神殿に帰還。
しょぼしょぼした顔の聖騎士たちが出迎えてくれた。
まるで博打でスッたかのようだ。
いったいどうした。
「面目ない……あなた方に追いつくことすらできなかった……」
「どうして私は馬を賜らなかったんだ……」
「俺は恥ずかしい! もう生きてはおられん!」
などと喚いて自害しようとするアホ騎士をしばいて止める。
あなたは騎士たちに熱弁を振るう。
君たちが居て、神殿を守ってくれていた。
そして、私たちの背後を守っていてくれたではないか。
ひとつの戦いに参陣できなかったことを恥じても意味はない。
また次、その次にもまた戦いはある。
なにも気落ちすることはないのだ。
あなたはそんな詭弁で騎士たちをごまかした。
次があったら、たぶん次も同じことになる。
でも今回を誤魔化せたらそれでいいだろう、たぶん。
「う~ん、冷たい言い方になるけど、実際に足手まといなんですよね……ミノタウロスくらいなら倒してくれるでしょうが……」
ミノタウロスの強さはすさまじいものだったのは間違いない。
だが、太陽の巨人や魔法の巨人はさらなる強さだった。
ミノタウロスを倒せるくらいでは足手まといでしかない。
彼らの強さはミノタウロス以上、太陽の巨人以下か。
まぁ、一流冒険者並み、あるいはそれ以上。
英雄と言って差し支えないほどの強さではあるのだが。
その程度では話にならんレベルの戦いでもある。
「ミノタウロスやトロール相手なら十分に勝てる、善戦はできますが、それ以上となると……と言うところですね……」
悲しいがそう言うことだ。
あなたたちが来なければ、先ほどの襲撃で全滅だったろう。
いや、全員が無事で戦えれば……それでも厳しいか。
太陽の巨人1人くらいならイケるかもだが、8人は無理だろうし。
「ともあれ、疲れました。休みましょう。おなかもぐるぐるしてますし……」
あなたは頷いて、サシャと共に神殿に入った。
索敵はこの森をよく知る者たちや、野歩きのプロであるクロモリに任せよう。
神殿に引き上げ、体を休める。
その後、疲れた体を満たす食事を取る。
幸いと言うべきか、この神殿の食糧事情は良好である。
長期戦になって疲弊しきっているというわけでもなく。
突然の攻撃を受けて壊滅、そこで辛うじて持ち堪えていた状況だ。
平常の食料を使い切るほどの時間も経っていない。
あなたたちも遠慮なく食事を取れるというもの。
飢えた相手に潤沢な食料を見せてはいろいろと都合も悪い。
なんとか譲ってもらおうとか、なんなら奪おうとしてくる。
1人や2人ならともかく、10人も20人も分けてられない。
そんな面倒な諍いはない方がいい。
「まぁ、見る限りはかなり質素な食事をしているみたいですが……」
フィリアの言う通り、聖騎士たちの食事は質素だ。
麦か米のポリッジ。そこにちょっとしたおかず。
量はなかなかのものだが、質がかなり微妙である。
あんなのでよく聖騎士たちは体を維持できるものだ。
普段は近隣の森で狩猟でもしているのかもしれない。
あなたたちは肉や野菜も遠慮なく食べる。
あなたの『四次元ポケット』に備蓄された食料は膨大だ。
「へぇっへっへっへ……どうぞ、あたしにも飯を恵んでくだせぇ」
懇願して来たリフラにも食料は分けてやった。
憐れっぽく恵んでもらおうとする仕草に忌避の色はない。
食事を恵んでもらうことに慣れているらしい。
それはそれでどうなんだ。
毎日美食に耽溺できるほどの財力を築ける力があるのに。
ぐうたら過ごしては人に食事を恵んでもらう。
なんと言うか、あなたには理解できない種類の生き方だ。
いや、ぐうたら過ごしたいと言う気持ち自体はわかる。
人間だれだって怠惰なものだから、働きたくないものだ。
働かずに食う食事ほど美味いものはないと言うし。
しかし、そんな思想の持ち主が、英雄と言えるレベルの強さを身に着けられるだろうか。
そんな怠惰な人間が絶え間ない研鑽に身を投じるだろうか。
なんと言うか、リフラの性格がいまいち読めない……。
食事の後は入浴して汗を流す。
残念ながら神殿に入浴設備はなかった。
しかし、沐浴のための設備はあった。
神殿内部に貯水池があり、そこで身を洗い清めるらしい。
「最近ではあんまり見ない、オールドスタイルの貯水池ですね。いまはコンクリートが多いです。段々に作った構造の方が、いろんな体格、年齢の人に対応できて親切ですから」
フィリアの言うように、貯水池はごくシンプルなものだ。
地面を掘って、その下に自然石を敷き詰めたもの。
規模はなかなか大きく、同時に100人くらいは沐浴できそうだ。
貯水池の中心には祭壇が置かれており、宗教施設であることが伺える。
「水はそう汚くはないとは思いますが……うーん。どうでしょう」
まぁ、みんなここで沐浴をしているのだ。
病気になったりするほど汚れてはいないだろう。
いまはとにかく汗を流したいのだ。
熱気林の周辺はとにかく湿度が高い。
そんなところで長時間の活動をすると、体がべたべたして不快でたまらない。
そうなったらやはり体を水で洗い清めるのが最善である。
「ご主人様、すっかりお風呂好きになりましたよね」
もともとエルグランドでもお風呂は好きだったよ。
あなたはサシャの認識を訂正する。
「そうですか? 前は暑い時はお風呂は嫌だとか、湯船にしっかり体を浸けるのが面倒くさいって言ってませんでした?」
それは今でも思ってるけども。
エルグランドの温泉地で保養をしたりと言うことはあった。
湯けむりに火照る美女たちの柔肌の美しいこと……。
温泉旅館でお酒飲みながらごはん食べて、可愛い女の子にお酌してもらって。
気に入った子が居たら、そのまま夜のお誘いをして。
興が乗ってきたら娼館にまで遊びに行って……。
お風呂最高!
「それはお風呂ですかね……私はお風呂で身体を洗うのが好きになりましたよねと、そう言いたいんです」
なるほど、それはたしかにあるかもしれない。
こちらの大陸は高温多湿で汗を掻く。
体をしっかりと洗い清める心地よさはそれに由来するだろう。
エルグランドでは2日や3日くらい風呂に入らなくても不快ではなかったし。
「うへぇ……公衆浴場とかもないんでしたっけ」
あると言えばあるが、実質的に無い。
あちらの公衆浴場は貴族の社交場みたいなものなので。
一般市民が利用できるような風呂はない。
特定の温泉施設に行くか。
自分で作るかしか手はないだろう。
「大変ですね……うーん、お風呂ってどうやって作るんだろう……今から調べておかないと……」
エルグランドに移住する時に向けての準備だろうか。
あちらは色んな意味で混沌の大陸なので、がんばって欲しいものだ。
まずは死者が3日で蘇ってくることに慣れるところだろうか。
まぁ、サシャの常軌を逸したサディズムはエルグランドでも極まった部類に入る。
やはり、特殊性癖持ちとかだと馴染みやすかったりするので。
案外サシャはあっさりとエルグランドに慣れるかもしれない。
異文化への転居の難しさについて考えながら、身体を洗って清める。
あなた以外のみんなはちょっとつらそうにしていた。
みんなお風呂に慣れ過ぎているのだろう。
冷たい水で身体を洗うのがしんどいのかも。
あなたはぜんぜんへっちゃらである。
アイスホールスイミングに比べれば暖かい。
この大陸は温暖で、水温も高いのだ。楽勝である。
「アイスホールスイミングね……凍った湖の水を割って、その下の水に浸かるんだったわよね」
その通り。
まぁ、野外に水桶を置いといて。
凍った表面だけを取り除いて浸かると言うやり方もある。
自宅の庭で出来てお手軽。ただし、居住地なので他の人に見られやすい。
まぁ、それは着衣でやればいいだけの話だけど。
「それに比べれば暖かいんでしょうけど、私たちはそんな頭のおかしい健康法はしたことがないのよ」
ごもっとも。
しかし、そんなにつらいならどうにかしようか。
魔法で水を温めてみるとか。
いや、あなたがやったら沸騰して蒸発しそう……。
レインとかフィリアなら案外うまくやってくれるかもだが。
さすがにこの規模の池を温めるのは無理だろう。
まぁ、我慢してもらうしかないだろう。
ここでの戦いが終わったら、どこかの公衆浴場にいこう。
ソーラスの『水晶の輝き』とかがいいだろう。
あそこは設備も食事もすばらしかった。
屋台のおかみにお小遣いでイイコトを持ちかけるのも実に楽しかった。
みんな冗談だと思って笑うが、そこで押すとじつに楽しい……。
慌てて驚いて、本気かと訝るが、あなたはもちろん本気。
そこで金貨を積んで本気と断言すると、だいたいイイコトさせてくれるのだ。
屋台のおかみをつまみ食いしまくるのは最高に楽しい。
身を清めたら、体を休める。
神殿なので宿坊がもちろんある。
あなたたちはその宿坊の一室を使わせてもらうことになった。
石造りの簡素な部屋だ。
寝具は木製の枠に、ロープを渡したロープベッド。
そこにたっぷりと麦わらを敷いて、シーツを被せたものだ。
割とふかふかとして寝心地がよい。
寝る前に、あなたは少しだけみんなに酒を振る舞った。
慣れない環境な上に、戦いからすぐの就寝だ。
酒の力を借りて、さっさと寝てしまった方がいい。
それから、あなたたちは夢も見ないほどぐっすりと眠った。
翌朝、あなたはフィリアとレウナを起こし、さっそく朝の治療に回った。
魔力を3割ほどだけ残して、神官も騎士も片っ端から治療。
それで騎士たちの大半が戦闘に復帰できるまで回復した。
「万全を期すならもう1日欲しいな」
「どうしますか、お姉様」
あなたも万全を期したいところだ。
騎士たちを完全に回復させておけば心配事も減る。
魔力が回復するまで休み、再度治療をしよう。
そして、それから近くにあると言う基地へと侵攻しよう。
「よし来た。では、私は寝る」
「私はお茶を飲んでから寝ようかな……魔力回復に効果があるので」
ちょっと前に起きたばっかりではあるが。
魔力を回復させるには寝るのが一番早い。
あなたはフィリアに蒸留酒をビンごと渡した。
「これを飲んで無理やり寝ろってことですね。はい」
「私にはないのか?」
欲しければあげるけど。
レウナは酒に酔わないだろうに。
「ああ、それもそうか……まぁ、せっかくだからくれ」
あなたは頼まれるがままに蒸留酒の瓶を渡した。
この大陸で手に入れた希少でもない酒なので、譲るのに抵抗はなかった。
「お姉様、すこしだけ、付き合っていただけませんか?」
自分はクロモリと斥候にでも……と思ったところで、フィリアにそう誘われる。
あなたは特に深く考えず、いいよと頷いた。
木製の器に、壺茶の茶葉をたっぷりと流し込む。
それを手で蓋をしてから振って、細かな微粒子を取り除く。
そこに少しだけお湯を流し入れて固め、壺茶用のストローを差し込む。
そのストローに添わせるように、ゆっくりとお湯を流し入れる。
その壺茶をフィリアがあなたに差し出して来た。
あなたは受け取って、それをストローでごくごく飲む。
あまり熱くないお湯が使われているのでごくごく飲める。
味は、なんと言うか、まぁ、割と強烈。
こう……緑色と茶色の味と言うか、健康に良さそうな味と言うか。
はじめて飲んだらおかわりを求める者はまずいなさそうな感じ。
仮に居るとしたら、脱水で死にそうな遭難者くらいではなかろうか。
あなたはなんとか飲み切って、容器をフィリアに返す。
その際にはちゃんと、ありがとう、と礼を言ってからだ。
この時にありがとうと言うと、おかわり不要の意となる。
逆に言うと、言わない限りはおかわりが無限に用意される。
「ふふふ、お姉様はまだまだ慣れてなさそうですね」
などと笑うフィリアに、後味は悪くないよと答える。
苦味は強烈だが、まぁ、決してまずくはないのだ。
ただ、好き好んで飲む気持ちにはなれないだけで。
「慣れると癖になるんですけどね。ううぅ……!」
フィリアもしんどそうな顔をして飲んでいる。
しかし、これが魔力回復に効くらしいのだ。
あなたは正直効果を体感できたことがないが。
それはまぁ、あなたの魔力量が莫大だからだろう。
たぶん、一般的な魔法使いなら実感できる程度に促進されるのだ。
「聖騎士のみなさんが回し飲みをしていたので、私もなんだかしたくなっちゃって」
この壺茶を回し飲むのは、友情の証でもある。
恋人同士でも、友人同士でも、そこにいろんなメッセージを込めて回し飲みをする。
ひとつの器、ひとつのストローを共有する行為。
そこに連帯を見出すのは自然なことだろう。
フィリアもまた、あなたとそれを確認したくなったのかも。
あなたはフィリアと静かに絆を確かめ合った。
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