あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 レインに案内され、向かった先は神殿の奥部だ。

 そこかしこから血臭と腐臭が漂ってくるが、ここらは特にひどい。

 可能な限り安全な場所に安置させようと、多くの人が運び込まれたのだ。

 そして、その多くが息を引き取り、今も骸を晒している。

 

 フィリアが痛ましげな顔でそれを見つめている。

 レウナはそれら死した戦士たちに敬意を表するように礼をしていた。

 

「すみません、皆さま……私では、あなたたちの力になれません……」

 

 フィリアは悲し気にそうこぼした。

 叶うことなら蘇生してやりたいのだろうが、それを許すリソースがないのだ。

 魔力は回復できても、蘇生には大粒のダイアモンドが触媒として必須。

 多少ならフィリアも持ち合わせているだろうが。

 この神殿の使者すべてを蘇生するほどの数はない。

 そして、この神殿にすべての死者を蘇生するほどの触媒は、まずないだろう。

 

 ちなみにレウナの蘇生魔法は触媒不要だが。

 レウナは教義的に蘇生魔法が神への挑戦行為なので使用禁止だ。

 まぁ、仮に使えても、この大陸で使っていいか微妙だが……。

 アルトスレアで用いられる蘇生魔法は、どこか不完全なところがある。

 

 同じ人間を複数回蘇生させ続けると、魂に問題が出るんだとか。

 どういう理屈で起こるのかは知らないが、そう何回も蘇れないわけだ。

 人の死と言うものは、やはり重いものだった。

 

 

 

 神殿の奥、そこで上級神官はあなたたちを待ち受けていた。

 白い貫頭衣を纏った、古い時代の祭司そのものの恰好だ。

 正直、神官と言うよりはドルイドにしか見えない。

 

 年齢は50そこそこくらいだろうか。

 老いが彼を衰えさせてはいるが。

 まだその肉体の厚みと筋骨の頑健さは損なわれていない。

 

 かつては、あるいは今も、戦士だったのだろう。

 その神への献身、邪悪との戦いを評価され、高位の神官になり上がったのかも。

 

「よくぞおいでくださいました。セマリア、と言うものです。どうぞお見知りおきを」

 

 セマリア神官はあなたたちを暖かく迎え入れた。

 致命傷を負って命が危ない状態だったとのことだが。

 そんな痕跡はさっぱりなく、服にわずかな血痕が残るばかりだ。

 

 やはり、アルトスレアの『復元/レストレーション』は凄まじい。

 致命傷を負ったあなたの生命力を根源から回復してくれるほど。

 そんなの並みの回復魔法には不可能な芸当だ。

 それをもってすれば、常人の致命傷など容易く癒えるわけだ。

 

「まずは、あなた方の救援に感謝を……巨人どものやつばらに蹂躙されるばかりと思っておりましたが、あなた方のお蔭で多くの戦士たちが救われました」

 

「ザイン様はわれわれが聖戦成すを望んでおられます。私はその趣意(しゅい)に従ったまでです」

 

「ならば、その献身に感謝を。貴殿の行いは聖なる務めに身を捧げる者たちが新たなる戦いに赴く助けとなりました」

 

「聖なる務めに身を捧げる皆さまの助けになれて幸いです」

 

 そこまで言い終え、セマリア神官が一瞬悩まし気な顔をした。

 だが、すぐにその表情を消し去り、毅然とした顔に決意の色を宿した。

 

「私は上級神官の末席(ばっせき)をけがさせていただいておりますが、元を辿れば聖騎士として正義の戦いに身を投じていた身です。持って回った物言いは好みません」

 

 そう前置きをし、セマリア神官の瞳があなたたちを居抜く。

 

「私たちの生き死に、生殺与奪の権は、あなたたちにゆだねられております。私たちは、あなた方の慈悲に縋る以外の手立てがないのです」

 

 それは情けなくも堂々とした態度の宣言だった。

 それを口にすることがどれほど恥ずかしかっただろうか。

 背に腹は代えられないにせよ葛藤はあったろうに。

 それをおくびにも出さず、セマリア神官はあなたたちにそう告げた。

 

「私たちに力添えいただけませんか。間違っても、あなた方にすべてを任せようなどとは思いません。勝利のためにわれわれの犠牲が必要であることは無論承知しております。私たちは、犠牲を恐れません」

 

「セマリア上級神官殿。頭を上げてください」

 

 フィリアがセマリア神官の頭を上げさせる。

 そして、フィリアがあなたへと問いかけて来る。

 

「お姉様、よろしいでしょうか」

 

 さすがにこの状況で見捨てろなんて言わない。

 ただ、まぁ、さすがに他のメンバーの同意を取らないわけにはいかないだろう。

 あなたたちだけで決めていいことではない。

 ちゃんとEBTGのメンバー全員に聞かないと。

 

 そして、その上で参加する者だけで残るのか。

 あるいは全員で撤退するのか。全員で参加するのか……。

 そのあたりをすり合わせないといけないだろう。

 なんせ、敵が強大であることは目に見えているのだから。

 

「はい……セマリア上級神官、そう言うことですので……」

 

「ええ、もちろんです。われわれは悪と戦い、正義を成すものたちです。間違っても、戦いを強要するような真似はしません」

 

「では、みなさんを呼んで、意見を聞きます。大丈夫です。皆さんも正義の戦いに理解を示してくれるはずですから」

 

 では、みんなを呼んで来よう。

 サシャとリフラには外の防衛も任せているので。

 そのあたりをこなしてくれる人も探さないと……。

 あなたたちは手分けして仲間を探した。

 

 

 

 クロモリとサシャとリフラを呼び寄せた。

 そして、セマリア神官の依頼について話し合う。

 

「戦うことに対して否はないけれど……私たちは神官でも聖騎士でもなければ、信徒でもないのよ。さすがにそれだけじゃね」

 

「そう、ですね……みなさんを見捨てるのは寝覚めが悪いですが、さすがに……なにも無しと言うのは……」

 

「われわれは冒険者です。冒険者は金で雇うものですよ」

 

「タダ働きってェのは、ちょいと話が違うと思いますぜ」

 

 レイン、サシャ、クロモリ、リフラが消極的賛成。

 報酬を出すなら戦うことに協力するのはやぶさかではない。

 そして、報酬がないならば、戦わない。ごく単純な話だ。

 

「私はもちろん戦います。報酬がないとしても、私たち聖騎士は決して消えることのない希望として輝かねばならないのです」

 

「人間は死ぬ。それは避けられん。その時、看取る者がいるべきだ。私は共に戦い、その死を見届けよう」

 

 フィリアとレウナは報酬無しでも参加するとのこと。

 信仰の戦士としては、特段に不思議な感性でもないが。

 フィリアはともかく、レウナまでもと言うのはちょっと意外だった。

 死の神に仕える神官であるから、死線に挑む者たちには何か思うところがあるのだろうか。

 

「それで、あんたさんはどうなんで?」

 

 リフラに問われ、あなたはどちらでもいいと答えた。

 あなたも信仰の戦士でこそあるが、生憎ザイン神の信徒ではないし。

 戦いや死と言ったものとはかなり縁遠い神に仕える身だ。

 なので、こういった戦いに無報酬で参加するいわれはないのだが。

 

 かと言って、この神殿の戦士たちを見捨てるのは寝覚めが悪い。

 そして、レウナはともかく、フィリアはあなたの可愛いペットだ。

 それを見捨てて自分可愛さに逃げ出すのは道理があわない。

 フィリアが戦う以上、あなたも戦わなくてはいけないだろう。

 

 しかし、報酬がもらえるならぜひもらいたい。

 それが些少でもなんでも、戦うのに報酬は必要だ。

 

「なるほど。つまり、報酬があるなら戦うってェのが4人。報酬無しでも戦うのが3人。ただし、くれるならぜひもらうってェとこですかい」

 

 まぁ、そう言う内訳になるだろう。

 

「ってェと……報酬がもらえるんならもらいたいって意見は全員共通……そう言うことでよござんすか?」

 

 あなたはうなずく。

 くれるならもらいたい。

 たとえ少なくともだ。

 

 そう考えると、確認すべき事項はひとつか。

 つまり、セマリア神官、ならびにこの神殿がどれだけ払うかだ。

 払わないなら払わないでもいいが。

 その時は働きに期待しないでほしい。

 

「まさにまさに。おもらいさんじゃあねェんですからね。報酬があるならキッチリ働く。そいつが筋でさ」

 

 リフラの言う通りだ。

 そう言うわけだが。

 セマリア神官としては、どうだろうか。

 

 セマリア神官は少し考えた後、祭壇を見やった。

 そこに飾られているのは、武骨な盾だ。

 なにかしらの祭器か何かかと思っていたが……。

 

「…………おそらく、これもまた運命なのでしょうな」

 

 なにかに思いを馳せるようにして、セマリア神官はそれを手に取る。

 俗に、カイトシールドと言われる種類の盾だ。

 ザイン神の銅像が持っている盾と同じ種類でもある。

 フィリアが使用している盾もカイトシールド。

 ザイン神の信徒に取り、重要なものなのだろう。

 

「皆様にお支払いできる細かな報酬がないのです……これにてご勘弁願えないでしょうか」

 

 そう言って、セマリア神官はそのカイトシールドを差し出して来る。

 あなたはちょっと検めさせてもらうと断り、それを手に取った。

 

 素材はごく普通の金属……シルバー製だと思われる。

 銀は武具の材料としては不適当なので、やはり祭器なのだろう。

 形状は微妙に小さめなので、カイトシールドともヒーターシールドとも言える。

 

 なにか強力な魔法のオーラが秘められていることが分かる。

 あなたはそれに向けて『鑑定』の魔法を放つ。

 

 『鑑定』の魔法はその物品の特性を読み取る魔法である。

 と言っても、物質的特性などを読み取るのは不得意なものだ。

 実態としては、魔法のパワーの探知を行うもので、この大陸の『魔法探知』と同様のもの。

 ただ、その精度と威力が段違いと言うだけである。

 

 あなたの占術により、カイトシールドのパワーが明らかとなる。

 そして、あなたの脳裏に飛び込んで来た鑑定結果にあなたは目を見開く。

 

 この盾は、イモータル・レリックだ!

 この世に唯一無二(ユニーク)の盾。

 これを余人に渡すとは、そんなことをしていいのだろうか。

 これはまず間違いなく神の意志が関わる種類のレリックだ。

 それを迂闊に他人に譲渡するのはまずいのでは。

 

「お察しの通りです。それこそはザイン様が私に下賜されたもの。『砕けぬ盾』です。着用者に信仰の戦士たる力を与え、その生命を頑健に守護する、不壊の恩寵……」

 

 あなたはそれをそっとフィリアに渡した。

 フィリアは慌てて受け取り、それをしっかりとつかむ。

 持ってたらなんか神罰とか下されそうだったので……。

 

「これは……まず間違いなく神器です。よいのですか? その、二重の意味で、いいのでしょうか?」

 

 これを人に渡しちゃって大丈夫なのか。

 そして、受け取っちゃって自分は大丈夫なのか。

 フィリアが抱く不安はそんなところか。

 

「あなたもまた、信仰の戦士です。新たなる風にザイン様はお喜びになるでしょう。その盾はそうして潰えぬ信仰と共に継承されて来たのですよ」

 

 そう言うことなら、たぶん大丈夫なのだろうが。

 しかし、これはあなたが受け取ったらまずいやつ……。

 実質、フィリア専用の装備と言うことになるか。

 

 これは……どういう風に分配したものだろう?

 やはり、フィリアが盾を自分のものにし、その価値分の金銭を他のみんなに渡すべきか。

 しかし、そうだとして『砕けぬ盾』の価値をどのように算定するのか。

 

「あの、お姉様……借金って、できますか……!」

 

 フィリアが決意を宿した眼で尋ねて来た。

 やっぱり欲しいのだろう。あなただって欲しいし。

 借金については無利子無催促でオーケーだ。

 これを手に入れる機会は見逃してはならないだろう。

 

「ありがとうございます! では、皆さんへの報酬は私が納得いただける額をご用意いたします! いえ、厳密に言うとお姉様が用意してくださるのですが……それでよいでしょうか!」

 

 フィリアの宣言に他の面々は頷く。

 

「もらえるものがもらえれば文句はないわ」

 

「私もです。ただ、その盾、後でちょっとよく見せていただければなぁ、と」

 

「十分な報酬があれば、それでよいでしょう」

 

「で、お代はいかほどいただけるんで?」

 

 そのように答え、とりあえずの賛意は示してくれた。

 まぁ、具体的な額については後ほど詰めるとしよう。

 すぐに答えが出るようなものでもないし。

 

 さて、では、このように意見の統一はなった。

 あなたたちEBTGと、リフラはこの戦いに参陣する。

 そこまではいいのだが……疑問が色々とある。

 

 なぜこの神殿は襲われているのか。

 襲われているとして、いつまで戦えばいいのか。

 そして、なにをどうすれば依頼成功とみなされるのか。

 そのあたりのことを詰めないと、依頼受諾とはいかない。

 

 まずは、そのあたりを聞かせて欲しい。

 その上でどのように立ち回るかを決めなくては。

 

「ええ、もちろんですが……皆さんはいったい……? 巨人帝国との戦いは、人の類ならばみな存じているものかとばかり……」

 

 セマリア神官は首を傾げつつも、あなたたちに事情の説明をはじめた。

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