あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 フィリアの正気を確認し、みんな安堵して解散となった。

 誰だって見知った顔の相手を地下牢にぶち込んだり、仕留めたりはしたくないものだ。

 

 そしていま、あなたはフィリアの仲間集めに同行していた。

 今まではあなたが主軸となって冒険をしていたが。

 今回のザイン神の使命に由来する冒険はフィリアが主軸。

 

 そのための仲間集めはフィリアの役目だ。

 あなたはその一番最初の仲間なわけで。

 仲間集めに同行するのは自然な話だ。

 

 まぁ、べつに口出しもしないし、手助けもしないが。

 あなたが本気で交渉しちゃうと、よほど嫌がってない限り頷かせてしまえるので。

 

「ザイン神の武具……! それって絶対にすごい神器ですよ! もしかして、ザイン神の異名の由来である砕けぬ盾とか……!」

 

 サシャは大変に乗り気。

 置いて行ったら怒られそうなくらいの勢いだ。

 

「私も当然行くわよ。少しでも懐の足しになるなら……!」

 

 レインは普通に生臭い理由で参加。

 収入が期待できる冒険ではないのだが……。

 しかし、家で研究しているよりはまだマシか。

 少なくとも稼げる可能性はあるのだから。

 

「ほう、神器、あるいは祭器探しか……同じく信仰に生きる者として、その助力は当然すべきだな。手伝わせてくれ」

 

 レウナも参加。迷宮以外なら付き合ってくれるとのことだったし。

 信仰者として分かりやすい理屈だったのも参加要因だったか。

 

「密林に所在するザイン神の喪われた神殿……そのような冒険は私にとって、最も得手とするものです。ぜひ参加させてください」

 

 クロモリも参加。言葉通り、野外探索は彼女にとって得手だ。

 元々、密林に分け入って収集物を得るなどを主たる収入源としていたという。

 そんな彼女にしてみれば、密林の探索などお手の物だろう。実に心強い援軍だ。

 

 そうして、イミテルを除いた6人が参加となる。

 あなた、サシャ、レイン、フィリア、レウナ、クロモリ。

 実力的には最も劣るクロモリですらも一流冒険者クラス。

 他の面子は全員が英雄級、神話級の英雄に匹敵する冒険者だ。

 

 そんなあなたたちを待ち受ける冒険は、いったいどんなものか。

 神の下す使命、それが容易いものであるわけがない。

 ザイン神の武具もそうだが、冒険そのものもなかなか楽しみだ。

 

 新しい迷宮を自分で探して冒険……と言うのは後回しになったが。

 まぁ、迷宮探索だけが冒険ではない。こういうのもアリだろう。

 この大陸の多くを占めると言う熱気林の探索も本格的にやって見たかったのだ。

 

 

 

 さて、冒険の出立に伴い、訓練は打ち切りとなる。

 その旨を講師役を務めてくれている面々たちに通達。

 そして、あなたは求められるがままに報酬を支払った。

 

「酸、電気、冷気、疫病なんかには別の方向で耐性を得ましたので。装備に火炎か、麻痺への耐性を追加していただけますか」

 

 ジルには以前にプレゼントした装備のさらなる強化。

 純粋魔法属性と音波属性への耐性に麻痺耐耐性と火炎耐性を追加してやった。

 2つの完全耐性の追加は大変な大盤振る舞いだが……ジルへの報酬はこれが最後になるだろう。

 今まで世話になった分を含めた感謝のしるしだ。

 

 EBTGのメンバーたちは相当強くなった。

 もう、ジルの手による教導はほとんど意味がないだろう。

 少なくとも、この大陸ではジルの手を借りる必要はなさそうだ。

 

「私も耐性の追加でいいかしら。音波耐性でよろしくお願いするわ」

 

 コリントにも同様に装備への耐性の追加だ。

 こちらにはコリントの依頼通り音波、そして火炎耐性も追加してやった。

 コリントはアンデッドなので麻痺や毒への耐性は無意味だろう。元から効かない。

 

「金! 金くれ! 金! この大陸で便利な魔法の装備をたくさん買い集めるから、金くれ! 金!」

 

 ハウロには多量の金貨。払い易くて楽でいい。

 この領地で散じてくれればあなたにとっても益になるし。

 まぁ、商業規模はそう大きくないので望み薄な願いか。

 

「儂は、うーむ……そうじゃのう……金も、武具も、薬も、特に、のう……?」

 

「あー、そうだねぇ……どうしようかねぇ……?」

 

 エルマとセリアンは悩みに悩んだ末に、保留になった。

 欲がないわけではないが、願ってまでとなると悩む程度には欲が薄く、力があり過ぎる。

 金も武具も薬も、やろうと思えば自分で用立ててしまえるので。

 

 まぁ、貸し借りの1つや2つがあっても悪いことはないだろう。

 いつか清算するし、いつかまた作るだろう。

 長命種との付き合いはそう言うのでいい。

 

「俺は若返りの薬で。たっぷり弾んでくれよな」

 

「うーん……じゃあ、私も若返りの薬で。でも、そろそろ必要なくなってきましたかね」

 

「そうかもな」

 

 モモロウとメアリには若返りの薬。

 若返りの薬なんていくらあってもいいと思うが。

 そろそろ必要なくなるというのはどういう理屈なのだろう?

 

「俺たちドラゴニュートの寿命はおおよそ500年と言われてる。人間の10倍ってこった。無論、バラつきはあるが……」

 

「1000年生きたドラゴニュートもいると言いますが、例外中の例外ですからね。100年生きた人間みたいなものです」

 

「1服で、2~3年若返るんだろ。俺たちはいままでに100服以上もあんたから報酬として受け取った」

 

 ああ、なるほど、そう言うことか。あなたは理解する。

 トモとモモの寿命の差を埋めるだけの分を稼ぎ終える頃だと。

 そう言うことであれば、たしかにもう必要ないのか。

 

「そう言うことだ。いろいろとありがとうよ」

 

「私たちの冒険も、そろそろ終わりなのかもしれませんね」

 

 冒険の終わり。

 その言葉はどこか感慨深い。

 

 あなたにも幾度となく冒険の終わりが訪れた。

 それはたとえば、エルグランドから旅立った時である。

 ボルボレスアスやアルトスレアをめざし、船に飛び乗った。

 それは新たな冒険の門出であり、今までの冒険の終わり。

 

 だが、メアリの言う冒険の終わりは、そうではなのかもしれない。

 彼女らの冒険の終わりは、冒険をやめると言う意味なのでは。

 もう、彼らは2度と冒険には旅立たないのではないだろうか。

 

 彼らは本来ボルボレスアスの狩人であり、飛竜を狩る戦士だ。

 別大陸に出向いて、あちらこちらを旅したのが例外なのだろう。

 

 それはなぜだか、どこか寂しい。

 あなたにはかつて、たくさんの同輩や友人たちがいた。

 だが、それらの多くは冒険者をやめ、あるいは(つい)棲家(すみか)に身を埋めた。

 それは決して、悲しいだけのことではなく、喜ばしいことでもある。

 けれど、そうだとしても、やはり、寂しい。

 

 モモロウやメアリも、そのようになる。

 いつかの日にやった馬鹿なこと、楽しいこと、笑い合ったこと。

 それはやがて思い出となり、記憶になり、おぼろな感情のしずくになる。

 それはとても寂しいことだ。喜ばしくても、寂しいのだ。

 そして胸が締め付けられるような悲しさがあなたの胸に宿る。

 

「そう悲しそうな顔するなよ。たしかに、人は永遠じゃない。みんな100年やそこらを生きれるかどうか。長命種の俺だって、永遠じゃない」

 

 モモロウが笑いながらあなたに諭すように言う。

 彼にこんなことを言われるのははじめてかもしれない。

 

「あんたも死ぬ。俺だって死ぬ。アトリも、メアリも、リンも、キヨも、そしてトモちんも、みんないつかは死ぬ。それが生命のさだめ。だが、今日じゃないだろ?」

 

 たしかにそうだ。

 今日じゃない。

 いつか来ることだけれど。

 でも、そうだとしても。

 いつか来るだろう別れを思うと、あなたは寂しくなる。

 

「いつかエルグランドにも遊びにいくさ。トモちんといっしょにな」

 

「私はエルグランドに移住しようかな~って……まぁ、馴染めるかは知らないですけど」

 

 そんな風に、モモとメアリはあなたを慰めた。

 

「エルグランドに移住したら、冒険者に転職ですかね。その時はいろいろ教えてくださいね?」

 

 未来の提案に、あなたは頷く。

 そんな他愛のない約束ですら心は救われる。

 またいつの日か、共にと。

 

 ……いつか、あなたも冒険をやめる日が来るのだろうか。

 それは少なくとも、今日ではないけれど。

 あなたがあなたであることをやめ。

 なんの苦しみも無い永遠の世界に。

 

 それを思うと、あなたはやはり寂しくなった。

 

 

 

 さて、講師役の面々に報酬は払い終えた。

 あとは冒険の準備なわけだが……。

 

「冒険の準備ねぇ……要る?」

 

「食料は……」

 

「私の『英雄たちの晩餐』と『飲食物の創造』で補えますね」

 

 信仰魔法にはそうした日用の糧を創造する魔法が存在する。

 『英雄たちの晩餐』は能力の強化や毒への耐性を与えてくれる効果まである。

 フィリアの魔法があれば、食料を準備する必要は存在しないわけだ。

 はぐれることとか、フィリアの魔力枯渇、死亡などを踏まえて皆無はまずいが。

 そうだとしても保存食を多少用意する程度で済む。

 

「現地への移動手段は……」

 

「私が『転移魔法陣』でまとめて転移させられるわよ」

 

 レインの魔法があれば、馬やら馬車はもはや必要ない。

 あなたの『引き上げ』の魔法と同様のことが、より安全かつ確実にできる。

 しかも、『引き上げ』と違って安定性が抜群なのだ。

 おかげで、転移先の詳細が分かっていれば、マーキングのない未見の場所にすら飛べる。

 

 仮に馬を使うことがあるとすれば。

 騎乗しての戦闘に使うことがあるくらいだろう。

 馬の体重までも乗せた突撃(チャージ)は強力だ。

 まぁ、EBTGにそれをする者はいないが……。

 

「武具は以前にボルボレスアスでドゥレムフィロアの素材で作ってもらった鎧がありますし」

 

「種々の道具類は、訓練期間中に余った魔力であれこれと用立てたし」

 

「現地での情報収集はどうしますか。密林の中の神殿を探すとなると相当な大仕事ですが」

 

「私が『伝承発掘』か『幻視』で探し当てればいいんじゃない? 現地の人たちから聞き取りした方が精度は高まるけれど」

 

「うーん……他になにかありますかね?」

 

 冒険中の移動手段……つまり飛行とか、壁抜けとか。

 そのあたりを増やせる手立ては欲しいと言えば欲しいが。

 やはり、そこらへんもレインの魔法で解決可能であるし。

 

「他にあるとしたら……ガイド役とか、手数を増やすための人足を雇うくらいかしらね」

 

「それは……現地ですべきことなので、こちらではできないですね」

 

「そうね。じゃあ、ここでする準備って、ないんじゃないかしら」

 

 たぶん無いと思う。あなたも頷く。

 超英雄級冒険者の支度と言うのはこういうものだ。

 エルグランドでもこんな感じではあった。

 

 かつては1つの迷宮探索を終えたら家に帰ってゆっくり休んだ。

 そうしなければいけないほどの消耗を強いられたし。

 消費した道具類の補充や、手に入れた物の始末が必要だった。

 

 だが、強くなったらそうはならなくなった。

 ポーションやらスクロールやらを使うことはなくなり。

 膨大過ぎる魔力が枯渇することはなくなった。

 仮に減っても、探索中に勝手に自然回復する。

 

 手に入れた道具類を『ポケット』に突っ込みっぱなしでも平気なほど膂力が上がり。

 そうでなくても『四次元ポケット』を気軽に開けたり閉めたりできるようになった。

 迷宮を2つ3つとはしごすることもできるようになったのだ。

 

「……なんだか四苦八苦してソーラスまで行った日が懐かしいわね」

 

「冒険者学園の卒業試験を思い出しますね。何日も歩いて現地まで向かったなぁ……」

 

「卒業試験ですか……今ならドラゴンも巨人も私1人で薙ぎ倒せちゃうんでしょうね……」

 

 楽にはなったのだが、どこか物足りないような気もする。

 必要な道具類を用意し、しっかりと纏めるのは実は楽しいのだ。

 旅行は準備の方が本番と言うものもいるが、そう言うやつだ。

 

 あなたがサシャたちの訓練のためと言いつつ、面倒な準備をしたのは。

 そう言う懐かしい準備を楽しみたかったところがないと言えば嘘になる。

 

 サシャたちもそんな気持ちをいつか抱くことだろう。

 いまはただ懐かしがったり、強くなったと得意げに思うだろうが。

 いつかはめんどくさくて何が楽しいのか分からんことをしたくなるものだ。

 あなたは腕組みをし、ニンマリと笑ってみんなの話し合いを眺めていた……。

 

 

 

 さて、あなたたちは冒険に旅立つ。

 強壮なる神が在りし日に使っていた武具の探索。

 いったいどんな強敵が待ち受け、どんな財宝があるのだろう。

 

 熱気林の中に、未知が眠っていることも知れた。

 いまはフィリアに下された神託でそれを知ったが。

 やがては身ひとつで熱気林を探索して、かつての遺跡を発掘してみたいものだ。

 

 もともと、エルグランドの冒険者はそう言うのが本業。

 この冒険が終わったら、あるいは、『アルメガ』との戦いが終わったら。

 そんな冒険をする日々を送ってもいい。

 あなたはそんな思いを胸に冒険へと旅立つ。

 

 冒険の始まりだ。

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