あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 フィリアがなんかややヤバ気なことを言い出した。

 あなたはフィリアを休ませた。

 

 そして、翌日。

 フィリアは朝から屋敷へとやって来た。

 あなたはフィリアを応接室へと迎え入れた。

 

「おはようございます、お姉様」

 

 おはよう。朝ごはん食べた?

 あなたはあいさつと同時にフィリアを気遣った。

 

 少なくとも、顔色は悪くないし。

 頬がこけてるとかもない。

 体調は良好そうではある。

 

「はい。きちんといただいて来ました」

 

 であればいいのだが。

 あなたは頷いて、調子はどう? と尋ねた。

 

「良好ですよ。そんなに体調が悪そうに見えますか?」

 

 などと笑うフィリアだが、心配してるのは体調と言うより頭とか精神だ。

 まぁ、とりあえず身体的な不調はなさそうなので。

 極限状況に置かれた故の幻覚を見ることはもうないだろう。

 あとは、昨日に見たという幻覚なんだか啓示なんだかわかりかねるものの検討だ。

 

 あなたはフィリアに、昨日得たという答えはいったいなんだったの? と尋ねた。

 秩序と善を体現することとかどうのこうのとか言っていたと思うが。

 正直、半分くらい聞き流したのであんまりよく覚えていない。

 

「えっと……はい……その、説明はいいんですが……」

 

 そう言いつつ、フィリアが周囲を見渡す。

 対面、真正面にはあなた。

 その左右に、レインとコリント。

 さらに左右にエルマとジル。

 出口側の壁にはレウナとセリアンが壁に背を預けて立っている。

 総勢7人でフィリアの話を聞く姿勢を取っていた。

 

「あの、私はなにか審問とかされるんでしょうか……」

 

 べつにそんなつもりはない。

 ただ、フィリアの話をちゃんと聞きたいだけだ。

 あなたはそのように答えた。

 

「はぁ……」

 

 フィリアは不安げにしているが、なにも不安がる必要はない。

 ただ、フィリアが受けたという崇高なる使命。

 それを聞き、見届けるもの、証人となる者はいくらいてもいい。

 

 究極的にはフィリアと神その2つの存在があればよいが。

 ザインと言う神は名誉の神である。

 聖戦成す者である信仰者の見届け人はいるべきだし。

 同時に、その名誉を知る者はいくらいてもよい。

 

「なるほど……なるほど? えーと……とりあえず、私が受けた神託を説明すればいいのでしょうか」

 

 あなたは頷く。

 神ザインより受けたという崇高なる使命。

 その概要を、話せる範囲で構わないので話して欲しい。

 

「はい、もちろん構いません。では、お話します」

 

 あなたは静かに拝聴する姿勢を取った。

 

「数日ほど前から、私はだれかの嘆く声を聴いたのです」

 

 レインがフィリアの言葉を書き取る。

 レインは全員の発言を書き取る書記役でもある。

 

「その嘆きの声は日に日に大きくなりました。それは勤めの最中にも、休息の最中にも聞こえ、私はその嘆きの主を探し求めました」

 

 ジルとエルマは複数の魔法を用いてフィリアの発言の真贋を判断。

 また同時にフィリアの精神状態を察知するための占術を使用する。

 たかが話を聞く程度で大袈裟な……と思うかもしれないが。

 あなたたちEBTGは、それくらいのことをしないといけない集団になっている。

 

 メンバー全員が超一流の領域に足を踏み入れているのだ。

 すでにこの大陸でも屈指、上から数えた方が速いほどの超人集団である。

 それが精神をおかしくして凶行に走ったらどれほどの惨事を招くか……。

 

「あちらこちらに足を運んでも嘆きの主は見つからず、やがて私は困り果てて神に祈りを捧げました。救いを求めるもの、その嘆きの主を、神託として授かろうと思ったのです」

 

「それはつまり、神聖魔法……失礼、信仰魔法としての『神託/オラクル』を用いたということでしょうか」

 

「はい。私は神への交信を試みました。力及ばずに救いを求める者を見逃したのであれば、父も同然の神に救いを求めるのは自然なことだと思います」

 

「なるほど、道理ですね」

 

 ジルの質問にレインが『神託』の魔法を使用、と筆記する。

 魔法の使用が明白であるならば、神託の信憑性はにわかに真実味を帯びる。

 なんか妙に迂遠で長ったらしい話も、ただの幻覚ではないと。

 

 まぁ、たしかにあれはちょっと変だった。

 あれがキャロだったら今日も平常運転だねとしか思わないが。

 フィリアがあんな迂遠で長ったらしく、衒学(げんがく)的とも小難しいとも言える物言いをしたら、突然どうしたと思うだろう。

 なんらかの神格の意図が含まれている発言ならば、納得ではある。

 あなたは頷いて、心配要らなかったかなと内心で思う。

 

「そして私は、我が神の嘆きを聞いたのです。嘆く声は、我が神の声だったのです」

 

 やや雲行きが怪しくなってきた。

 黙って聞いていたレインがピクリと眉根を上げ。

 レウナとセリアンが顔を見合わせてなんとも言えない顔をしている。

 

 我が神が嘆いていた。

 

 凶行を働いた狂信者が犯行理由に述べがちな理由のひとつだ。

 時として、驚くほどの凶行を働くのだから狂信者とは恐ろしい。

 

 しかし、悪神や邪神でもない限り、神が信徒に凶行を命ずることはまずない。

 それは他の神々への挑戦行為になりかねない危険な行いだからだ。

 善神、あるいは中立の神ならば、まずやらないことである……。

 

「ザイン様の嘆きは深く、私は神の大いなる悲しみの声を受け、その意図を推し量ろうとしました」

 

 フィリアの語る神の嘆きと言うものは。

 大抵の場合で幻覚、あるいは妄想である。

 神が思い悩んだり嘆くことは早々ないので、当たり前ではあるが。

 たまにあったりもするが、だからと言っていち信徒にこぼすことはまずない。

 

 そして、大抵の場合で真面目に取りざたされない。

 そんじょそこらの狂信者がやらかしたとしても。

 そんなに大規模な事件や事故を引き起こすことはできない。

 ひとりの人間にできることは限界があるからだ。

 

 仮に起きても、普通の兵士で対処できる。

 日常の中で起きる非日常、事故や事件だ。

 時として殺人事件にまで発展することもあるが。

 数百人規模での死人が出ることはまずない……。

 

「そして、私は知りました。我が神の嘆き、そのゆえを。ザイン様の敷く秩序、ザイン様の説かれる善を冒涜する、大いなる悪の存在を」

 

 しかし、フィリアがその凶行をやらかしたら?

 

 フィリアは最高位の信仰魔法を使いこなす凄腕の神官だ。

 そして、同時に重装戦士としても、超一流の戦士でもある。

 個人レベルでの総合的な戦闘力は、EBTGではあなたに次ぐだろう。

 

 やろうと思えば、王族の殺害を単身でもこなせる。

 なにも難しいことはない。真正面から乗り込んで殺しまくるだけ。

 立ちはだかるものすべてを殺して進んでいけば、やがて王に辿り着く。

 あとはブチ殺すだけ。これにて王権の冒涜完了である。

 

 フィリアのやらかす凶行は軽微な事故では済まない。

 国家を揺るがすほどの大惨事となるのだ。

 だからこそ真剣に対処しなくてはいけない。

 

「私は消えることのない希望の輝きとなるべく、神託を授けられました。ザイン様の敷く厳格なる法の道徳と規律を守る聖戦士の使命を受けたのです」

 

 これはいよいよヤバいぞ……あなたは震えて来た。

 聖戦士とか言い出しちゃうのは本気でヤバい。

 あなたはなんでこんなことになっちゃったんだと頭を抱えた。

 

「私の信仰の輝きが、人々を脅かす邪悪を打ち払うでしょう。私は救済すべき魂、悪意の手に絡め捕られた人々を知ったのです。私は彼らを救わなければいけません」

 

 フィリアはもうだめかもしれない。

 フィリアをどうにかしなくてはいけないのだろうか。

 どこか地下牢に幽閉するとか、闇に葬るとか。

 

 エルグランドでは好きなだけ宗教戦争をしておいでと送り出していいが。

 この大陸で野放しにしてしまったらまずいだろう。

 あなたにはフィリアのご主人様として、正しく対処する義務がある。

 

「お姉様。私の成す聖なる義務に、助力をいただけませんか。たとえひとりでも私は輝ける未来を求めて戦いますが、お姉様の助力があれば……」

 

 そこであなたにキラーパス。

 そんな、助力しろと言われても……。

 具体的に何をすればいいのか分からないし……。

 あなたは迷った末に、助力ってなにをすればいいの? と尋ねる。

 

「ザイン様は私にまず、力を蓄えよとおっしゃいました。いまは喪われたザイン様の神殿に、ザイン様のもっとも強力な武具が安置されています。それを手に入れたいのです」

 

 うん? また雲行きが怪しくなってきたな?

 と言うより、話の毛色がずいぶんと違って来た。

 あなたは想像していなかった展開に首を傾げる。

 

 異教徒を皆殺しにする戦いに参加して欲しいとか。

 ザイン様の信徒を強大な戦士にして欲しいとか。

 マフルージャ王国を倒して、聖ザイン神国の建国に助力して欲しいとか。

 まあ、なんかそう言う胡乱なことを言われるのかと。

 

「場所はここより東におよそ400キロほど……平原の奥にある密林、そこにあるのだそうです」

 

 位置も妙に具体的だ。

 ただの妄想の可能性も否めないが……。

 あなた以外の居並ぶ面々もなにかおかしいと首をひねっている。

 

「…………これは。なるほど……そう言うこと、だったのですか。まさか、こんなことがあるとは……」

 

 ジルがなにか納得したような顔をしている。

 あなたはどういうことか説明してくれと頼んだ。

 あなたの言葉にジルは頷くと、端的に答えた。

 

「フィリアさん。あなたは聖騎士(パラディン)の使命を受けたのですね」

 

「え? ……あ、はい。そう、なんですね。そうか、私は、パラディンになったんですね……」

 

 パラディン。神の使命を受け、神により叙任(じょにん)されてなる聖なる騎士。

 正義の心を持ち、弱き者の盾となる誉れ高き戦士。

 真に信仰篤き高徳の者。聖戦成す輝ける信仰の戦士。

 今の今まで、フィリアに自覚はさっぱりなかったようだが……。

 

「ちょっと前まで聖騎士のクラスなんて生えてなかったのに、今日見たら突然生えていますから……これは、神の召命を受けたと考える他にないかと思います」

 

 なるほど、なるほど。

 そう言うことであれば。

 

 フィリアが幻覚を見たとかではなく。

 そして、凶行を成すことを目的にしていないのならば。

 あなたも助力を惜しむ理由はない。

 フィリアがしたいと言うことをしよう。

 

 まぁ、ザイン神の神託を無視してもよくないし。

 人との約束は信頼を喪ってもいいならブッチしても構わないが。

 神との約束は契約の側面を持つので、ブッチしたらペナルティがある。

 どうしてもやむを得ない場合を除いて、可能な限り守るべきだ。

 

「今さらここにパラディン生やしてどうすんだ、扱いめんどくさくなるだけだろ、クソビルド乙とか言われそうですが、こういうこともあるのですね……パラディンに任命される前と後を見比べるのってはじめてです」

 

 ジルが珍しい事例を見たと頷いている。

 あなたも知人がパラディンに任命されるところを見るのははじめてだ。

 突如としてお堅い正義マン……フィリアだと正義ウーマンか。

 そう言う種類の人間になるとは思いもしなかった。

 

「それで、あの、お姉様。助力は……いただけるでしょうか?」

 

 フィリアの不安げな声に、あなたは破顔して頷く。

 もちろんだ。フィリアの成す聖戦にぜひ助力をさせてほしい。

 あなた自身はザイン神のことをべつに信仰してはいないが。

 この大陸において、多くの人々の信仰を受ける高位神格としては敬っているつもりだ。

 そのザイン神の成すことが悪行であるとは思わない。

 

 しかし、東に400キロとなると。

 なかなかの大冒険になりそうだ。

 近場まで転移魔法で行けはするだろうが。

 密林の中となると、なかなかの難業になりそうだ。

 しっかりとした準備を整えていかないと……。

 

「よかった……ありがとうございます、お姉様」

 

 しかし、あなたはいいのだが。

 EBTGの他のメンバーはどう言うだろう。

 そのあたりはちゃんと合意を取るべきだろう。

 

 普通の冒険なら財宝やらなんやらを得ることが目的なわけで。

 つまりは色んな意味で稼ぐことが主目的になっているわけだ。

 しかして、神の神託による武具の探索となると、報酬は微妙なところ。

 フィリア自身はきわめて強力な武具を得られるのだろうが……。

 他のメンバーに行き渡るものがあるかはわからない。

 

 なので、身重のイミテルはともかくとしても。

 他のメンバーにはフィリアから冒険に誘うように。

 その際にはもちろん、報酬が些少、あるいは皆無である可能性も伝えること。

 あなたはケジメとしてフィリアにそう命じた。

 

「はい、そうですね。可能であれば皆さんに手伝っていただけるといいのですが……」

 

 不安げながらも、その瞳に硬い意志を宿してフィリアが頷く。

 

 あなたは安心感からへたり込んで、椅子に背を預ける。

 フィリアの頭がおかしくなったわけじゃなくてよかった……本当によかった……。

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