あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「ああ、すまない。紹介しよう。この胡散臭い女はリフラ。リフラ・ハーベスタル・ルイだ。おまえたちには『トンネルワーカーズ』の頭目として、少しばかり話したことがあったか?」

 

 いくらか話し合った後、レウナがリフラをそのように紹介してくれた。

 

「ご紹介に与りやした、リフラ・ハーベスタル・ルイってェ、ケチなモンでございます。華々しい別嬪(べっぴん)さん揃いに小心者なあたくしはどうにも気おくれしますが、憚りながらも名乗らせていただきます」

 

 う、胡散臭ェ~……!

 口を開けば開くほどに胡散臭い。胡散臭さ大爆発どころではない。

 なんでこんな珍妙な喋り方をしているのだろうか。謎過ぎる。

 

 ともあれ、あなたはリフラに対して名乗り返す。

 あなたに続き、EBTGのメンバーたちも同様に名乗った。

 リフラはいちいち感心したように頷いたり、相槌を打ったりとしている。

 

 黙っていたらかなりの美女なのだが……。

 涼し気な美貌も、豊満ながらもすらりとした肢体も、すべて美しいのに。

 口を開くと、どこの渡世人なのかと不思議になるような口調だ。

 

「まぁ、こいつに違和感があるのはわかるが、昔からこうだった。今さら直るものでもあるまい。流してやってくれ」

 

 昔からこんなんだったのか。

 その昔って、具体的にどれくらい昔からなんだろう。

 

「出会った当初からだから……8歳から10歳くらいじゃないか?」

 

 今でさえ爆発的に胡散臭いのに、子供の頃からコレ。

 本当によくぞまぁ『トンネルワーカーズ』なんて結成出来たものだ。

 

 レウナも昔からこんな口調と相貌だったらしく。

 当時は胡散臭い子供だったのだろうなと思っていたのだが。

 リフラに比べれば遥かにマシだろう。まず間違いなく。

 

 そして、レウナとリフラの他に、キャロラインもいたわけで。

 キャロラインは、なんかもう、あれだ。あれであれだから。

 実態としてはそこまで頭がおかしいわけではないらしいのだが。

 

 パサファロンと言う特殊過ぎる環境で育ったのと。

 額に穴を開けるヤバ過ぎる施術によって開眼している第三の眼。

 それらによって得た異常な視点のせいで、キャロは、もうアレでアレだ。

 

 こんなのが3人揃ってるチームとか近寄りたくないだろう、普通の人間は。

 大規模なチームになるまで成長させたのも凄まじいが。

 そのチームで世界を救うにまで至ったというのも凄まじい。

 

「へぇっへっへっへ……ひでェ言われようだ。まァ、ホントのことなんで反論もしやァしませんがね。にしたって、久方ぶりに会った大親友に対して冷てェじゃありませんか」

 

「おまえも言ってるだろうが。本当のことだ」

 

「へぇっへっへっへっへ……しかし、レウナさん。あなた」

 

「なんだ」

 

「ちょいと失礼」

 

 リフラがしゃがみ込み、レウナのスカートをぺらりと捲った。

 ロングなスカートが捲れ、レウナのカモシカのようなすらりとした足が露わになる。

 

 おおっ、ブラボー! そのままそのまま! もっと持ち上げろ!

 あなたが野次を送る。サシャのグーがあなたの脇腹に炸裂。

 

「なにをするか」

 

「あでっ。へっへっへ……」

 

 レウナの手刀がリフラの額を打つ。やさしい。

 あなたが同じことをしたら、膝蹴りが顔面に炸裂していただろうに。

 やはり、親友だからなのか、長年の付き合い故か……。

 

「こいつァどうにもおかしいなと思っていたんですが、レウナさん、あんたどうやって蘇ったんです?」

 

「ああ、そうか、そのことか」

 

「あたくしはてっきり、うらめしいの裏の飯屋がまずいので、死んでも死に切れねェってンで化けて出たもんかと……その割にゃあ足がある」

 

「誰が亡霊(ゴースト)か」

 

「いやね、あんた「ここは私に任せて先に行け」なんてそりゃもうカッコつけたこと言った挙句に死んだってんだから、化けて出るなんていったいどんな面の皮だって思ってたんですがねぇ」

 

「それを言うな。考えてみたら恥ずかしくなってきた」

 

「それともなんですかい。あんた、教義的にそいつは出来ねェなんて言ってましたが、そこらはノーカンってェことで蘇って来たんですかい?」

 

「そうではない」

 

「たしか、死んだ人間が生前と変わらねぇ姿で蘇るってのァ……ヴァンパイアなんでしたっけ?」

 

「おいこら。私がアンデッドになんぞなってたまるか!」

 

「しかしねェ……あたしから見たら、死人が蘇ってるわけですから。証拠のひとつやふたつほど、見せて欲しいと思ってもおかしくねェでやしょう?」

 

「む……たしかにそれはそうなんだが……低位の魔法にアンデッド探知の魔法があるだろうが。それを使え」

 

「あいつァごまかしも利いちまいやすからねェ。たしか、ヴァンパイアは胸に白木の杭を打ち込むと死ぬんでしたっけかねェ。物は試しだ。1本や2本ほどガツンと打ち込んでみて試してもいいですかい?」

 

「心臓に杭を打ち込まれて死なん方がおかしいわ! ヴァンパイアじゃなくても死ぬわ!」

 

「それともあれだ。実は、レウナさんじゃねェ……なンてこともあるんじゃあねェですかい?」

 

「私が偽物に見えるか?」

 

「いやァ、そうでもねェですが……ここはひとつ、確かめてみましょうかい。ねェ、アリスさん?」

 

 リフラが突然レウナのことをそのように聞き覚えのない名で呼んだ。

 そう言えば、レウナの名は生来の名ではなかったはずだ。

 レウナ・ファンスルシムとは、彼女が信仰する神、ラズル神が与えた名。

 であれば、生来の名を持っているのは当然。それがアリスなのだろうか?

 

 しかし、レウナは眉を顰めてリフラを睨む。

 

「おい、もしや忘れたとか言うんじゃあるまいな?」

 

「いいえェ? ですが、レウナさんを騙る野郎なら、「そうとも、俺がアリスだ。よろしくなぁ! 酒でも酌み交わして旧交を温めようぜ、リフラよう!」とか言うかもしれやしませんでしょう?」

 

「1ミリも私に歩み寄れてない過ぎる……分かった、分かった。名乗ればいいのだろうが。私はマリア。プレジネフ村のマリアだ。サンズとセズリの娘であり、シャルトスの姉だ」

 

 と、レウナがそのように名乗った。

 別段珍しい名前でもなんでもなかった。

 エルグランドでは聞かない名だが、アルトスレアでは超頻出の名だ。

 村が1つあれば、最低でも1人くらいはマリアがいるだろうくらいに。

 しかし、村と家族の名まで添えれば、間違いはないだろう。

 

「なるほど? どうやら本人なのァ間違いねェようで」

 

「わかったか」

 

「するってェと……もしや、教皇さまをおやめになったんで?」

 

「やめとらんわ」

 

「これで遠慮なく助平が出来ますねェ。おめでとうございやす」

 

「なにがおめでとうございますだ! 偉そうなことは貴様が処女を卒業してから言え!」

 

「へぇっへっへっへっへ……!」

 

「な、なんだ、その意味ありげな笑い方は……もしや、男を捕まえたのか!?」

 

「へぇっへっへっへっへ……! 意味はないけど、楽しい笑い方ですぜ……!」

 

「小賢しいわ!」

 

 レウナのグーがリフラの肩に炸裂。

 あまりに遠慮のないやり取りにあなたは思わず笑う。

 

「私は、なんかこう、あれだ……いいようにアレしたんだ。とやかく言うな」

 

「へぇ。んじゃ、閻魔大王を2発や3発殴って、ついでにおフェラの1発でも頼んだということで納得しておくとしやしょう」

 

「ついとらんわ」

 

 下品なジョークを交えつつも、リフラは追及をやめた。

 とやかく言うなと言えば、じゃあそう言うことでと納得する。

 レウナとリフラの間にある堅固な信頼が伺えた。

 

「んで……あんたァ、こんなところでなにしようってンです? ここにゃあ洒落たモンはねェし、ごらんのとおりにあたしゃのようなフーテンが1匹いるばっかりですぜ?」

 

「そこのでかいのが、神託を聞いた。神の嘆きを聞いたのだと言う」

 

「へぇ。騙りや幻覚じゃあねえンでしょうね?」

 

「ああ、まず間違いなくな」

 

「出て来た神さんが、「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」って名乗りでもしたんですかい?」

 

「神の召命を受け、聖騎士として叙任されている。疑いようもなく神の意志だ」

 

「ほほう。そいつぁゴツい話ですねェ」

 

「かく言うおまえはなぜここに? いや、そもそもとして、なぜ海を越えてこの大陸にいるんだ?」

 

 この大陸はボルボレスアスにはほど近いものの、アルトスレアからは近くない。

 それを思うと、ここに来るまでだけでも相当な大冒険である。

 たしかになにかしらの目的がなければまず来ないようなところだ。

 

 あなたのような大馬鹿な冒険女郎であるとか。

 あるいは一獲千金の夢を求めて一旗揚げに来たとか。

 そう言う話であれば分かるが、リフラはどうもそんな感じではない。

 

 冒険大好きのバカには見えないし、金もうけならこんなところでふらつく意味はないだろう。

 なんたって、リフラはアルトスレアでは先の大戦の英雄のはずだ。

 その名声を使えば金儲けなんて手立てはいくらでもあるだろう。

 

「へぇっへっへっへ! あたしゃにそんなコトを聞くンですかい? 理由なンざァありゃしませんとも。あたしはろくでなしのフーテンだ。なにをしてるんだならともかく、どこにいるんだなんてのァ意味がねェ。あたしの居場所はこの星そのものですぜ」

 

 なんて、分かるような分からないようなことを言う。

 理屈はわかるが説明になっていない。

 

「わかった、わかった。おまえはそう言うやつだった。聞き方を変える。ここに何をしに来た? 金儲けか?」

 

「いやね、ここらに『トラッパーズ』がいるって調べがついたンで、ちょいと世話になってたんですがねぇ」

 

「ほう。まぁ、『トラッパーズ』は占術で見つけるのは簡単だからな。魔法使いがほとんどおらんから占術防御が雑だ」

 

「ンで、のんべんだらりとあちこちで飯と寝床を世話になりながら過ごしてたら毎日タダ飯食ってねぇで働けって言われたンでさァ」

 

「当たり前だろ……」

 

「ここはひとついい儲け話でもねェかと考えてたんですが……そこに来て、カレーなんぞが配られてたのを見てありがたく貰い飯をしやした。そこで聞いたのが、なんぞごつい宝のありそうな古い時代の神殿の話で」

 

「おいこら」

 

 つまり、リフラはここにお宝を掠め取りに来たらしい。

 やることが大変にセコい。まぁ、そう言う抜け目のなさは冒険者らしいが……。

 あなたたちの怒りを買ってボコられるとか不安に思わなかったのだろうか。

 この飄々とした態度を見るに、切り抜ける自信はあったのだろうが。

 

 見る限り、リフラの魔法使いとしての腕前は相当なレベルにある。

 おそらくだが、レインと同等か、それ以上の魔法の使い手である。

 まぁ、『アルメガ』との戦いを切り抜けた英雄だ。むしろそれくらいない方がおかしいのか。

 それを思うと、なんとかなるだろうと言う自信も抱くか。

 

「そこに来て、まさかレウナさんと再会できるとは……いやァ、冒険はするもんですねェ。今日は飲みやしょう。レウナさんの奢りで!」

 

「自分で払え」

 

「知らねェんですかい?」

 

「なにが」

 

「金持ちにタカるのは貧乏人の嗜みってェことを」

 

「知らんわ。働け」

 

 なかなかハイレベルなクズっぷりにあなたは思わず笑う。

 

「もういい。おまえはもう帰れ」

 

「しかしねェ……あたしもここで引き下がっちゃあ、おまんまの食い上げだ。耳寄りな情報を大っぴらにしてた、あんたらが悪いンですぜ?」

 

「そう言われればそうだが。そもそもお宝があるとは限らんぞ」

 

「ですが、ねェと決まったわけでもない。それに、ここの神殿がアンタらの所有物ってわけでもねぇ。あたしが探索するのを止める権利がおありで?」

 

「それはそうなんだが……」

 

「それに、ここでひとつ提案がありやす。どうです、あたしを一時(いっとき)仲間に加えちゃあいただけやせんか? なに、そんな取り分5割なんてェ欲の張ったことは言いやしません。ほんの1割ばっかり情けをかけてていただけりゃあ……」

 

「おまえなんぞ要らんわ」

 

「そうですかい? いや、そもそもレウナさん、あんたがリーダーなんですかい?」

 

「ああ? いや、私がリーダーと言うわけではないが……」

 

 レウナの目線があなたを指す。

 あなたは自分がリーダーだと名乗った。

 

「ああ、昨日の(ねえ)さんが。ははぁ、なるほど。どうですかい、あたしを一時仲間に加えちゃあいただけやせんか? お役に立ちますぜ?」

 

 たしかにリフラは相当な強さのようだが……。

 だからと言って、懇願してまで仲間に加わって欲しいほどでもない。

 魔法使いならレインがいるし、あなたがいる。

 どうしてもリフラを加えたいほどの理由にはならない。

 

「うーん、そうですねェ……お、そうだ。たしか、あんたさん、エルグランドのお人でしたかい」

 

 そうだが、よく知っているなとあなたは首を傾げる。

 まぁ、『トラッパーズ』で世話になっているなら不思議でもない。

 あなたたちも2日ばかり滞在したので、リフラがあの人は誰? と誰かに聞けばすぐに答えは帰ってくるだろうし。

 

「たしか、エルグランドじゃあステータスカードなんてェもんが使われてんでしたかい」

 

 リフラの言うステータスカードとは、冒険者のプロフィールを書き記すカードである。

 特に何かしらの魔法がかかっているということは無く、普通に手書きだ。

 エルグランドで広く用いられている冒険者の自己紹介カードだ。

 

 どんなことを得意としているのか。

 どんな技術があり、どういった迷宮を踏破したか。

 そう言った冒険の実績が記されていて、自己紹介に用いる。

 まぁ、ちょっと詳しい名刺みたいなものだ。

 

「あたしも使ってますぜ。ちょいと懐中(かいちゅう)御免(ごめん)(こうむ)りますぜ」

 

 言いながらリフラが懐に手を突っ込み、なにかを取り出す。

 それをあなたの手の中に握らせ、あなたはそれを見やる。

 

 それは小さく丸められた布切れだ。

 あなたがそっと手のひらの中でそれを開く。

 それは女性用の下着だった。シルクのパンティーだ。

 

「お収めくだせぇ」

 

 あなたは笑顔で懐にリフラのパンティーを納めた。

 

「どうでやしょう。仲間に加えていただけますかい?」

 

 もちろんだ。歓迎する。

 あなたは愚かだった。

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