あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 リフラのすばらしい自己紹介により、あなたはリフラを臨時の仲間として受け入れる決定を下した。

 これほど丁寧かつそつのない自己紹介……迎え入れねば不調法とすら言える。

 

「ステータスカードって言うと、たしかエルグランドで使われているという自己紹介カードのはずですが……そんなにすごい技能が書いてあったんですか?」

 

 サシャの問いに、あなたは拳を握って宣言する。

 リフラのすばらしい冒険心、その心意気を買ってのことだ。

 ステータスカードには、たしかに技能や経歴、成した功績も記されている。

 

 だが、同時に、その冒険者の意気込み、重視するものも記されている。

 心意気や気構え、信仰する神、そして冒険に対するスタンス。

 そうしたものも仲間として適切か考える重要な判断要素である。

 

 時として、技能よりも意気込みが重視されることもある。

 特にそれは、こうした特定のものを求めての場面では重要だ。

 

「そうなんですか?」

 

 リフラが求めているのは金だ。

 一方、あなたたちが求めている過去の痕跡。

 それは相反するものではなく両立するもの。

 

 リフラはこの冒険に金しか求めていない。

 そこに十分な技能を提供してくれるならば。

 一時の仲間として受け入れて損はないだろう。

 少なくとも、足手まといではないはずだ。

 

 あなたはそんな言い訳をつらつらと述べ立てた。

 

「はぁ。まぁ、そうですね」

 

 サシャはとりあえず納得してくれたようだ。

 他の仲間たちも、特段に否があるような様子はない。

 レインが若干不満げな顔をしているが、これは取り分が減るからだろう。

 レインだけが金目当てでこの冒険に参加している。

 

「受け入れていただいて、まことおありがとうございます。お役に立ちますぜ」

 

 期待している。

 まぁ、視る限り、リフラの魔法使いの技能は本当に高度なものだ。

 アルトスレアの魔法はエルグランドともこの大陸ともやや違う。

 そのため、ちょっと技能の程度が分かり難いのだが……おそらく、最高位のものまで使えるだろう。

 

 この冒険でも十分に役立ってくれるはずだ。

 あなたはレウナにそうだよね、と同意を求めた。

 

「ああ、うむ……ああ……どうだろうな……コイツ強いのか?」

 

 仲間じゃなかったの……?

 

「詐欺染みた組織の運営手腕とか、ただの脅迫めいた交渉手腕とか、そう言うのばかり印象にある……」

 

「ひでェ言われようだ。曲りなりにも、あたしは名うての冒険者ですぜ。町の名士でもある。強ェんですぜ」

 

「そのはずなんだがな……」

 

 それ以上に、町中での名士としての技能が優れている。そう言うことらしい。

 なんとも冒険者にしては独特の技能の持ち主と言うか。

 あるいはアルトスレアならではの冒険者らしさと言うか……。

 

 あちらの大陸では、冒険者の名声はきわめて高い。

 この大陸でも名声がある方だが、アルトスレアはもはや次元が違う。

 あの大陸では、大きな町にはアンデッド等の侵入を防ぐ結界がある。

 

 極めて高度な魔法らしく、あなたでも解析し切れず再現できなかったのだが。

 その結界の効果により、アルトスレアは非常に大規模な町と高度な文明を実現して来た。

 そして、その結界を維持するために、魔結晶なる魔力の結晶が必要になる。

 

 これらはアルトスレアのモンスターの体内から発見されるものだ。

 どういう理屈で形成されるかは不明だが、特に強力な個体が体内に持つことがある。

 それによって結界を維持しているのだが、強力なモンスターを倒すのは大変だ。

 

 それを回収できるのは、強力な戦闘力を持つ冒険者だけ。

 アルトスレアにおいて冒険者とは明白な国家と共同体の守護者である。

 その名声はきわめて高いのである。

 

 そして、名声ある者の行く末は、それなりに華々しいものだ。

 貴族になったり、冒険で得た資産と名声を元手に商売をしたり。

 リフラのように、なにかしらの組織を運営して名を売ることは珍しくない。

 それを考えると、アルトスレアの冒険者らしいと言えばそうである。

 

「まぁ、こんなのでも弱いはずはないので、大丈夫……だと思う。たぶん」

 

 レウナの微妙になんとも言えない保障の下、リフラはあなたたちの仲間として一時迎え入れられた。

 

 

 

「へぇ! 姐さんはお貴族サマでしたかい。そいつァ豪儀な話で。トイネってェと、エルフ王国なんて異名のある国だったと思っておりやしたが……」

 

「エルフしかいないわけではないわよ。人間の貴族だっているわ」

 

「そんなもんですかい。いやぁ、冒険の実績で貴族に列せられるたァ厳ついですな。そんなお人だったとは露知らずのつゆだく大盛り温泉卵ってところですかい。偶然出会えて、お仲間に入れてもらえるなんて、渡りに船を通り越して渡りに戦艦ってところですぜ」

 

「偶然……? おまえ盗み聞きして、先に盗掘に入ったんだろうが……」

 

「そんな昔の話は忘れましたぜ」

 

「あはは……まぁ、ザイン様の武具さえ手に入れば、私は言うことはありませんから……財宝の類は、お持ちになられても、まぁ……」

 

「流石はザイン様の信徒さんでいらっしゃる。犠牲と名誉の神の信徒らしく名誉を重んじる、ですねェ」

 

「あら。別大陸の御出身なのに、お詳しいんですね」

 

「ええ、ええ。冒険者ですからねェ。現地の情報収集なんてのは嗜みでさぁ」

 

 リフラは瞬く間にEBTGに馴染んでいた。

 話術と、距離の詰め方がすごくうまい。

 人の心にぬるりと入り込むというか。

 

 たらしのテクニックにも近いものがある。

 適度にヨイショしてくれるところが実に気持ちいいのだ。

 娼婦として、そのヨイショの技能を持ち合わせるあなたから見てもなかなか上手い。

 ほっといたらふつうに溶け込んで来るだろう。

 まぁ、拒む理由もないのであなたはリフラがみんなをたらすところを大人しく見守っていた。

 

 仲間たちが話しながら歩いているのを横目に見ながら、あなたは周囲を見渡す。

 夜の闇に包まれているようであるが、同時に瞬く星が恐ろしく明るい。

 元よりエルグランドの民として夜目の効くあなたはともかく。

 あなた以外の他のメンバーも活動になんら不都合を感じないほどの光量。

 

 地下のはずなのに、足元は背の短いふさふさとした草原。

 そして、遥か遠方にまで広がって見える大地。

 真昼の地下室のはずなのに、ここは真夜中の草原のようだ。

 

 これは明らかに尋常の空間ではない。

 神域……それに隣接する何か?

 なにせここは神殿、その地下部分だ。

 

 地下はやはり、人間の領域ではない。

 それはデーモンや冥府の住人の領域である。

 そして、その境目と言える地下部分は曖昧な空間である。

 

 そのためか、地下に向かう階段と言うのは異常な繋がり方をすることがある。

 あれはそうした性質を応用した、転送装置の類だったのかも……。

 殊に神殿内部ならば、ザイン神の権能も及びやすい。

 ザイン神がなんらかの目論見でもってあなたたちを呼びよせた可能性は高い。

 

 いったいなんの目的で……。

 そのように訝っていたあなたの耳、低く響き渡る不思議な音が聞こえて来た。

 EBTGのメンバーたちも足を止め、その不可解な音色に戸惑っていた。

 

「これは、角笛?」

 

 クロモリが不思議そうな顔で遠方を見つめている。

 音の出所はそちらだ。狩人だっただけあり、その手の情報伝達手段に慣れているのだろう。

 あなたもこの手の角笛の演奏については多少なり詳しい。

 

 ハイランダーと言う種族は極地に住むものだが、大抵は高地にいる。

 ハイランダー、高地に住む者。そう呼ばれるほど高地に多い。

 そうした高地において、角笛を用いて情報伝達を行うことは珍しくない。

 あなたの母や姉もかつてはそうだった。あなたもその技術は習い覚えている。

 

「薬師様、内容はいったい?」

 

「そこまではちょっと。角笛は音が非常に限定されるので、符丁との併用が前提なのです。ニュアンスとしては暗号に近いものですから」

 

「なるほど……」

 

 金管楽器による角笛……いわゆるホルンとかビューグル。

 そう言ったものなら話はべつだが、この音色はおそらくマジモンの角笛だ。

 演奏者がよほどの熟達者ならともかく、その音域は非常に狭い。

 ごく単純に、この音の時は突撃。この音の時は撤退。

 そのくらいのシンプルな号令に使われているものだろう。

 

 どろどろどろと、低い地響きのような音色が響いてきた。

 その一種不気味ですらある音色は原始的なドラムの音色だ。

 これは……どうも突撃の号令ではないだろうか。

 この連続して響き続けるドラムの音色はそんな感じの印象だ。

 

「じゃあ、どこかで戦闘が行われている……?」

 

 まぁ、あくまでも想像に過ぎないが。可能性はある。

 あなたがそのように述べると、フィリアが強い意志を宿した眼で答えた。

 

「では、行きましょう」

 

 言うと思った。

 ザイン神は戦いに密接に関係した神である。

 戦場司祭としての性格が強い神官たちを多く抱えるとも。

 

 そうした神の信徒であれば、戦いとあっては黙っていられないのだろう。

 自分がそこに参戦するのか、あるいは戦場司祭として人々を癒すのか。

 そのあたりはちょっとわからないが……少なくとも黙ってはいない。

 

「認めていただけないのであれば、私1人だけでも……」

 

 固い決意を宿した眼でフィリアがそのように言う。

 好きにさせれば本当に1人でも突撃していくことだろう。

 あなたは分かったと頷くと、戦場へと向かうことにした。

 

 なにより、今回の冒険はザイン神の武具を拝領するためのもの。

 それを思えば、ザイン神の御心にそぐわない行為は非推奨だ。

 むしろ、この戦いに参陣させるために呼んだ可能性すらある。

 

「では、急ぎましょう。フィリア殿、私が先導いたしますので、あまり逸らぬようお願いします」

 

「はい。おねがいします、クロモリさん。叶う限り、早く」

 

「おまかせを。視界は明瞭ですし、特段難しい地形でもありません。罠の警戒のみ行いますので、手早く進めるでしょう」

 

 戦場が近いならばトラップの可能性は低くない。

 クロモリの先導の提案はそう言う意図だったらしい。

 あなたも任せたと頷いて、クロモリに先導させて向かうこととした。

 

「やれやれ、戦争とはね……人間同士の戦争じゃないことを祈りたいわ」

 

「なにとなにが戦ってるんでしょう……少なくとも、ヒトに類するそれではあるのでしょうが……」

 

「なんかわからんが、とにかく行くぞ。戦争とあらば人が死ぬ。それを看取るのも私の役目だ」

 

 駆け出したクロモリに続きながら、口々にそんなことをこぼす。

 EBTGは迷宮探索を主軸としたチームで、野外での冒険はあまり行っていない。

 そのため、人間を相手取って戦ったことはほとんどない。

 サシャは何度か殺しの経験があるが、それもだいぶ昔のこと。

 戦場でトチらないといいのだが……あなたはちょっと不安に思った。

 

 

 あなたたちはどろどろと響き続ける太鼓の音色に誘われながら進む。

 その音色は次第に強くなり、同時にあなたたちの耳に戦いの音色が響いて来る。

 戦場に響く戦いの協奏曲はひどく野卑で原始的なもの。あなたは眉根を寄せる。

 

 火薬の炸裂音が聞こえてこない……。

 火薬と言う強力な武器を使わないなんてことがあるか?

 あなたはそんな違和感を抱きながらも進む。

 

 あなたたちがやや傾斜のある道を進み、やがてその端に到達する。

 あなたたちはいつの間にか、小高く切り立った丘に立っていた。

 見下ろす先には赤々と燃える篝火を灯した城砦……いや、神殿、か?

 

「あれは……ザイン様の旗が揚がっています」

 

 フィリアの指差す先に翻る旗。

 夜闇の中でもはっきりと見える、赤地に銀のザイン神のシンボル。

 その旗の下に集い、戦う者たちの姿は、すばらしく原始的なものだった。

 

 金属鎧どころか、皮鎧すらも存在しない。

 布鎧に毛皮を併用した、古代戦士の出で立ちをした者たち。

 手にする武具は輝かしい光に満ちているが……あれは青銅では?

 

「え、ええ……?」

 

 サシャもその異様さに気付いてか眉を顰めている。

 1000年くらい前の装備で戦っている兵士が現れたらそうもなろう。

 

「そんな、あれは……トロール? いえ、大き過ぎる!」

 

 フィリアが悲鳴のような声を上げる。

 古代戦士の出で立ちをした者と戦っているのは、幻想的なまでに醜い巨躯の怪物。

 その手指に生えたダガーのように鋭い爪といい、トロールそのもの……。

 

 だが、通常のトロールの倍をも優に超える巨躯。

 身長10メートルに迫ろうかと言う超絶の怪物だった。

 古代戦士たちはその怪物に群がり、必死に戦っている。

 

「いけません! 援護しましょう!」

 

 言うや否や、フィリアが丘から飛び降り、そのまま斜面を駆け下りていく。

 勝手に飛び出すなと文句を言いつつもあなたも続く。

 サシャは続いて欲しい。他の皆は待機。

 

 そのように簡潔な号令を出しながら、あなたはフィリアの背を追って走る。

 状況はわからないが、とりあえずあの戦士たちを助けてやらねば。

 フィリアへのお仕置きは、その後で。

 

 あなたは戦いへと意識を切り替え、腰の剣を抜き放ちながら駆けた。

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