「ええ、先ほど言ったように、うちでは性染色体をいじられたクローンが多数いるのですが……どこからどこまでが女で、どこからどこまでが男なのか、それはもう自認に頼るしかない状況なのです」

 

 性染色体は性別を決定する要素だと先ほど聞いた。

 それをいじくりまわしているせいで、性別を断定できなくなっている?

 

「はい。既存の性別の定義に当てはめられない方もいますからね……性染色体異常は胎児期に致死となるものもありますが、無理やり生かして出生させることは可能ですから……」

 

 見た目で区分しちゃだめなのだろうか。

 

「できない人もいるのです」

 

 いるのか、そんなの。

 とんでもなく複雑な環境だ。

 考えただけで憂鬱になってくる。

 

「ですので、もう自認で好きにさせているんです。そう言うわけなので、女性全員をベッドに招くのは難しいと思います。まず女性の厳密な定義を作るところからでしょうか」

 

 なるほど、そう言う意味で。

 たしかにそりゃ難しいが。

 あくまで意気込みの話なので……。

 

「そうでしたか」

 

 いずれ遊びに行きたいものだ。

 その上でみんなと仲良くしたい。イイコトしたい。

 まずはそのミズキと言う人とイイコトしたい。

 性欲の発散に困るほどなら、ぜひ相手になってあげたい。

 

 あなたはそのように頷いたところで、先ほどから気になっていた疑問を提起することにした。

 

「なんでしょう?」

 

 先ほど言っていた、性染色体XXYなる性別。

 これは分類的に、男女どちらに区分けされる性別なのだろう?

 

「男性です。基本的に、Y染色体が含まれる限りは男性と考えて結構です」

 

 なるほど。そして、そのXXYはサイコメトリが発現しやすい。

 逆を言うと、サイコメトリストはXXYと言うことだろうか。

 

「そうですね。サイコメトリは非常に難易度の高い超能力なので、サイキック因子が原型に近くないと発現しないんです。XXYが原型性質なので」

 

 レイが頷いて、あなたは悲しい気持ちになった。

 サイコメトリストは染色体XXYを持っている。

 そして、染色体XXYは男性である。

 晶はサイコメトリストである。つまり……。

 

「いや、私はXXです! 純然たる女ですよ! あくまで傾向! 傾向ですから! XXYでサイコキノとかパイロキネシスもいますから! サイコメトリストが全員男ってわけではないです!」

 

 晶の迫真の否定にあなたはほっと一息。

 見た目が女性ならば気にはしないが。

 じつは男性だったことを見抜けなかったのは悲しいことだ。

 あなた自身悲しいし、晶にも悲しい負担を強いてしまっていたかもしれない。

 そうでなかったことを思うと安心できる。

 

「なんと言うか。本当に女性が好きなのですね」

 

 レイに困ったような顔をされた。

 

「ちょっと違いますね。うちのお母様、女しか好きじゃないので」

 

 どういう訂正だ。

 しかし、反論に使える言説はない。

 あなたはカル=ロスの評を甘んじて受け入れた……。

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