あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「こんな魔法を使うやつは狂人よ」

 

「これは……これはぁ、ちょっとぉ……私が使えたというのは凄いんですけど、こ、これは……!」

 

 今日もたっぷりと移動し、昨日と変わらず尻を回復させ。

 その後、夕食前にと言うことで、あなたは軽く魔法を教えていた。

 フィリアはどうせ使えないからと遠慮していたが、気持ちの問題だとか適当言って教えてみた。

 実際、使えているので気持ちの問題だったようだ。

 

 教えたのは基本中の基本たる『魔法の矢』である。

 教えて、構築し、使って見た2人はすさまじく渋い顔をしていた。

 

「いえ、たしかに凄いわ。威力を高め、追尾(ついび)性能を高め、効率を高める。本当に1つの魔法として完成されているわ」

 

「そうですね。そう言う面では本当に凄いんですけど……ここまで使う人間を軽視した魔法と言うのも凄いですね」

 

「私たちの使う『魔法の矢』と名前こそ同じだけど、威力は3倍か……4倍くらいあるわね。それでいて魔力消費は私たちの『魔法の矢』と同じ」

 

「でも、これ、迂闊に使うと暴走しますよね、間違いなく。その場合、私はともかくレインさんは……」

 

「そうね、たぶん死ぬわ」

 

 フィリアは肉体がレインよりも強靭で、魔力量も多い。

 そのため、『魔法の矢』1発くらいなら暴走しても問題ないだろう。

 と言うより、3発くらいなら暴走しても問題ないと思われる。

 ほとんど魔力は枯渇するだろうが、生命力に影響は出ない。

 が、レインは1発暴走しただけでアウトだと思われる。

 ギリギリ生き延びるかもしれないが、魔力が既にある程度減っていたら死ぬだろう。

 

「エルグランドの冒険者はよく死なないわね」

 

 普通に死ぬ。あなたもよく死んでいた。

 最初、父に魔法を教えられた時も死んだ。

 気持ちの問題だからとか雑に使用を強要された。

 そして死ぬまで魔法を使わされたのだ。

 魔法使いの家庭では子供に教えるためによくあることらしい。

 

「やっぱり死んでるのね……」

 

「あまりにも過酷過ぎる洗礼ですね……生き延びた人がお姉様級になると考えると納得も行きますけど」

 

 実際には無事に生き延びた人間は1人もいないだろう。

 誰もが1度や2度は爆散し、ほどほどに使うようになる。

 そして、何度爆散しても懲りずに使い続けた変態だけがあなた級になれる。

 

 あなたはこちらの常識に合わせ、死人が蘇ってくることは特に説明していない。

 まぁ、蘇生魔法くらいはこちらにもあるのだろうが、一般的ではないのだと思われる。

 少なくとも、エルグランドの他の大陸ではそうだった。

 

「そのレベルの魔法使いになれるとしても、この魔法を使い続けるのは御免よ」

 

「そうですね……」

 

 あなたもお勧めはしない。

 命の価値がきわめて軽いエルグランドならではの魔法文化だ。

 懲りないバカ連中でなければ、極めることはできないのである。

 1回死んだらそれで終わりのこの辺りとはワケが違う。

 だからこそ冒険者たちも程々の強さなのだろう。

 

 まぁ、そのあたりの条件は敵であるモンスターも同じだろう。

 だからこそ、エルグランドのような異常なモンスターがいない。

 

「ふぁ~……ふぁ~……ふぁ、ふぁぁ~……」

 

 レインらがそんな話をする一方で、サシャはふにゃふにゃしていた。

 約束通り『ポケット』の魔法を教え込もうとしたのだが。

 

 そもそも、サシャは魔法的な感覚自体を持っていない。

 これでは、魔法を教えようにも教えられない。

 そのため、まずは魔力に慣れ、魔法的な感覚を養っているところだ。

 魔力による独特の感覚に酔っているのである。

 

 真摯に魔法を探求するのならば邪道なやり方だが。

 実戦的なやり方としてはこれでも間違いではない。

 手っ取り早く覚えるならこっちの方が速い。

 

 魔力に慣れたらあなたがサシャを通して魔法を構築。

 必然、サシャを通して魔法が発動するので、感覚が掴める。

 だいたいのエルグランドの民は、そのように魔法を教わっている。

 

 理論や知識は後からでもいい。

 理論や知識を先につけてから教えた方が結果的にはよいのだが……。

 さすがに年単位の講義などやっていられない。

 いずれサシャが魔法剣士に転向する頃に教えても遅くはない。

 

「でも、エルグランドの魔法はなかなか刺激的ではあるわ。威力を追求する、と言う一点にかけては参考にすべき点が多々あるもの」

 

「それは言えてます。さすがにここまで極端(きょくたん)なのはアレですが、今までの魔法を改善するのに凄く参考になりそうです」

 

 それはあなたにも言えることだ。

 あなたはこちらの大陸の魔法を教えてもらっている。

 威力に見るべき点はないが、便利なものが多い。

 なにより、雑にやっても無事に発動する安定感が素晴らしい。

 

 特に、魔法で水を作ることができるようになったののは感涙ものだ。

 今まで持ち運んでいた安全な飲み水も必要なくなる。

 つまり、冒険のスタイルを改善できるようになってもいる。

 時間制限付きと言うのは惜しいが、飲む時だけ作ればいい、と考えれば便利は便利とも言える。

 

 生活のために使うような魔法なども面白い。

 木を変形させる魔法など、いったい何を考えて作ろうと思ったのだろうか?

 謎だが非常に面白いし、木工細工が手早く出来て便利でもある。

 水を氷にしたり、逆に氷を水にしたりなどの魔法も面白い。

 使い道は特に思いつかなかったが、面白い。

 

 やはり、冒険とはすばらしい。

 あなたはそのように頷いた。

 

「冒険って……ああ、そうね。別大陸から来たあなたには、王都に行くまでの道のりでも冒険なのね」

 

「そっか……私にとっては日常みたいなものですけど、お姉様には冒険だったんですね」

 

 そう言うことだ。

 仮にレインたちがエルグランドに訪れれば同じように思うだろう。

 あなたにとっては王都まで行くためのちょっとした日常が、レインたちには大冒険に映るに違いない。

 

「そうね、そうかも。別の国に行くだけでも、きっとそうなるんでしょうから。別大陸なんて行ったら何もかも違うんでしょうね」

 

「少なくとも、魔法に対する感覚は違いますね」

 

「ほんとね」

 

 なんて笑いあいながら、野営の時間は穏やかに過ぎていくのだった。

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