あなたはたっぷりのカレーと、たっぷりの酒を用意した。
ゆっくりと話を聞いてもらうための工夫もした。
カレーは少量の提供とするも、おかわり可。
提供する酒はすべてストレートのキツい蒸留酒だ。
カレーは少量なのですぐ食べられるわけだが。
おかわりをするには、当然ながら再度提供してもらう必要がある。
そして、多人数になればなるほどに提供までは時間がかかる。
そして、蒸留酒を一気に飲むのは阿呆のやることだ。
常識的に考えれば、ちびちびと舐めるように飲む。
1杯の酒で10分も20分も粘らせることが可能になる。
個々人が割り材を持ってくる可能性までは否定できないが……。
まぁ、水筒を没収するわけにもいかないので、しょうがないだろう。
これらを提供して足止めをし、フィリアの話を聞いてもらう。
誰か1人からでも有益な情報が得られれば、それで十分。
それを元にレインの『伝承発掘』を短時間で起動できる。
そうした繰り返しで情報を集めれば、いずれは神殿に辿り着ける。
いざとなったら『幻視』も使うらしいので、そうかからずいけるだろう。
『幻視』は効能そのものは『伝承発掘』とほぼ同様なのだが。
数カ月や数十分とかかることなく、即座に起動できるらしい。
ただ、術者の体力を大幅に奪ってしまうので連発できないのだそうな。
『幻視』はどうしても時間がない時の切り札と言うことだ。
さて、そろそろ日没だ。
『トラッパーズ』の探索班が帰ってくる。
ここらの商業エリアがにぎわう時間だ。
もう少し人数がいれば、以前あなたたちが間借りしていた宿舎。
つまりは、『アルバトロス』チームが運営していた浴場でも同じことをしたのだが。
今回は『アルバトロス』チームがいないのだから、しょうがないだろう。
「えっ! 今日はタダでカレーライス食っていいのか!」
「ダメだ。おまえはガス室行きだ」
「カレーライスと聞いちゃ黙ってられないわ!」
「どうせ1杯目が小さじ1杯で、お代わり有料なんだろぉぉぉ!? って、思うじゃーん!?」
「おかわりも無料なんですよこれが! しかもべつに超少ないってほどでもない!」
「普通に少ないくらいの量だから、むしろ量の調節が効いてありがたいわ!」
「素敵! 抱いて! いや、抱く!」
「カレー! カレーだ! うおおおお! カレー! カレーうますぎる!」
「むほほほほ! ビーフカレーだ! ビーフだ! えっちですねぇ~!」
あなたは『トラッパーズ』の狂気を見た。
カレーライスごときで大騒ぎし過ぎだろ……。
「……この人たちは、普段よほどいいものを食べていなかったんですか?」
サシャは『トラッパーズ』の面々を憐れんでいる。
べつにそんなにひどい食生活ではなかったと思うが。
なんか、彼女らにしてみるとカレーライスは特別らしい。
カレーじゃなくてカレーライスこそが特別なんだとか。
「はぁ……? べつにパンで食べてもカレーはおいしいと思いますけどね……?」
あなたもそう思う。
なんでここまでカレーライスに狂乱するのかは謎だ。
そう思いつつも、あなたはカレーを提供する手を緩めない。
この狂乱振りの中で信じられないことに。
『トラッパーズ』の統制はしっかりと効いていた。
全員が整然と大人しく並び、割り込んだり、順番を抜かそうとしない。
なんであんなに狂乱してるのに行動は秩序だっているのか。
もしや、あの狂乱振りでいつつも内心はちゃんと正気なのか……。
あなたは『トラッパーズ』の底知れない精神性に恐怖すら感じた。
「お姉さんのカレー、また食べれるとは思わなかったのです」
「じゃじゃーん! 福神漬けを持って来たわ!」
「お久しぶりね、お姉さん。カレーの無料提供なんて、すごいことしてるわね」
「お酒はおかわりなしなんだね……」
先だっての冒険では共に挑んだカーマイン姉妹もやって来た。
酒飲みのドロレスは蒸留酒のおかわりなしにしょんぼりしている。
実のところ、酒もおかわり可でもよかったのだが……べろべろに酔われると困るので……。
「ふうん? その口ぶりだと、何か目的があってやってるのね」
フィリアの話している神殿を探しているのだ。
そのための人寄せにタダ飯タダ酒を配っている。
そのように答えつつ、あなたはカーマイン姉妹にカレーを渡す。
手のひらサイズの皿に盛ったライスとカレーだ。
「なるほど。じゃあ、食べたらお風呂の方に聞き込みに行ってあげるわ。傷付いた盾? のシンボルがある神殿の情報を集めればいいのね?」
なんと、クラリッサがそんな提案をして来た。
あなたはそんな協力をしてもらってもいいのかと驚く。
「ええ、お姉さんにはすっごくお世話になったもの。ただ、おかわりできないからカレーの取り置きが欲しいかしら」
なんてこっそりと語り掛けて来るクラリッサ。
あなたはそんなクラリッサの耳元に口を寄せて、特盛りで取っておくよ、と答えた。
たかがその程度の報酬で聞き込みをしてくれるならありがたい限りだ。
「ありがとう、言ってみるものね。10人前のレディーとしてちゃんと聞き込みはして来てあげるわ」
では、頼んだ。あなたは感謝の意と共に依頼をした。
クラリッサは頷くと、艶やかな黒髪を翻して歩き去っていった。
「そう言えば、今日はセーラー服のお姉さんたちはいないのね?」
アンジェリカの疑問にあなたは頷く。
『アルバトロス』チームはあくまで身辺警護のためにいる。
そのため、純然たる冒険にはさすがにノータッチらしい。
「へぇ。前は一緒に来てたのにね」
あの時は拠点に滞在するのが明白だったから、らしい。
今回は密林の中をさまよい歩くことは確実なので。
町中、あるいはなんらかの共同体内部での活動ではない。
なのでもはや警護とは言えなくなるから……とのこと。
実際のところ、なにかやりたいことがあるとか。
そのあたりの理由があって残ったようには思うが。
まぁ、『アルバトロス』チームが野戦を得意としていないのもあるか。
彼女たちは基本的に屋内での対人戦を得意とする集団だ。
野外で人間以外と戦うのは専門外なのだろう、たぶん。
「まぁ、がんばってね。私も応援してるよ」
「何か手伝えることがあったら言ってちょうだいね! 私でよければ力になるわ!」
「私も、できれば力になりたいのです」
との温かな申し出にあなたは礼を言う。
力が必要な時は遠慮なく頼らせてもらおう。
アンジェリカたちは頷くと、カレーライスを手に去っていった。
次なる無料のカレーライスを求めて来た客をサシャと共に捌いていく。
人が途切れる気配はさっぱりない。そうなるようにしたのだが。
何度か見た覚えのある顔もあるので、既に複数回目のおかわりをしている者も出始めたようだ。
まだまだかかりそうだ……。
それから、およそ2時間ほど。
『トラッパーズ』は100人超、200人未満の集団だ。
余裕を持って500人前ほど仕込んだのだが。
綺麗さっぱりなくなってしまうほどの大盛況だった。
やむなく自分たち用に作っていたカレーも放出したほどだ。
「それなりに有益な情報は得られたわね」
「はい。幾人かの方が、熱気林の中で古い石造建築物を見かけているとのことでした。聞き取った構造も神殿らしいものです」
「シンボルについての話は聞けませんでしたが、拾得したという記念品の中にアミュレットがありました。こちらがスケッチです」
「スケッチからすると、ザイン様のシンボルではありませんが、ザイン様の信徒の方が好んで用いるトンボをモチーフにしたアミュレットです。可能性は高いですね」
EBTGメンバーからの報告を聞き、どうやら間違いなさそうだとあなたは頷く。
そして、ちょっと前に戻って来てカレーを勢いよくかっ込んでいるクラリッサ。
「もぐむぐ……うおォン、私はまるで人間火力発電所よ」
なんかよくわからないことを言っているが、あなたは食事中に失礼と声をかける。
浴場施設の方での聞き込みの調子はどうだったろうか?
「……ごくん。お風呂で聞き込みをしてみたんだけど……うちの多くがサイキックであることは覚えてるわね?」
あなたは頷く。
そもそもからして、彼女らの祖となるタイトがサイキックである。
そこから派生して誕生した彼女たちがサイキックなのは自然だろう。
「タイトが非一般形サイキックだから、一般形サイキックはほとんどいないんだけど……パッシブ限定だけど、カリーナはかなり繊細なサイコメトリが使えるの」
サイキックに一般とか非一般とかあるのか。
サイキックそのものが非一般的な存在だと思うが……。
まぁ、それはともかく、カリーナはそう言えばなんかその手のサイキックがあると言っていたか。
「そのカリーナが、神殿の方から嫌なものを感じるって言ってたわ」
嫌なもの?
「カリーナって言語化が苦手な子だから……プレッシャーが壁になってるとか、げっそりするような感覚とか……でも、うーん、嫌なものではあるけど、悪いものではないと思うわ」
そのあたりのニュアンスの差がよくわからない。
カリーナとはいろいろと仲良くしたが、その人となりを知るほどではない。
この『トラッパーズ』前哨基地の滞在期間はそれほど長期ではないのだ。
「嫌なものを感じるとか、気分的に萎えるみたいな表現をするあたり、個人の感情に由来する類のものだと思う。悪意とか敵意があるんじゃなくて、カリーナ的に嫌いなものと言うだけだと思うわ」
なるほど? まぁ、なんとなくわかった。
べつに相手に敵意があるわけじゃないけど、ゴキブリが苦手とかそう言うことだろう。
「あー、そんな感じであってるわ。たしかにそう言う感じ。でも、あの子がキャッチできるようなプレッシャーがあるってことは、相当強い何かがいるはず。あなたたちの探してるものの手がかりとしては、少しは使えるかしら?」
悪くない手掛かりと言えるだろう。
探しているものそのものが発しているのか。
宝物の守護者なんて定番の存在がいるとして、それが発しているのか……。
そのあたりは分かりかねるが、なにか重大な存在が眠っているのは確かだ。
それを思えば、この情報は間違いなく有益な情報のひとつである。
あなたはクラリッサに礼を述べ、カレーにトンカツを乗せてやろうかと提案した。
「すてき! 抱いて!」
今夜、お邪魔するよ。
あなたはそう言ってウインクした。
「もおおお! どうして私はこう馬鹿なのよ! 前もコレ言って初体験しちゃったのに! 私って進歩なさ過ぎない!?」
クラリッサは机にガンガンと頭をぶつけていた。
今回もつい勢いで言っただけだったらしいが。
まぁ、言質を取ったのは間違いないので、遠慮なくやらせてもらう。
「……言っちゃった以上はしかたないわ! 堪能する! トンカツちょうだい!」
すぐに気を取り直し、クラリッサがカレーにカツを乗せろと要求して来た。
あなたは快く頷いて、チーズも乗せる? と尋ねた。
「私は心臓発作を恐れないわ。山盛りかけてちょうだい!」
そう言うわけで、クラリッサの欲望がたっぷりとカレーに振りかけられた。
それからクラリッサは腹がはち切れるまで食べまくった。
さて、有益な情報は集まったが。
あなたたちは明日も一応は情報収集をする予定だ。
情報なんていくら集めても損はないからだ。
あと、この熱気林の環境に慣れるためもある。
トイネの乾燥気候から、この高温多湿気候は些か堪える。
いきなり激しく冒険をするより、この環境に体を慣らしたい。
あなたは正直気候にはそう堪えていないのだが。
仲間たちに回復したと言いつつも、じつはまだ完調ではないので、体を慣らしたい。
回復度合い的に5割以上は回復したが、全快には程遠い。
万全ではないなら準備を入念にして悪いことはないだろう。
そして、そのためには英気を養う必要がある。
クラリッサと言う可愛い女の子から英気を……!
あなたはクラリッサの宿舎に訪れ、いまこれから逢瀬に臨もうとしていた。
そんなあなたに、やや怯えているクラリッサ。
「あ、あの、なんだか目線が怖いわ。どうしたの?」
あなたは仲間たちとイイコトできてないからだと答えた。
サシャもレインもフィリアもクロモリも食べてしまいたい。
だが、この次元出身の女を抱いてはいけないと言われている。
レウナはこの次元の出身だが。
死後の存在なので問題ない。
だが、レウナ1人を連日抱いたらどうなることやら。
レウナとそれ以外の間に断裂が走るだろう。
だから今まで我慢していた。
だが、クラリッサなら問題ない!
経験が少ないのであまり激しいことはできないが。
なに、問題ない。たっぷりと可愛がってあげよう。
「あ、あのぉ……パスってできる……? その、もうちょっと落ち着いてからとか……」
むり。がまんできない。しぬ。
「お、おお、落ち着いて……あの、あのね、私たちは再生能力がすごいだけで、頑丈ではないから……乱暴なことをされると、やっぱりつらいし、悲しいし……」
わかった。もう死ぬ。
この世界のことが好きだった。
でもこの世界はあなたのことが嫌いだった。
じゃあ、もういい。
さようなら。
「落ち着いてぇー! わかった! わかったわ! なにをしてもいいから! 私がお姉さんのことを受け止めてあげるから、死んじゃだめよ!」
やったぜ。あなたは勝利を確信した。
では、好き勝手やらせてもらおう。
「頑丈じゃないけど、何をしても死にはしないから……で、でも、できれば痛いことは少なめだとうれしいわ……」
などと言って涙目であなたを伺うクラリッサ。
可愛すぎる。あなたの理性は速やかに崩壊した。
今夜は眠れないな!
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