あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたたちは駆ける。敵へと向かってひたすらに。

 そして、それをただぼんやりと見ているほど敵も間抜けではない。

 魔法の巨人(マナ・ジャイアント)が手振りと共に大音声(だいおんじょう)で号令を発する。

 

「迎え撃て! 盾をばら撒くのだ!」

 

 びりびりと空気を振動させる号令に従い、ミノタウロスが盾をぶちまける。

 結束していた縄がちぎれ、あなたの腕ほどの太さがある木の枝が飛散する。

 あなたはそれを躱しながら突き進み、高く跳躍する。

 

 ミノタウロスの眼前にまで跳躍したあなたは弓に矢を素早く番える。

 空中で放たれた矢がミノタウロスの額を貫いた。

 あなたは死体となったミノタウロスの頭に着地、さらに跳躍。

 次なるミノタウロスにもまた矢を叩き込んで奥へと侵攻する。

 

 1射1殺しながらの真っ正面からの強行突破である。

 ミノタウロスに号令を発している魔法の巨人を打ち取りたい。

 あなたはそうした意図の下に真っ直ぐ突き進んでいた。

 

「親衛隊! 前に!」

 

 ミノタウロスを強行突破。

 そして、次にあなたは親衛隊だろう黄金の肌を持つ巨人に相対する。

 その身にまとう黄金のオーラは視覚的に輝いていることがわかる。

 おそらく太陽の巨人(ソーラー・ジャイアント)。これもまたきわめて強大な巨人族だ。

 

 かつては生ける者すべての守護者であり、善なる者の同盟者だったという。

 慈悲深き恩寵(おんちょう)成す者、太陽を背に戦う誉れ高き善なる巨人。

 しかし、それも過去の話。いまや誉れ高き者はいない。

 

 殺戮の快楽に酔い痴れ、悪に堕ちた者がほとんどだと言う。

 ザイン神の聖騎士たちが嘆きながらそのように語っていた。

 かつてはこの黄金の肌を持つ巨人と肩を並べて戦ったことがあったのだろう。

 

 あなたはそんな黄金の巨人の振るうフレイルを躱す。

 身体能力も武器を扱う技術もミノタウロスとは比較にならない。

 十分な訓練を積んだ、超一流の戦士たる技量がある。

 

 だが、その程度で捉えられるほどあなたも甘くはない。

 大地を揺るがすフレイルの一撃を躱し、垣間見えた隙間に矢を放つ。

 その一撃を受けた太陽の巨人がぐんにゃりと崩れ落ちた。

 矢の1本で死ぬほど巨人はやわではない……そこに魔法の効果がなければ、だが。

 

「なにっ!? まさか、巨人殺し(ジャイアント・スレイング)か! 小癪な真似を!」

 

 特定種族にのみ強力に作用する呪いがある。

 魔法の巨人が言うように、巨人相手なら巨人殺しの呪いだ。

 あなたはそれが込められた矢を使ったのである。

 効かない場合もあるが、その場合でも多少なりのダメージは与えられる。

 そして、効けば相手を即死させるのである。

 

「迂闊な真似をすれば死ぬるぞ! 防御を固めるのだ!」

 

 そのように指示を下し、配下の防御を固める魔法の巨人。

 実際のところ、あなたは『巨人殺し』の矢を1本しか持っていなかった。

 売っていたものを各種族ごとに1本ずつ買ってみたものの残りだ。

 なんせ1本金貨400枚超とか恐ろしい値段設定なのだ。

 さすがにこんなもんバカスカ撃っていられない。

 

 だが、使った甲斐はあった。縮こまっちゃってかわいい。

 あなたは手近にいた太陽の巨人を足場として駆け上り、魔法の巨人へと一挙に迫る。

 矢を一気に4本番え、弓を絞れるだけ絞っての剛射だ。

 

「下がれ下郎!」

 

 魔法の巨人が叫び、その体に明滅する刺青が眩い光を放った。

 太陽の巨人から放たれている光のオーラも相まってあなたの眼を焼く眩しい光。

 あなたの眼が眩み、放とうとした矢は適当な位置に放たれた。

 

 そして、あなたの体に衝撃。

 あなたは弾き飛ばされて地面へと落着する。

 眩む視界の中、あなたの周囲に巨大な足音が殺到してくる。

 

 なるほど、太陽の巨人は視界不良に耐性があるのか……。

 当人がピカピカ眩しいお陰なのか、そんな特性があるとは。

 だから魔法の巨人も遠慮なしに目つぶしをしてくるわけだ。

 あなたはそんなことを考えながら、太陽の巨人たちに袋叩きにされた。

 視界が効かなくて逃げようがないんだからしょうがない。

 

 いてっ、あ痛っ、うぐっ、いたたっ! あ痛ェ~!

 などと文句を垂れつつもあなたは打撃に耐える。

 

「へたくそども! 当たっておらんぞ!」

 

「ちょこまかと!」

 

「すばしっこいちびめ!」

 

「その小賢しい足をちぎり取って、木にくくりつけてやる!」

 

「逃げるな小人めが!」

 

 逃げてないし避けてもないのだが。

 いくら当たっても痛ェと文句を垂れるだけなので。

 巨人目線では当たっていないように見えるらしい。

 

 ようやく視界が戻って来たところで、ふと空間の歪む感覚。

 あなたがふとそちらに目をやると、そこにはサシャが出現していた。

 4階梯魔法の『短距離転移』を使って回り込んで来たらしい。

 

「おおっ!」

 

 裂帛の気合と共に振るわれる剛剣一斬。

 それは太陽の巨人の一体の足首を華麗に切り飛ばしていた。

 

「ぐわっ!」

 

 悲鳴と同時に崩れ落ちる太陽の巨人。

 サシャがその顔面に向かって、トロールにも使っていた強酸の武器を突き刺す。

 太陽の巨人の悲痛な絶叫が響き渡る中、風のような速さでレウナが切り込んで来た。

 

「油断大敵だな」

 

 レウナの手にした剣が、巨人のスケイルメイルをまるでないかのように切り裂く。

 そのおぞましい切れ味と、剣に宿る致命の死のエッセンス。

 それは切り裂かれたものを瞬く間に死に誘った。

 ぐらりと巨人が崩れ、そのまま地に没した。

 

「ご主人様! ご無事ですか!」

 

 無事無事。あなたはそう答えつつ、手にした弓を確認する。

 幸いにも壊れてはいないようだ。

 

「ええい! 小賢しい人間どもめ! まずはそこな剣士どもから殺してやる!」

 

「大人しくしろ! 貴様の頭蓋でビーズを作ってやる!」

 

 太陽の巨人はサシャとレウナに狙いを定めたらしい。

 手にしたモーニングスター、フレイル、剣を振るって2人へと襲い掛かる。

 

「ふんっ!」

 

 サシャが『ポケット』から取り出したアダマンタイト製のグレートクラブ。

 その強度と重量を用い、フレイルの一撃を真っ向から弾き返す。

 そして、反撃に太陽の巨人のすね当てを叩き壊しながらその足をへし折った。

 

「私は小賢しいが、貴様らはせせこましいわ」

 

 レウナはモーニングスターの一撃を躱すと、そのまま太陽の巨人の足を駆けのぼった。

 驚異的な身のこなしが可能とする恐ろしい軽業だった。

 走り抜け様に腕を滅多切りにし、辿り着いた首筋へと深々と剣が捻じ込まれる。

 まるで噴水のように勢いよく血が噴き出し、太陽の巨人が崩れ落ちる。

 

 あなたは負けていられないと奮起し、弓に矢を番え、放つ。

 あなたの意気込んだ引き絞りに耐え切れず、弓が弾け飛んだ。

 なにもしてないのにこわれた……あなたは唖然とする。

 ボルボレスアスで作ってもらったお気に入りの強弓だったのに……。

 

「くははは! まぬけめ! 2度と弓を握れんように、捻り潰してやる!」

 

 太陽の巨人があなたを嘲り笑いながら殴りかかって来る。

 あなたの脳天にモーニングスターが直撃する。やや痛い。

 あなたはイラッと来て、手にした弓のパーツを投げつけた。

 太陽の巨人の頭が爆散した。よし、弓で勝った。問題ない。

 

「ゆ、弓関係ないー!」

 

「ただの馬鹿力だろそれは……」

 

 サシャとレウナがそのように突っ込んで来る。

 弓を使って勝利したのに間違いはないのでそれでいい。

 あなたは剣の腹で敵を殴り倒しても剣で勝利したと考える。

 それと同じように、弓で殴り殺しても弓で勝利したのに違いはないと考える。

 

「まぁ、次はちゃんと手加減して弓を引くんだな」

 

「って言うかご主人様は剣で戦ってください!」

 

 言いながら、弓を連射して太陽の巨人を仕留めるレウナ。

 サシャはジャベリンを取り出してそれを投げ放つ。

 太陽の巨人がサシャとレウナの一挙動ごとに容易く仕留められていく。

 

 本当にみんな強くなったものだ。

 この程度の相手には苦戦すらしない。

 あとでたっぷりと褒めてやらなくては。

 

 

 

「ぬ、ぬぬ……! 馬鹿な、なぜ人間ごときにこれほどの勇士がいるのだ……! なぜ、我らの精鋭が負けるのだ! ありえぬではないか!」

 

 都合8名いた太陽の巨人が接敵から1分足らずで全滅。

 それを前に、援護すらもろくに出来なかった魔法の巨人が、そんな悲鳴のような泣き言をこぼす。

 まぁ、彼の言うこともわからないではない。

 

 ミノタウロスの傭兵たちはすさまじい強さだった。

 ベテラン冒険者たちでも1体を相手取るのが精一杯だろう。

 それが徒党を組んで押し寄せて来たのだ。

 現在の地上に、それを押し返せる軍隊は存在しまい。

 

 そして、それをも遥かに超越している巨人たち。

 親衛隊である太陽の巨人は無論、その首魁の魔法の巨人。

 それらはまさに生ける伝説であり、災厄にも等しい脅威。

 10名に満たない巨人たちだけで、ひとつの国を滅ぼして余りある。

 それが負けるなど、まずありえる事態ではない。

 この古代巨人族の精鋭はそれほどの強者だった。

 

 だが、EBTGはそれより強くなった。

 

 ただそれだけの、シンプルで残酷な真実がある。

 あなたはもちろんのこと、サシャもレウナも。

 特に深い理由や、驚くべき秘密もなく。

 この巨人たちより普通に強い。それだけだ。

 

「この屈辱、雪がねばならぬ! いま! すぐに! ここでだ!」

 

 そう、魔法の巨人が絶叫し。

 その胸を力強く叩く。

 

 その瞬間、全身に刻まれた深紅の刺青が力強く脈動をはじめた。

 放たれる驚異的な魔法のパワー。空間すら歪もうかと言うほどの力。

 サシャとレウナが目を細め、そのエネルギーの奔流に目を凝らす。

 

「参るぞ! 小人ども!」

 

 魔法の巨人が腰に下げていたロングソードを抜き放つ。

 将軍と言うからには飾りものかとも思っていたが。

 それは豪奢な作りでこそあれ、堅実な性能が伺える高品質のロングソードだった。

 身に纏う鎧も、この調子では飾りではないか。

 

 そう思った直後、魔法の巨人の姿が掻き消える。

 どこへ、そう思った直後、サシャの目前に大上段に剣を振りかぶった魔法の巨人が現れた。

 

「わっ! わぁっ!」

 

 驚きながらもサシャが剣を構える。

 サシャの剣と魔法の巨人の剣が激突し、恐ろしい轟音が響き渡る。

 

「ぎ、ぎぎっ……! お、重いいぃ~……!」

 

 呻き、がくがくと震える剣で巨人の剣に抗うサシャ。

 サシャの強化された身体能力と、何種類かの強化魔法。

 それらによってまさに超人と言うほかにない身体能力を得ても。

 やはり、圧倒的な巨躯を持つ巨人の膂力はすさまじいものだった。

 

 巨人の腕に刻まれた刺青が輝く。

 すると、さらに勢いを増してサシャが押し込まれた。

 

「も、もうだめ……!」

 

「下がれでくのぼう!」

 

 レウナが弓を引き絞り、それを放つ。

 巨人がそれを睨みつけると、空中に突如として現れる矢避けの防護。

 レウナの矢はそれによって絡め捕られ、空中で力を喪って落下する。

 

「馬鹿な汚いぞ! そんなんアリか!」

 

 あなたが愛剣を抜き放ち、巨人へと向ける。

 そして、『魔法の矢』を放つ。

 巨人があなたの放った『魔法の矢』を睨む。

 先ほどと同じように、空中に力場の防護壁が展開される。

 

 複数種類の魔法を宣言詠唱すら無しの瞬間発動。

 あの刺青に秘められたパワーの力とは思うが、凄まじい力としか言いようがない。

 

 あなたとレウナの援護は防がれた。

 巨人を阻むものはなく、サシャが地面へと打ち込まれた。

 

「い、いたい……痛いぃぃ! 痛いんだけどぉぉお! なにして、くれるのよ、おまえぇぇ――――!」

 

 サシャがキレた。ちょっとこわい。

 地面から這い出して来たサシャが剣を振りかぶる。

 そして、真っ向から突っ込んでいく。

 

「捨て身か、小人め! ならば叩き潰してやる!」

 

 魔法の刺青がより一層強烈な輝きを放つ。

 15メートルを超える巨躯はさらに巨大なものに変化し。

 全身の筋肉が盛り上がり、その皮膚に複数の防護魔法が展開される。

 

 5階梯以下の呪文を息をするように平気で連発している。

 そして、巨人の周囲にいくつも浮かんでは待機する巨大な火球。

 あれはおそらく7階梯呪文の『遅発火球』だろう。

 無数には使えずとも、高位呪文ですら宣言詠唱無しに使えるらしい。

 

「おおおぉぉぉぉ――――!」

 

「ぬああぁぁぁぁ!!!!」

 

 サシャの絶叫と魔法の巨人の雄叫び。

 放たれる『熱線』『火球』『氷嵐』と言った低位呪文。

 それに混じって放たれる、巨大な『遅発火球』。

 

 炸裂する秘術のエネルギーの奔流の中をサシャが突破。

 それを迎え撃つ巨人のロングソードの一撃。

 サシャが全身の重みを乗せて、体全体で振るう剣戟がそれを横合いへと弾き飛ばす。

 

 各種のエネルギーに焼かれたサシャ。

 だが、複数の攻撃を潜り抜け、サシャは魔法の巨人へと肉薄した。

 

「死ねッ!」

 

 そんなシンプルな悪罵と共に、サシャの渾身の連撃が放たれる。

 手にした剣とは別に握られた、ウカノより授けられたレリック瑞穂狐に雷が宿る。

 その瞬く紫電は神技(しんぎ)雷切(らいきり)』に相違なく。

 信仰の深さでより威力を増す、まさに信仰者のための神技。

 

「ばかな……人間に、これほどの強者がいるなど……! 奴隷、風情が……!」

 

 その雷に肉を焼かれ、骨を砕かれ。

 その生命の火を強引にかき消された魔法の巨人は地に付した。

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