ついに王都へと到着した。
王都の街並みは異国情緒に溢れた見慣れないものだ。
まぁ、それはスルラでも同じことだったが。
この大陸が、エルグランドとは文化も風土も違う場所なのだとひしひしと実感させられる。
サシャは今までに見たことが無い大都市なので、周囲をきょろきょろと見渡している。
「あなたは慣れてる感じね」
この大陸に慣れているわけではないのだが。
見慣れぬ土地を旅するのは手慣れたものだ。
今や街並みに感動するよりも前に、『ナイン』の設置場所を物色してしまう。
エルグランドの王都では、ちょうど宿屋の辺りがベストプレイス。
そこに『ナイン』を設置すると、王都をきれいさっぱり消し飛ばせた。
「絶対にやらないでちょうだいね」
あくまで気になるだけで実行するつもりはなかったので、あなたは素直に頷いた。
「ともあれ、ザーラン伯爵家の王都屋敷に行くわよ」
あなたは頷いた。
期待に胸が膨らんでたまらない。
「えと、あのぉ……レインさん、そのお屋敷って、使用人はどれくらいいるんでしょうか?」
「え? そんなにはいないけれど……精々20人やそこらくらいね。臨時雇いを入れたりもするけれど、常時雇いはそれくらいよ」
「お若い女性はどれくらい居ますか?」
「また変なこと聞くわね。それなら1人だけよ。あとはみんなそれなりの年ね」
「そうなんですか……それなら、まだ安心なのカナ……」
「?」
レインが不思議そうにしている。
あなたも不思議である。なんで年齢なんかが気になるのか。
まぁ、あなたも使用人たちの年齢は気になるところだ。
メイド長はやはり50代が食べ頃と信じるあなたである。
ザーラン伯爵家の屋敷は立派なものだった。
やはり伯爵家ともなると屋敷も立派なものだ。
丁寧に整えられた庭園もあれば、維持費の高い噴水などもある。
厩も立派なもので、10を超える馬を過不足なく飼育しておけるだろう。
そこに馬を繋ぎ、飛び出して来た使用人にレインが話を通すと屋敷の中へと迎え入れられる。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
屋敷の入り口で出迎えたのは、40がらみと言ったところの女性だった。
厳格そうな面持ちの、額に深いしわが刻まれた姿。
雑務で荒れた手や、厳めしい表情は使用人としての年季を思わせる。
真摯に職務に励んで来た、まさにメイド長と言った風情である。
若い頃はなかなかの美人だったのではないかと思われ、あなたは内心でウヘウヘと笑った。
「ただいま。こっちはお客様よ。あの『銀牙』のフィリアもいるから、失礼のないようにね」
「かしこまりました」
「それと……彼女は私の個人的な恩人なの。だから、最大限配慮してあげてちょうだい」
「はい」
レインがそのようにあなたを紹介した。
あなたはもうワクワクが止まらない。
「私はマーサと申します。当家の侍従の取りまとめ役をしております。どうぞお見知りおきを」
やはりメイド長のようだ。
あなたはもうウキウキである。
まず、客室に案内するとのことで、マーサがあなたたち3人を連れて移動する。
レインは私室の方で着替えてくるそうだ。
客室は1人1部屋である。まぁ、当然のことではある。
相部屋など貧乏くさい真似を客人には普通しないだろう。
ただ、当然ながら使用人用の小部屋などはある。
使用人と同じ部屋に入ることは、相部屋とは換算しない。
あなたはしょうもない企みのため、暗躍を始めた。
まず、サシャとフィリアが疲れているようだから早く休ませてやりたい。
そのようなことを言って、2人を先に部屋に入らせる。
マーサと2人きりになり、あなたも部屋へと案内された。
その際、ちょっと聞きたいことが、とあなたはマーサに問いかけた。
「はい、なんでございましょう」
レインは父を嫌っているようだが、なにがあったのだろう?
と、あなたはかなりクリティカルな疑問を投げかけた。
その言葉にマーサは眉をひそめた。やはり醜聞に近いものらしい。
話してくれないかも、とも思ったが、マーサが話し始めた。
その話し出すと同時、あなたは気遣うかのようにドアを閉じた。
万一にも盗み聞きをされたりしないように、鍵もしっかりとかけた。
「旦那様はかつて、懸想していた女性がいらっしゃいました。ですが、身分違い故に結ばれることは許されぬ身でした」
よく聞く話である。
「旦那様は婚約者を娶った後、この王都屋敷でその女性を愛妾としたのですが……」
これもまたよく聞く話だ。
「ですが、そもそも、その女性と旦那様は特段恋仲ではなく、旦那様の横恋慕だったようなのです」
これはあまり聞かない類の話だ。
「旦那様はその女性の夫を殺し、無理やり側室へと迎え入れました。女性の娘もまた、自分の隠し子であるとして……」
そう言うことであれば嫌うのも分かる。
って言うか普通にザーラン伯の頭がおかしいし、気持ち悪い。
あなたは言い難い話をさせて申し訳なかったと頭を下げた。
「いえ、いえ。頭をお上げください。お嬢様は大変晴れやかな顔をされていらっしゃいました。きっと、あなた様がたがよい縁を齎してくださったのでしょう」
マーサは厳格そうな顔つきに笑みを浮かべ、あなたへと頭を下げた。
幼い頃から知るレインの苦悩は彼女にとっても心痛の1つだったのだろう。
その苦悩の重さを、少しでも軽くしてくれたことを労ってくれた。
実際は根本解決したわけだが、まさか口には出せないので黙っておく。
そして、あなたは頭を下げるマーサの肩を掴んで頭を上げさせると、口づけをした。
「!? お、お客様っ、なにを!?」
あなたのことをもっとよく知りたいな。
あなたはそう言ってマーサを抱き上げると、よく整えられたベッドへと連れ込むのだった。
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