あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「われわれ人類が巨人たちに反旗を翻し、人間の国を(おこ)したことは皆さんもご存知でしょう」

 

「人が人らしく生きられる世界。それを啓く戦いは未だ続き、一進一退の攻防が続いております」

 

「ここは知っての通り、巨人帝国の領域にほど近い前線と言える場所」

 

「しかし、ここより幾分か先に、われわれ人類の側の城砦があったのですが」

 

「そこが陥落したか、どうにか迂回して来たか……巨人どもが押し寄せて来たのは、ほんの10日ほど前のことです」

 

「われわれは必死で応戦しましたが、ここは前線とは言え後方の神殿です。一線級の者はおりません」

 

「もはや陥落も時間の問題だったのです。ですが、あなた方のお蔭で持ち直すことができました」

 

「後方に急を報せる早馬はすでに出しましたが、救援が来るまで3日はかかるでしょう」

 

「それまでの間、この神殿を守る戦いに助力を願いたいのです」

 

 セマリア神官の説明は簡潔なものだった。

 分かり易くていいのだが、しかし、内容が……。

 

 巨人帝国に反旗を翻し、人間が国を興した。

 なんか、以前に聞いたことのある話だ。

 あなた以外の面々も顔を見合わせている。

 

 かつて、この大陸に存在した迷宮は巨人族が創り出したという伝説。

 奴隷種族である人間はそこに送り込まれて巨人族のために富を掘り出した。

 迷宮での戦いで人間は急激に力をつけ、やがて巨人族に反旗を翻した。

 それによって人類の国が築かれ、やがては大陸すべてを席巻した超大国クヌース帝国が誕生した。

 

 具体的に何年くらい前の話かは知らないが。

 それこそトイネ建国よりも前だろうから、数百年は前の話だ。

 あなたたちが疑問に首をひねっている一方、リフラが口を開く。

 リフラはおそらくこの大陸の歴史を知らないのだろう。興味なさそうだし。

 

「事情は分かりやした。つまり、あたしらはここで3日間必死こいて戦えばいいわけだ」

 

「はい。あと3日……それだけ時間を稼げば、かならずや救援が来るはず。そうなれば、この状況は打開できるはずです」

 

「なるほど。まぁ、伸びる可能性もあるとは胸に刻んどきますかねぇ。救援ってのは、どう要請したんで?」

 

「最も腕利きの聖騎士を送り出しました。彼らがかならずや救援を連れて来てくれるはず」

 

「ははぁ、なるほど」

 

 なんとも不安げな情報だが、今はそれしか縋るものがないのだろう。

 あなたはそれらの情報を聞いた上で、提案した。

 

 魔力は眠れば回復する。

 なので、フィリアとレウナはしっかり休んで魔力を回復。

 この神殿の騎士たちを癒し、戦力を回復させる。

 騎士たちでこの神殿を守れるだけ回復させるのだ。

 その後、あなたたちEBTGは打って出る。

 

 ここから幾分か先にあると言う城砦。

 そこまで打通(だつう)し、攻撃を仕掛ける。

 敵を混乱させられれば幸い、最善を言えば敵将を討ち取りたい。

 この神殿を守るのにも、その後の城砦奪還にも役立つだろう。

 

「なんと、そこまでしていただけるのですか」

 

 そんくらいしても罰は当たらないくらいの報酬はもらっている。

 イモータル・レリックはそれだけ凄まじい価値のある品だ。

 金貨100万枚積んだって買えないほど貴重なものなのだ。

 

 報酬が多いのはいいことだが。

 だからと言ってもらい過ぎはよくない。

 報酬分の働きはすべきだ。

 

 あとはまあ、ここが巨人帝国のあった時代なら。

 巨人たちは迷宮から掘り出した武具を使っているだろう。

 そりゃもうすばらしい価値のある品に違いない。

 特に軍の指揮官となれば、装備品だけで莫大な財産のはずだ。

 それを奪い取ってしまえるなら奪い取ってしまいたい。

 

 EBTGはすでに神話の英雄の領域にまで足を踏み込んでいる。

 いかに古代巨人族が強大な種族であろうと、負けの可能性は低いだろう。

 油断は禁物だが、勝てる勝負に挑まないのはもったいない。

 

「なるほど……たしかにね。迷宮産の装備や道具で身を固めた巨人族……すごいお金になるわ……額次第じゃ、もう1つ研究も……!」

 

「どえれぇ金の匂いがする話ですねェ。なかなか素敵な話でさァ」

 

「巨人サイズの武具の売買はちょっと手間取りそうですが、たしかにすごい額になりそうですね」

 

 みんなも乗り気のようだ。

 特にレインは超乗り気らしい。

 がっぽり稼いでやろうではないか。

 

 研究費もそうだが、まだまだ欲しい装備もあるだろう。

 もっと強力な魔法のアクセサリーだっていくらでもある。

 高額かつ強力な消耗品類をもっとストックしておきたいだろうし。

 金なんかいくらあってもいいのだ。

 稼げる機会を逃すのはもったいない。

 

「いいわ、やってやろうじゃない。巨人族の城砦に攻め込んで、残らず始末して根こそぎ奪い取ってやるわ!」

 

 もうちょっと言葉を飾ろう。

 それだとただの押し込み強盗だ。

 

「ああ、うん……巨人族の城砦で正義を成して、人々の心身を慰める戦利品を得ましょう!」

 

 大変結構。あなたは頷いた。

 そう言うわけだが、いいだろうか?

 あなたはセマリア神官に許諾を求めた。

 

 報酬はもちろんそのままでいいし。

 ただ、打って出ることを認めてくれればそれでいい。

 

「ええ、ええ、もちろんです。あなた方が、それほどに正義の戦いに助力をくださるのならば、否はありません」

 

 セマリア神官の許可は得られた。

 ならば、あとは進むだけ。

 

 まずはこの神殿の騎士たちを回復させること。

 そのためにはフィリアとレウナの魔力が必要だ。

 2人のことは温存し、他のみんなでこの神殿を守らなくては。

 

 襲撃がなければ、明日には騎士たちを完全回復まで持っていけるはず。

 そこからまた魔力を回復させ、出撃できるのは明後日か。

 もちろん、途中で襲撃があり、魔力を消耗すればさらに先に延びる。

 ここが踏ん張りどころだ。みんな被弾を抑え、魔力も節約していこう。

 

「まぁ、幸いと言うべきか、うちは取れる手段の多いチームだもの。やりようはいくらでもあるわ」

 

「そうですね。フィリアさんもレウナさんも、魔法以外の戦闘手段がありますから。傷を負わないようにだけ気を付けましょう」

 

「無理はするなよ。被弾を抑えるのを意識し過ぎると、逆に動きが悪くなるからな」

 

「では、私は早期警戒のために斥候に出ます。先制攻撃で仕留め切れるよう努力します」

 

「そのあたりはあたしも手伝いやしょう。狩人の真似事はできますぜ。レウナさんに付き合って覚えやした」

 

 各々が動き出し、巨人族の襲撃のための準備が整えられていく。

 古代巨人族は強大だったと言うが、いったいどれほどか……。

 なぜ現代の巨人族は零落してしまったのか、その謎は解けるのか。

 戦う時が楽しみだ。

 

 

 

 それから、あなたたちは防衛に気を張りつつも、身を休めた。

 クロモリが斥候に出て、敵を発見したら出撃して始末する。

 それだけで済めばよかったのだが、さすがにそううまくもいかない。

 

 相手方にこちらの神殿の位置はバレているわけで。

 逸って独断専行した馬鹿ばかりとはいかず、きちんと戦力を集結してから攻め込んで来る手合いもいた。

 

「小人どもの神ごと踏みつぶしてしまえ! 進め! 傭兵ども!」

 

 そのように指示を下すのは、全身に深紅の輝きを宿す刺青を施された巨人。

 その明滅する刺青からは恐るべき魔法のオーラが放射されている。

 身の丈15メートルを超える豪壮な体躯は黒光りする輝きに覆われ。

 まるで燃える炎のような赤毛が風も無いのにゆるやかに靡いている。

 古代巨人帝国が創り出した、恐るべき大将軍。魔法の巨人。

 

 他の巨人族を支配し、強化する力を持つ生粋の将軍。

 そして、その配下として引き連れているのも当然のごとく巨人。

 

「進め! 将軍閣下のために!」

 

「壁ごと蹴り潰してしまえ!」

 

 そんなことを口々に叫びながら攻め込んで来る巨人たち。

 グレートアックスを手にした牛頭の人怪(じんかい)、ミノタウロス。

 さして賢くもなく、巨人の中では弱小の種族であるはずの彼らだが。

 

 10メートルに迫ろうかと言う、尋常ではない巨躯。

 普通のミノタウロスは、いいところ4メートル程度。

 先日のトロールもそうだったが、巨人たちが明らかに大きい。

 古代の巨人は巨大だったというが、まさか本当に……?

 

 そんなことを考えつつも、あなたは弓に矢を番える。

 神殿の屋上であなたたちは弓を手に迎え撃っていた。

 神殿へと迫りくるミノタウロスへと向けて、剛射を放つ。

 あなたの狙いすました一撃がミノタウロスの脳天を直撃。その頭蓋を穿つ。

 

「しっ!」

 

「どいつもこいつもばかにでかいな。狙わんでも当たるわ」

 

「楽でいいです」

 

 そして、クロモリとレウナ、サシャも同様に弓で応戦。

 クロモリは一息に3本の矢を番えて放つ弓の熟達者ならではの荒業を披露している。

 一息に9の矢が放たれ、ミノタウロスをハリネズミにして撃破。

 あなたたち以外の神殿の騎士たちも同様に弓矢で応戦している。

 

 あなたたちの方が目に見えて撃破数が多いが。

 これはやはり、膂力もあるが技量の差だろう。

 聖騎士たちの本領はやはり、武具を手にした近接戦なのだから。

 

「ミノタウロスの傭兵どもを突っ込ませるばかりでは話にならんか……者ども! 集合しろ! 密集陣形! 盾を使え!」

 

 魔法の巨人の号令にミノタウロスの集団がまるで生き物のように蠢く。

 魔法の巨人の支配力は、傭兵に整然とした軍事行動を可能とさせるのか。

 恐ろしい支配力と強制力、その柔軟性にあなたは思わず感心する。

 

 あなたたちの見ている前で、ミノタウロスが密集陣形を取る。

 そして、ミノタウロスが手にしたのは、大変に粗雑な盾。

 いや、それはもういっそのこと薪の束と言った方がよかった。

 

 長く太い枝を、ロープで幾重にも縛った巨大な塊。

 あなたたち人間にすれば長く太い枝でも、巨人には小枝に過ぎない。

 おそらくは薪として使おうと持ってきたものなのだろうが。

 分厚く大きな木の束は、強力な防楯(ぼうじゅん)として働く。

 

「こいつはまずいぞ」

 

「あんなもの持たれたら……!」

 

「狙い撃ってください。気合で」

 

「そんな無茶な」

 

 サシャとレウナが渋い顔をする中、クロモリは涼しい顔で無茶振りをする。

 薪束に隠れた体を狙い撃つのはちょっと難しいだろう。

 あなたやクロモリくらい弓に熟達していれば出来なくはないが……。

 そんなあなたにしてもできるとは自信を持って言えない難易度だ。

 

「まぁ、見ていてください」

 

 クロモリが矢を番え、じっくりと狙い澄ます。

 薪束を手に前進してくるミノタウロスの威圧感にも負けず、放たれた矢。

 それは寸分の狂いも無しに薪束の合間を縫い、その背後のミノタウロスの眼球を貫いていた。

 

「おお……」

 

「わぁ、すごい! 薬師様すごい!」

 

 レウナとサシャが称賛の声を上げ、クロモリがふぅと息を吐く。

 出来るとは言え、かなりの難易度なのだろう。

 気を張らなければできないらしい。

 

 あなたも矢を番え、それを放つ。

 薪の隙間を縫い、ミノタウロスの頭部に矢は迫り……。

 しかし、その眉間を貫くはずだった矢は、ミノタウロスの角に当たって弾かれた。

 やっぱりむずかしい。クロモリはよく当てたものだ。

 

「くぅ、薬師様以外にはできないとなると、打って出るしかありませんか」

 

「やむを得んな。剣はあまり得意ではないのだが」

 

 まぁ、やむを得まい。やるとしよう。

 あなたは弓を手に屋上から飛び降りる。

 あなたに続いて、レウナとサシャも飛び降りた。

 

 そんなあなたたち3人を援護するように、クロモリの矢が飛翔する。

 それを頭上に置きながら、あなたたちはミノタウロスへと殺到する。

 

「遅れを取るな! 我らはザイン様の聖騎士! 恐れを知らぬ闘士だ!」

 

「勝利の凱歌(がいか)に我らの犠牲が必要ならば、屍を積むことに異はない!」

 

「前へ! より前に! 彼女たちよりもさらに1歩先へ!」

 

 あなたたちに続いて聖騎士たちが神殿から出撃してくる。

 昨日の治療で回復した中で、腕利きの者たちだ。

 この神殿にいる騎士たちの平均的な戦闘力は大変に高い。

 これで一線級の戦士たちでないと言うから驚きの強さである。

 上級神官であるセマリア神官に至っては、聖騎士だと言うのに4階梯呪文まで使える猛者だ。

 

 あなたたちはそんな彼らを引き連れて突撃する。

 サシャが剣を抜き放ち、レウナもまた剣を2振り手に取る。

 あなたは弓の弦を意味もなくびょいんびょいんと鳴らした。

 

「……あの、ご主人様、剣は?」

 

 今日は弓の日だから弓でやる。

 

「弓の日ってなんですかね」

 

「それはまぁ……弓がお得な日なんだろう」

 

「弓専門店の割引って聞いたことないですよ」

 

「弓が飲食店で割引を受けられる日かもしれんだろ」

 

「すみません、弓って飲食店でなにするんですか」

 

「飲食店なんだから飲食に決まってるだろうが」

 

「ちょっと混乱してきました」

 

 適当なことを言うレウナに混乱するサシャ。

 あなたは苦笑しつつ、弓に矢を番える。

 まだ戦いは始まったばかりだ。やるとしよう。

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