まず、あなたはカリーナを娼婦としてもてなした。
もてなしたが、割と余裕がなかったのでちょっと手抜きした。
いつもは丁寧に丹念に優しく昂らせていくのだが。
眠くてたまらなかったので、手早くムチャクチャにした。
「すごかった……すごかったです……あんなにすごかったのはじめて……」
カリーナからは好評だった。どうして……。
まぁ、そんな話はさておいてだ。
あなたたちの本来の目的は女漁りではない。
「……女漁りなんかしてるのはあなただけよ」
レインのじとっとしたツッコミを無視し、あなたは拳を握り締めて宣言する。
あなたたちの目的とは、この大陸に眠る過去の遺構を目指すこと。
ザイン神の神聖、その聖なる神器を拝領することである。
そこに眠る奇跡、未知なる戦い、そして神の恩寵。
あなたたちはそこを目指すにあたって、神の全き愛を知るのであろう。
さぁ、いざ往かん! この大陸に眠る伝説を求めて!
「はい! 行きましょう!」
フィリアがキラキラとした眼で同意する。
あなたもまた力強く頷くと、フィリアと共に神殿のあると言う方角を指差す。
さぁ、ザイン神の奇跡、その神器を目指して!
「朝ご飯食べてからでいいかしら」
あはい。あなたは頷いた。
ちょっと気が逸ってた……。
「ご主人様って、本当に冒険お好きなんですね」
サシャにまじまじと珍しいものを見たような顔で見られつつ、そのように言われる。
あなたは冒険が大好きだが、今回はちょっと気が逸り過ぎていた。
療養期間中にうっぷんは溜まったし。
その前はパサファロンとか言う狂気の領域を旅する羽目にもなった。
その上で『インメタル』とか言う信じられないものと戦うことになったし。
加えて言うと、『インメタル』との戦いは今思い返してもしんどい。
肉体的疲労とかダメージは、まぁ、どうでもいいと言えばそうだが。
なんせ『てのひらのはめつ』を全部ぶちまけてしまったので……。
あれは製造すること自体はできるのだが。
製造するのにそれはもうすさまじい手間と費用がかかる。
エムド・イルの超科学文明の産物なのでしかたないが……。
そういういろんなストレスが積み重なったところに。
この大陸の神格に由来する遺跡とアイテムの探索……。
そんなの楽しみになるに決まってるだろう!
「それは分かったけど。ちゃんとご飯食べさせてちょうだい。あなたが言ったんでしょ。ごはんは大事だって」
「そうだ。食事は大事だ。ちゃんと食え」
レウナにもそのように苦言を呈されてしまった。
わかった、ではちゃんと食べよう。
あなたも逸り過ぎていた自覚はあるので。
ここは逆にしっかりと手間をかけて作って食べよう。
「それがいい」
とは言え、あんまり重たいものを食べると苦しくなるので。
ここはひとつ、スープとパンであっさりとキメよう。
あなたは『四次元ポケット』から各種の料理を取り出して朝食の支度をはじめた。
トマトベースの野菜スープ。
ジャガイモ、タマネギ、カブ、ニンジン、ベーコンを具に。
くつくつと煮込んだ、あっさりじんわりおいしいスープだ。
そこに合わせるのは硬めのパン。
切り開いて、硬めのチーズとハムを挟んでやる。
気分次第でレタスかトマトも挟む。
ただし、両方とも量は十分に用意する。
おかわり自由で好きなだけ食べる。
もちろん、お腹いっぱいになり過ぎない程度にだ。
「ほっとする味わいですね……今日という日を頑張ろうと、そう言う気持ちにさせてくれます」
クロモリがしみじみとスープを飲んでいる。
そうした仕草をしていると実年齢が滲み出て来る。
こう、地味に疲れた感じと言うか、のんびりした感じが……。
「本格的な冒険と言えるものは久方ぶりです。楽しみですね」
以前、『トラッパーズ』に教えてもらいながらの迷宮探索。
その際にはクロモリも連れていたが、あの時は冒険と言うほどのものではなかった。
野外探索では本当にただひたすら歩き回るだけだったので。
密林を踏破するように分け入って進むようなものではなかった。
時間をかければ、クロモリのような野臥せりでなくとも密林を歩くことはできる。
クロモリが活躍する余地はほとんどなかったのだ。
そして、迷宮出現後の探索では、クロモリは連れていけなかった。
敵が強過ぎたのだ。クロモリを連れて行けば悲しい結果に終わっただろう。
カーマイン姉妹は悲しい結果に終わりまくっていたが、すぐ蘇っていたのでノーカンだ。
「ずいぶんと鍛え直しましたから。お役に立てると思います」
そのように笑うクロモリは、たしかに随分と鍛え上がっている。
魔法や剣技はさっぱりと捨て、弓に専念したらしい。
背に負った弓は戦争用の長弓だ。町中でそのまま持ち歩いていると重罪になるほど強力なやつ。
あなたは期待しているとクロモリに頷く。
クロモリはその言葉に確固たる決意を覗かせる瞳で頷く。
そして、その瞳が見つめる先は、燃え尽きた灰のように白い女。レウナだ。
クロモリと同様に、弓を主たる武器として使う者。
そして、魔法の技術、総合的な戦闘技術はレウナが遥か上。
むごい言い方になるが、クロモリの上位互換だった。
しかし、純粋な弓の扱いの技術と言う部分。
そこの部分に関してはクロモリが以前から上だった。
レウナは弓の扱いこそ得意としてはいたが。
やはり本職は神官であるから、弓はあくまで好む武器でしかなかった。
得意とするのは魔法であり、それが本分だ。
弓に習熟し切った専門の弓使いと言うわけではない。
クロモリは転じて弓こそを本分とする専業の弓使い。
弓の扱いと言う部分において、レウナに負けることはあるまい。
まして、レウナに負けないことを目的に鍛え抜いたのだから……。
お手並み拝見といこう。
さて、朝食後、あなたたちはゆっくりと食休みをした。
食べ過ぎないように気を付けはしたが。
食べてすぐ動くとやっぱり不調は出るもの。
それを防ぐにはちゃんと食休みを取るべきだ。
あなたたちはお茶を飲んでゆっくりと休んだ。
それから再度荷造りをし、密林の中へと出発する。
「先導しますので、私に続いてください。続いて歩けないような状態、つまり転んだとか、足を取られたとかがあれば、声を上げて止めてください」
とのことで、クロモリが先頭を歩いてあなたたちを誘導してくれる。
こうした野外での活動は野臥せりの本領発揮である。
手にした長めの剣鉈で藪を切り払いながらの進行である。
注意深く周囲を見渡しながら、足元から樹上まで確認する。
それでいて、その作業は流れるような速さで行われる。
時折少し確認するように立ち止まったり、足元を検めたりと言った動作はあるが。
それを踏まえても、クロモリの進行スピードは速い。
「は、早い……本職の野臥せりがいると、こんなに早く森の中を歩けるの……!?」
レインはひぃひぃ言いながら歩いている。
平坦な街道を歩いてんのかってくらいの速さでクロモリは歩いているのだ。
クロモリが確保した道に続くだけとは言え、その速さは負担が大きい。
「山やら森歩きは慣れている自負していたが……本職はこんなにもか。私なぞ所詮は素人の手慰みだったわけだな……」
レウナは難しい顔でそんなことを呟いている。
やはり、専門に訓練を積んだ人間は違うと実感しているようだ。
あなたもクロモリの速さにはちょっと驚いている。
このスピードで進行することはできるが。
ここまで見事に安全を確保しながら歩けるとは。
あなたたちは未だに毒虫にも毒蛇にも襲われていないし。
先ほどから時折感じる野生動物との遭遇も的確に避けている。
野外歩きのプロとはこれほどまでの成果を見せてくれるのか。
今後行うであろう、未発見迷宮の捜索では相当役立ってくれそうだ。
その時が楽しみである。
それからしばらく歩き続け。
そろそろ出立から2時間が経とうと言うところでクロモリが脚を止めた。
クロモリが脚を止めたのは、苔むした岩々が並ぶ小さな川である。
溺れる心配はなさそうだが、転べば全身ずぶぬれになる程度の深さはある。
クロモリはその水辺にしゃがみ込み、周辺を確認する。
あなたたちはその様子を無言で見守る。
「ちょうど10時と言ったところですか。休憩にしませんか」
突然クロモリがそう言い出す。
あなたもそろそろ休憩の頃合いかと思っていたので頷く。
何とはなしに懐の懐中時計を開くと、ピッタリ午前10時だった。
あなたはドンピシャで10時だよとクロモリに笑いかける。
「正確でしたか? よかったです」
そう言って微笑むクロモリ。
偶然ですね、ではなく、正確でしたか。
もしや、なにか確信があって時刻を口にしたのだろうか。
「はい。今朝、あなた様が時計を見ていましたから」
見ていたから?
「その時から60秒ずつ数えていました」
……本気で言ってるのかな?
あなたはクロモリの正気とは思えない刻時方法に唸る。
「野臥せりではその手の訓練をする人は珍しくありませんよ。光の届かない場所で狩りをする者もいますから。時刻の把握は大事なことです」
と思ったら、野臥せりでは割とメジャーな手法らしい。
たしかに時計がないならそれしか手はないだろうが……。
だからと言って、本気でやるとは思わなかった。
「そうでしょうか。時計は狂うことがありますから。数え上げならば、間違えない限りは狂うことはありませんよ。年単位で鍛えれば、誰でもできるようになります」
野臥せりこわ~……。
あなたはちょっとビビった。
その場に座り込める状況を作り、小川から水を汲む。
その水を火にかけ、グツグツと煮えてきたら、スパイスを投入。
クロモリが調合した専用のスパイスミルクティー用のセットだ。
それが煮だされ、お湯が茶色くなってきたら次に紅茶葉を投入。
しばらく煮込んだ後、次にミルクと砂糖を放り込んで再度グツグツと煮えるまで待つ。
そうして煮えたら、その茶葉を濾してミルクティーを飲む。
「うぅ、効くぅ……! 疲れにガツンと効くわね……」
「甘ぁい……おいし……」
「はぁ、悪いことしてる気分です……あまい……」
クロモリが愛好しているというお茶の飲み方である。
茶葉の殺菌作用で汚れた水でも問題なく飲むことができ。
スパイスによって味を調えつつ、薬効も期待できる。
薬師ならではの飲み方と言うべき飲み方だった。
「ああ、おいしい……懐かしいですね……」
クロモリもしみじみとうまそうに呑んでいる。
懐かしい、と言うと、愛好しているという割には久し振りなのだろうか。
「ええ。病を得て、冒険者を廃業して以来ですか……野外でしかこの飲み方はしなかったのです」
なるほど、そう言う理由で。
たしかに、この飲み方は野外の方が似合うかも。
寒い外で身体を温めながら飲むような印象の茶だ。
野外活動を得意とする者が、野外活動の助けとするべく編み出した飲み方と言われれば納得も行く。
「うむ、うまい。なかなかイケる。歯が痛くなりそうなくらい甘いのがいいな」
レウナにも好評のようだ。あなたも美味しく飲んでいる。
頭痛がするくらいドロドロに甘いジャムを舐めながら飲む紅茶もいいが。
こういう甘ったるくなるまで砂糖を入れて煮出したミルクティーもいい。
ただ、さすがにこんなものを量飲んだら大変だ。
砂糖の取り過ぎは喉の渇きを招くので、あくまで少量だけに留める。
普通の紅茶の3分の1くらいの量をゆっくりと飲んだら終わりだ。
「では、出発しましょう」
あなたたちは休憩を終えて、再度出立する。
出発際に時計を確認すると、10時20分ちょうどだった。
それからあなたたちはひたすら真っ直ぐに神殿目掛けて進む。
目的地の神殿の正確な位置は不明と言えばそうなのだが。
どうやらクロモリは神殿の位置に確信があるらしい。
そのため、あなたはクロモリに道筋の選定は任せて歩くことに集中する。
やがて、周囲を覆っていた鬱蒼とした熱気林の木々が数を減らしだす。
疑問に思ったのも束の間、あなたたちの前に開けた空間が広がる。
そして、あなたたちが目の当たりにしたものは、巨大な石造りの神殿だった。
「これが、そうなのでしょうか?」
「たぶんね。すごく古い様式だわ。たしかにクヌース帝国の時代のものに見えるけれど、見慣れない部分もあるわ。本当に初期の初期、現物がロクに残っていないほど古いものなんじゃ……」
レインは貴種として、その手の様式についての知識も多い。
よその邸宅の落成記念パーティーに呼ばれた際に知らずにいれば恥をかく。
恥をかけば個人の問題では済まされないのが貴種のめんどくさいところだ。
知識豊富で、弱音を吐かず、強そうに見える。
貴種にとって重要なのはそう言う外面の強さである。
それを実現できるだけの知識と技術は当然の嗜みなのだ。
さて、では、次は神殿に入るわけだが……。
この神殿、入り口はいったいどこにあるのだろう。
「こういう神殿の入り口は東側にあるから、そっち側に回りましょう」
「そう言うものなんですか?」
「ええ。よほど厳しい制約があればべつだけれど、普通は東ね。内部に光を差し込ませる必要があるから」
「なるほど、そう言うものなんですね」
こう言う風に役立つことを思うと、チームに1人は貴種がいて欲しいものだ。
やはり、知識とは力であるから、知識層が1人居れば色々役立つ。
あなたはそんなこと考えながら、東側へと向かった。
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