15-001
あなたたちはフィリアの示す先、およそ東に400キロほどと言う熱気林へと向かう。
まぁ、それを実現するために、まずはレインの探査からはじまるわけだが。
占術魔法を用いての現地調査。
ざっくりと東に400キロほどの地点を探査。
その上で転移魔法を用いて転移する。
あなたたちはほんの数分で遥か遠方、熱気林へとやって来た。
つい昨月、『トラッパーズ』と共に迷宮探索……迷宮そのものを探すほうの探索だ。
それをこなしていた時期に慣れ親しんだ、濃い緑の香りがする森だ。
「あっさりと遥か遠方まで来ちゃいましたね……いきなりトイネから熱気林に来ると、湿度がすごい……」
「たしかにね……気温はそう変わらないけど、汗が出て来るわ」
サシャの言う通り、あんまり心地よいとは言えない環境だ。
まぁ、冒険をする中ではこれくらいはよくあることだ。
しばらくすれば慣れるので、元気よく行こうではないか。
「はい。頑張りましょう!」
「じゃ、行くわよ。すぐ北の方に村落があるわ。そこでまずは情報収集ね」
レインの占術で調べた先は、現地の村落の近辺だ。
『伝承発掘』と言った魔法は、事前に持っている知識によって結果が変わる。
術者の知識をより補強するような形で情報を得られるのだが。
事前に知識を多く持っていたり、探り当てたい場所や物の近辺にいるほど、すばやく呪文が発動できるのだとか。
具体的にどれくらいかかるのかは知らないが。
「詳しい情報を持ちつつ、現地にいるなら数十分でいけるけど。何も知らない遠方だと、最悪数カ月かかるわね」
そんなに。
発動に必要な時間が違い過ぎて驚く。
たしかにそれは情報収集も必要か。
さすがに数カ月も待っていられない。
あなたたちはレインが占術で探り当てた村落へと向かうことにした。
少し歩くと、レインが見つけたという村落はすぐ近くにあった。
あなたたちはその村落に足を踏み入れる。
「あれ、忘れ物? にしちゃずいぶんと遅かったね」
そして、あなたはすぐに出会った人物に思わず崩れ落ちそうになった。
あなたにそんな気楽な声をかけて来たのは、アクア・コンデンス。
かつてあなたが迷宮探索の教えを受けた『トラッパーズ』のメンバーである。
つまり、ここはあなたがかつて探索した熱気林だった。
「どしたの?」
アクアが首を傾げるが、あなたはなんでもないと首を振った。
思えば、ここがよく見知った熱気林だろうが関係ないではないか。
たしかに、転移前にレインの探知は必要なかったわけだが……。
現地に移動してのザイン神の神殿の探索はどうせ必要だったのだ。
レインの魔力を少し消耗し、数分ほどの時間を浪費しただけ。手痛いダメージではない。
「知り合い?」
レインに尋ねられ、あなたは頷く。
どうやらここらは以前あなたが探索した場所であり。
彼女はその教えを授けてくれた『トラッパーズ』のメンバーである。
「へぇ、迷宮探しのチームなのね。当たれば大きい、一獲千金の冒険とは言うけれど……どうなの?」
「そこの激エロちゃんといっしょに探索した迷宮のことを言うなら、賢者の石が20個出て来たよ」
「にじゅっ……! す、すごいわね……ええ、すごいわ……」
あなたにはべつに嬉しくもない報酬だったが。
一般的には莫大な報酬と言える。
レインが涎を垂らしそうになるくらいには。
下級貴族の生涯年収くらいに相当するだろうか。
「いずれは私たちも、そんな探索をするのね……夢が広がるわ」
魔法の深淵を追い求めるには、金などいくらあってもいい。
レインの本質は魔導の探究者。酒飲みのクズはあくまで一側面に過ぎない。
そんな彼女にしてみれば、一獲千金の迷宮探索は夢だろう。
まぁ、今回の冒険はそんな一攫千金とは程遠いわけだが。
「もしかして、お仲間さんたち連れて、迷宮探しに来たの?」
アクアに問われ、あなたは首を振る。
今回はザイン神の神殿を探している。
もしも知っているのであれば、情報の提供を願えないだろうか。
「う~ん……? ザイン神と言うのは、この大陸で信仰されてる神さまのことかな? なにかこう、分かりやすいシンボルとかあったりする?」
まずそこからか。あなたは思わずめまいを感じた。
あまりにもこの大陸の常識に疎い。そんなところから説明するのか。
恐る恐るフィリアを見ると、なんとも言い難い顔をしていた。
べつにザイン神を嘲っていたりするわけではないけれど。
名高い高位神格であり、自らの信奉する神を知らないとは……。
フィリアの心境としてはそんなところだろうか?
フィリアが信心深い一般人だったらケンカになってたのではなかろうか。
まぁ、フィリアが一般人だったらアクアが圧勝して終わりだろうが……。
「えっ、と……そ、そうですね……ザイン様のシンボルは、こちらの傷付いた盾なのですが……」
言って、フィリアが胸元から引き出したのは傷のついた盾のシンボル。
フィリアがいつ何時も首から下げている銀製の聖印だ。
魔法を用いる際の精神集中、その焦点にも使われている。
長い年月を共にしたゆえのいぶし銀が実に渋い色合いをしている。
「傷付いた盾か……ごめんね、私はちょっと見た覚えがないなぁ」
「そうでしたか……」
「でも、可能性としては近辺にその神殿があるんだよね。推定でもいいけど、半径何キロ以内とか分かるかな?」
「えっと……うーん……おそらくですが、半径50キロ圏内くらいには、ある……のかなぁ、と。少しお待ちください。あらためて確認します」
「確認?」
フィリアが『四次元ポケット』を開く。
そして、取り出して行くのは祭壇である。
野外での儀式用のものなのでそれなりに簡易化されてはいるが。
少なくとも一個人が持ち歩くような類のものではない。
『四次元ポケット』が使える人間ならではの無茶だ。
ザイン神のシンボルが飾られた祭壇に、フィリアが香炉を捧げる。
香炉にはよく焼けた炭が放り込まれ、続いて高純度に精製された乳香が投じられる。
白煙と共に、乳香の香りが立ち込めていく。
「ザイン様、ザイン様……どうか、私の問いにお答えくださいませ……私はあなた様の嘆きに応じ、この熱気林の地にまいりました。この選択、この旅路に過ちがないかを……」
この大陸の神託ってこんな感じの儀式するんだ。
あなたは異文化における祭事を目の当たりにして感心する。
神託にもいろいろとあるが、これは個人の対話に近い形式のものだ。
普通は人前で大っぴらにやるものではないので実は初見なのだ。
フィリアが熱心に祈りつつ、香炉に乳香を次々と追加していく。
すると、香炉からとくとくと濃ゆい白煙が溢れ出していく。
それはまるで粘度を持った水のようですらあり、濃いミルク色の煙が立ち上ってゆく。
これは尋常の事態ではないぞとあなたはその光景に目を凝らす。
「ザイン様……どうかお答えください……」
そして、フィリアが最後に硬く焼き締められたパンを祭壇へと捧げた。
普通、神に捧げるようなものではない食べ物だが。
時として神は人には理解しがたいようなものを好んだりする。
たぶんザイン神には相応しい捧げものなのだろう。
そして、フィリアの捧げものに応えるかのように。
煙は次第に人の顔の形をとっていくではないか!
『その旅路に過ちはない……』
その顔は簡潔なフレーズをひとつ囁く。
フィリアがより一層深く祈りを捧げる姿勢を取り、煙は霧散していった。
「……ありがとうございます、ザイン様」
立ち上がり、フィリアが『四次元ポケット』に祭壇を纏めてぶち込む。
なかなかエルグランドの冒険者っぽいことをするようになった。
あなたもウカノの祭壇を常時持ち歩いているのでやってることは同じだ。
まぁ、ザイン神のものと違い、ウカノの祭壇は小規模なので規模感は随分と違うが。
「とのことですので、どうやら近くにあることは間違いないようです……あの、どうされましたか?」
「あ、ああ、うん、いや……か、神様って本当にいるんだなって……いや、いることは、分かってたんだけど……いやぁ、本当にいるんだな……」
アクアが感慨深げにそんなことを呟いて頷く。
この手の祭事を見るのは初めてだったらしい。
「そうです。神は本当にいらっしゃいます。決してまやかしなどではありません。いかがですか、ザイン様の教義にご興味はありませんか?」
「え……い、いや、私はそう言うのはちょっと……」
「そうですか……ですが、ザイン様のシンボルや御力について話すことはお許しいただけませんか? 近辺に神殿が存在することをご存知の方がいらっしゃるかもしれませんので、その人に届けばと思いまして……」
「ああ、うん、そうだね……たしかに、そうしないとダメか……わかった。そう言う事情ならタイトも許可はくれると思う。おいでよ」
とのことで、あなたは再度『トラッパーズ』の前哨基地に迎え入れられた。
奥へと分け入り、タイトのいる宿舎へと出向く。
そして、そこでアクアを交えてフィリアが交渉に臨む。
あなたはただ後ろで見ているだけで、余計な口出しはしない。
「なるほど。ザイン神なる神格の神殿が近辺に存在している可能性があると……道路公団とかの回し者ではないんだな?」
「ど、ドーロコーダン?」
「つまり、この
「決してそのようなことはありません。ザイン様の教義を商売に利用するなど……武具の販売にあたってザイン様のシンボルを刻印するなどならともかく、ザイン様の威光を用いて人を退けるなど許されません」
「そ、そうか。では、信者を獲得するために説法をしたいとか、お布施を集めたいとか、そう言うことでもないんだな?」
「はい。ザイン様の教えに帰依する方が現れれば嬉しく思いますが、間違っても勧誘などいたしません。教えとは導くものであり、迎え入れるもの。決して誘い込むものではありません」
「そうか。では、本当に神殿を探していて、その神殿の手がかりとして説明が必要であり、その説明がザイン神の力やシンボル……なのだな?」
「はい。それ以外はしないことを誓います」
「了解した。では、広場で説明をすることを許可する。ただ、今日明日と2日間のみだ。別段、留守にしている奴がいるでもなし、構うまい」
「はい! ありがとうございます! では、さっそく!」
「待て」
「はい?」
「生憎、今はまだ昼間だ。多くの人間は出払っている。あまり説明しても意味はないぞ。日没を待て」
「あ、なるほど……」
と、そのような形で交渉は終わった。
いや、交渉ですらないか。
フィリアがお願いし、タイトが受け入れた。
ただそれだけのシンプルな話だ。
『トラッパーズ』が律義な集団なのに助けられた形だった。
あなたたちはタイトの宿舎を辞し、広場の方へと向かった。
「それなりの広さはありますね。ですが、たしかにタイトさん……でしたか? 彼の仰っていた通り、人通りはまばらですね」
商売をやっている連中が店の支度をしていたり。
あるいは夜の営業に向けて仕入れ、仕込みをしていたり。
まぁ、そんな具合で忙しくはあれど、穏やかな雰囲気が流れている。
夜になれば賑やかで活気に満ちた空間になるのだが。
「夜を待って、皆さんに説明させていただきましょうか」
できれば今日中に再度出発できればよかったのだが……。
さすがに情報収集無しで四方八方に散らばって神殿を探すのは無謀だ。
これはやむを得ない足止めだろう。まぁ、期限のある依頼でもないので、あまり気負わずに。
「『経路探知』で探れれば一番よかったんですが……ザイン様の神殿は、戦略拠点として構築されている場合が多いので……」
占術防御がされていて、探知できないと。
まぁ、なんとなく理解できる理屈ではある。
そうでなくとも、祭事や秘事を秘するために防御くらいしてそうだし。
『経路探知』で探れないのもやむなしだろう。
「ともあれ、説明の準備をしておきましょう。聖印を皆さんに分かりやすくお見せできるように……ああ、夜になるので照明の準備も……」
「まぁ、『持続光』でもかけてあげるわよ。ランタンもみんなの持ってるやつを借りればいいわ」
「なにか台になるものがあった方が説明はしやすいですよね……どこかで箱を借りれないか聞いてきます」
「私は『トラッパーズ』に見知ったやつがいる。そいつらに頼んで、可能な限り話を聞きに来るよう言おう」
「それでは、私は先日こちらにお邪魔した際に薬師として働きましたので、そちらの伝手で働きかけましょう」
各々が各々のやり方で情報収集を手伝ってくれるようだ。
では、あなたもあなたらしいやり方で情報収集を手伝おうではないか。
「女をコマすのはいいけど、ワンナイトで済ませなさいよ?」
レインにそんな注意をされた。
違う、そうじゃない。そんなつもりはなかった。
あなたは大人数用の巨大な寸胴鍋を取り出す。
中身は空だ。今までの冒険で中身を食べ尽くし、洗って仕舞っていた寸胴である。
あなたはこの寸胴鍋一杯にカレーを作る予定だ。
そして同時に、あなたの在庫の酒を放出して振る舞う。
タダ飯とタダ酒。これがあれば多くの人が足を止める。
話を聞いてもらうには最強の手立てと言えるだろう。
「なるほどね。じゃあ、がんばってちょうだい」
あなたは頷いた。
まずはかまどの支度から始めるとしよう。
文字数はどの程度が好ましいですか?
-
2000文字前後
-
3000文字前後
-
4000文字前後
-
5000文字前後
-
6000文字前後
-
7000文字前後
-
8000文字前後
-
9000文字前後
-
1万字前後